気候変動対策の今

  • 2025-05-20

はじめに

気候変動対策は、多様なサステナビリティの課題の中でも、多くの企業で特に重要なものと位置付けられています。2000年代後半、京都議定書に合わせて政府主導で「チームマイナス6%」というプロジェクトが実施されました。これは、京都議定書の第一約束期間に合わせ、「2012年までに日本国内の温室効果ガスの排出量を1990年と比べて6%削減すること」を目標にしたプロジェクトで、脱炭素や国に寄付するというカーボンオフセットがちょっとしたブームとなりました。しかし、2013年以降、そのブームは沈静化していきました。

その後、世界各地で起こる異常気象を背景に気候変動対策は避けられない課題となっています。特に2020年からは、日本社会でも本格的な気候変動対策の動きが活発になりました。政府も脱炭素に向けたさまざまな取り組みを進め、民間企業もそれに呼応するように積極的な対策をとるようになってきました。

本稿では、これまでの気候変動対策を簡単に振り返るとともに、カーボンニュートラルに向けてどのような対策が検討されているのか、企業として脱炭素経営を目指すためにはどのようなことを考えなければならないのかを解説します。

なお、文中の意見は筆者の私見であり、PwC Japan有限責任監査法人および所属部門の正式見解ではないことをお断りします。

1 脱炭素の現在地

2015年12月、パリで開催された第21回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)で2020年以降の温室効果ガス排出削減等のための新たな国際枠組みとして、パリ協定が採択されました。パリ協定の採択以降、気候変動への注目が高まり、2020年に入ってからは多くの国がカーボンニュートラルを宣言しています。しかし、2024年10月に国連環境計画(UNEP)から公表されたレポートによると、2023年の温室効果ガス(Green House Gas:GHG)排出量は、前年比1.3%増加の571億トンと、過去最多となりました。カーボンニュートラルを目指し、各国が取り組みを進めていますが、残念ながらまだその増加を止めることができていません。カーボンニュートラルという目標を達成するには、一部の国や大企業のみが実施すれば達成できるようなものではなく、全世界が一丸となって取り組む必要があります。目標達成を後ろ倒しすれば、その影響は気候変動として私たち自身に跳ね返ってきます。

日本では、2020年10月26日、菅義偉首相(当時)の所信表明演説において、2050年までにカーボンニュートラルを目指すことが宣言されました(図表1)。2021年4月22日には、地球温暖化対策推進本部の決定を踏まえ、米国主催気候サミット(オンライン開催)において、2050年カーボンニュートラルと整合的で野心的な目標として、2030年度にGHG排出量を2013年度比で46%削減することを目指すこと、さらに50%の高みに向け挑戦を続けることが表明されました。

日本のGHG排出量は2013年度の14億700万トンをピークに減少に転じ、2022年度は11億3,500万トン(2013年度比▲19.3%)と2030年度目標に向けて着実に進捗しています(図表2)。ただし、近年のAI等の普及に伴うデータセンターや半導体工場の新増設などにより電力需要が増加に転じることが予測されています。

図表1:日本の温室効果ガス削減の目標および進捗状況(CO2換算)

出所:環境省「2022年度の我が国の温室効果ガス排出・吸収量について」をもとにPwC作成

図表2:日本の温室効果ガス排出量(CO2換算)

出所:環境省「2022年度の我が国の温室効果ガス排出・吸収量について」をもとにPwC作成

増加する電力需要に対するため、再生可能エネルギーの導入拡大、化石燃料の代替となる脱炭素エネルギーの活用に向けた調整が行われています。第6次エネルギー基本計画では2030年の再エネ導入見通しが、第7次エネルギー基本計画では2040年度の再エネ導入目標の見通しが示されています。一次エネルギー供給総量としては、2030年度で4.3億kL、2040年でも同程度の供給需要が想定されていいます(図表3図表4)。ただし、エネルギー構成は、石炭や石油等の割合を低下させ、再生可能エネルギーおよび水素・アンモニア等(合成燃料、合成メタンを含む)の割合を増加させる方針が示されています。

