
「スマートシティで描く都市の未来」コラム 第89回:ユーザーの課題・ニーズ起点のスマートシティサービスの考え方
スマートシティサービスは国内で多くのプロジェクトが進められており「スマートシティ官民連携プラットフォーム」でも2024年6月時点で286件の掲載が確認できます。多くの実証実験が実施されてきたその次のステップとして、実装化が大きな課題となっています。本コラムでは実装化を進める上で、キーとなりうる考え方を紹介します。
2021-07-06
都市のスマートシティ化の進展に伴い、電気・水道といったライフラインに続く新たな都市インフラとして「データ」の存在感が高まっています。スマートシティでは、エネルギー・人流・交通・物流・気候・地殻・建物など街のあらゆる構成要素に関するデータが可視化され、デジタル空間上にその街を再現できます。これにより、街を「ムダなく効率的にする」「安心安全にする」「細かい所まで気が利いている」「効用を高める」ための施策をデジタル空間上で試行錯誤し、最適な制御方法を導き出して現実世界にフィードバックすることが可能となります。これこそ、スマートシティが追及する一つの姿といえるでしょう。
しかしスマートシティ化は、かつてライフラインが整備された時のような勢いやスピード感をもって整備が進んでいる訳ではありません。経済価値や経済効果の見えづらさなど、主に下記の4点の理由から、スマートシティ化自体が懐疑的な目で見られていることも事実です。
これまでの都市インフラはライフラインとしての効用が明らかでしたが、データがもたらす利便性はそれとは異なり、「痒い所に手が届く」「ムダを省く」「危険を予知する」など細やかなものであるため、その効用はそれほど明白ではありません。定住・交流・関係人口における生活レベルの飛躍的な向上や人口増に直ちにつながるものではなく、費用対効果の見えづらさや値付けのしにくさが課題として挙がりがちです。
ライフライン整備は、その敷設から保守に至るまで一定の労働集約性があり、各エリアや自治体における経済政策としての性格を有します。スマートシティ化において発生するシステム開発や運用保守においてもある程度の労働集約性は存在しますが、土木・建設業と比較すると地場性の低さ、裾野の狭さと偏りがあり、エリアや自治体内での波及効果が見えづらいといえます。
デジタル空間は多層構造であり、データの所有者は総じて異なります。例えば、個人の嗜好・感情・交友関係はSNS、購買履歴はECサイト、検索履歴や興味関心などは検索エンジンやブラウザにデータが蓄積されます。これらのデータを所有者が可視化し、サービスの中で改善や制御がなされています。特に個人に関するデータは購買行動に直結しやすく、価値換算しやすいことから、データ化は先行しています。また店舗ごとの購買傾向はPOS(販売時点情報管理)システム上で、オフィスの社員データは各企業の人事データベース上で管理されています。スマートシティは、価値換算しにくい分野にも焦点を当て、都市のあらゆる構成要素をデータとして可視化するところが特長ですが、先行者が所有するデータと掛け合わせながら、総合的な付加価値を出していくところに難しさがあるといえます。
スマートシティは域内GDPの拡がりが期待できない性格を有しています。都市のあらゆる構成要素がデータとして可視化されることで、そのエリアや自治体が豊かになり、域内GDPを押し上げるかと問われると、答えは否でしょう。データの手を介してムダな消費がなくなることで、域内で循環するおカネの総量は減ります。またデータ化が促進する産業はいずれも、少人化や無人化を後押しするソフトウェアやロボティクス関連産業であり、定住・交流・関係人口の抑止要因になってしまう可能性があります。
スマートシティ化を通じて経済価値や経済効果を追求するには難しさが存在します。他方でスマートシティ化には、エネルギーの効率運用や災害の事前予測、防犯対策や過疎地域におけるサービスレベルの維持など、持続可能な社会実現に貢献するという社会的意義があります。実際、PwCサステナビリティ合同会社が、2019年12月に国内の消費者約3,300名を対象に実施した「サステナビリティ消費者調査」では、日本の消費者の36%が、企業が環境・社会へ配慮することについて「義務であると思う」、41%が「義務とまでは言わないものの、配慮しない企業があれば非難されて当然だと思う」と回答しています。スマートシティ化において、環境・社会価値と経済価値を両立させるトレードオンを実践することが、今まさに求められています。
スマートシティ化に向けては、エリアや自治体の動機づけをいかに設けるかが重要です。2021年の現時点では、国を挙げた推進を契機とした熱狂・同調圧力・漠然とした期待感が推進力となっているケースが多々みられ、税収向上や利用者への課金を通じて経済合理性を担保しようとする動きがみられます。しかし、繰り返しになりますが、スマートシティ化が実現するのは持続可能な社会であり、税収向上や課金の前提となる経済価値の最大化実現にはハードルがあります。「儲かるものではなく、義務に近い性格を有するものである」ということを前提に、国や自治体による後押しはもちろん、民間金融も含め社会全体でスマートシティ化を支える動機付けと資金調達スキームを整備することが、今後の発展において重要です。
スマートシティサービスは国内で多くのプロジェクトが進められており「スマートシティ官民連携プラットフォーム」でも2024年6月時点で286件の掲載が確認できます。多くの実証実験が実施されてきたその次のステップとして、実装化が大きな課題となっています。本コラムでは実装化を進める上で、キーとなりうる考え方を紹介します。
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