エンタテイメント&メディア業界 グローバルトレンドと日本の立ち位置-日本コンテンツの海外展開に向けた展望-

第1回:エンタテイメント&メディア業界の動向

  • 2025-06-27

PwC Japanグループは2025年2月18日、メディア関係者を対象に、「エンタテイメント&メディア業界 グローバルトレンドと日本の立ち位置-日本コンテンツの海外展開に向けた展望-」を開催しました。当日はPwC Japanグループからエンタテイメント&メディア業界のプロフェッショナルが登壇し、業界全体の世界的動向や日本コンテンツの海外展開に関する考察について講演しました。本連載では2回にわたり、その様子を紹介していきます。

第1回となる今回は、PwCコンサルティング合同会社 執行役員 パートナーの松岡英自による、エンタテイメント&メディア業界の概況についての講演をお届けします。ここではグローバルと日本におけるエンタテイメント&メディア業界の動向について解説しています。

※法人名、役職、内容などは2025年2月時点のものです。

グローバル エンタテイメント&メディア アウトルック 

本イベントは、PwCが提供する「グローバル エンタテイメント&メディア アウトルック 2024-2028」の内容に基づいて開催されました。

本アウトルックでは、エンタテイメント&メディア(E&M)業界についてゲーム、映画、OTT(Over The Top:インターネットを介したコンテンツ配信)などのエンタテイメント、新聞・雑誌、テレビなどのメディアといった13の市場セグメント、そして53の国と地域ごとに分類。PwC独自の予想に基づき、比較可能な過去5年間の実績と今後5年間の予測データを毎年提供しています。

本アウトルックは複数のセグメントや国・地域についての比較可能なデータであり、変化の激しく、また急速に従来型のエンタメ・メディアの枠組みや国境といった垣根を越えた活動が広がりつつあるこの業界において、その現在地を理解し、今後を予測する上での貴重な手掛かりとなります。

エンタテイメント&メディア業界のトレンド

グローバルの動向

2023年、E&M業界の総収益は前年から5%成長し2.8兆米ドルとなっています。今後5年間については、2023年と比較するとやや低調ながらも3.9%の年平均成長率(CAGR)で成長し、2028年には3.4兆米ドルを超えると予想されます。

世界経済全体の成長率について、国際通貨機関(IMF)は2024年、2025年ともに3.2%の成長を予測していますが、それと比較し、E&M業界は高い成長となっています(図表1参照)。

図表1:世界のエンタテイメント&メディア業界総収益と成長率(2019~2028)

地域別にみると、北米およびアジア太平洋が今後もE&M業界において大きな影響力を持つでしょう。世界全体の成長の中で注目したいのは、「既に規模が大きく比較的急速に成長している地域」と、「比較的規模が小さいが極めて急速に成長している地域」の2つです。「既に規模が大きく比較的急速に成長している地域」ではインドネシアとインドが際立っており、それに中国が続きます。また、「比較的規模が小さいが極めて急速に成長している地域」ではナイジェリアやトルコが特に成長率が高い国となっています(図表2参照)。

図表2:地域別市場規模と有望な市場

各セグメントのCAGRを比較すると最も高い成長率が見込まれるのはVR・モバイルARですが、シェアの面では13セグメントの中では最も低く、その影響は限定的なものと言えます。

成長率の高いセグメントの中でも、インターネット広告やビデオゲーム・eスポーツの成長は成長率・規模ともに大きく、今後5年間の業界の成長において中心的な位置を占めるでしょう(図表3参照)。

図表3:セグメント別成長率とシェア

日本の動向

日本のE&M業界にフォーカスすると、今後5年間のCAGRは1.6%と予想され、世界全体と同様、国内経済全体の成長率よりもE&M業界の方が高い成長率予想となっています。一方で、1.6%という数字は世界全体の3.9%と比較すると低い水準にとどまります。日本の世界全体に対する市場シェアは、2028年まで引き続き3位を維持する見込みですが、その割合はこの先年々低下していきます(図表4参照)。

日本の成長率が世界全体よりも低い理由としては、次の2つが考えられます。1つは、日本経済全体として低成長であるという課題です。IMFは世界経済の成長率について、2024年と2025年のいずれも3.2%と予測していますが、これに対して日本は、2024年が0.3%、2025年は1.1%という低水準にとどまっています。

もう1つは日本における広告セグメントの伸び悩みです。消費者支出のCAGRで比較すると、世界全体が2.2%であるのに対し日本は1.2%とそこまで大きな差はありません。一方で広告単体では世界全体が6.7%に対して、日本は3.9%とかなり低い水準にとどまっています。

図表4:日本のエンタテイメント&メディア業界総収益と成長率(2019~2028)

セグメント別の成長率で比較すると、上位5セグメントの顔ぶれは世界全体と同じですが、順位は若干異なり、日本では1位がVR・モバイルAR、2位がインターネット広告、3位がOTTビデオ、4位がビデオゲーム・eスポーツ、5位が映画となっています。また、従来型テレビ、新聞・雑誌は世界全体と同様にマイナス成長であることに加えて、日本の方がマイナス成長を高く示しています。他にも世界全体と日本で成長率に大きく差がついているものがあり、特に差が大きいセグメントは、ビデオゲーム・eスポーツと屋外広告で、いずれも約3%ほど日本の成長率が低くなっています。

