エネルギー・ユーティリティ・資源分野における世界のM&A動向:2021年上半期アップデート

脱炭素化に向けたグローバルな動き、そして新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックから回復しつつある経済と潤沢な投資資金等を背景に、2021年後半にかけても活発なM&Aが続く見通しです。

2021年上半期、エネルギー・ユーティリティ・資源(EU&R)分野におけるM&Aは、部門や地域による若干の違いはあるものの、基本的には増加傾向が続きました。ただし景気回復に伴い需給は安定しているものの、厳格な投資規律と株主価値に焦点を当てる企業の慎重姿勢もまた変わっていません。多くの企業が他の投資案件よりも短期間で多くのリターンを得られそうなディールを模索しており、この傾向がM&Aを鈍化させる可能性はあります。

マクロ経済の動向も検討要因の一つです。グローバルの株式市場は経済活動の活発化や投資家からの信認の回復により、堅調な傾向を維持しています。こうした点から私たちは今年後半も活発なM&Aが続くものと予想しています。しかしながら、国際的な貿易摩擦の継続や、一部のエネルギー・資源産出地域における今後の国政選挙を巡る不確実性などによって、投資家の意欲が削がれる可能性があることには注意が必要です。

投資資金はディールにおける重要要素です。世界の投資家、政府や司法当局が続けている“ESGアクティビズム”を主要因として、EU&R部門の投資資金を取り巻く状況は急速に変化し続けています。グローバルで進行する「ネットゼロ」への変革は、今後もEU&R関連企業のM&A、投資計画や投資判断に極めて大きな影響をもたらしていくでしょう。

「エネルギー・ユーティリティ・資源関連企業による脱炭素化や『ネットゼロ』ビジネスプラットフォーム実現に向けた動きは、これまで欧州が中心でした。しかし今やまさにグローバルな展開を見せており、長期的かつ持続可能な価値創出の大きな機会となっています」

Wim BlomPwCオーストラリア パートナー グローバルEU&R関連ディールズリーダー

M&A活動を推進する主要テーマ

2021年後半~2022年におけるEU&R分野のM&Aは、重要な複数のテーマによって特徴づけられると予想しています。

投資資金の調達

2021年下半期も、一般的には世界各地で記録的な低水準金利が続くと予想されており、ディール組成に必要な資金が不足することはないでしょう。市場に大きな影響を与えているSPACの動向に関しては、特に米国における「エネルギートランジション」に集中しており、関連ディールの競争が激化する要因となっています。

一方で、温室効果ガスGHG・炭素への依存度が高くESG関連リスクを抱えている事業や企業では、資金調達や保険契約締結等が一層困難になっています。ESG目標の達成のために、炭素、水資源や土地などへの依存度の高い資産の売却を目論む企業は、当該分野での資金源や潜在バイヤーがすでに減少傾向にあることを認識し始めています。今後、炭素排出量が多いものの採算性ある事業用資産への投資については、ソーシャルライセンスにそれほど敏感でなく開示義務もそれほど厳しくない民間企業や、戦略的な動機のある政府系組織によるものが大半となるでしょう。

このような環境において、企業は4つのタイプの戦略によって多様な投資家層からの投資を呼び込もうとしています:

  • レガシー最適化:構造的な既存の衰退資産(アップストリーム部門の石油・ガス、石炭、原子力関連事業資産など)を狙う企業、PE、富裕層の投資家、政府系ファンドに向けた戦略
  • ネット・ゼロ・レント:大規模容量の蓄電池等、再生可能エネルギーなどの低リスクなネットゼロ資産またはネットゼロ資産向けファイナンスニーズを模索する、インフラ系企業、PEファンド、政府系ファンド、年金ファンド、再生エネルギーデベロッパーに向けた戦略
  • ネット・ゼロ・グロース:電気自動車(EV)充電ネットワークインフラ、バッテリー・ストレージ、水素など、よりリスクの高いネットゼロ資産を求めるPEやベンチャーキャピタル(VC)に向けた戦略
  • ネット・ゼロ・ピボット:再生可能エネルギー、EV充電ネットワークインフラ、エネルギー管理テクノロジーなどのネットゼロ関連資産への戦略的M&A投資に注力するメジャー系石油・化学会社、大手鉱山会社、総合エネルギー会社に向けた戦略

