「不平等」人や国の不平等をなくそう/PwCあらた有限責任監査法人の視点―不平等のない社会へ監査法人が果たす役割

2022-05-16

Ⅰ.監査法人は人がすべてであり、人が差別を解消する鍵となる

法人の採用における就活生との面談や、同僚、後輩や友人との会話において、「今までPwCからの転職を考えたことがないのは何故か」と聞かれると、私は常に「PwCにいる人が好きだから」と答える。監査法人は、多様な専門家がそれぞれの専門性を発揮し協働することによって、社会の持続可能な発展に必要な信頼と変革を実現する専門家集団である。それゆえ、監査法人における専門性は所属する人に起因し、その種類や構成に応じて協働の要否や方法が決められる。そして、社会に必要な信頼と変革を見出し、選択し、実現するのは最終的に人であると言える。

人と国の不平等は、その国を取り巻く自然、保有する資源、法規制や社会制度などの多くの要因によって影響を受ける。ただし、自然など所与の要因を除けば、資源の分配や社会制度を決めるのは人であり、根本的には、人が他者を差別することにより不平等が発生していると考える。

人は自分の常識と異なる他者や、その異なる価値観や考え方に対して身構え、無視または排除することがある。そして時には、それが他者に対する差別という形になって表れる。

私がPwCにいる人を好きな理由は、自分の常識と異なる他者や、その異なる価値観や考え方を無視または排除しない、差別を生まない心持ちをもった人が多いからだ。

監査法人は人がすべてであるということは、例えば、PwCにおいては、以下のPeople StoryとBusiness Storyの二軸で表されている。

People Story:「自ら専門性を有し、多様な価値観や意見を有する仲間に共感し協働することで総合力を発揮し、クライアントの重要な課題解決や社会の発展を実現する真のプロフェッショナルとなる。」

Business Story:「専門性と総合力を駆使し、クライアントと社会の持続可能な発展のために必要な信頼と変革を実現する真のプロフェッショナル・ファームとして、持続可能な社会の実現に向けて長期的な価値創造をけん引する存在となる。」

Business Storyを実現するのは人である。そして、その人に求められていることが、People Storyを体現することなのである。

Ⅱ.共通点の認識と興味が差別をなくし共感を生む

自分の知っている世界や同じ価値観や考え方を持っている人が多い集団にいると居心地がいいと感じやすいのは、自分との共通点が多いからだ。共通点が簡単に見いだせない他者や集団に対して、人は戸惑い、不快に感じることがある。その戸惑いや不快感は、他者や違いを無視または排除し、差別につながる。この問題を克服し、自分を変えるために必要となるのは、他者や違うことに対する興味を持つことであると考える。

人は自分が興味のある人物や事象については、自ら進んで情報を得ようとし、理解をしようとする。そこで自分の価値観や考え方との違いに気づいたときも、対象に興味があれば、その違いの良さや違いを生む背景にも興味がわき、それによって自分が常識だと思っていたことを変えることができる。つまり、共通点を見つけることが、他者に対する興味や理解を得るための助けとなり、ひいては差別を生まない環境を醸成し、共感を生み協働できるのである。残念なことに、共通点が欠片も見いだせない場合、興味をもつことが難しいことも事実であると言える。

多くの監査法人では、世界共通の行動規範としての価値観とそれに基づく行動例が共有されており、例えば、PwCにおける行動規範は「Act with Integrity(正しいことを実践する)」「Make a Difference(自身の行動で影響を与える)」「Care(理解し尊重する)」「Work Together(相互に協働・共有する)」「Reimagine the possible(新しいことに挑戦し続ける)」の5つが挙げられている。この行動規範のもとでは、自分と異なる他者や未知の事象を、興味をもって受け入れる行動がとられ、それゆえ、差別ではなく共感を生むことができる。

行動規範以外にも、多くの監査法人には世界共通の制度やプロトコルがあり、世界中のどの国においても共通で用いられる監査手続基準があり、各国固有の追加項目以外は、どの監査業務においても全て同じ監査手続を実施する。また、採用、日常の業務評価、そして人事評価の基準も全世界共通の基準に基づいて行われることが多い。例えば、PwCにおいては、各国の会計士資格も、会計士以外の資格も、それ以外の専門性も、どれも同じく評価される資質の1つであり、資格の種別が日本における昇進の要件となっていないことも、その表れである。

監査法人では、全世界で同じ行動指針、共通の業務上の手続指針と評価基準を適用していることが一般的であり、その「共通点」があるからこそ、国をまたいだチーム編成や、海外赴任、部署異動をしても、お互いに興味をもって受け入れ、そこからお互いの常識を新たに作り上げることが可能となる。

私も、部署異動希望制度を利用し、国内事業会社の監査部門から外資系金融機関の監査部門へ異動し、その後、海外赴任制度を利用し、PwCロンドンへ赴任した。国内での異動、海外赴任のどちらの場合においても、自分にとって新しい業種の人々や、初めて出会った多種多様な文化背景を持った人々との新しい環境において、自身のキャリア形成が同じ基準で継続することができ、さらに、自分自身の中の多様性を広げることができた。基礎となる行動指針、業務上の手続指針、評価基準という共通点をお互いにもっていたことが、相互に興味をもち、違いを受け入れることができたことにつながったことが大きい。その結果、今も継続して、世界中のPwCにいる人々と繋がりつづけていられていることが、私にとって何よりの財産となっている。

