メキシコは、地理的優位性と多国間自由貿易協定のネットワークを生かし、近年、世界有数の重要な製造・物流拠点として注目を集めています。特に、米国との国境を接する立地や、USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)をはじめとする制度面の整備により、米国市場へのゲートウェイとしての役割を強化してきました。
日本企業にとっても、メキシコはコスト競争力と市場アクセスの両面で魅力的な投資先であり、自動車産業を中心に多くの企業が進出しています。2025年のメキシコ経済は、内外の要因によって不確実性が高まっています。2024年に就任したクラウディア・シェインバウム大統領は、財政赤字の削減を急務としつつ、社会政策と経済改革の両立を目指しています。一方、2025年1月に再登板した米国のトランプ大統領による保護主義的な通商政策は、メキシコの主要輸出産業に打撃を与える可能性があり、USMCAの枠組みにも影響を及ぼす懸念があります。
こうした状況下で、メキシコ政府は国家経済戦略を通じて、インフラ整備、エネルギー政策の見直し、産業の高度化を推進し、外資誘致と国内経済の強靭化に取り組んでいます。
本稿では、メキシコの経済基盤と成長ポテンシャル、日本との経済連携の現状、現地の日本企業の動向、そして自動車産業を中心とした進出背景を整理し、最後にUSMCAの見直しをめぐる制度的リスクと今後の展望について解説します。
なお、文中の意見に係る記載は筆者の私見であり、PwCメキシコおよび所属部門の正式見解ではないことをあらかじめお断りします。
PricewaterhouseCoopers, S.C.
マネージャー 加藤 幸博