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2025年6月24日、株式会社ビジネス・フォーラム事務局主催の「データドリブンHRによる人事機能変革と人的資本経営(HR Transformation)」にて、PwCコンサルティング合同会社 シニアマネージャーの鈴木 英理子が基調講演を務めました。
スキルベース人材マネジメントが注目されるなど、生成AIやHRテクノロジーの進化は採用・育成・キャリア開発・配置といった人事業務に大きな変化をもたらしています。このトレンドに、HRリーダーはどう備えるべきでしょうか。本講演では、人事として押さえておきたいHRテクノロジーのトレンドを紹介しました。
まず、HRテクノロジーの変遷について説明します。かつてのようなデータを集める、自動化する、効率化するための時代から、労務管理の品質を維持し、効率化を進め、正しく給与計算を行うといったシステムへと進化してきました。
2000年代に入り、人事担当者が利用するシステムから進化し、従業員・マネージャー向けに価値体験を提供するパーソナライズされたタレントマネジメントシステムが登場しました。目標管理、eラーニングを受講する研修基盤、リアルタイムフィードバックができるチャットツールなど、さまざまなユーザー向けの機能が開発されています。このタレントマネジメントシステムの領域はすでに実現できているという企業も多いはずです。また、クラウド製品の台頭により、国内外のグループ会社で統一された人事システムを利用するグローバルマネジメントプラットフォームも人事施策に貢献しています。
2010年頃から、業務効率化や人事施策の高度化に向けてロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)やBIツール、アナリティクスなどが人事領域でも活用され始めました。さらに近年は、ユーザー同士のつながりを強化するソーシャルメディアツールやコラボレーションツールなど、さまざまなワークテックのツールが登場しています。
そして、生成AI技術の登場により、HRテクノロジーの分野でもAIを搭載した製品開発が進んでいます。HRテクノロジー製品の市場規模の拡大とともに、HRテクノロジーに関する支出の増加を検討する企業も増えています。人事領域において、IT投資の割合は今後も増加することが予想されます。いかにテクノロジーを駆使した形で人事施策を打ち出せるかは、企業の命題になってくるでしょう。
人事を取り巻く変化とHRテクノロジーのトレンドには、3つの変化があります。
第1がビジネス環境の変化です。DXやESGなど、ビジネス環境の変化に伴い求められるスキルや人材の定義が変わり、今後は個々のスキルが競争の源泉になると言われています。
第2が組織・仕事の変化です。コロナ禍を経て人々の働き方が変わる中、多様性を認め、副業・兼業など自社の職務外業務に従事する人を受け入れる企業が増えていることが各企業の統合報告書でも見て取れます。
第3が労働市場や労働者の変化です。テクノロジーの活用が当たり前のZ世代から、その進化についていくことを求められる中堅世代まで、多様な人材をいかに雇用していくかを考えなければなりません。また、ウェルビーイングなど、プライベート領域を合わせた人事施策の検討も会社に求められるようになってきました。
こうした変化に対応するHRテクノロジーの進化について、4つのトレンドをお話します。1つ目はスキルべース人材マネジメントです。PwCの第27回 CEO意識調査(日本分析版)では、自社の従業員のスキル不足に課題を感じているCEOが非常に多いことが明らかになっています。スキル不足の課題は、リスキリング、アップスキリングの課題に直結していることも分かっています。
また、PwCのグローバル従業員意識調査によると、従業員は自らのスキルアップの機会がある企業で働きたい傾向にあるという調査結果もあります。これらの調査結果から、経営側も従業員側もスキルの獲得が働く上で非常に重要な要素となっているのです。
スキルに関する取り組みは2010年頃から注目されてきました。労働者不足が深刻化する中で、これまでの学位や職務経歴、肩書を重視するアプローチから、スキルと能力を重視するアプローチへと転換し、人材を獲得・育成していく必要があります。
このスキルファーストなアプローチで重要なことは、企業が求めているスキルや、個人が提供できるスキルの多くが、異なる役割や業界間で移動可能であるということです。例えばある企業が情報セキュリティ分野の採用をする場合、データ分析などのスキルを持つ人に少しトレーニングを受けてもらうだけで、自社のニーズに合う人材になるかもしれません。
PwCが世界経済フォーラムと共同で作成したスキルファーストのフレームワークでは、市場と連動したスキルを利用し、市場と社内のスキルの定義を同じ基準で把握できるように共通言語化すること。そして、スキルファーストの文化、方針、マインドセットを社内に浸透させ、労働者自身がスキルアップに責任を持つことが重要であると指摘しています。
