
「スマートシティで描く都市の未来」コラム 第89回:ユーザーの課題・ニーズ起点のスマートシティサービスの考え方
スマートシティサービスは国内で多くのプロジェクトが進められており「スマートシティ官民連携プラットフォーム」でも2024年6月時点で286件の掲載が確認できます。多くの実証実験が実施されてきたその次のステップとして、実装化が大きな課題となっています。本コラムでは実装化を進める上で、キーとなりうる考え方を紹介します。
2021-07-20
都市のスマートシティ化が注目を浴びています。私たちはスマートシティを、「社会課題を解決する『仕組み』を有し、新たなテクノロジーを活用して継続的に住民満足度を高める街」と定義しています。では、都市をスマートシティ化することは、地価の上昇につながるのでしょうか。
土地に限らず、資産の経済的価値を評価する方法としては、大きく3つのアプローチが知られています。コストアプローチ、マーケットアプローチ、インカムアプローチです。
コストアプローチは、資産の費用性の観点を強く反映しています。市場で取引されている資産と同じものを、「今、再度、作成(調達)したら、いくらの費用が掛かるか」という観点から資産を評価します。市場における供給側の視点ともいえます。
マーケットアプローチは、資産の市場性に着目したアプローチです。同じ資産、または類似した、代替性のある資産が、「市場ではいくらで売買されているか」という観点から評価されます。対象となる資産への、市場での需要と供給が、どの点でバランスするかを示す、と考えてもいいかもしれません。
インカムアプローチは資産の収益性、すなわち、「その資産から得られるリターンはどういったものか」という観点で、評価を行うものです。需要者側の視点に近い、といえるかもしれません。
これらのアプローチは相互に補完しあう関係にあります。コストアプローチを採用する場合は、そもそも「需要がない」ものには「市場性がない」と考えますので、評価の前提として、市場性がある、または需要が存在するという条件が付されています。また、インカムアプローチにおけるリターン、土地ならば地代(賃料)の想定は、マーケットアプローチ的な方法で行われることが一般的です。こうした評価アプローチを踏まえると、都市のスマートシティ化が地価の上昇をもたらすには、以下のような条件が必要となると考えられます。
費用面:スマートシティ化への投資による市場性(追加需要)の獲得(増強)
市場面:スマートシティ化による代替資産(代替される地域)との比較優位の確保
収益面:スマートシティ化による収益(土地所有者の収益)の上昇
スマートシティ化された都市が、他所と比較してより魅力的と認識され、これまでは存在しなかった新しい需要を生みだし、それによって市場への参加者が増加し、競争が発生することで、地価の上昇が起こる、ということになります。しかしながら、スマートシティ化による地価変動の例はいまだ報告されていないようです。上記のような現象が明確に確認されるためには年単位の時間が必要となりますので、今後、観測されるケースも出てくるかもしれません。
しかし、個別の施設や小規模な地域開発とは異なり、都市全体の地価の上昇は、住民にとって必ずしも良い結果を生み出すことになるとは限りません。例えば、シリコンバレーを中心とするサンフランシスコ近辺において、世界的なIT企業のエリート達がこぞって持ち家やマンションを購入した結果、不動産価格が急上昇し、その反動で、昔から住んでいる住民が居住している家を維持できなくなったり、家賃を払えなくなったりして、ホームレスとなるケースが急増しました。「都市」が生活空間としての側面を持つ場合、極端な地価の上昇は、既存居住者を都市から「追い出して」しまうリスクもあるのです。
地価の水準はさまざまな事象によって変動するものであり、インフラ投資や都市開発の影響も受けますが、それだけではありません。スマートシティ化を含む都市機能向上の目的が、都市の進化とそこで生活する人々の生活の質の向上や社会課題の解決にある、と考えるならば、地価の極端な上昇を避け、「適切な地価」の維持を目指して、プランニングを行うことが望ましいのではないでしょうか。
スマートシティサービスは国内で多くのプロジェクトが進められており「スマートシティ官民連携プラットフォーム」でも2024年6月時点で286件の掲載が確認できます。多くの実証実験が実施されてきたその次のステップとして、実装化が大きな課題となっています。本コラムでは実装化を進める上で、キーとなりうる考え方を紹介します。
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