図表3:一次エネルギー供給量の構成

  2013年度(実績) 2022年度(実績) 2030年度(見通し) 2040年度(見通し)
  億kL % 億kL % 億kL % 億kL %
石油等 2.3 43% 1.7 36% 1.3 31% 0.9~1.2 20%程度
石炭 1.4 25% 1.2 26% 0.8 19% 0.4~0.5 10%程度
天然ガス 1.3 23% 1.0 21% 0.8 18% 0.8~0.9 20%程度
原子力 0.0 0% 0.1 2% 0.4 9~10% 0.5 10%程度
再エネ 0.5 8% 0.7 15% 1.0 22~23% 1.1~1.3 30%程度
水素・アンモニア - 0% - 0% 0.02 0% 0.2 5%程度
総量 5.4   4.7   4.3   4.2~4.4  

出所:第6次エネルギー基本計画、第7次エネルギー基本計画をもとにPwC作成

図表4:発電電力量の電源構成

  2013年度(実績) 2022年度(実績) 2030年度(見通し) 2040年度(見通し)
再エネ 10.9% 21.8% 36~38% 4~5割程度
  太陽光 1.2% 9.2% 14~16% 23~29%
  風力 0.5% 0.9% 5% 4~8%
  水力 7.3% 7.7% 11% 8~10%
  地熱 0.2% 0.3% 1% 1~2%
  バイオマス 1.6% 3.7% 5% 5~6%
原子力 0.9% 5.6% 20~22% 2割程度
火力 88.3% 72.6% 41% 3~4割程度

出所:第6次エネルギー基本計画、第7次エネルギー基本計画をもとにPwC作成

また、日本のエネルギー自給率は十数%であり(図表5)、そのほとんどを輸入に頼っています。輸入エネルギーの価格は、石油価格などの価格と為替レートの変動に大きく影響を受けます。エネルギー単価は、産油国の動向やロシア・ウクライナ問題など、世界のエネルギー情勢を強く反映します。一方で太陽光や風力といった再生可能エネルギーは、地産地消のエネルギーであることから、発電にあたって海外のエネルギー情勢や為替の影響をほとんど受けません。地産地消のエネルギーの利用拡大は、エネルギー価格の安定化と合わせて、エネルギーセキュリティ、エネルギー自給率の向上にも寄与します。

図表5:日本のエネルギー自給率

出所:資源エネルギー庁資料をもとにPwC作成

カーボンニュートラルを目指すにあたり、脱炭素技術として注目されているものを図表6に示します。

この数年でカーボンニュートラルを実現するために必要な技術は整理が進み、各技術の研究開発や実証事業が開始されています。これらは日本に閉じることなく、先進国を中心に世界各国で取り組みが進められています。企業にとっては、これらの技術を利用するという側面だけでなく、これから成長が見込まれるマーケットに対して製品やサービスを提供するチャンスとして検討することもできるでしょう。

従来型の太陽光発電では、日本企業は当初技術優位性を持っていたものの、他国の製品にそのシェアを奪われる結果となりました。その教訓を生かしながら、日本で強みを持った次世代技術を開発し、その技術をもとに世界のカーボンニュートラルに貢献することが期待されます。

図表6:主な脱炭素技術

名称 説明
水素 無色・無臭・無毒の気体。最も軽い気体で、拡散しやすい。自然発火はしにくいものの、燃焼範囲は4~75%と広い。燃焼しやすく、消えにくい。合成燃料の原料、脱炭素エネルギーの1つとして注目されている
  「グレー水素」 化石燃料を使用して製造した水素。製造工程でGHGが排出される
  「ブルー水素」 製造工程で発生するCO2を回収し、大気へ放出されるGHGを削減している水素
  「グリーン水素」 再生可能エネルギー(再エネ)などを使って、製造工程でもGHGを排出せずにつくられた水素
アンモニア 無色のガスで、特有の強い刺激臭と毒性がある。水によく溶ける。燃焼してもCO2などのGHGを排出しないが、酸性雨の要因となる窒素酸化物を排出しやすい。肥料や化学製品の原料として使われており、一定程度のインフラがある。水素に次いで、脱炭素エネルギーとして注目されている
CCUS※1 CO2を集めて貯留、活用する仕組み。火力発電所や製鉄所・化学工場のようなCO2を大量に排出する場所での活用が期待されている
  DACCS※2 大気中のCO2を直接回収し、貯留する技術
  BECCS※3 バイオマスの燃焼で発生したCO2を回収・貯留する技術
ペロブスカイト太陽電池 次世代太陽電池。従来型のシリコン系、化合物系太陽電池に迫る変換効率を持つ。フィルム状で軽く、柔軟性がある。建物の壁面やガラス面への設置に加えて、耐荷重の低い屋根部への設置可能性も広がる。現時点では、寿命、耐久性が低く、その向上に向けた研究がなされている
洋上風力 島国日本は、化石燃料等の資源が乏しいうえ、地上では太陽光や風力の適地も広くない。しかし、日本を囲む洋上には、風力発電に適した場所が広がっている。日本の再生可能エネルギー電力拡大に向け注目が高まっている