それでは、スキルベース人材マネジメントではどのようなことができるのでしょうか。例えば採用業務においては、スキルに基づく候補者プールの拡大やマッチング精度の高い候補者検索が可能になるでしょう。また、育成・キャリア開発においては、従業員のスキルギャップの可視化により、社内の育成計画の立案や組織としての強化策の検討などに利用できます。
人材ポートフォリオにおいては、企業の戦略実現に必要な、ありたい姿(To be)と現状(As is)の人材ポートフォリオギャップに基づく効果的な打ち手の立案や、実行やスキルという共通言語に基づく人的資本開示が可能です。また、人材配置の際は、社内で適した候補人材の発掘が可能になる他、業務内容と人材のマッチング精度の向上などが見込めます。報酬管理においても、市場での職種ごとの報酬価格との比較により、社内の報酬額が適正かどうか確認することが可能です。
従業員から見た効果としては、キャリア開発のため自身に必要なスキルを把握でき、パーソナライズされたキャリア開発の機会を生かすことができます。大事なことは、どの利用シーンでスキルを活用するかを最初に決めることです。スキル評価を報酬につなげたい場合は、スキルレベルの測定を上司の評価や外部アセスメントなどを活用して実施する必要があります。一方、従業員のスキル開発のみに利用する場合、スキルレベルをそこまで細かく管理せず、本人の申告によりスキルレベルを測定していく方法が推奨されています。
スキルベース人材マネジメントを運営する上で意識すべきポイントは、市場と連動したスキルの定義を利用し、社内のスキルを市場と同じ基準、共通言語として捉えることです。人材が限られる中でオープンな人材市場にアクションし、社内モビリティを回すためにも、市場との共通言語であるスキルを利用することが重要です。
そして、スキルベース人材マネジメントを実現するには、テクノロジーの活用が必須です。従業員向けには、推奨するキャリア、ジョブとのマッチング、リスキリングのための研修コンテンツなど、キャリア開発に必要なさまざまな情報を効率的にレコメンドするツールが登場するなど、テクノロジーの活用が進んでいます。
トレンドの2つ目がEmployee experience(EX)、従業員体験のプラットフォームでの活用です。ポジティブな従業員体験は高いエンゲージメントにつながります。EXの成熟度を高めることは企業のブランディングを高める手法の一つでもあります。実際に、EX向上を目的にHRテクノロジーの活用を加速させる動きが欧米で活発化しています。一方、グローバルではEX向上を目的にHRテクノロジーへ投資する企業が約80%に上るのに対し、日本は約24%にとどまっているのが実情です。
それでは、EX推進のために意識すべきことは何でしょうか。さまざまなHRテクノロジー製品が提供されていますが、生成AIを搭載したAIエージェントのシングルプラットフォームは特に注目度が高いツールです。
申請・問い合わせ業務で利用される従来のチャットボットは事前に設定されたシナリオに基づいて回答を生成するのに対し、生成AIが搭載されたヘルプツールは膨大なデータを学習し、ユーザーである従業員の質問内容に応じて独自の回答をその場で生成することが可能です。こうしたツールは複数システムの連携により、ユーザーは単一のプラットフォームからさまざまなシステムにアクセスできます。業務担当者が意識することなく、各システムにデータが登録される仕組みも搭載されるようになるでしょう。
人事業務の中では、特にオンボーディングプロセスや日々のタスクにおける生産性向上のアドバイスなど、ユーザーごとにパーソナライズされた活用法が期待されています。この生成AIを搭載したチャットボットはカスタマー・テクノロジー・サービスの中で進化を遂げていますが、HRテクノロジー領域においても活用が加速すると見込まれています。
それでは、EX推進のために人事部門はどのようなアプローチで取り組めばいいでしょうか。EXは、従業員が企業に応募し採用されてから退職し、次の職場へ転職するまでの一連のサイクルで考える必要があります。また、人々は仕事以外のプライベートがあり、個々のニーズを認めてくれる雇用主を探しています。人事担当者は従業員のニーズ、期待およびネガティブに感じる事柄を理解しなければなりません。
そのため、PwCコンサルティングでは従業員のライフサイクル全体に焦点を当て、イベントごとのペイン/ゲインポイントを明確化していく手法を推奨しています。さまざまなエンプロイジャーニーがある中で、どのような経験をしていくかを従業員自身で棚卸しして考えたい、プライベートで利用しているテクノロジーと同様のレベルのツールを自由に使いたいという期待に、人事部門は応えていく必要があるでしょう。
