いまこそ中小企業の「会社の終活」支援を-存続、廃業・清算の見極めこそ、銀行の役割-

2020-09-01

PwCアドバイザリー合同会社 パートナー 福谷 尚久が中小企業の終活・廃業支援をテーマに中小企業における「会社の終活」を、金融機関がサポートするにあたって、どんな点に留意するべきかを金融ジャーナル2020年8月号に寄稿しました。

「2025年問題*1」といわれる中小企業消失の懸念は、新型コロナウィルスの蔓延によって現実味を帯びてきた。特に“コロナ後”への適応が難しい企業の退出が待ったなしとなる中、本稿においては、事業承継や他社への売却、廃業といった中小企業における「会社の終活」を、銀行などの金融機関がサポートするにあたって、どんな点に留意するべきかを論じていきたい。

コロナ禍の中小企業動向

コロナ禍の影響が世界を揺るがした2020年の上半期。規模や収益性にかかわらず、日本企業が今回ほど“生き残り”の瀬戸際に立たされたことはなかったのではないか。東京商工リサーチの調査によれば、企業倒産の件数は、2019年9月から8か月連続で前年同月比上昇を続け、この5月にいったん大幅に減少したのち、6月には再び激増した。(図表1)

出所:東京商工リサーチ「月次 全国企業倒産状況 2020年6月」

5月の倒産件数の減少は、コロナ感染拡大による裁判所業務の一部縮小、政府主導による各種の給付金や助成金、手形の不渡り猶予などの支援策による一時的な影響であり、コロナ影響の倒産割合の伸びとともに(4月の1.0%→5月、6月はそれぞれ19.4%、12.1%)、年末までには再び増加し、年間倒産件数は1万件を突破することが予想される。近年3万~4万件台で推移していた休廃業等の件数も、「2020年には5万件を超える」(東京商工リサーチの友田常務取締役)勢いだ。(図表2)

出所:東京商工リサーチ2020年1月22日「2019年『休廃業・解散企業』動向調査」、2020年5月25日「週刊エコノミストオンライン」東京商工リサーチ友田常務取締役インタビューより作成

加えて中小企業の多くは、リモートワークのための準備やキャッシュレス、ペーパーレスへの対応など“ニューノーマル”に伴うIT関連の投資が難しい。こうした厳しい状況下で、追い込まれて会社の価値が毀損してしまう前に、他社への売却や廃業という大きな決断、つまり「会社の終活」への行動を起こすことも、現実的な選択肢ではないだろうか。

納得のいく会社の終活とは

「会社の終活」を定義するならば、積極的なものと“手仕舞い”的なものに大別される。事業承継やM&A(合併・買収)によって実質的な存続を図るのが前者であり、(残余資産状況にもよるが)債権者に迷惑をかけないよう廃業や清算に至るものが後者である。倒産・破たんといった最悪のケースは終活の失敗例といえるが、中小企業にとって納得のいく終活を支援するために、金融機関は何をすべきだろうか。

金融機関の最大の存在意義は、これまで資金調達の支援だった。短期・長期別の資金使途を見極めながらの融資が原則であるが、貸出先としっかりコミュニケーションが取れていないと、実質的には“追い貸し”となることもある。これは単に会社の延命の手助けにしかならず、最悪の場合、金融機関は回収不能になり、会社は破たんするといった“共倒れ”となってしまう。こうした事態を回避するためには、取引先の経営者の力量や事業への意欲、事業上の特性などを考慮して、はたして今後事業を盛り返せるのか、それとも「会社の終活」を勧めるべきか、という見極めを、できるだけ早く“第三者の視点”で行うことが最も重要である。

会社経営者は、取引先との関係や従業員の雇用、さらにプライドや家業へのこだわりといったさまざまな要因から、事業継続に固執しがちだ。こうした状況に対して、長年会社と伴走してきた金融機関こそ、マクロ・ミクロの情勢と個社ごとの事情を鑑みて、客観的で的確なアドバイスができるだろう。

取引継続となる場合には、従来からの金融・経営支援を強化し、「終活」支援となる場合には、その会社の持つ“将来価値”の判断を手助けすることが必要になる。この将来価値が相応に大きければM&Aも含めた広義の事業承継をサポートし、もし現在の価値以上の見通しが立たなければ、早期に廃業や清算を勧めることが望ましい。

具体的には、その会社が有する資産の価値に加えて、商流や許認可・パテント、製品や商品の競争力などの“価値”、つまり超過収益力を可能な限り数値化して、現在と将来のどちらに希望を託すのかを判定することになる*2

見極め判断と合わせて真に求められていること

こうした「見極め」の判断というサポートと合わせて、今金融機関に真に求められていることを以下に列挙したい。

(1)情報力の強化とタイムリーなデリバリー

“貸し出し”という金融機関の機能は引き続き重要だが、現在のような突発的な危機の際は公的な援助や種々の支援策も打ち出されるため、求められるサポートはお金絡みとは限らない。

