「デジタル時代における日本流100年時代ワークスタイル」~リンダ・グラットン教授来日特別講演

2017年12月8日、リンダ・グラットン氏来日記念講演「デジタル時代における日本流100年時代のワークスタイル」が、PwCエクスペリエンスセンターで開催されました。「LIFE SHIFT―100年時代の人生戦略」を執筆し、日本でも著名なロンドン・ビジネススクール教授のリンダ・グラットン氏は、人材論、組織論の世界的権威であり、首相官邸による「人生100年時代構想会議」のメンバーでもあります。なお記念講演には、日本政府の「働き方改革実行計画」の策定にかかわる、経済産業省産業人材政策室の伊藤参事官を招へいし、「日本人と日本企業が目指す働き方改革」というテーマでお話を頂戴しています。

100年時代のワークスタイルとは?

ロンドン・ビジネススクール教授 リンダ・グラットン氏

「今日は未来について話します。近い将来、私たちの平均寿命は100歳になると言われています。では私たちは100歳までどのように働き、生活すべきなのでしょうか」

グラットン教授が問いかける、100年時代に向けた働き方の将来像

  1. テクノロジーの進化で、どういった業務がAIやロボットに置き換わるのかを理解していますか?
  2. 仕事について何が起こっているのかわかっていますか?
  3. 80歳代まで働き続ける準備はできていますか?
  4. 従業員の人生について理解していますか?

「AIやロボットの発達で、必要なスキルが限られている定型業務をはじめ、多くの仕事の担い手が人間からテクノロジーに置き換わると予測されます。そのため、自分たちの仕事がテクノロジーの進化で奪われるのではないか、と不安に感じている人は少なくありません。企業が従業員に提供する仕事が創造的なものであれば、彼らの不安を減らせるはずです。企業は、従業員に将来への望みを提供することが重要な取り組みであることを認識すべきです。

寿命100年時代になると、働く期間も延びます。現在の社会人の多くは65歳で定年を迎えますが、100年時代になると、生活のために75歳や80歳まで働かなければならなくなります。また長く働くということは、家族の在り方も変わることになります。」

新しい世界に向けて準備していますか?

新しいテクノロジー、社会構造、人口の増加、人生を取り巻くさまざまな事柄に大きな変化が起きています。今回の講演でグラットン教授は、私たちがどういったマインドで働いていくべきか、これからの生活のために新しい仕事の世界に向けた準備をしなければならないと述べています。私たちは柔軟性のあるマインドで、新しい仕事の世界に向けての準備ができているのか、考えなくてはなりません。人生100年時代に備えて、仕事の在り方とライフスタイルを考え直す時期に来ているのです。

日本人と日本企業が目指す働き方改革

経済産業省産業人材政策室 参事官 伊藤 禎則 氏

「AIを軸とした『第4次産業革命』によって、働き方が変わろうとしています。長時間労働と新卒一括採用に代表されるような日本型雇用システムが変わりつつあります。長時間労働と残業、それらを当たり前とした働き方は、もう維持できない時代になってきたのです」

「少子化に伴い、これから日本の人口は減少すると言われています。少ない人口で日本経済を支えるために、AIなどのテクノロジーの活用がキーになると考えられています。AIを軸とした第4次産業革命は、『技術のブレークスルー』です。AIが処理したほうがよいタスクがあるならば、AIを活用すべきです。

人口が減少しつつあり、またリアルなテクノロジーに強みを持つとともに、AIに利用できるリアルなデータが大量に蓄積されている日本は、AI時代にフィットするのではないでしょうか。

働き方改革という言葉は今、バズワードとなっています。しかし働き方改革には落とし穴があります。働き方を改革し、よりよくしようとしても、働く人に『やらされ感』があると、改革を疎外する要因になってしまいます。これまでの社会制度は、ひとつの会社に長く働くことを前提として作られていました。これからの企業は、働き方が多様化している現実に向き合う必要があります」

競争力の源泉は人材。人材戦略=経営戦略そのもの

「これまで企業の競争力の源泉は『資金』でした。それがいまでは、『人材』となっています。働き方が多様化している現在、企業はこれからどう人材に投資していくか。それには、テクノロジーの活用がキーになります」

伊藤参事官が挙げる、働き方改革の三つの重要なポイント

  1. 成果、生産性で評価される仕組み作り
  2. 「時間」「場所」「契約」にしばられない、柔軟かつ多様な働き方の実現
  3. 「人生100年時代」に備えて自己スキルを常にアップデートし、「人財」という資産価値を高める

「働き方改革を通じて経済をよくして、さまざまな課題を解決するために何ができるか、皆さんと取り組んでいきます」と述べ、伊藤参事官は講演を終えました。今や、私たち一人一人が働き方に対する意識変革を迫られていると言っていいでしょう。

デジタル時代の日本流100年ワークスタイルとは?(パネルディスカッション)

議論された内容をビジュアルで可視化したパネル

100年時代に向け、企業に求められる取り組みや、目指していく方向などのテーマで議論が交わされました。このディスカッションでは、働き方や学び方をどう捉えるか、自分の仕事に対する考え方を変えるべきでは、といったさまざまな意見がパネリストから出されました。日本企業が変革すべきものは何か、という問いに対して、「変化」、「勇気」、「異なる価値観を持った人たちとの協業といったキーワードが挙げられました。

またディスカッションでは、「これからの日本企業に重要なのはビジョンだ」という意見がありました。これをめぐって、「AIはビジョンを持つことはできない」、「企業のトップが持つべき価値観はビジョンや経営理念」という発言があり、グラットン教授も「ロボットやAIが労働を行うようになった場合、人間に残されるのはイノベーションであり、クリエイティブな領域である」と述べています。

日本企業がイノベーションを産み出し続ける存在になるために、何が大事なのか、という問いに対して、グラットン教授は「情熱」と答えています。他のパネリストは「過去との決別」、「勉強」、「競争」などのワードを挙げました。

最後に、PwCの組織人事・チェンジマネジメントコンサルティング部門の責任者であるパートナーの佐々木 亮輔が、「ワークシフトからライフシフトに変わってきていることを改めて感じました。企業としても新しい時代に適応させないといけません。従業員に対しても、いろんな機会を与えていく取り組みが必要になっています」と総括し、講演会は締めくくられました。

PwCは、これからも日本における働き方改革の推進支援に取り組んでいきます。

当日の講演の模様を動画で資料を公開しています。

主要メンバー

佐々木 亮輔

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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