気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に対して求められる企業の対応

2018-09-28

サステナビリティ・コンサルタントコラム


2017年6月、金融安定理事会(FSB)の気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)により提言が公表され、多くの企業が対応を開始しています。ここでは、企業にとって、TDFDの提言を実施することによる利点、TCFDレポーティングの意味するところを考察しました。また、企業のTCFD対応に係るグローバルな分析、およびシナリオ分析に係る事例を紹介します。さらに、TCFD提言に対して求められる企業の対応に関して、PwCの知見を踏まえて概説しました。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であり、属する組織の見解とは関係のない旨あらかじめお断りさせていただきます。

背景と概要

地球温暖化の進行に伴い、2017年は1894年以来3番目に暖かい年と記録されました(2014年と2012年に次いで)。それは異常気象による自然災害の発生と相関しています。経済的観点から見れば、2017年は、世界経済において3,060億米ドルを超える損害額に達し、国際保険市場において1,360億米ドルの保険損害額が報告されました1。機関投資家は、ポートフォリオの価値の毀損(座礁資産等)や気候関連負債(洪水等の自然災害による損害等)による潜在的な損失に直面し、新しい経済的な現実として認識しつつあります。

投資家は、投資先の配分決定を行うために、企業の気候関連リスクの管理方法に係る情報を必要としています。それを受けて、金融安定理事会(FSB)の気候関連財務情報開示に関するタスクフォース(TCFD)は、気候変動が事業にもたらす財務的影響に焦点を当て、気候関連の開示に関する提言を発表しました。その目的は、企業や投資家が、気候変動が事業戦略に及ぼす影響をよりよく理解し、財務の安定性に対するリスクを特定できるようにすることです。本提言は、レポーティングにとどまらず、気候関連リスクマネジメントを改善し、低炭素経済に向かう中で将来のビジネス機会を特定するための戦略的アプローチを提言しています。

TCFDは、本提言を実施することによる4つの利点を示しています2

  • 企業による気候関連リスク管理に対する投資家と金融機関からの信頼を強化することにより、企業の資金調達能力を改善します。
  • 財務報告における重要な影響に関し、より効果的に伝えることができます。
  • 企業内の気候関連リスクと機会の認識および理解を向上させ、リスクマネジメントの強化と戦略的な事業計画策定の改善に繋がります。
  • 気候関連情報に対する投資家からの要求水準が高まる状況下において、開示に積極的に取り組むことで、投資家からの気候関連情報への要求頻度を減らせる可能性があります。

この提言を実施することは、企業が気候変動と低炭素経済に関するリスクおよび報酬を全体的に考慮し、評価し、管理する情報を年次財務報告に含めることを意味しています。さらに、いわゆる2℃シナリオ(および/または他のシナリオ)を考慮して、企業が、気候変動によるビジネス、戦略、財務計画に与える影響を説明し、現在のビジネス戦略のレジリエンスを示すことも含まれます。

TCFDの主な目的は、企業が気候関連のリスクを評価することであり、報告はその評価の結果を開示することに過ぎないという点をあらためて強調しておきたいと思います。現時点では法令で要求されていませんが、投資家は、企業によるTCFD対応に係る気候関連リスク評価の進捗状況に関する開示を期待していると考えられます。

CDP Worldwide(CDP)およびClimate Disclosure Standards Board(CDSB)による企業の気候関連の情報開示分析は、企業がTCFDにどのように対応しているかについて、次のような洞察を示しています3

  • 大多数の企業が、気候に関連する物理的リスクおよび移行リスクと機会を認識していますが、それらをガバナンスおよびリスク管理プロセスに統合している度合いについては、企業間で大きな差があります。
  • 企業は、気候変動による短期的な財務上のリスクと機会を考慮していますが、長期目標とどのように関係しているかを開示していません。その結果、長期的な視点を持つ機関投資家は、資産配分を決定するための関連情報を入手することができません。
  • フランス、英国、ドイツの企業は、情報開示に対し最も進んでいます。中国と日本の企業はリスクと機会の優先順位付けのアプローチが遅れているため、機関投資家は情報開示の関連性を理解することが難しくなる可能性があります。

A社の事例

2016年に、A社は特定のセクターに焦点を当てたシナリオ分析を開始しました。

分析の結果に基づき、A社は2017年に、将来見込みのための「クライメート・バリュー・アット・リスク(Climate Value-at-Risk)」という新しいアプローチを採用しました。

このアプローチにより、企業の株式および社債の資産ポートフォリオについて、国レベルの排出削減目標に基づき、企業レベルおよびセクターレベルでポートフォリオへの影響を評価しています。また、社債や株式の「気候変動による影響の可能性」を検証することにより、2℃シナリオによるポートフォリオへの影響分析を実施しました。

このアプローチは、ポートフォリオへの「エネルギー移行」リスクと「物理的リスク」の影響を予測することにより、金融資産への気候関連のリスクをより深く理解することができます。

企業に求められる対応

ギャップ分析

取締役会または経営陣からの必要な支援に加えて、TCFD提言に対するギャップ分析は、対応の第一歩です。この分析には、気候関連のリスクと機会に関するTCFD提言と、現状の気候関連レポーティングおよび社内の実務との比較が含まれます。さらに、最も重要な競合他社の気候関連レポーティングの分析を追加することができます。これらの要素に関する構造化されたツールを活用することによって、自社の現状とTCFD提言とを比較し、定性的または定量的に評価することができます。この評価に基づいて、重点的に改善すべき領域を特定し、その対応に向けた戦略的な実施のための選択肢を開発することができます。

TCFD提言への適合

多くの場合、これは社内の業務プロセスを構築または調整し、TCFD提言に適合させることを意味します。その際、効果的かつ効率的な実施のためには、初期段階からリスク管理部門と事業戦略部門と共に、定性的アプローチを用いて企業の関連する気候関連のリスクと機会を明らかにすることが非常に重要です。タスクフォースによって推奨された財務報告の重要性要件を考慮して、識別されたリスクと機会の重要性を評価し、優先順位を付けることも可能です。

さらに、企業は、事業、戦略、財務計画への影響を評価・定量化し、特定されたリスクと機会に対する事業戦略のレジリエンスを判断するために、シナリオ分析を準備し、実施する必要があります。

  • 分析の範囲を決定
  • 関連するリスクと機会およびそれぞれの要因を特定
  • シナリオと仮定を設定
  • 必要なデータを収集・処理
  • 分析を実行

これは多くの企業にとって最も対応が困難な領域であると想定されるため、シナリオ分析について段階的なアプローチを採用することが望ましいと考えられます。

これまで説明してきた通り、TCFD提言の要求水準は、単なる開示報告の対応ではなく、組織のガバナンスやリスク管理の仕組みの構築も含めた戦略的アプローチが必要となるものです。そのため、海外の先進企業の例を見ても相当の時間が掛かっています。グローバル市場における持続可能な企業価値向上のために、多くの日本企業が、TCFD提言を活用しながら、この分野の対応を早期かつ積極的に推進されることを期待しています。

執筆者

阿部 和彦

執行役員 マネージャー, PwCサステナビリティ合同会社

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フィリップ マシー

マネージャー, PwCあらた有限責任監査法人

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※ 法人名、役職、コラムの内容などは掲載当時のものです。

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