スマートシティを支える陸・海・空&宙に拡がる次世代通信ネットワーク:Non-Terrestrial Networks(NTN)

2022-10-04

地上や海洋、空、宇宙空間までをシームレスにカバーする次世代の通信ネットワークとしてNon-Terrestrial Networks(NTN、非地上系ネットワーク)の国際標準化や研究開発が進められています。

スマートシティの実現には、平時や災害時などのあらゆる時にも通信が確保されていることが不可欠となっている中、NTNがどのようなテクノロジーなのかを本コラムでご紹介します。

第5世代移動通信(5G)のその先にあるNon-Terrestrial Networks(NTN)

Non-Terrestrial Networks(NTN)とは、人工衛星や成層圏プラットフォーム(HAPS:High Altitude Platform Station)、航空機、ドローン、船舶、地上のさまざまな施設やスマートフォンなど、宇宙から上空、地上の多種多様なモノをつなげることを可能にする次世代の通信ネットワークです。

NTNは、「高速・大容量」「低遅延」「多数同時接続」という5Gで実現してきている移動通信技術を、地上だけではなく上空や宇宙にも連携・発展させていくことで、地球上の多岐にわたる課題を解決する通信技術になることが期待されています。

NTNは、5G規格のアップグレードや次世代通信規格(Beyond 5G/6G)を見据えて、移動通信の標準化団体である3GPPにて技術仕様の議論が進められています1

図1 : NTNによる陸・海・空&宙の次世代通信ネットワークの イメージ

NTNの実現には、光通信の技術や電波をピンポイントで送信する技術、地上と上空、宇宙の通信ネットワークをシームレスに連携する制御・運用技術、ネットワークのソフトウェア化技術、AI・エッジ処理技術などさまざまな技術が必要になります。

なかでも「宇宙の基地局」や「空飛ぶ基地局」の役割が期待される人工衛星とHAPSは重要な構成要素といえるでしょう。

「宇宙の基地局」の役割を担う通信衛星

人工衛星には色々な用途人工がありますが、大別すると①測位、②観測(リモートセンシング)、③放送・通信という3種類に分けることができます。

そのうちの③通信衛星が「宇宙の基地局」としての活躍を期待されています。通信衛星の用途として、最近では旅客機に通信アンテナを搭載して機内インターネットに利用されるケースがあるほか、スマートフォンにも衛星通信の機能が搭載されることが話題になっています。

通信衛星の話題が増えてきた背景として、高度数百km~2,000km程度の低軌道上に多数の人工衛星を打ち上げて運用する衛星コンステレーションの登場が挙げられます。低軌道の人工衛星は、地球の静止軌道上(高度約36,000km)にある静止衛星に比べて地球との通信にかかる往復距離が短いことから、低遅延で通信をやりとりできるメリットがあります。他方、低軌道の人工衛星の場合、速いものでは2時間程度で地球を1週してしまうため、同じ低軌道上に複数の人工衛星を配置すること(衛星コンステレーション)によって、地上との通信を常に途切れないように工夫しています。

通信・電子技術などの進歩による人工衛星自体の小型高性能化、人工衛星同士を光通信や無線通信によって協調制御できる技術の確立、そして民間ロケットの登場による打ち上げの低コスト化などが衛星コンステレーションの実現を後押ししているといえるでしょう。

このような衛星コンステレーションや静止衛星によって、宇宙と地上とを重層的な通信ネットワークで構築する環境が整ってきています。

「空飛ぶ基地局」として期待される成層圏プラットフォーム(HAPS)

成層圏プラットフォーム(HAPS)とは、成層圏の無人飛行船や無人航空機を活用して、地上との通信ネットワークを実現する高高度の上空を飛行する通信基地局プラットフォームです。

ジェット旅客機は対流圏といわれる高度10km程度を飛行しているのに対して、対流圏のような気象の影響をあまり受けない成層圏を飛行するHAPSは、その倍の高度となる20km程度を飛行します。地上の通信カバー範囲は直径数十kmから数百kmとされています3,4

図2 HAPSの機体イメージ、試験飛行の様子

無人航空機のHAPSについては電動プロペラを推進力として、その動力源を主翼上面の太陽光発電で大半を賄う方式となっています。一度飛び立つと2カ月程度上空で飛行できることが実証されています8。翼幅(全幅)が20mから70mの機体サイズとなっていて、中型から大型ジェット旅客機の全幅と同等のサイズとなります。

現在、成層圏からの通信方式やHAPS運用に関する国際ルール、国際標準化の議論が活発化しています。

Society5.0の社会インフラを支えていくNTN

人工衛星やHAPSを活用した重層的な通信ネットワークがNTNによって構築されることで、中山間部や離島、海上など、いつでも・どこでも通信にアクセスできる環境が整備されていくことが期待できます。平時の利便性の拡大に加えて、災害時をはじめとする通信のバックアップとしても機能するため、誰一人取り残されないコミュニケーションの手段の一翼を担うこととなるでしょう。

図3 Non-Terrestrial Networks (NTN)による利活用イメージ

スマートシティに関する日本のビジョン・コンセプトは、別コラムで紹介しているScoiety5.0(https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/column/smartcity/vol45.html)によって、サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合した「人間中心の社会」を創り上げることで、誰もが快適で活力に満ちた質の高い生活を送ることができる社会を実現していくことです。NTNは、このフィジカル空間とサイバー空間とのヒト・モノ・コトに関わる情報をシームレスにつなぐ重要な役割を担う社会インフラとなっていくことが期待されます。

NTNによってどのような地域課題が解決できるのか、地域の特性に応じた具体的な利用シーンや効果を今から整理していくことで、スムーズな社会実装へと移行できる機会を得られるでしょう。

執筆者

渡邊 敏康

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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