「ベンチャーとの共創エコシステム」の形成に向けて―全体像

2021-07-14

はじめに

業界内のおける競争激化、業種や業界を超えた協業の実現を可能とする技術の誕生、巨大IT企業を代表とするメガプレイヤーの台頭は強い危機感を招き、業界・業種を横断したビジネスエコシステムの形成を加速させています。その中で近年急速に台頭してきた考え方が、ビジネスエコシステムにベンチャーを組み込み、彼らの特殊な能力を最大限活用しながら新たな可能性を切り拓く「ベンチャーとの共創エコシステム」の形成という考え方です。本コラムでは、大企業が中心となるビジネスエコシステムにベンチャー企業を取り込む上での要諦を取り上げます。

図1 ビジネスエコシステム全体イメージ

なお、人財余力が常に逼迫し、資金繰りに悩むことも多いベンチャーとの共創を志す上で、事業法人が金銭リスクを負わない業務提携などを通じた共創では、得られるリターンは非常に限られます。本コラムでは事業法人がベンチャーとの共創に真剣に取り組むためには、一定程度の出資が必要であるとの前提に立ち、議論を展開します。

図2 本コラムにおける”共創”前提

COVID-19蔓延下における事業法人とベンチャー間の連携

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大下にも関わらず、2020年の国内ベンチャー資金調達額は前年を下回ったものの2018年の水準を維持する結果となりました。資金調達社数自体は前年を大きく下回り2015年水準まで落ちたものの、1社当たりの資金調達額は平均値・中央値共に過去最高を記録しています。その背景には、CVCを軸とした「事業法人」による投資額増加が寄与しており、注目され始めた当初は一過性のブームともみられていた事業法人によるベンチャー出資は、企業活動インフラへと着々とシフトしつつあります。

図3 国内ベンチャー資金調達傾向
図4 事業法人によるベンチャー投資推移

事業法人からみたベンチャーの特性

本コラムではベンチャーとの共創活動を「投資を本業としない事業法人が独自の技術や革新的なアイデアを保有するベンチャー企業へ投資活動などを行い、自社で有し得ないケイパビリティをベンチャー企業から獲得しつつ、ベンチャー企業が事業を加速するための支援も行い、共存共栄で発展すること」と定義しています(他、キャピタルゲインを狙った取り組みも存在します)。

事業法人から見た、共創相手としてのベンチャーの長所、そして短所とは何でしょうか。下記で網羅的に列挙していますが、大きくは「独自の着眼点」「人財」「知財・技術」「柔軟性」が長所であり、事業・組織・財務における「不安定さ」が短所といえます。

図5 ベンチャー企業の特性

ベンチャー出資の拡大背景

それでは事業法人によるベンチャー出資が拡大した背景に焦点を当ててみましょう。

2012年12月から2018年10月までの戦後最大の国内景気拡大局面において、多くの日本企業へマネーが流入し、それに伴ってステークホルダーからの成長期待は高まる一方でした。しかし、日本という成熟市場において、多くの企業は同一市場・同一商材枠内での連続的な成長に限界を感じていたことから、他市場・他商材進出による非連続的な成長を模索していました。一方で、「コングロマリット・ディスカウント」にみられるコングロマリット的多角化に対する忌避感があり、競争力のある単一事業で勝負すべきとの「ピュアプレー戦略」の主流化といった流れにも挟まれていました。2つの相反する潮流の狭間で「自社の強みとコアコンピタンスに根差した、アカウンタビリティのある非連続な成長」が求められた企業は、自社人材の限界にも直面する中で、ベンチャーとの共創を通じたオープンイノベーションに活路を見出しました。これがCOVID-19拡大以前の事業法人によるベンチャー出資拡大の背景の一つです。

COVID-19の拡大下にも関わらず、事業法人によるベンチャー出資拡大は継続、加速しました。大きな要因として、コロナ禍においてDXが加速し、既存の価値観が変容したことで、テクノロジーを強みとしたベンチャーや、価値観変容後の需要に先張りしていたベンチャーとの親和性が高まったということが挙げられます。他にも、金融緩和政策に伴う事業法人の手元資金の株式市場への流入後押し、COVID-19蔓延の影響が少ないグロース銘柄へのさらなる成長期待、COVID-19蔓延の影響が大きいベンチャーへの収束後の再成長期待と当該局面での割安感、単一事業に拘泥することのリスクなど、ベンチャー出資やベンチャー共創を後押しする条件は方々に現れていたといえます。

ベンチャー出資によるビジネスモデルへのインパクト

それでは、ベンチャー出資を通じて事業法人が得られるビジネスモデルへのインパクトとして、どのようなものが想定できるでしょうか。本稿では想定する主要インパクトとして以下4つを挙げています。

  1. 自社事業活動の強化
    自社事業活動を後押しする為のパートナーシップ・エコシステム形成の一環として、特定要素に秀でたベンチャーを事業パートナーとして取り込む
  2. ディスラプターへの対応
    自社従来市場およびその収益構造が破壊されうるリスクの対応策として、当該性格を有するベンチャーへ出資し、自社事業の枠に内包
  3. 新市場への進出
    従来市場から離れた新市場において、事業機会探索と拡大を狙う
  4. 財務リターン獲得(参考)
    IPOやM&Aを通じたキャピタルゲイン獲得を志向
図6 ベンチャー出資によるビジネスモデルへのインパクト

期待する共創パターンによって、出資先ベンチャーのステージや共創スタンスは異なります。自社の既存事業活動強化や新市場参入を企図する場合は事業が確立したベンチャーと、ディスラプターへの対応を企図する場合は企画・構想メインのベンチャーとの共創を視野に入れるべきです。

図7 共創パターンごとの出資先ベンチャーステージ・共創スタンス

ベンチャー出資・共創における4つの難しさ

ベンチャーとの共創を実現するためには当然、戦略策定から始まり、ソーシング/交渉・契約/価値創造/モニタリングに至る投資管理プロセスを完遂させる必要があります。しかしながら、ベンチャー出資においてはビジネスデューデリジェンス(BDD)から始まり、出資額の妥当性検証、対象会社との共創活動、撤退・投資継続判断など、それぞれのプロセスにおいて難所があります。

例えば対象ベンチャーの商材が先進的すぎる場合「どのように業績見立てを行うのか」「マイノリティ出資を前提とする場合、どの程度だと妥当な出資額といえるのか」「ベンチャーとの共創活動をどのように進めていくのか」「撤退・継続判断をどのように見極めるのか」などが論点となります。

本コラムでは、それぞれの難所に焦点を当てながら、ベンチャー出資・共創における要諦をご紹介していきます。

図8 ベンチャー出資・共創における難しさ

執筆者

岡山 健一郎

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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