※1 CCUS:Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage
※2 DACCS:Direct Air Capture with Carbon Storage
※3 BECCS:Bio-Energy with Carbon dioxide Capture and Storage
出所:PwC作成

2 脱炭素エネルギー

水素やアンモニア、合成燃料、合成メタンなどは、化石燃料を代替するカーボンニュートラルなエネルギーです。水素やアンモニアは、燃焼時にGHGである二酸化炭素を発生させません。合成燃料や合成メタンは、燃焼時に二酸化炭素を排出させるものの、グリーン水素(再生可能エネルギー由来の水素)と大気中の二酸化炭素や発電所等から排出された二酸化炭素を使って製造することから、ライフサイクル全体では大気中の二酸化炭素を増やすことがない燃料と考えることができます。

私たちが利用するエネルギーを電力とそれ以外の燃料(ガス、石油、石炭等)に分けると、電力ではGHGを排出しない太陽光や風力発電などの再生可能エネルギーが実用・普及段階となっていますが、カーボンニュートラルな燃料はまだ供給量が少なく、経済性も厳しいものがほとんどで、より一層の研究開発と普及拡大、コストダウンが期待されています。

加えて、水素やアンモニアのような新しい脱炭素エネルギーには新しいインフラの検討も必要となります。いくらエネルギーを製造したとしても、消費されなければ意味がないですし、消費する用途があったとしても、エネルギーを供給するインフラが整っていなければ継続的に利用することが難しくなります。そのため脱炭素エネルギーを活用するには、「創る」「運ぶ」「使う」という3つのステージに分けて考えるとよいでしょう。

「創る」は、エネルギーの製造段階です。カーボンニュートラルエネルギーとして何を作るのか、単純にエネルギーを製造するだけでなく、最終的にはその製造段階でもカーボンニュートラルとなるような技術の開発が必要となります。

「運ぶ」は、製造したエネルギーを利用・消費場所まで運ぶためのインフラです。合成燃料、合成メタンなど、既存のインフラを活用することができるものもあれば、水素のように新しくインフラを整える必要があるものもあります。水素やアンモニアの場合は、エネルギーの需給規模に応じた運ぶ技術も必要となります。

「使う」は、脱炭素エネルギーを使うことです。脱炭素燃料として期待されている水素やアンモニアを新エネルギーとして活用できる場面は、現時点では限定的であることから、その活用範囲の拡大が期待されています。2050年のカーボンニュートラルに寄与するためには火力発電所やそれに準ずる大規模需要家による需要の創出が必要になります。脱炭素エネルギーの普及が進みにくい要因の1つとして高コストがありますが、開発研究・実証段階の水素・アンモニアの実用化にあたっては需要創出による経済性の確保、そして大規模生産による費用削減が期待されます。

また、私たちの目的は水素やアンモニアを利用することではなく、カーボンニュートラルな脱炭素エネルギーを利用することです。その製造段階、輸送段階で多くのGHGを排出するエネルギーとならないよう留意する必要があります。新しいインフラを整備する場合、エネルギーを作る場所と使用する場所が近ければインフラ整備、輸送に係るコストも下がりやすくなります。「中部圏水素・アンモニア社会実装推進会議」での取り組みのように、特定の域内で集中的に「創る」「運ぶ」「使う」技術を構築しつつ、需要を拡大することで、カーボンニュートラル実現に向けた水素・アンモニア利活用の促進が期待されます。

