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PwCコンサルティング合同会社は2025年6月24日、株式会社ビジネス・フォーラム事務局主催の「データドリブンHRによる人事機能変革と人的資本経営(HR Transformation)」にてパネルディスカッションを行いました。
人事領域におけるデータ活用とテクノロジー活用の状況とは―パナソニックグループの人材マネジメントの高度化、効率化の進捗状況や、データドリブンHR実現への課題と対応策、生成AIのテクノロジー活用による今後のHR機能変革について、意見が交わされました。その内容を紹介します。
(左から)持田 篤人、田中 和也氏、佐々見 直文氏
登壇者
パナソニックオペレーショナルエクセレンス株式会社
エンプロイーサクセスセンター センター長
田中 和也氏
SAPジャパン株式会社
人事・人財ソリューション アドバイザリー本部 本部長
佐々見 直文氏
PwCコンサルティング合同会社
マネージャー
持田 篤人
持田:
パナソニックグループの人材マネジメントの高度化・効率化に対する進捗状況や課題を聞かせてください。
田中:
パナソニックに入社以来、27年間にわたって人事領域を担当してきました。この間、IT活用を進め、人事業務プロセスは効率化できている実感があります。一方、組織責任者や人事社員については、まだアナログ的な働き方が続いている状況です。例えば、従業員がどんなキャリア観やキャリア目標を持っているのか、年に1回、上司と本人が話し合うルールを定めています。従業員はルールに従って、SAPのシステムを使いながら、こんな仕事にチャレンジしたいといった本人の希望を入力しています。
ところが、組織責任者や人事社員がそのシステムにアクセスするのは、期初の目標設定の時と、中間の成果確認の時、そして期末の成果確認の時だけです。つまり、従業員は自分がチャレンジしたい目標を期初の4月、5月に表明しているのに、上司はシステムにアクセスしないのです。実は私も以前はそうでした。従業員はこんな目標があると手帳に書いたり、表計算ソフトに記録したりしていたのです。その結果、人事・キャリアに関わるデータが分散することになります。これは一例ですが、従業員一人一人に向き合う立場の組織責任者や人事社員が、十分にデータを利活用していないという課題がありました。
持田:
そうした課題が、今のHRテクノロジーの積極活用や人事データドリブンによる組織・人材マネジメントの高度化、効率化の推進につながっているわけですね。
田中:
はい、組織・人材マネジメントの取り組みで目指しているのは、「UNLOCK人材」を増やすことです。社員一人一人のUNLOCK、つまり持てる力を最大限に発揮できる環境を作り、UNLOCKされた従業員のパフォーマンスが集まることで、企業としてのパフォーマンスも最大化されます。従業員のUNLOCK実現に向けて組織責任者の関わりを増やすには、分散した人事データを1カ所に集め、さまざまなデータを参照しながら上司が部下の人材マネジメントをできる仕組みが必要です。
加えて、パナソニックは人事社員の数が他社に比べて多いという課題がありました。そこで、人事業務プロセスにおいて生成AIを活用し、人事社員の業務を代替できるソリューションの実装を進めています。人事社員数がスリム化されてもなお高いパフォーマンスを発揮する組織となるよう、チャレンジを続けているところです。
持田:
データ利活用の課題やHR領域におけるテクノロジーの動向について、佐々見さんはどうお考えですか。
佐々見:
データをうまく利活用できていないという課題は私たちのクライアントからも聞かれます。従来のシステムは基本的にデータとアプリケーションがセットになっていました。業務ごとにシステムとデータが紐付く結果、データは分散され、情報を活用するにもユーザーインターフェースがバラバラという状況でした。ところが、AIの進化により、状況は変わってきました。従来の業務アプリケーションはデータベースで管理された構造化データが一般的でしたが、AIはさまざまな形式の非構造化データを扱い、データを1カ所に集めておくことで価値が生まれてきます。
ただ、データを集めるだけでなく、意味のある形で集め、整理しないとAIも利用することができません。人事データにしても、本人の希望が書いてあるのか、実績が書いてあるのかが分からなければ、AIも処理できないので、データをきちんと整理する形で集める重要性が高まっているのです。データを1カ所に集めてAIが意味を分かるようにしておけば、利用者は会話型で必要な情報を得られます。AIと会話すればその情報のサマリーをダッシュボードの形で出してくれる。こんなテクノロジーが今、求められているのではないでしょうか。