日本のビデオゲーム・eスポーツにおける成長率の低さは、主に広告に起因しています。収益構造を広告と消費者支出に分けて見てみると、広告の成長率は世界全体が14.7%に対し日本が9.9%と大きく差がついています。一方で、消費者支出の成長率は世界全体が3.7%に対し日本が3.2%とそこまで差はない状況です。世界全体では広告の伸びが成長の原動力となっていますが、日本ではその伸びが世界全体よりも低い水準となっており、結果として業界全体の成長率も低くなっていると言えます。

屋外広告については、世界全体と日本の成長率の違いはデジタル化の進展具合に起因しています。屋外広告をデジタル広告と非デジタル広告に分けて見てみると、デジタル広告の成長率は世界全体の8.4%に対し、日本が3.6%と大きく差がついています。一方で非デジタル広告の成長率は世界全体の0.4%に対し日本が-0.2%とそこまで差はない状況です。つまり世界全体ではデジタル広告の伸びが業界の成長の原動力となっていますが、日本ではその伸びが世界全体よりも低い水準となっており、結果として屋外広告全体についての成長率も低くなっています(図表5参照)。

図表5:日本のセグメント別成長率

エンタテイメント&メディア業界の変容

現在、E&M業界で生じている変容の根底には2つのトレンドがあると考えられます。

1つはデジタル化の進行です。業界全体がデジタルエコシステムの支配する世界への移行に従って、従来型の線形のバリューチェーンは分解されつつあります。デジタル化は、従来型のメディアとコンテンツの結び付きを解き放ち、さまざまなマネタイズの方法を可能としました。

もう1つは広告の台頭です。2023年に広告の成長率は消費者支出を抜き去り、今後も高い成長を維持することが予想されます。一方で消費者支出の成長率は低い水準にとどまっており、また消費者向けサービスはほぼ飽和状態にあるため、企業がコンテンツやサービスに対するさらなる消費者支出を得ることは難しい状況です。

デジタルと広告の伸びによりE&M業界全体は引き続き成長が見込まれるものの、それは過去の延長によるものではありません。業界の変容は新しいビジネス機会をもたらす一方、これまでのビジネスが通じなくなるリスクをはらんでいます。

PwCが実施した「第27回世界CEO意識調査」では、E&M業界に属するCEOの57%が「現在のビジネス手法を継続した場合、自社ビジネスが10年後に存続できない」と回答しています。これは全業界横断のCEOによる回答の45%に比べて、高い水準となっています(図表6参照)。

図表6:E&M業界の変容

E&M業界における成長の鍵

CEO意識調査からも示唆されるように、変容するE&M業界における多くのリスクと機会を前にして、従来のビジネスモデルに固執していては、企業の存続は危ういものとなります。ビジネスモデルの再発明(Business Model Reinvention)を通じて、時代に適応しながら成長を続けられるビジネスへの転換を図ることは、戦略的な選択肢というよりはむしろ企業存続の必須条件となっていくでしょう。

PwCでは、「グローバル エンタテイメント&メディア アウトルック 2024-2028」の知見から、このビジネスモデルの再発明を進める上での手がかりとして、「広告」「ゲーム」「東南アジアおよびアフリカ」が注目すべきポイントとなると考えています。

広告は今後も業界全体の成長を牽引するファクターであり、企業は消費者の関心に合わせたアプローチへの移行が求められます。

世界的な熱狂の続くゲームは、単に市場規模と成長率からセグメントとして有望なだけではなく、ゲームの形態変化を通して新たなエコシステムを構築する可能性を秘めています。

そして、急成長を遂げる大規模市場のアジア諸国、小規模ながらも極めて急速に成長しているアフリカ諸国をスコープに取り込むことは、新たなビジネスモデルを立ち上げ、市場拡大する上での原動力となるでしょう。

こうしたビジネス機会を捉えた上で行うビジネスモデルの再発明は、新しい収益源を開拓するとともに、統合と合理化の取り組みを継続し、コンテンツに焦点を当てたものになると考えています。

E&M業界の成長に向けたもう1つの鍵が人工知能(AI)の活用です。これまでAIに関する議論の多くは、新しい収益源の創出よりもコストの削減と管理に焦点を当ててきました。しかし、生成AIの利活用やその対象の増加は、単なるコスト削減だけでなく、クリエイティブプロセスにおける生産性の向上や高品質なコンテンツの提供をもたらし得るところまで来ています。生成AIは、新しいソリューションやプロセスを試行、反復、拡張するための、強力な原動力をユーザーに提供します。今後は、この強力なテクノロジーがどのようにしてより大きな価値の創造に結び付くかに注目していく必要があるでしょう(図表7参照)。

図表7:E&M業界における成長の鍵

次回はPwCコンサルティング内に発足した政策シンクタンクである、エンタテイメント&メディア・インダストリー・イニシアチブより、国内・海外のコンテンツ市場の状況および、日本コンテンツの海外展開にあたり必要となる戦略について解説します。

主要メンバー

松岡 英自

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

Email

谷口 大輔

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

Email

椿 夏葉

シニアアソシエイト, PwCコンサルティング合同会社

Email

竹島 裕子

アソシエイト, PwC Japan有限責任監査法人

Email

本ページに関するお問い合わせ

We unite expertise and tech so you can outthink, outpace and outperform
See how