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2023年6月、米国連邦最高裁判所が、大学入学選考において人種を考慮するアファーマティブ・アクション措置が合衆国憲法修正第14条の平等保護条項に違反するとの判決を下しました*1。これを契機に米国ではDEI(Diversity, Equity & Inclusion、多様性・公平性・包摂性)推進に対する批判が高まり、「反DEI」政策の機運が強まりました。
この流れを背景として、政権交代直後の2025年1月21日、トランプ大統領は米国連邦政府機関における「違法なDEIプログラム」の排除を目的として、「違法な差別の根絶と実力主義の機会の回復(Ending Illegal Discrimination and Restoring Merit-Based Opportunity)」と題する大統領令第14173号(以下「本大統領令」といいます。)に署名・発令しました*2。その後、2025年3月末には、米国連邦政府が在欧米国大使館等を通じて欧州各国の取引先企業に対しDEIに関する質問票を送付し、本大統領令の遵守を求める動きが報じられました*3。本ニュースレターでは、本大統領令の内容とその域外適用の試みについて概説するとともに、米国外企業がDEI関連施策を遂行する際、本大統領令との関係での留意点を考察します。
本大統領令第3条において、米国連邦政府の取引先企業及びその下請企業に対し女性やマイノリティの雇用機会均等のためアファーマティブ・アクション実施を義務付けていた1965年施行の大統領令第11246号(Equal Employment Opportunity)をはじめ、複数のDEI推進関連の大統領令・覚書が一括して撤廃されています。
本大統領令に基づき、米国連邦政府と取引するすべての契約先企業及びその下請先企業は、2025年3月21日以降、米国連邦政府との新規契約時に「連邦差別禁止法令*4の遵守に関する証明書(Certification Regarding Compliance with Applicable Federal Anti-Discrimination Law)」(以下「本認証書」といいます。)を提出することが求められています*5。本認証書には主に次の2点を盛り込むよう定められています。
① 虚偽請求取締法における「重要」事項であることへの同意
契約先企業及び下請先企業が連邦の差別禁止法令を遵守していることが、虚偽請求取締法(False Claims Act、以下「FCA」といいます。)における「政府の支払決定に重大(material)な影響を及ぼす事項」に該当することへの同意を求めるものです。これは、当該企業が連邦差別禁止法令の遵守状況に関する情報が政府支払判断の重要事項であると自ら認めることを意味します。
② 違法なDEIプログラム未実施の認証
取引先企業及び下請先企業が適用される差別禁止法令に違反するようなDEI推進プログラムを一切実施していないことを公式に認証することも求められます。すなわち、自社のあらゆる人事・雇用慣行や社内プログラムにおいて、人種、肌の色、性別、性的指向、宗教又は国籍といった属性に基づく差別的取扱い(違法な差別)を行っていないことを誓約する内容です。
本認証書には、国務省と契約するすべての業者は、適用される差別禁止法令に違反するDEI推進プログラムを運営していないことを証明しなければならず、さらに、その証明は政府の支払決定にとって重要(material)であるため、FCAの適用対象となることが明記されています。
FCAは、連邦政府に対する詐欺行為を防止するための連邦法であり、連邦政府の支払判断に影響を及ぼすほど重要とみなされる事項について虚偽の記録を故意に提出したと判断されると違反者には連邦政府の被った損害額の3倍までの賠償金及び高額の民事制裁金(金額はインフレ調整前で1件あたり5,000~10,000ドル)が科される可能性があります(31 U.S.C. §3729)。
前記1.①に記載の通り、本大統領令により提出が要求される本認証書には自社が提供する情報が政府の支払判断にとって「重要」であることを認める同意文言が含まれますので、自社のDEIプログラムや方針・取組が差別禁止法令に抵触していないかを十分に精査せずに本認証書を提出すると、意図せぬ差別禁止法令違反が生じ、上記のようなFCA違反の責任追及を受けるおそれがあります。
冒頭で述べた通り、トランプ政権は、2025年3月末に欧州の米国大使館等の取引先企業(現地の納入業者や米国政府助成金の受領者など)に対し、本大統領令の遵守を求める質問票を送付し、DEI禁止方針への同意と本認証書と同様の内容の証明を行うよう指示しました。
米国の差別禁止法令は、米国外において米国市民を雇用する米国企業及びその支配下にある外国企業に対してのみ域外適用されます(1964年公民権法第7編Title VII, §702(a) and §702(c)参照)。このため、米国企業による支配下にない純粋な外国企業について、その企業内で現地採用された米国市民ではない従業員に対する差別的取扱いまで米国の差別禁止法令が適用されることはありません。
もっとも、どの程度の関係性があれば米国外企業が「米国企業の支配下にある外国企業」とみなされて差別禁止法令の適用対象になるかについては、個別の判断が必要となります。このため、仮に日本企業が米国政府から本認証書の提出やDEI是正に関する要求を受けた場合には、自社が米国の差別禁止法令の適用を受け得る立場かどうかを十分に検討した上で、自社のDEI方針・取組みに関する対応方針を慎重に検討する必要があります。
米国内では本大統領令の適法性・合憲性を巡る訴訟が継続中であり、今後の司法判断によって企業への要求内容に変更が生じる可能性もあります。グローバルに事業を展開する企業としてはこのような海外における規制動向にも注視し、適切に備えておくことが重要です。
*1 Students for Fair Admissions, Inc. v. President and Fellows of Harvard College, 600 U.S. 181 (2023)
*2 “EXECUTIVE ORDER 14173 ENDING ILLEGAL DISCRIMINATION AND RESTORING MERIT-BASED OPPORTUNITY”:
https://public-inspection.federalregister.gov/2025-02097.pdf
*3 Reuters “US embassies tell suppliers to comply with Trump ban on diversity policies”(2025年4月1日):
https://jp.reuters.com/world/us/U37TIP7OYNJWLAWOVBF3JWBVRQ-2025-04-01/
*4 米国の連邦における差別禁止法令には、主に雇用における差別を禁じる1964年公民権法第7編(Title VII)(1991年公民権法による改正を含む)があり、その他に障がい者に関する各種の差別禁止法、遺伝子情報に基づく差別の禁止法など種々の差別禁止法が含まれます。
*5 Certification Regarding Compliance with Applicable Federal Anti-Discrimination:
https://ua.usembassy.gov/wp-content/uploads/sites/151/CERTIFICATION-REGARDING-COMPLIANCE-WITH-APPLICABLE-FEDERAL-ANTI-DISCRIMINATION-LAW-.pdf
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