3 脱炭素経営に向けて

私たちの経済活動にエネルギーは欠かせません。多くの製品やサービスを提供するには、多くのエネルギーを使用する必要があり、企業の経済的規模の拡大に伴ってエネルギー使用も増加していくのが一般的です。一方、二酸化炭素を中心としたGHG排出量は、エネルギー使用量に比例して増加します。つまり、企業活動が活発化すればするほど、GHGの排出量も増加することになります。

企業が脱炭素経営を実現するためには、省エネルギーを徹底し、脱炭素エネルギーを活用する必要があります。省エネルギーは、製品の製造やサービスの提供で単位当たりに使用するエネルギーそのものを減らし、間接的に排出される二酸化炭素を抑えることです。例えば、現在使用している設備をより高効率な照明設備やボイラー設備へ更新することにより、エネルギー使用効率を上げるといった事例がわかりやすいでしょう。ハードウェア面以外でも、設備の運用方法を見直したり、製造プロセスを見直すことにより改善を行う方法があります。また、一企業にとどまらず、他企業と連携することで全体としての最適化を行うことも考えられます。このように省エネルギーに取り組むことで、単位当たり100使用していたエネルギーを90、80と減らすことができます。GHG排出削減につながるだけでなく、コストダウンやエネルギーの高騰リスク軽減にもなります。

しかし、省エネルギーを徹底しても、そのエネルギー使用量をゼロにすることはできません。削減しきれないエネルギーから排出されるGHGを削減するために利用するのが、再生可能エネルギーを含む脱炭素エネルギーです。脱炭素エネルギーの利用は、エネルギー使用量増加に伴って増加するGHG排出を切り離す(デカップリングする)ことができます。

ここで、多くの事業者が調達の対象となるであろう再生可能エネルギー電力の調達方法について整理します(図表7)。

図表7:再生可能エネルギー電力の調達方法

調達方法 メリット デメリット
①自家発電
  • 出力制御が行われない
  • 化石燃料賦課金リスクを回避できる
  • エネルギー価格の変動リスクが低い
  • 再生可能エネルギー発電促進賦課金(再エネ賦課金)託送料金、バランシングコストがかからない
  • 初期投資費用が必要となる
  • 運用、メンテナンス対応を自社で実施する必要がある
  • 敷地内という設置の制約を受ける

②コーポレートPPA

(オンサイト)

  • 出力制御が行われない
  • 化石燃料賦課金リスクを回避できる
  • エネルギー価格の変動リスクが低い
  • 再エネ賦課金、託送料金、バランシングコストがかからない
  • 初期費用が抑えられる
  • 運用、メンテナンス対応は委託先で実施される
  • 自家発電よりも価格は割高となる
  • 15~25年程度の契約が必要となり、長期契約に伴うリスクがある
  • 敷地内という設置の制約を受ける

③コーポレートPPA

(オフサイト)

  • 化石燃料賦課金リスクを回避できる
  • エネルギー価格の変動リスクが低い
  • 外部に敷地を確保できれば、需要規模に応じた再エネ発電所を導入することができる
  • 初期費用が抑えられる
  • 運用、メンテナンス対応は委託先で実施される
  • コーポレートPPA(オンサイト)よりも価格は割高となる
  • 15~25年程度の契約が必要となり、長期契約に伴うリスクがある
  • 出力制御が行われる(エリアにより実施の有無、頻度が異なる)
  • 再エネ賦課金、託送料金、バランシングコストの負担が必要
④再エネ証書活用
  • 利用する電力とは別に再エネ環境価値を購入するため、既存電力の制約を受けない
  • 設備投資が必要ない
  • 化石燃料賦課金リスクは回避できない
  • 電力調達にあたって石油価格、為替の影響を受ける
  • 一般電力調達費用に加えて、継続的な証書購入費用が必要となる
  • 一般電力を購入するにあたっての再エネ賦課金の負担が必要
⑤小売電気事業者からの購入
  • 設備投資が必要ない
  • 短期的であっても調達可能
  • 化石燃料賦課金リスク、石油価格・為替の影響リスクは小売電気事業者の電力調達方法による
  • 一般電力よりも割高になりやすい

