
「スマートシティで描く都市の未来」コラム 第89回:ユーザーの課題・ニーズ起点のスマートシティサービスの考え方
スマートシティサービスは国内で多くのプロジェクトが進められており「スマートシティ官民連携プラットフォーム」でも2024年6月時点で286件の掲載が確認できます。多くの実証実験が実施されてきたその次のステップとして、実装化が大きな課題となっています。本コラムでは実装化を進める上で、キーとなりうる考え方を紹介します。
2023-02-07
地球上で生態系が維持されてきたように、スマートシティが持続可能なものとなるためには、エコシステムが形成され、機能し続けることが欠かせません。住民や地域そのもの、観光資源や情報資産などの要素が有機的に結び付いて循環することで、将来にわたって私たちの生活をより豊かにしてくれるでしょう。
国や地方自治体、民間によってスマートシティに関するさまざまな取り組みが各地で展開されていますが、今後は実証実験の段階から脱却し、継続的な実サービスとして社会実装されることが重要なポイントとなっています。
地方自治体は、国の補助金などを活用することでスマートシティに係る実証実験を実施していますが、一過性のものとなっているケースが散見されます。地元を十分に巻き込むことができていないケースも見られることから、いかに実証実験の成果を活かし、サービスとして持続可能なものとして地域に根付かせるかが重要です。
社会実装のフェーズにおいては、地方自治体や地元企業、NPOといったプレーヤーの参画が不可欠です。それぞれが得意な領域で役割を果たすことで、スマートシティ推進の環境づくりやサービス提供の担い手となり、地域一体となって課題を継続的に解決することが求められます。そしてそれぞれが有機的に結びつき、エコシステムとして機能し続けることによってはじめて、スマートシティは持続可能なものとなります。
「スマートシティにおけるエコシステムとは何か」を考える前に、そもそもエコシステムとは何であるかを考えてみましょう。
エコシステムとは、もともと生態系を意味します。具体的に言うと、広大な大地に風が吹き、大地の恵みを受け育った草木を生物が食べ、やがて命が途絶え、土にかえり、再び大地を形成する――といった循環を指します。このようなサイクルは絶妙なバランスを保って、過去から現在に至るまで持続されてきたものであり、これらのうちどの1つが欠けても成立しません。
近年では企業活動においても、持続可能なビジネスモデルを構築する上でエコシステムの概念が重要視されていますが、これは持続可能なスマートシティを考える上でも欠かせないポイントです。
では、スマートシティにおけるエコシステムとはどのようなものでしょうか。
(出展)PwCにて作成
生態系としてのエコシステムを例に考えると、大地にあたる部分は地域そのものになります。近年急速に検討・構築が進んでいるデータ連携やサービス提供のためのプラットフォーム(都市OSなど)に該当し、住民の生活や企業活動の土台となる部分です。
また、草木にあたる部分は、それぞれの地域が持っている固有の資産にあたります。例えば、観光資源や伝統芸能といったものから、データなどの情報資産まで含まれます。こうした情報資産の利活用のため、多くの自治体ではオープンデータとしての整備・公開が進み、民間で活用されています。
これらの資産が活用され、住民や企業による経済活動の結果、お金や情報(データ)が生まれ、空気や養分のごとく循環することで、さらなる消費活動や投資活動につながっていきます。
そして、動物や植物が生息し続けるためには大地を明るく照らす太陽が必要なように、「産まれ育った街で住み続けたい」「地元へ貢献したい」といった地域の住民や企業による温かな地元愛は、エコシステムが機能するために決して欠かすことのできない原動力となるのではないでしょうか。
このようにエコシステムが各地で形成され、機能し続けることで初めて、スマートシティに魂が宿り、単なる都市OSの導入にとどまらず、将来にわたって私たちの生活をより豊かにしてくれる持続可能な仕組みとなるでしょう。スマートシティプロジェクトは、地元が主役で、温かさを兼ね備えたものでなければならないのです。
益 直也
シニアアソシエイト, PwCコンサルティング合同会社
スマートシティサービスは国内で多くのプロジェクトが進められており「スマートシティ官民連携プラットフォーム」でも2024年6月時点で286件の掲載が確認できます。多くの実証実験が実施されてきたその次のステップとして、実装化が大きな課題となっています。本コラムでは実装化を進める上で、キーとなりうる考え方を紹介します。
全国どこでも誰もが便利で快適に暮らせる社会を目指す「デジタル田園都市国家構想」の実現に向けた取り組みの進捗状況と、今後の展開について考察します。
「2025年の崖」に伴う問題について、ITシステムの観点ではなく、 人口ピラミッドの推移による生産年齢人口の変化に起因する問題の観点から解説します。
未来の都市を想定する際には、フレキシビリティを備えた建築計画を事前に策定しておくことが重要です。スマートシティにおける建築物は持続可能であることが求められており、そのためには新たな技術や設備に迅速に適用できることが不可欠です。