「カンブリア紀」を迎えた国内電気自動車業界が実現すべきスマートシティ

2022-05-31

電気自動車の普及と社会システム自体の変化

2021年の電気自動車(EV)の販売台数は中国で290万台、欧州で110万台に達するなど、先行する市場ではEVシフトが加速しています。

日本では2021年のEV販売台数こそ2万台ほどの規模にとどまったものの、日系完成車メーカー各社は脱炭素化に向けてEVをはじめとするパワートレインの販売目標を発表したり、そのための投資計画を表明したりするなど、2021年は「EV元年」の様相を呈しました。

これらの現状を踏まえ、PwCの戦略コンサルティング部門であるStrategy&では、規制、技術、経済性、ユーザー受容性などの観点から、2030年代のEV販売台数は、日米欧中で新車販売台数の約半数に達すると予測しています*1

しかしながら、EVが環境負荷の低減に真に寄与するためには、走行時だけでなくライフサイクルで環境負荷を管理することが求められます。すなわち、再生可能エネルギーなどに由来した電力・充電インフラを供給する他、2020年代に車両だけでなく社会システム自体を変えるスマートシティ化を成し遂げる必要があります。

持続可能なスマートシティの実現に向けた自動車産業のパラダイムシフト

スマートシティでは一般的に、環境に配慮したインフラストラクチャーを形成し、経済合理性に加え、ウェルビーイング(健康と幸福)を実現することが求められます。

EVの普及に向けては自動車産業もスマートシティに必要な要件を満たしていくことが期待されますが、そのためには同業種・異業種・スタートアップなどとの連携が不可欠です。

例えば、環境に配慮したインフラストラクチャーの形成にあたっては、再エネの導入や調整力の増強、調整力として車載電池やリユース電池の利用に向けて、発電・送配電事業者との連携が生じます。加えて、ユーザーの経済合理性実現に向けても、EVの再販価値や車載電池の再利用価値の実現に向けた診断技術、基準、データベースの構築・運用が必要です。

そしてウェルビーイングの実現に向けては、各地域の用途に合う車両や運行サービスが必要であり、改造EVやEVファブレスによる車両提供や、地元密着型のMaaSなどが求められます。

2020年代のEV産業界は「カンブリア紀」

持続可能なスマートシティの実現に向けては、協調領域での団結とスモールビジネスの創出がカギを握ると想定されます。

異業種連携を可能とするエネルギーサービスプラットフォームや、トレーサビリティおよびライフサイクルアセスメントを管理するデータプラットフォームなどの領域において協調することが不可欠です。協調に向けた方向性はEV普及で先行する欧州・中国のルールにならいつつ、日本の実情に合った形に改良することが現実的でしょう。そのためには国際標準化を見据えて海外のルール形成に関与するなど多岐にわたる取り組みを推進する必要があり、同業種のみならず異業種間で団結して対応することが望まれます。

また、特にウェルビーイングの実現にあたっては、完成車メーカーをはじめとする自動車産業が挑むには規模が小さく、自社の現業とカニバリゼーションが生じる可能性があるため、スタートアップなどによるスモールビジネスが支えとなります。

2020年代のEV産業界は、協調領域において多様なルールが形成される一方、個社の競争、複数社の共創によってエコシステムが拡がることで、地域または特定領域に特化したスモールビジネスが次々と創出されるなど、多様な種が誕生した「カンブリア紀」の様相を呈しています。EVを軸としたスマートシティ化、そして社会の発展をさらに進展させるには、それらを後押しする政府・自治体による制度設計と運用、大企業による外部連携体制の構築・運用が求められています。

スマートシティの実現に向けた創出ビジネス例

図 2020年代のEV産業界は「カンブリア紀」

執筆者

阿部 健太郎

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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