持田:
PwCコンサルティングとしても昨今、人的資本開示やタレントマネジメント導入の関心度の高さから、多くの企業がデータ蓄積の重要性に気付いているとみています。一方で、ただデータを集めればいいわけではなく、意味のある形にまとめること。そして継続してデータを蓄積していくことが重要です。そのためには、必要な情報へアクセスし登録できることです。そこにハードルがあると定期アップデートが難しくなってしまいます。これについてはAIを活用することで、アクセスや登録が容易にできるようになるでしょう。
持田:
データドリブンHR実現への壁と対応について、田中さんはどう捉えていますか。
田中:
現在、使い始めているシステムは2021年頃にプランニングした世界を実現したもので、2023年4月以降、順次機能を実装してきました。自分が考えた世界を実現できたのはよかったのですが、その後、壁にぶち当たってしまいました。その壁とは、新しいテクノロジーが導入されても、テクノロジーを使うのは人であり、一人一人のテクノロジーに対する向き合い方が違うという点です。
例えば、新たに導入したシステムを普通に使いこなす組織責任者もいれば、アナログなピープルマネジメントを続ける統括責任者もいます。組織責任者がどれだけシステムを利用しているかモニタリングしていましたが、導入当初の利用率は2~3割と低かった。システム投資のROI(投資対効果)向上も私の使命でしたので、もっと利用してもらいたい。どうしたらテクノロジーに不慣れな人にも使ってもらえるか苦心しました。
その対応策として、まずシステムの利用者にどんなシーン、どんな用途で利用しているのかヒアリングしました。実際の利用者のファクトを集める一方、システムを利用していない人たちには説明会をするので参加してくださいと呼びかけ続けました。こんな使い方をしている組織責任者もいますよ、とベストプラクティスを添えながら説明会を行ってきたのです。
そうした地道な活動を続ける中で、最近はシステム利用率が6割近くまで増えました。最低7割を超えれば、「まだ、システムを使っていないの」と組織責任者同士の会話の中から利用が広がるとみています。そのため、7割の人たちが使いこなす状況を目標に、「システムを使うとこんなに便利になります」とPRし続けています。
持田:
確かに、システムを導入したものの十分に活用できていないという話はよく耳にします。業務マニュアルの整備やデータの定期アップデートの意識醸成など、多くの企業がシステムの利活用について苦慮しているようです。
PwCコンサルティングではシステムの利活用を含め、チェンジマネジメント支援の案件が増えています。システムやデータの利活用について、どうチェンジしていくのかといったアプローチを展開しながら、チェンジリーダーとなって周囲を引っ張っていける人材の抽出・育成の要素を取り入れ、企業に提案しているところです。
また、組織によるチェンジマインドの醸成という視点では、最近はエンゲージメントサーベイなどのデータを活用し、従業員の特性、キャリア志向などの要素を含めたチェンジマネジメント施策を展開しています。具体的には、複数の実績のある施策を同一の人材特性グループに展開し、PDCAサイクルを回しながら、トライ&エラーを含めてデータを蓄積して、どの施策が効果的なのかを明確化するなど、まさにデータドリブンの施策であると考えています。
田中:
チェンジマインドの話が出ましたが、私が強く意識していたのは、経営者層にこのシステムを使ってもらうことでした。経営者層のマネジメントの中で、そのシステムを使ったピープルマネジメントが話題になることも期待されます。パナソニックグループのCEOや副社長にも実際に使ってもらっています。
また、システム利用者のアンケートを実施しています。システムの利用実績をモニタリングするだけでなく、実際のユーザーにアンケートで「システムの存在を知っているかどうか」を尋ねることから始めます。使ったことがあると答えた人には「従来に比べ業務が高度化されたポイントは何か」「どのくらいの時間が削減されたか」など、ファクトを集めながら、利用者向けの説明会などで紹介しています。
持田:
利用実績のデータや従業員の生の声を反映し、使えばこんなに良いことがあるというビジョンを見せながら、システムの利活用を進めていく。非常に有効な進め方であると感じました。
田中:
システム利用率という壁が課題の1つと話しましたが、システムがあっても、必要なデータがなければシステムを使ってもらえません。ピープルマネジメントで使うデータの出元は、従業員がSAPのシステムにきちんとデータを入力しているかどうかに関わってきます。そのデータを見た上司や人事社員が従業員に対して、「あなたがデータを入力してくれたから、こういう人事のソリューションにつながっている」と説明できる世界を作っていかなければなりません。システム利用率を高めるとともに、データを入力する従業員にインセンティブが働く仕組みづくりが今後の課題です。
持田:
佐々見さんは、HRテクノロジーの進化とユーザーとの関わりについてどのようにお考えですか。
佐々見:
確かに、データを入力したユーザーのメリットは何なのか、これは肝になると思います。スキル管理がよくテーマになりますが、ユーザーがスキルを入力すればどんないいことがあるかを示すことが重要です。例えば、コンサルタントは自分が入力したスキルに応じてアサインメントが来ます。入力しないと来ない。そういうインセンティブがあれば入力します。自分の業務とメリットがつながっていることが重要なポイントになるのではないでしょうか。
もう1つの課題は、AI機能がシステムに組み込まれるようになり、ユーザーはAIに仕事を奪われる恐怖と同様に、AIが自分の情報を何に使うのか不安感があるのです。あるグローバル企業が生成AI機能を組み込んだシステムを全社展開した際、従業員のAIに対する不安を払拭するため、AI活用のメリットを伝えるのに多くの時間を割いていました。まさにチェンジマネジメントです。
SAPでは、2021年にHRテクノロジーに関する不安感やユーザーの受け止め方の調査を実施しています。AIに不安を持つ人に「どうすれば受け入れるか」と質問したところ、「自分が使うことでどんなメリットがあるのか説明してくれれば、受け入れる」という回答がありました。また、AIを受け入れるかどうかは組織文化にも関係します。トライ&エラーを許容する文化、イノベーションを生み出す文化のある組織であることと、人事部門からのメッセージが従業員のウェルビーイングを重視していること。この2つがそろっていれば安心してAIを使うはずです。今すぐAIの取り組みはしないにしても、将来AIを活用する際にスムーズにいくと思います。
持田:
人事領域におけるテクノロジー活用の未来を見据えた場合、AIを中心にテクノロジーが進化し、今の人事サービスはほぼAIエージェントが代替するとも予想されます。また、AIが提示した個別最適なサービスを、従業員一人一人に提供するようになるでしょう。例えば、AIが従業員のプロファイルを基にその人に適した職務を推奨したり、採用時の書類選考から面接、適性判断まで全て自動化されたりする未来がすぐそこまで来ています。
人事部門としてもこうした世界を前提にした上で、人とAIが協働し、それを加速するカルチャーの醸成が求められます。AIが広がる中、人間はイノベーションの創出や、人間でしかできない感情面のケア、倫理観に関する高度な判断などが求められる時代がやってくると考えています。
佐々見:
確かに人間でしかできない判断など、人事部門の価値が発揮される部分は残るはずです。ただ、判断をする際、従来のように頭の中に入っていたものやメモに残したアナログ的なものをベースにするのではなく、判断を手助けするAIエージェントのようなテクノロジーが発達してくるとみています。例えば、SAPのAIアシスタントは、社内にある人事・会計・購買・生産などさまざまなアプリケーションの情報を1カ所に自動的に集め、データとシステムを理解した上でアシストするため、「ビジネスAI」と呼んでいます。
AIやシステムはパーソナライゼーションの方向へ進んでいきます。AIアシスタントがその人の役割や職種を理解し、どのシステムを利用すればいいのかアドバイスする。AIに聞けば的確な提案が返ってくる。将来的にはこういう関係性になっていくでしょう。
持田:
パナソニックグループとして中長期的に目指す方向性はいかがですか。
田中:
これからも生成AIの進化に頼りながら、人事業務プロセス、人事の仕組みの中に積極的に取り入れていきたいと考え、SAPの人事・人材管理ソリューションの導入に取り組んでいるところです。将来的には、生成AIに仕事の悩みを相談し、AIがアドバイスしたり、人事業務プロセスの多くがAIエージェントによって代行され、人事社員の工数削減に役立てたりできると期待しています。
人事社員はAIをうまく活用しながら、EX(従業員体験)を高められるような制度、仕組みを企画し、経営戦略に合わせながら実装したり、入社を希望する人たちに対してHRブランディングを強化したりすることも、今後重要になると思います。
持田:
AIを活用する上で、人間性がとても大切になると改めて感じました。ありがとうございました。
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