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2022-08-18
規制緩和・グローバル化・価値観の変容・脱炭素・デジタル化など、企業を取り巻くマクロ環境はダイナミックに変化を続けています。これらの変化量が大きくなれば企業にはより多くの事業機会・成長余地が生まれ、その成長期待をもって企業はヒト・設備などに対して投資を行います。調達元から最終需要家に至るバリューチェーンが整備されれば、金融機関や投資家のマネーを呼び込め、成長が実現します。成長はさらなる成長期待を喚起し、その流れの中にある業界は(当然一定の競争環境にある前提ではあるものの)拡大均衡局面に入ります。
他方で、マクロ環境がほとんど変化しない、もしくは悪化の一途をたどり、長期的な成長期待を見出しにくい業界も多く存在します。こうした業界ではバブル崩壊後の不況を経て企業の倒産・再編が一定程度進み、プレイヤー間の棲み分けが固定され、トップラインの変化が乏しい環境下において現業が回されています。固定された環境下においては、川上・川下企業との駆け引きや最終需要家からの値下げ要求といった消耗戦が繰り広げられ、利益は低水準で横ばいという状況に陥っています。
こうした状況は、「国内需要・地域内需要を対象とし、人口・産業減少の影響を受けやすい」、または「参入障壁が比較的低い、もしくは伝統的ビジネスであり供給過多に陥っている」といった性質の業界の事業に多く見られます。継続的な低利益体質であるがゆえに投資余力がなく、本来行うべき意思決定が先送りされ、じわじわと縮小均衡局面に入り、目詰まりが見られます。
しかしながら、これらの多くは国・地域の住民・産業にとって不可欠であり、エッセンシャルな事業でもあります。そのため、縮小均衡状態を放置することは、私たちの生活基盤にリスクをもたらします。またこれらの事業は雇用の裾野が広いため、低利益体質であることが多く、慢性的な低賃金や、国内総需要の減退にもつながります。
本稿ではエッセンシャルでありながらも縮小均衡局面に入った事業に焦点を当て、その再成長のあり方について議論します。
縮小均衡局面にある事業の多くにおいては、事業の拡大・縮小・撤退・維持といった意思決定がなされず、企業の“維持"にのみ焦点が当たっているような経営姿勢が見られます。
例えば、「社会の公器としての責任を果たす」「業界全体を保護する」「安定供給を第一とする」という大義名分がそれを後押ししています。また、ゲマインシャフト的な企業文化が色濃く、過去からの友好関係や連続性を重視するがゆえ、何かを始める、または何かを終わらせるという判断を苦手としています。具体的な特徴は下記のとおりです。
マクロ環境の悪化や設備の老朽化などを踏まえると、“現状維持”は「単純な衰退」に他なりません。経営の役割は「単純な衰退」以外の選択肢を取ることです。
事業の拡大・縮小・撤退・維持を判断し、実行する上では、「事業の正しい立ち位置を把握し、中長期先を見通した上で将来を見据えた意思決定を行う」「決定した方針に基づき、社内外の力を結集してやり切る」という原理原則を追求しなければいけません。下記にその具体的なアプローチを示します。
まず、当該事業の企業価値上の意義を確認すべきです。縮小均衡状態に陥っている事業にも、事業を継続すべき大義名分はあります。市場価格の安定や雇用確保はその典型例です。他方で、営利企業である限り、企業価値を毀損し続けている事業を野放しにすることは合理的ではありません。当該事業について、企業価値を毀損しているか否かを定量的に可視化し、評価する必要があります。
続いて中長期的な事業見通しと、取り得るポジションを整理します。縮小均衡局面にある事業は基本的にマクロ環境と連動し、需要は右肩下がりの傾向にあります。需要曲線を見定めた上で、供給過多限界がどのタイミングで訪れ、どのような業界構造の再編が起き得るか、その中で自事業がどのようなポジションを取り得るかを検討します。
中長期的な事業見通しと、取り得るポジションが明確になったとしても、もし危機が訪れる時期が当面先ということであれば、判断は先送りされる可能性があります。しかし、縮小均衡局面の事業だからこそ、将来世代のために先手を打ち、将来訪れるであろう危機を回避する「未来傾斜型」の経営姿勢が強く求められています。
中長期的な方向性が見え、経営層が決断できれば、いよいよ企業として取るべき施策が見えてきます。中長期的な業界再編を視野に入れつつ、その前段として自社・自事業の枠の中で収支改善できる余地があれば、徹底的に取り組むべきです。なお、縮小均衡局面の事業は低利益体質であるため、各現場での改善活動には多大な労力を要します。その上、各現場の裁量や努力だけでは処理し切れない、外部交渉・経営判断が必要な課題も多くあることに留意が必要です。
業界構造の変容は自事業領域のみならず、川上・川下でも起こり得ます。特に川下においては最終需要家に近いため、規制・経済・人口・価値観・技術変容の影響を受けやすく、変化が起こり続けています。このような変化を先読みし、新たな成長機会に先行投資することも視野に入れておくべきです。
縮小均衡局面にある業界において成長を目指すのであれば、業界構造自体を能動的に変えるべく、業界再編を引き起こすことが不可欠です。当該業界において、シェアの高さは川上・川下の企業に対する交渉力、規模の経済、顧客への顕示効果、ブランドにつながり、優位な立場をもたらします。
これらの取り組みを自社の人材・設備・資金力で推進することには限界があります。変革をリードできる人材は限られ、設備更新やシステム導入は投資対効果が見込みづらく、事業買収も資金の調達および実行の両面で課題があります。
したがって、自前主義から脱却することが重要になります。縮小均衡から脱するためには、多岐にわたるプレイヤーが連帯し、事業の中長期的な持続を支える構造をつくる「エコシステム経営」が求められるのではないでしょうか。
これらは1980年代から提言されてきた古典的な課題です。「低水準だが安定した体質」が防波堤となり、放置され続けた結果、今日において縮小均衡局面に陥っているわけです。
現実問題として、人口減少に伴って需要減少が確実となり、業界全体では高齢化が進行しています。昨今の物価高騰はバリューチェーンを逼迫しています。他方で、不確実性の高い環境下においては安定した事業への期待値が高まりつつあります。エッセンシャルビジネスの重要性も改めて認識され、収益性の改善状況次第では、株主・債権者・親会社の支持を得られる可能性があります。また、企業に対しては経済価値のみならず、社会的価値の重要性が認識されつつあります。
マクロ環境が大きく変わり、世代交代が進み、価値観の変容が進む今こそ、経営層は縮小均衡から脱するために決断し、変革に向けて動き出すべき時期だと言えるのではないでしょうか。
本連載では、次回以降「現状から脱却するためのアプローチ」に焦点を当てながら、その要諦をご紹介していきます。