トレンドの3つ目は、データドリブンHRの推進です。データドリブンHRと密接に関係するのが人的資本経営における開示の分析であり、データドリブンHRの課題として、そもそも利用したい情報がデータ化されていないという企業の声をよく聞きます。
人事発令情報はあるものの、スキル情報や業務経験など業務で利用したいデータが収集できない、収集できたとしてもテキストデータになっていて、データ分析で使えないなどの課題があるようです。そこで、データをどのように利用するか特定した上で、適切にデータを収集するプラットフォームをいかに効率よく作るかがポイントになります。
データ収集の課題を解決するため、複数のシステムから情報を集めるデータレイク構造のHR情報統合基盤を構築する企業もあります。人事管理、給与管理、勤怠管理などのデータを収集・連携する、データを蓄積・加工する、そしてデータを可視化するという3つのレイヤーで、それぞれ異なる製品を利用します。
その際は、従来のHRテクノロジー分野の製品ではなく、ビジネス基盤となる製品やBIツールを活用します。そして、データドリブンHRを推進する明確なリーダーを配置することも重要なポイントです。従来の人事部門の構成は、人事企画・採用・育成・労務というように機能単位で分割されている縦割り組織が主流であり、チームごとにデータを保持、分析するケースが見受けられました。人的資本経営を推進するためには、採用時の評価やエンゲージメント情報など、従業員のあらゆるデータを横断的に分析する必要があります。
一方私たちは、データドリブンHRを推進するために一度に壮大なシステムを作ることは推奨していません。初めはスモールスタートで経営・人事が利用するデータから準備します。その次に利用者への適用を拡大するか、業務適用スコープを拡大するか、優先順位を付けて順次拡張することを推奨しています。目的に応じてさまざまな推進パターンが存在しますが、業務ユースケースの具体化と人事情報を継続的にモニタリングできるプラットフォームの構築は、現場への展開においても重要なステップとなります。
トレンドの4つ目は生成AIとHRテクノロジーです。生成AIはビジネス環境を再構築するだけでなく、組織運営方法や意思決定方法、人材管理方法を再定義すると言われています。人事業務においてどのような利用シーンがあるのか、生成AIで何ができるのかユースケースを考えてみましょう。
その1つ目がデータ生成・処理の効率化です。生成AIは大量のテキストデータや画像データなどの生成や処理の自動化が可能です。例えば、日常的なタスクを自動化し、データ管理や給与計算における人的ミスの発生を抑えられます。また、日常的で反復的なタスクを生成AIに任せることで、人事担当者は組織の成長に注力できるでしょう。
ユースケースの2つ目は、パーソナライズです。パーソナライズされたチャットボットにより、オンボーディングをサポートし、従業員はジャーニー全体でより一貫性のある、カスタマイズされたサポートを受けることができます。特に採用領域でのAIの進化は著しく、ソーシング、スクリーニング、面接の精度を標準化することで人材の獲得基準を改善し、人事チームが適切な候補者をより迅速に見つけることを可能にします。
3つ目は生成AIによるインサイトシミュレーション機能です。生成AIでデータ分析が高度化され、従業員のパフォーマンスや要員計画において、より多くの情報に基づいた的確な意思決定が可能です。また、シミュレーション、予測分析により、リテンションリスクを早期に特定し、人事チームが優秀な人材を維持するための戦略立案を積極的に行えるようになるでしょう。
PwCコンサルティングでは、最も影響が大きい上位5つのユースケースについて、生成AIとHRIS(Human Resource Information System:人事情報システム)の企業向け製品への組み込み状況をウォッチしています。そのユースケースとは、自動候補者スクリーニング、キャリア開発パーソナライズドレコメンド、自動パフォーマンス評価、HRチャットボット、パーソナライズされたオンボーディングガイダンスの5つです。こうした場合、パーソナライズに必要な個人の特定にどうテクノロジーを使っていくかが重要になります。
PwCコンサルティングが実施した「HRデジタルトランスフォーメーションサーベイ2024」では、急速な事業変化やテクノロジーの進化の中で、半数以上の企業が人材不足を課題として挙げています。企業においては、生成AIを搭載したHRテクノロジーがもたらす世界観や未来の姿を理解し、人事担当者の育成、意識改革を今すぐ始めることが必要となるでしょう。国内の先進的な企業は人事の変革に取り組み始めています。こうした動きが多くの企業に広がり、人的資本の真の競争力につながる鍵になると考えています。
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