住民満足度を高めるスマートシティプラットフォーム

2021-11-30

スマートシティにおけるテクノロジーと地域のコミュニケーション

テクノロジーの発展を背景に、データ利活用によるスマートシティの実現がさまざまな場面で語られています。最先端の技術によって便利なまちづくりを推進することは可能ですが、テクノロジー一辺倒のまちづくりを進めることが、「住みたい」と思える住民満足度の高いスマートシティの実現につながるとは一概には言えません。例えば、最新のテクノロジーはふんだんに使われていたとしても、UI/UXが軽視されたがために住民がサービスを利用しづらくなってしまったり、実際の住民データに基づかない設計のために、住民にとって不要なものになってしまったりする恐れがあります。このような事象を回避するためには、今一度目指すべきスマートシティのあり方を定義し、その実現を支える地域のコミュニケーションはどうあるべきか考える必要があります。

住民満足度を高めるスマートシティとは

PwCでは、スマートシティを「社会課題を解決する『仕組み』を有し、新たなテクノロジーを活用して、継続的に住民満足度を高めるまち」と定義しています。次々と発生し続ける社会課題の解決にあたっては、検討・判断の材料として住民に係るさまざまなデータを含む「地域のデータ」を収集・分析することが第一歩となります。「地域のデータ」は以下の2種類に分けられます。

  1. センサーなどから収集される人流・動向データなどの定量データ
  2. 住民の困りごとや課題意識などの定性データ

2の定性データについては、PwCがスマートシティにおけるデータ基盤の利活用について意見交換をした自治体からも「(1の)定量データ同様、行政にとって重要性が高い」という声が上がっています。この背景には、現在の住民満足度調査が年に1度、書面による実施であるため、住民の困りごとや課題意識などの情報を広範かつリアルタイムに収集できていないという実情があり、住民満足度の高い行政サービスを導出し、提供しづらい状況にあるという課題認識が行政側にあると考えられます。

これらの定量データと定性データを総合的に分析し、検討したうえで社会課題に対する解決策を導出しなければ、住民の困りごとの本質的な解決にはつながらず、継続的に住民満足度を高めるスマートシティづくりを進めることは難しくなるでしょう。

図1:PwC 調査/レポート「2050年 日本の都市の未来を再創造するスマートシティ」より

図1 PwC Thought Leadership「2050年 日本の都市の未来を再創造するスマートシティ」より

住民満足度を継続的に高めるスマートシティに必要な地域のコミュニケーションプラットフォーム

住民満足度を継続的に高めるスマートシティを実現するには、地域の定性データが不可欠です。そして、「地域のデータ」を収集するためには、一人一人の住民と今までよりも頻繁かつダイレクトにつながるローコストなコミュニケーションプラットフォームが必要となります。このプラットフォームを活用すれば、住民の声をデジタルなコミュニティ広場で収集し、人・モノ・サービスとのマッチングを図り、行政サービスとして展開し、住民の求めるサービスをタイムリーに提供することが可能となります。その結果、住民満足度を継続的に高める仕組み(=社会課題の解決に向けた住民-行政間での協働体制)を域内に構築することができるのです。

図2:地域のコミュニケーションプラットフォームのイメージ

図2 地域のコミュニケーションプラットフォームのイメージ

例えば災害が発生した際、住民からは「正確な被災情報を得たい」「自分や家族の現在地から避難の要否を判断したい」というニーズが発生します。この場合、域内に設置されたセンサーから収集された災害状況や人流といった定量データや、住民からの投稿情報などの定性データをコミュニケーションプラットフォーム上に集約することで、AIコンシェルジュが避難の要否や受け入れ可能な避難所、安全な避難ルートなどのパーソナライズされた情報提供を行うことが可能となり、住民の混乱の解消や、不安の緩和につなげることができます。また、これらの被災情報に市が保有する救援リソースの状況を加え、警察や地域の消防団・自治会と共有することで、これまで電話でのやりとりや現地での情報を基に実施していた、救援・避難所支援・復旧といった各活動へのリソース配分をより適切に進めることが可能となり、結果として事態の迅速な収拾が見込めるようになります。

このように住民-行政間での被災状況・避難状況・救援リソース状況のリアルタイムな情報共有が実現することで、両者の間で救援・避難所支援・復旧活動における協働体制の構築が可能となります。

地域のコミュニケーションプラットフォーム実現に向けて

実際にこのようなコミュニケーションプラットフォームを求める声は全国各地の自治体で高まってきており、千葉市の市民協働レポートや東広島市の市民ポータルサイト、神戸市のスマートシティ構想計画などにおいてその必要性が語られています。

ただし、単にこのようなプラットフォームを構築するだけではその有効性は発揮できません。例えば、プラットフォームに集まった住民の声からオンライン診療やオンライン行政手続きに対するニーズの高さを行政が認識できたとしても、必要なデータがオープン化されていなかったり、庁内の業務設計がアナログなままだったりでは、住民のニーズに迅速に応えることはできません。住民満足度の高いスマートシティを実現するためには、都市OSの構築、自治体におけるDX推進、そして、それらと住民をつなぐ地域のコミュニケーションプラットフォームの構築を同時に進めていかなければなりません。

また、これらの仕組みを地域で活用していくためには、使いやすさの追求とともに、住民のデジタル活用スキルの向上や、地域のデジタル活用を推進する人材の育成などにも注力していく必要があるでしょう。

執筆者

髙田 絵里香

シニアアソシエイト, PwCコンサルティング合同会社

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