出所:PwC作成

①自家発電

自家発電は、電力を使用する事業所の敷地内に太陽光・風力などの再生可能エネルギー発電所を設置し、発電した電力を自家消費する方法です。主なメリットとして、送電網に接続する必要がないため、出力制御が行われないことが挙げられます。電気は、常時変動する需要に合わせて電源を調整し、需給バランスを維持することにより安定性を確保しています。出力制御が行われるのは、供給エリア内の需要が少ないタイミングで調整が困難となる需要以上の発電がなされると予測されるときです。出力制御が行われると、発電所側は電力の売却機会を、需要側は脱炭素エネルギーの調達機会を失うことになります。

次のメリットは、化石燃料賦課金リスクの回避効果です。化石燃料賦課金は、GX推進法(脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律)において2028年度から、化石燃料の輸入事業者等に対して、化石燃料に由来する二酸化炭素の量に応じて徴収するとしています。化石燃料由来の電力を使用している場合、電力を消費する事業者が直接支払うものではありませんが、その燃料の輸入段階で課税されるため、電力消費者は化石燃料賦課金を含んだ電気代を支払うことになります。自家発電ならば、敷地内で発電した二酸化炭素を発生しない再生可能エネルギー電力を使用する、つまり、化石燃料賦課金を含んだ電気の使用を代替する分の回避効果が生じます。

続いて、安定価格での再エネ調達効果が考えられます。化石燃料由来の電力や燃料は、世界の石油価格や為替の影響を強く受けます。一方で、敷地内の再エネ発電所は、石油価格や為替の影響を受けることはなく、経済面では安定した電力供給源となります。最後に、送電網を利用しないことから、再エネ賦課金、託送料金、バランシングコストの負担も生じないことです。これらのコストは電力単価のそれなりの割合を占めることから、その経済効果は大きくなります。

デメリットとしては、再生可能エネルギー発電設備を設置するための初期投資費用が必要となる点、発電設備の維持・運用、メンテナンス対応を自社で計画的に実施する必要がある点、敷地内という設置場所の制約を受ける点が挙げられます。敷地が潤沢で、需要規模に見合った発電設備の設置に必要な土地が十分にある事業者はそれほど多くありません。例えば、太陽光発電設備は20年以上利用可能とされていますが、事業所や工場の屋根上に設置する場合、建物の経過築年数によっては導入を悩むケースもあるでしょう。

②コーポレートPPA(オンサイト)

コーポレートPPA(オンサイト)は、事業所の敷地内に委託先の再エネ発電所を設置してもらい、その発電所から発電された電力を購入、自家消費する方法です。発電設備の所有者(設置費用負担者)は委託先となるため、自家発電のメリットに加えて、初期費用を抑えられるメリットがあります。また、発電設備の維持・運用、メンテナンス対応も、設置した発電設備で多く発電し、売電収入を向上させるインセンティブとなるため委託先で実施することが一般的です。

デメリットとしては、長期契約によるリスク対応が必要になる点です。事業者と委託先は15~20年程度のPPA(Power Purchase Agreement:電力購入契約)を締結することになります。PPA契約の締結期間中は電力料金が変わらないため、大幅な円高、原油価格の下落、政策変更による賦課金等の撤廃などによっては、電力会社から購入したほうが安価に購入できるようになるリスクがあります。また、発電設備は委託先の所有物となるため、設備が設置されている建物の改修や建て替えに制約が発生するほか、その場所で事業を継続する上でのリスクも考えられます。

③コーポレートPPA(オフサイト)

コーポレートPPA(オフサイト)は、自社の敷地外に委託先の再生可能エネルギー発電所を設置してもらい、その発電所で発電された電力を、送電網を通じて購入、消費する方法です。オンサイト型のコーポレートPPAと比較すると、発電するための敷地を調達することになるため、需要規模に応じた再エネ発電所を導入することができる点が挙げられます。