中小企業のオーナーに直接ヒヤリングをすると、実は質の高い情報を渇望しているという反応が多い。この“情報”とは、例えば地域や身の回り、ビジネス上の業界情報から、商流への影響を及ぼすグローバルな政治・経済情報、またM&Aに関する情報やそれに伴う税務、法務の情報など多岐にわたる。中小企業が進退の判断を下すための具体的な“尺度”として、必要とされているのである。

こうした情報を自社・自行ですべて用意してニーズに応えることはなかなか難しい。税理士・会計士・コンサルタントなどの専門家や、場合によっては同業他社とのチームアップも視野に入れて、必要な時に必要な情報を取引先企業に届けられるよう、準備することが望まれる。

(2)スコアリング依存の見直し、思い込み排除

金融機関による伝統的な判断基準は、社歴や経営者の経験、売上高など実績主義に基づいてなされることが多い。これは現在では一般化している信用スコアリングモデルとも相性がよく、疑問を抱かずに多用されているのではなかろうか。しかし、このやり方は、あくまで従来型の“目に見える”tangible(有形)なビジネスに有効なものであって、intangible(無形)の価値の比重が高い、例えばITのようなビジネスには向かない。

また、経営者に関しても、これまでの実績が情報化の進んだこれからの社会に対応できるのか未知数であるし、意欲と潜在力を持つ若手経営者の将来的な可能性を否定してしまうことにもなりかねない。AI(人工知能)やビッグデータを駆使してスコアリングの精度を高めるという考え方もあろうが、そもそも中小企業の場合には、分析するデータが十分でなく、なかなか機能しないだろう。

単にお決まりの項目を点数化するのではなく、対象会社の実状に合った理解をしなければ、会社の存廃へのアドバイスを求められても誤った「見極め」をしてしまうことになる。時代に合った柔軟な考え方が求められているのである。

(3)与信判断向上と個人保証至上主義の脱却

中小企業との取引において金融機関は、信用力の補完やガバナンスをきかせるために、不動産などの担保以外に経営者の個人保証の差入れを求めるのが一般的だが、事業承継やM&Aの際に、この保証の承継がネックとなることが多い。そもそも貸出先に信用力がなければ、会社のオーナーが代わる以前に回収を図るべきだし、もし継続支援が可能であれば、それなりの信用力があるとみなしているので、「個人保証の引き継ぎができなければ、即時全額返済を求める」論法は誤りだ。

新旧経営者双方に個人保証を求める“二重取り”という悪しき慣習も見られる中で、全国銀行協会にも「個人保証の融資慣行化」と「貸し手側の説明不足、過大な保証債務負担の要求」という認識があり*3、「前経営者が負担する保証債務について、後継者に当然に引き継がせるのではなく…必要性等について改めて検討する」*4、との指針さえ出している。個人保証はあくまで「保険」の役割であり、本来的には金融機関自身がより高度で総合的な与信判断力を磨き、必要なリスクを取ることが、中小企業の終活支援のために求められている。

終活支援のために

中小企業のファーストコール先(まず真っ先に相談する相手)は金融機関であることは間違いない。終活支援のためには、これまでのお金を軸にした取引先との接点を、情報を切り口とした接点へ広げ、従来の慣行を見直しながら対応していくことが急務であろう。以下が本稿のまとめとなる。

  • ファイナンス(金融)支援は所与としたうえで、“+α機能”(=情報)を充実させた支援を行う
  • 事業/会社存続の判断をサポートするために、企業価値算定を積極的にアシストする
  • 自社・自行でできることを見極め、積極的に外部のリソースも活用した支援を心がける
  • “実績/スコアリング主義”に陥らず、潜在力や無形の価値なども考慮して判断基準を多様化させる
  • 過度な担保や保証に依存せず、与信判断力を向上させ、必要なリスクも取っていく

さらには、信用創造という本来業務を活かしながら、“価値創造”の判断へのサポートと地域総合情報拠点となっていくことが、今後金融機関には一層求められよう。

1 経済産業省と中小企業庁が2017年に、“現状のままでは中小企業廃業が急増し、2025年頃までの10年間累計で約650万人の雇用、約22兆円のGDPが失われる可能性がある”と発表した試算を指す。
2 企業価値の算出方法はこのほかに、営業利益の何年分、または将来的な利益やキャッシュフローを現在価値に割り引く、などもあるが、中小企業、特に小規模の会社の場合、資産価値をベースにすることが多い。
3 2013年12月5日「経営者保証に関するガイドラインQ&A」P.1、経営者保証に関するガイドライン研究会
4 2013年12月「経営者保証に関するガイドライン」P.8、同上

執筆者

福谷 尚久

シニアアドバイザー, PwCアドバイザリー合同会社

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※本稿は、金融ジャーナル2020年8月号の寄稿を転載したものです。

※本記事は、株式会社日本金融通信社の許諾を得て掲載しています。無断複製・転載はお控えください。

※法人名、役職などは掲載当時のものです。

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