さらに、社会の変革に対応する新たな取組においても、先述のPeople Storyの体現がなされている。例えば、一般的に、社会におけるデジタル化への対応として、デジタル人財を育成するという取組みがなされているが、その方法として、デジタル人財となる部署や集団を特定して育成する、または採用するというやり方がある。一方、PwCにおいては、一定以上のデジタルに対応できるような人財育成を全員に実施している。これは、デジタル社会において、一定以上のデジタルの素養を身に着けることが、People Storyにおける真のプロフェッショナルとしての大前提であり、デジタルに関しても一定の「共通点」を全員が共有できるようにするためである。全員にデジタルの知見を持たせることにより、知見の有無によって疎外感を持ったり差別を生んだりすることもなく、デジタルに関する共通点を共有することによって、デジタルを利用した協働を実現できるのである。私自身も、もともとデジタルの専門家ではなかったが、PwC Japanにおけるデジタル人財育成の取組を全員に広げるけん引役として、皆に受入れられ、リードすることができている。

このように、全世界共通の行動規範、制度、プロトコル、評価基準、人財育成があることが共通点となり、自分と異なる他者や未知の事象を、興味をもって受入れ、差別をすることがない人が多くいる組織であることが、私がPwCにいる人が好きという理由の根源にある。

Ⅲ.人が牽引する監査法人による差別のない社会への変革への取組み

監査法人も、国や組織を超えてお互いの違いを受け入れ、同じ目的に向かってそれぞれの専門性を発揮し協働することにより、社会の課題解決をけん引することができる存在である。そのため、監査法人として、差別のない社会、人と国の不平等をなくす社会への変革を実現することも、重要な課題の1つであると考える。その課題への取組みは、監査に代表される信頼を付与する役割において、信頼の付与の範囲の拡大から信頼の構築を実現すること、また、監査法人に対する信頼を活かした社会における調整の役割を実現することから始まっている。

1.信頼の付与の範囲の拡大から信頼の構築

監査における保証対象の非財務情報への拡大など、信頼の付与の範囲の拡大は様々あるが、私自身の経験として、ブロックチェーン・暗号資産を例として述べる。

ビットコインが生んだブロックチェーンは、単純化して表すと、プログラム自体に分散型のガバナンスを組み込んだシステムである。今まで誰かが管理し統制している中央集権型のガバナンスを前提としていた世界に、国も既存のインフラも関係のない、新たなガバナンスの定義をもたらしたものである。そのため、暗号資産やブロックチェーンを利用した事業を営んでいる会社に関する信頼の付与については、今までの信頼の付与とは違う方法についての検討が必要となる。

自身が担当している業務において、PwCにおいて初めて暗号資産を業として営む会社に対しての監査意見を表明するということがあった。暗号資産の監査手続に関して、関わった全ての人が、それぞれの専門性とその総合力を発揮し、検討することにより、新しい信頼の付与の方法を生み出し、信頼の付与の範囲を広げるということができた。また、そこから今後実業での活用が広がっていくと考えられる、ブロックチェーンなどの新たなシステムを基盤とするプラットフォームの信頼という、信頼の基盤の構築へもつながっている。

お互いに相違を受け入れあう多様性のある人々によるチームワークの結集により、社会の発展のための信頼の構築と変革が実現できたのである。言い換えれば、人や国の差別や不平等が存在する組織であれば、このような成果は望めなかったであろう。

2.信頼を活かした社会における調整

監査法人と、例えばコンサルティング会社など他の専門家集団との最大の相違は、監査を含む保証業務の提供に「独立性」が必要とされる点と、保証業務を通じて信頼を付与していることによる、監査法人に対する「信頼」であると考える。

以前の社会は、基本的には、決まった人や、決まった集団と連携、協働することで発展してきた。現在およびこれからの社会は、変革のスピードの速さや、変革への対応のための課題が幅広くなっていることから、その時々の対応する課題ごとに、その課題およびその目的を共有し、協働することができる人や集団で迅速に対応することが求められている。そのため、課題および目的によって協働する相手が常に変化するという状況が生じる。

長期間にわたる同じ人や集団での連携や協働においては、相互に共通点や信頼が自然と形成されていたが、その時々で連携や協働への参加者が変わる社会においては、信頼できる組織として、その連携や協働を実現できるようにする調整役が必要となる。調整役は、私利私欲を全面に出さず、特定の参加者に肩入れすることなく、課題の解決および目的の達成に向かって最適となるように調整することが必要である。それには、「独立性」と、参加者からの「信頼」が重要となると考える。

そのため、監査法人は、その特徴である、「独立性」と「信頼」に基づいた調整役として、変革しつづける社会の様々な課題に対して、迅速な対応を実現するため、参加者の間に「共通点」と「信頼」を構築することにより連携、協働を実現し、変化し続ける社会の課題の解決をしていく役割を担っていると考える。例えば、PwCにおいても、国、地方公共団体、人材会社、大手企業から地域の中小企業やベンチャー企業といった様々な参加者の調整役となることにより、福島復興支援業務や、柏市におけるビジネスマッチング業務により、社会における課題の解決を実現している。

異なる価値観や考え方を有する集団の中で調整役を担い、そこからの信頼を得るためには、監査法人自らが他者を排除せず、多様な価値観や考え方を受け入れる姿勢を示さなければならない。積極的に集団の中の「共通点」を見出し、異なる価値観や考え方を有する人々の調整役という役割を果たすことにより、監査法人として、人と国の不平等をなくすという大きなテーマにおいても、貢献していくことができると考えている。

青山学院大学大学院会計プロフェッション研究センターが発行する『青山アカウンティング・レビュー』特別号 第11号 (2022.2.15刊) 86頁から89頁に初出掲載された原稿を媒体の許可を得て転載しています。

http://www.gspa.aoyama.ac.jp/research_institute/center.html

執筆者

鈴木 智佳子

パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

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