わが国の銀行による信託スキームを用いないステーブルコインの発行可能性

  • 2026-08-07

はじめに

近年、国内外において関連制度の整備が進んでいることを受けて、いわゆるステーブルコイン(法定通貨とのペッグ等により価格の安定性を実現するよう設計された暗号資産)に対して関心が広く寄せられています。ステーブルコインの発行に際して、どのような発行スキーム(発行者となる事業体の種類等)を採用すべきかが議論となりますが、現時点において国内で発行された実績または具体的な計画が公表されているのは、①資金移動業者が単独で発行するもの、②信託銀行が信託を用いて単独で発行するもの、③複数の銀行と信託銀行が信託を用いて共同で発行するものに限られています。

しかし、これらの各スキームにはそれぞれ課題があります。まず、①のような資金移動業者による単独発行スキームにおいては、預金や融資といった重要な金融サービスを合わせて提供できないという制約があります。次に、②や③のように信託を活用するスキームを採用する場合、信託報酬の負担が避けられません。また、複数事業者による共同発行スキームを採用する場合には、複数事業者間での業務に起因してオペレーショナルリスク(インシデント発生時の対応の遅延等)が生じる懸念があります。

さらに、一定の法域では域外発行のステーブルコインを域内で流通させるための条件として発行者の登録が義務づけられており※1、登録に要する負担を考慮すると、このような法域にステーブルコインを流通させるためには単独の発行者による発行が望ましいと考えられます。

これらの事情を踏まえると、銀行が単独でステーブルコインを発行するスキームも有力な候補になり得ると考えられます。また、銀行にはすでに高度な資本要件や態勢整備要件が課されていることを踏まえれば、追加的な対応コストが相対的に少なくなるという利点も期待できます。

もっとも、2026年6月現在において日本の銀行によるステーブルコインの発行実績はありません。そこで本稿では、銀行が信託スキームを介さずに単独でステーブルコインを発行することに規制上の障害が存在しているのか、それが存在する場合にはどのようなものであるかを確認します。

なお、文中の意見は筆者の私見であり、PwC Japan有限責任監査法人および所属部門の正式見解ではないことをお断りしておきます。

※1 米国GENIUS法(Guiding and Establishing National Innovation for U.S. Stablecoins Act)18条(a)(2)。

目次

  1. 検討対象
  2. 現行制度上の位置づけ
  3. 指摘されているリスク
  4. 他法域における発行事例
  5. おわりに

PDFダウンロード

( PDF 809.0KB )
( PDF 12.36MB )

執筆者

PwC Japan有限責任監査法人
ガバナンス・リスク・コンプライアンス・アドバイザリー部
マネージャー 安嶋 建