
「スマートシティで描く都市の未来」コラム 第89回:ユーザーの課題・ニーズ起点のスマートシティサービスの考え方
スマートシティサービスは国内で多くのプロジェクトが進められており「スマートシティ官民連携プラットフォーム」でも2024年6月時点で286件の掲載が確認できます。多くの実証実験が実施されてきたその次のステップとして、実装化が大きな課題となっています。本コラムでは実装化を進める上で、キーとなりうる考え方を紹介します。
将来のスマートシティにおいてカーボンニュートラルを実現するにあたっては、EVのリソースを電力システムに活用することが期待されています。その経済性が成立する活用方法や、実装・普及に向けて必要な対応について考察します。
2022年は、日本において軽自動車のバッテリーEVが発売され、新車販売台数に占めるバッテリーEVの割合が急増して1%を超えたことから、「EV元年」と言われています。また、日系自動車OEM各社は相次いでEV化に向けた戦略・目標を発表しており、カーボンニュートラル社会の実現に向け、日本国内でも普及に向けた動きが一層加速するものと思われます。EVが普及した将来のスマートシティにおいては、EVリソースを電力系統の調整力として活用することも期待されています。本稿では将来的にEVと電力システムを統合する際に生じると想定される課題について考察します。
EVのリソースを電力システムと統合して活用する際には、「V1G」と「V2G」と呼ばれる2つの方向性が存在します。
まずはV1Gです。V1Gは電力系統から車載蓄電池への充電タイミング、充電出力をコントロールすることで、電力の需給調整に活用する方策のことを言います。当社の試算では、平日毎日100km程度を走行する場合、EV1台あたり年間10.7万円の経済価値が創出でき、このうちの一部が契約電力基本料の節約や、電力料金の節約という形で、EVユーザーのメリットとして還元されます。
次にV2Gです。V2Gは電力系統から車載蓄電池への充電に加えて、EVの車載蓄電池から電力系統への放電も、需給調整に活用する方策のことを言います。V2Gの成立にあたっての最大の課題は経済性です。EVから電力系統への放電による経済価値は、足元の需給調整市場の取引価格や、先行する欧州の事例を参考に試算すると、EV1台あたり年間5.6万円と見積もられます。ただし、V2Gを実現するためにはEVへの充放電双方に対応した充放電器の導入が必要となります。充放電器は一般的な充電器と比べて高額で、少なくとも40万円以上の機器コストの追加負担が必要となります。
この負担を上回るメリットが創出できないため(上述の経済価値5.6万円のうちの一部がユーザーの取り分となるため)、V2Gについては経済性が成立しません。V2Gの経済性を成立させるためには、機器価格の大幅な低減や、調整力リソース価値の大幅な上昇など、大きな変化が必須となります。
なお、災害対応(BCP)ニーズのために、V2B(Vehicle to Building)やV2H(Vehicle to Home)に対応した充放電器を設置することの意義は存在します。
では、経済性を成立させたうえで、V1Gを普及させるためには、どのような課題を解決する必要があるでしょうか。V1Gを実現させるためには、さまざまなデータを収集し、制御することが求められるため、多様なステークホルダーの協業が必要となります。
図表3はV1Gを実行するために必要なデータと、データを保有するプレイヤーを示しています。充電器の制御を行う必要があるので、充電器メーカー(ハードウェア)、EV充電ステーションオペレーター(CPO1)が参画は不可欠です。加えて、EVの運用に影響が生じない範囲で制御を行うためには、EVの電池残量(SoC2)、車両運行計画、使用予定を把握する必要があります。そのためには、フリートマネジメントシステム事業者やリース事業者、自動車OEMからデータを収集する必要があります。特に電池残量(SoC)については、たとえ充電器と接続していても、充電器側から取得することはできないため、自動車OEMの協力が必須です。
加えて、電力システムと統合する必要があるので、リソースアグリゲーター、アグリゲーションコーディネーター、一般送配電事業者、小売電気事業者の協力も求められます。
今後のカーボンニュートラル社会、スマートシティにおいて、EVリソースの活用は大いに期待されており、特にV1Gについては経済性の面でも有望なビジネスとなり得ます。その実現に向けてはさまざまな業種の事業者がエコシステムを形成し、事業化へ取り組むことが求められます。
1 CPO:Charging Point Operator。EV充電ステーションオペレーター
2 SoC:State of Charge。充電状態を表す指標。満充電を100%、完全放電状態を0%とするときの充電状態。
スマートシティサービスは国内で多くのプロジェクトが進められており「スマートシティ官民連携プラットフォーム」でも2024年6月時点で286件の掲載が確認できます。多くの実証実験が実施されてきたその次のステップとして、実装化が大きな課題となっています。本コラムでは実装化を進める上で、キーとなりうる考え方を紹介します。
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