ポストコロナ期における市場回復

今年上半期のグローバルEU&R市場は引き続き回復基調にあり、ディール組成に影響を与えています。ワクチン普及に伴い主要国の経済は回復しつつあり、エネルギーや資源の需要も高まっています。また、グローバルでエネルギーおよび資源部門を後押ししてきた政府による景気刺激対策が縮小傾向にある中、新興企業を中心に、グローバルな業界再編が活発化することが予想されます。

EU&R業界関連の株価指数

Line chart showing the change in EU&R-related stock price sector indices from January 2020 to June 2021. Compared with pre-pandemic levels, after the initial instability, the Utilities index has largely stabilised slightly below; the Metals & Mining and Chemicals indices have both climbed strongly beyond; the FTSE 350 Oil & Gas Index has dropped well below, although the downward trend halted and recovered some ground at year-end to maintain some stability.

Source: S&P Capital IQ
Data period: 2 Jan 2020 to 11 Jun 2021
  • 石油価格は上半期を通じて改善傾向にあります。しかし、エネルギー企業の大部分は、2021年下半期および2022年の投資計画について慎重な姿勢を崩していません。これはエネルギーサービス関連企業、特に資源分野での探鉱・開発・生産に関わる市場が引き続き縮小する、また関連企業への評価が下がる可能性を示すものでもあります。エネルギーサービス分野では、各企業におけるサービスの拡充やシナジーがより強く求められており、今後も企業の整理・統合が進むと予想されます。
  • 工業用金属・貴金属相場は強気のまま2021年を迎え、現在の多くの金属価格が10年ぶりの高値圏になっています。金属価格は引き続き堅調に推移し、2021年そして来年にかけても、こうした価格高騰がより活発なM&Aを引き起こすものと予想されます。
  • GDPの動向や消費活動に密接に関わる製品を手掛ける化学系企業も回復を続けています。グローバルの供給体制が逼迫していることから、プラスチック用樹脂の価格が上昇しています。景気が回復傾向にある中、化学製品やプラスチック価格は今後も堅調に推移すると予想されます。2022年に新たに大規模供給が始まれば需給ギャップも縮小し、価格も落ち着くことが予想されます。これにより、買い手と売り手の価格目線も近づき、より多くのディールが成立するでしょう。

地政学的トレンド

政治や規制動向の変化も、EU&R分野の企業のM&A戦略策定に影響を与えています。COVID-19からの回復期における地政学的対応、貿易摩擦の長期化、政治体制の変化といったものが、各国でのインフレ率の上昇、経済成長の鈍化、規制改革、社会不安、各種ロイヤルティコストの上昇、法人税や資源税の引き上げにつながる可能性があります。加えて、債券利回りや金利、企業価値評価、資産流動性に対しても影響をもたらします。こうした全ての要因やこれらが結果としてもたらし得る不確実性により、影響を受ける地域では投資活動やM&Aが低調になる、または少なくとも先延ばしとなるリスクがあります。

現在進行中の変化としては、多くの国における地政学的な不確実性が挙げられるでしょう。例えば、米国では新たな法人税の導入が検討されています。メキシコ、ペルー、チリ、アルゼンチンといった中南米地域の主要エネルギー資源産出国では、2021年に大統領選挙や議会選挙を控えています(すでに実施された国もあります)。他にも、ドイツ、イラク、イランなどにおいても2021年に選挙が実施されます。

voting box and election

依然として続くグローバルでの貿易摩擦は、経済活動の大きな障壁となっています。また、アジア地域でも、複数の国家間で新たな貿易協定締結に向けた議論が進行中であり、世界有数の経済大国間の貿易見通しについては大きな不確実性が存在しています。

