
「スマートシティで描く都市の未来」コラム 第89回:ユーザーの課題・ニーズ起点のスマートシティサービスの考え方
スマートシティサービスは国内で多くのプロジェクトが進められており「スマートシティ官民連携プラットフォーム」でも2024年6月時点で286件の掲載が確認できます。多くの実証実験が実施されてきたその次のステップとして、実装化が大きな課題となっています。本コラムでは実装化を進める上で、キーとなりうる考え方を紹介します。
2020-04-07
SDGsの機運が高まりつつある昨今、地域課題の解決を新たな事業機会として捉える企業も増えはじめており、都市全体の効率化を実現するスマートシティも事業機会の1つとして注目されています。地域課題解決では官民連携が求められていますが、特に地方部においては持続可能な収入モデルを描き難く、民間企業の参画が進まないことに加え、地方自治体も投資コストを負担する余力もなく他力本願となりがちで、協力体制をうまく構築できていない可能性があります。
官民が連携して地域課題を解決するには、地域における複雑に絡み合う関係性を再構築し、双方が便益を得られる社会システムを設計することが望まれますが、大きな変革はなかなか受け容れられにくいのが実情です。地域住民を含めた関係者の意識変革を促していくためにも、課題解決に資する小さな取り組みを継続的に創り続ける地道な努力の積み重ねが重要になります。このような地域課題解決型の事業開発には以下のポイントを留意すべきと考えます。
地域課題を取り扱う以上、自治体との対話は不可欠ですが、初期段階から自治体と連携すると、調整事項が多くなり事業立ち上げが遅れる懸念があります。持続可能なビジネスのデザインは、あくまで企業主導で進めるべきです。また、企業は自社製品・サービスを前提として考えがちですが、複雑な地域課題を自社のみで解決することは難しい場合が多いです。課題解決に資するエコシステムを設計し、セクターを超えた連携を形成する視点を持つことが望まれます。
一方、自治体には、地域課題解決に資するビジネスへ最大限の協力を惜しまないスタンスが求められます。地域特性との整合性の見極めは重要ですが、地域の便益を中心に考え、柔軟な姿勢を持つことが望まれます。
企業にとっては事業立ち上げの長期化は投資コストの増大につながります。成功事例をベースとした検討や、先行する企業・社会起業家との連携など、先行者のノウハウを最大限に活用することで、早期事業化を目指すことができます。また、地域へ事業を実装する際、地域のまとめ役とのリレーションは事業化の実現を左右するポイントとなります。地域ステークホルダーとのリレーションは、当然ながら一朝一夕では獲得できません。ビジネスモデル検討の段階から当該地域内で活動している先行者との連携を視野に入れておくことが有効です。
企業にとっては地域課題解決をいかに儲かる仕組みに変換できるかが最大のチャレンジとなります。持続的な事業運営のための最低限の財務リターンに加え、ブランド力向上やサプライチェーン強化といった既存事業へのシナジーと、自社の社会的価値への影響度を総合的に評価する取り組みが必要になります。また、スマートシティのように広範にわたる地域課題解決型ビジネスは事業化までの時間が長期化する傾向にあるため、企業には従来の新規事業とは異なる事業評価指標の策定も求められるでしょう。
※詳しくは「2050年 日本の都市の未来を再創造するスマートシティ」レポートをご覧ください。
大山 佳則
ディレクター, PwCコンサルティング合同会社
※法人名・役職などは掲載当時のものです。
スマートシティサービスは国内で多くのプロジェクトが進められており「スマートシティ官民連携プラットフォーム」でも2024年6月時点で286件の掲載が確認できます。多くの実証実験が実施されてきたその次のステップとして、実装化が大きな課題となっています。本コラムでは実装化を進める上で、キーとなりうる考え方を紹介します。
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