一方で、送電網を利用することから、再エネ賦課金・託送料金・バランシングコストなどの負担が発生し、オンサイト型コーポレートPPAよりも契約電力単価が割高になり、出力制御が行われるリスクもあります。長期のPPA契約リスクを低減させる目的で、中小規模のオフサイトPPAを複数締結するケースもあります。PPAを途中で解約する場合、違約金が発生するのが一般的です。省エネルギーの進捗や事業規模の縮小などにより、事業所の電力需要が減った場合、PPA契約の解除による調整が必要になることも想定されます。大型の発電所が1か所の場合、選択肢は1つしかありませんが、中小規模の発電所を複数持っている場合、新しい電力需要に必要なPPA契約を残し、削減が必要な分のみを解除することができ、これにより違約金リスクを低減することができます。一方で、一般的に中小規模発電所よりも大規模発電所のほうが発電コストは安くなる傾向にあるため、一概に当該手法が最適とは言えない点に留意が必要です。

④再エネ証書活用

再エネ証書活用は、再生可能エネルギー発電所の環境価値を取引可能な形にした、非化石証書、J-クレジット(再エネ)、グリーン電力証書を購入し、活用することです。これらを活用することで、利用している電力を再エネ化することができます。使用した電力に応じて証書やクレジットを充てるため、自社の電力デマンドに応じた調整などは不要です。また、設備投資の必要もないため、取り組みやすいといったメリットがあります。一方で、化石燃料賦課金リスク、エネルギー価格の変動リスクは回避できず、一般電力の調達費用に加えて、証書・クレジットの購入費が、再エネ化をする間、継続的に必要となります。また、再エネ証書もニーズが高まってきており、必要なタイミングで必要な量が調達できなくなるリスクがあります。

⑤小売電気事業者からの購入

小売電気事業者からの購入は、小売電気事業者が用意している再生可能エネルギー電力メニューから電力を購入する方法です。従前、電力は一般電気事業者から必要な量を購入することが通常でしたが、2011年の東日本大震災を契機に電力システム改革が進められ、さまざまな事業者の電力事業への参入とともに選択肢の幅が大きく広がりました。設備投資が必要なく、短期的であっても調達可能(長期的な契約も不要)です。化石燃料賦課金リスク、エネルギー価格の変動リスクは、小売電気事業者がどのように再エネ電力を調達しているかにもよります。もし、再エネ証書を活用して、一般電力から再エネメニューを作っている場合は、リスクは回避できません。一方で、再エネ発電所で発電された電力を再エネメニューと供給していることも考えられるため、小売電気事業者により、リスクの有無を判断する必要があります。

以上の5つが再エネ電力の主な調達方法となります。繰り返しとなりますが、脱炭素経営を実現するには、省エネルギーの徹底と脱炭素エネルギーの活用が必要不可欠です。ただし、電力以外の脱炭素エネルギー活用にはまだまだ多くの課題があり、技術の成熟が期待されています。日本でも脱炭素の取り組みを促進するべく、規制面から現在試行中の排出量取引制度を2026年度より本格稼働させ、2033年度には発電事業者向けに「有償オークション」を段階的に導入することが検討されています。高まるGHG排出リスクの低減に向け、脱炭素に向けた取り組みが求められます。

4 おわりに

米国のドナルド・トランプ大統領は、気候変動対策分野でも「アメリカ・ファースト」を貫くと考えられており、パリ協定からの再離脱も予定されています。世界第2位のGHG排出国による離脱の影響は小さくなく、各国へも懸念が広がりそうです。これまで懸命に脱炭素経営に向けて努力してきた企業が、気候変動対策を実施しないシナリオに移行する可能性もあり、気候変動対策の停滞につながる影響が予想されます。

石油や石炭をはじめとする化石燃料の使用はこのまま増加の一途をたどるのでしょうか。化石燃料の使用には別側面の課題もあると考えられます。化石燃料は、地球が数億年かけて作ってきた資源です。技術の進歩とともに可採年数も拡大していますが、未来永劫使い続けられるものではなく、このままではいつかなくなります。そのような資源を人類が数千年で使い切ってしまってよいものなのでしょうか。化石燃料の使用から代替エネルギーへの転換を進め、豊かな地球資源をそのまま将来に残していくことも私たちの世代に託された重要なテーマであると思います。資源維持といった側面からも、積極的な気候変動対策の実施が期待されます。


執筆者

PwC Japan有限責任監査法人
サステナビリティ・アドバイザリー部
パートナー 石川 剛士