ESG

パンデミックにより、顧客、従業員の行動や、企業の優先事項に変化が訪れました。また、社会的公正、平等、気候変動、その他の社会的課題(ダイバーシティ&インクルージョンを含む)といったアジェンダにより注目が集まり、ESGの重要性がますます高まっています。現在の市場において、投資家やステークホルダーは社会的利益と企業の収益性の関係がより深まっている、連動してきていると捉えるようになっており、ESGを投資上の重要な優先事項として要求、指摘するようになっています。

ネットゼロや、より環境に配慮したエネルギー電源活用への移行もグローバルでは加速し続けています。過去数年間、脱炭素化をリードしてきたのは欧州ですが、昨年からはアジアでも同様の活動が活発になっています。また2021年1月の就任初日、米バイデン大統領はパリ協定に復帰する大統領令に署名し、米国の気候変動対策へのコミットメントを示しました。これにより米国が脱炭素化に関して世界の大多数の国々と足並みを揃えることになっただけでなく、北米における脱炭素化の取組みに新たな勢いをもたらすことになりました。PwCは、EU&R分野における各企業の脱炭素化への取り組みは今やグローバルな現象になったと捉えています。こうしたグローバルな展開により、短期~中期的にネットゼロに関連したディールが増加することが予想されます。

ネットゼロに向けた変革には、パートナーシップやテクノロジーへの投資に加えて、M&Aが鍵を握ることに変わりありません。必要なテクノロジー自体はすでに存在しているものの、テクノロジーを活用してしっかりと収益を上げるビジネスモデルについてはさらなる開発の余地があります。また、仮に経済性の問題をクリアした事業用資産であっても、多大なインパクトをもたらし価値を創出できる大規模での活用といった段階にはまだ多くの企業では至っていません。とはいえ、バッテリー用鉱物や水素などへの需要は引き続き高まっています。これにより、新たなグリーンテクノロジーにおけるフィージビリティ―スタディーや実用化プロジェクトの件数が増加し資金需要が発生することに伴い、投資機会も増えていくと予想されます。これらのプロジェクトの成熟化が進むとともにM&Aの機会も生まれていくでしょう。

近年、脱炭素化への一つの方策として、メジャー系エネルギー・資源企業では油田や炭鉱といった炭素への依存度の高い資産の外部への売却が行われています。一方で多くの場合、売却された資産からは売却前よりも多くの石油や石炭が買い手により産出されていることから、こうした資産売却がグローバルで見た場合に本当に炭素排出量削減に効果があるのか疑問視されています。こうした見方に従うと、今後企業はこうした炭素依存度の高い資産を売却するのではなく、保有しつつ段階的に縮小することが求められるようになる可能性があります。

EU&R部門のM&A見通し

EU&R企業はいずれも戦略的意思決定上の重要な転機を迎えています。カーボンニュートラルへの移行は、今やグローバルな事象であり、企業は「いつ・どのように」具体的にアクションを展開していくか決断を迫られています。その中で、今後も可能な限りレガシー資産や事業における低コスト運営を追求し続けるか、提供サービスの統合や大規模なビジネスモデル転換によって脱炭素化に向けた新たな道を踏み出すか、選択肢は二つに一つであり、どちらにもリスクとリターンがあるのです。

データについて

M&A動向に関する当社の見解は、業界が認める情報源から得られたデータに基づいています。特に本稿で取り上げたディール金額とディール件数は、Refinitivが2021年6月30日時点で提供し、2021年7月5日時点でアクセスした公式発表に基づいており、うわさと取り下げられたディールを除外しています。さらに補足情報として、Dealogicと当社の独自調査からの情報も加えています。本稿は、Dealogicによる使用許諾に基づいて提供されたデータから導出したデータを含んでいます。かかる被使用許諾データのすべての権利はDealogicが留保しています。PwCの産業マッピングと一致させるため、原情報に特定の調整を加えています。当社ではメガディールの定義を、ディール金額が50億米ドルを超えるディールとしています。

※本コンテンツは、PwCグローバルが2021年7月に公開した「Global M&A Trends in Energy, Utilities and Resources: 2021 Mid-year Update」を翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。

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