
「スマートシティで描く都市の未来」コラム 第89回:ユーザーの課題・ニーズ起点のスマートシティサービスの考え方
スマートシティサービスは国内で多くのプロジェクトが進められており「スマートシティ官民連携プラットフォーム」でも2024年6月時点で286件の掲載が確認できます。多くの実証実験が実施されてきたその次のステップとして、実装化が大きな課題となっています。本コラムでは実装化を進める上で、キーとなりうる考え方を紹介します。
2020-02-25
日本でスマートシティという言葉が使われ始めて相当の年月が経ちますが、近年になり新たな視点から再注目されています。背景にあるのは、少子高齢化などの社会課題の深刻化、企業の経営判断に影響を及ぼすほどの環境意識の高まりと消費者の購買行動の変化、そして課題や事象を可視化させるデジタル技術の向上です。こうした現状を踏まえ、技術をどのように導入するかという旧来のまちづくりから、可視化されたまちの課題解決のための技術検討というアプローチへと変化し始めています。
こうした変化が加速する中で、海外のスマートシティの取り組みを見ると、データの活用と住民参加という点は共通している一方で、大きく二つの異なるアプローチがあることが分かります。
一つは大企業主導型のアプローチです。アメリカや中国で多く見られ、世界を代表する企業がリードして、まちの課題解決の基盤を提供し、その上に自治体を含む多様なステークホルダーが関わっていくという形です。代表企業が推進役となることで、取り組みが進みやすい傾向にあります。
もう一つは、ヨーロッパによく見られる自治体起点型のアプローチです。自治体が推進役となりつつ、住民、企業、学術・研究機関などを巻き込む産官学民の連携、いわゆる「クアドラプル ヘリックス」(四重螺旋)の場を用意し、ステークホルダー間の議論、協力を重視する方法です。
この違いは都市の成り立ちや、文化、環境などによるものであり、優劣はありません。アメリカは大企業などによる社会課題の解決への投資志向が強く、中国は企業の競争力強化の一環として世界をリードし得る先進事例に積極的に投資する傾向が見られます。一方、ヨーロッパは都市国家という歴史的背景もあり、住民による社会への参画意識が高く、その声も大きいという特徴があります。
では、日本ではどうでしょうか?もちろん大企業主導型のスマートシティもありますし、自治体起点型の場合もあります。しかし、大企業といえども1社で都市の課題解決をリードできる企業は多くなく、自治体も潤沢に資金や人材を投入できない状況です。また、日本は住民の社会課題への参画意識は欧米ほど高いとは言えないため、海外の手法をそのまま取り入れることはできません。
その一つの解決策として、調和や協調、コンセンサスを大事し、一度合意するとステークホルダー間のコミットメントは高いという日本社会の特徴を活かした手法があります。例えば、各地域に根付く地場産業や公益サービス事業者など複数の企業が中心となり、同じ志や未来像を共有する集合体として取り組みつつ、自治体や学術・研究機関、住民などを巻き込み、推進していく形です。すでに同様の手法が実践されている地域もあります。1社での全体リードは難しくても、中心となる企業が数社集まれば、影響力も大きくなり、いずれ大きなうねりを起こすことが可能です。
ただし、ここで大事なのは、推進役の企業が目先の利益追求ではなく、めざす未来とそこへのかかわり方、貢献可能な領域、投資回収の方法について最初から大きな絵を描いておくことです。もちろん、企業としては投資回収が見込めない事業推進は難しいですが、まちづくりは長期にわたる事業であり、回収期間を他の事業と同じように考えては成り立ちません。SDGsやESG投資などの考え方がますます普及し、社会の動きが変化する中で、長期的な視点をもって、逆算思考で何を事業機会ととらえるのかを検討することが重要になります。
※詳しくは「2050年 日本の都市の未来を再創造するスマートシティ」レポートをご覧ください。
内藤 陽
シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社
スマートシティサービスは国内で多くのプロジェクトが進められており「スマートシティ官民連携プラットフォーム」でも2024年6月時点で286件の掲載が確認できます。多くの実証実験が実施されてきたその次のステップとして、実装化が大きな課題となっています。本コラムでは実装化を進める上で、キーとなりうる考え方を紹介します。
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