2040年まであと15年。日本社会が直面する「2040年問題」は、もはや遠い将来の課題ではなく、目前に迫った現実的な課題となっています。
人口減少と少子高齢化の加速により、生産年齢人口の急激な減少が予測される中、行政サービスの持続可能性をいかに確保していくかが、国と地方自治体に共通する喫緊の課題となっています。
一方で、社会全体のデジタル化は着実に進展を続けています。スマートフォンの世帯普及率は90%を超え、行政手続きのオンライン化も進むなど、私たちの生活におけるデジタル技術の浸透は日々深まっています。このような状況下で、デジタル技術を活用して社会課題を解決していく新しい社会の姿として提唱されているのが「Society5.0」です。
2040年問題への対処とSociety5.0の実現は、単なる行政課題にとどまらず、国民全体で取り組むべき社会的課題です。特に、住民に最も身近な行政サービスを提供する自治体が果たすべき役割は極めて大きいと言えます。本連載コラムでは、自治体のデジタルトランスフォーメーション(DX)そしてAI利活用の現状について概説するとともに、今後のあるべき姿について、基盤となるガバナンスを軸に考察と提言を行います。
第1回では、自治体でのDXおよびAI利活用の現状を確認するとともに、ガバナンスの位置づけについて概説します。第2回では、AIガバナンス自治体コンソーシアムが作成した「自治体向けAIガバナンスガイドライン」の策定経緯と内容について解説します。第3回では、AIガバナンスのあり方について考察と提言を行います。
Society5.0は、サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会を目指すビジョンです。
この実現に向けて、2024年6月21日に閣議決定された「デジタル社会の実現に向けた重点計画」では、省庁横断的なデジタル化の取り組みを加速させる方針が示されました。
自治体においても、組織や行政サービスのデジタル化は着実に進展しています。
総務省との協力に基づいてデジタル庁が公開している自治体DX推進状況のダッシュボードによると、2024年7月時点のデータとして、41%の市町村(720自治体)が導入しており、AIは同50%(879自治体)が導入と回答しています。
2022年12月末と比較しても進捗していることが見て取れます。また最新の調査結果からはAI導入の自治体数の更なる増加が確認できます。
一方で自治体が求められる行政サービスは一見共通性が多いように感じられますが、1700を超える自治体は地理的にも規模的にも異なるため、抱える行政課題や求められる対策は千差万別といえます。先述のDX推進状況も都道府県、市町村別で比較すると当然のことながら差異が見られます。
こういった状況下で2024年12月、内閣官房に「新しい地方経済・生活環境創生本部(新地方創生本部)」が設置され、「地方創生2.0」が掲げられました。「都市に住む人も、地方に住む人も、相互につながり、高め合うことで、すべての人に安心と安全を保障し、希望と幸せを実感する社会の実現」という目標に向けて、地域・コミュニティの多様性と相互連携を加速させる取り組みが一層強化されることになります。地方創生2.0の基本構想5本柱の「デジタル・新技術の徹底活用」において、デジタル技術の活用や地方の課題を起点とする規制・制度改革を大胆に進めることが謳われています。自治体DXは新たなステージに差し掛かると同時に、急速に発展するAI利活用をどのように進化させていくかが重要な課題となると言えるでしょう。
AIの利活用を進化させつつDXのステージ転換を図るにあたり、ガバナンスという考え方が不可欠になります。先述の自治体DX推進状況ダッシュボードで市町村単位の傾向を見ると、DXにおける「全体方針策定」「全庁的な体制構築」「職員育成の取組」がなされている市町村では「RPA導入」「AI導入」率が高い傾向があります。また「RPA導入」「AI導入」がされている市町村のオンライン化率(よく使う32手続き)が高いことが見て取れます。
全体方針、体制、人材育成はガバナンスの肝といえる要素であり、これら要素の梃入れとDX推進、そして行政サービスデジタル化は密接な関係にあると言えるでしょう。
ただしガバナンス強化は目的ではなく、あくまでも望ましい状態を実現するための手段だという点を忘れてはいけません。自治体各々が直面する地域固有の課題に対して、デジタルそしてAIをどう活用していくのか、その方向性と目標を設定することがガバナンス強化の出発点となります。
AI活用の方向性と目標の設定と併せ、AIガバナンスの実効性を高めるために織り込むべき観点を概説します。以降はAIにフォーカスし、AIガバナンスの要諦として大きく2点を示します。
まず1点目はAIガバナンスモデルの定義です。AI利活用に係るステークホルダーを洗い出し、その役割と責任を明確化していくことによりガバナンスモデルを定義することが可能です。ステークホルダーと期待役割は図表1に示す3つに整理できます。
図表1:AIガバナンスの3階層モデル
ガバナンスモデルの中心となる自治体はAI提供者としての責務とAI利用者としての責務の両方を担うことになります。AIを活用する行政サービスの提供先である住民はもとより、関連機関(府庁等)に対するアカウンタビリティが求められ、また同時にAIサービスプロバイダーが提供するサービスマネジメントも必要になります。
自治体DXに資するAIサービスの提供にあたっては、自治体が必要とする品質情報を、AIサービスのみならずプロバイダーの組織レベルで適切に提供していくことが求められます。変化が激しいAI技術や規制環境において、AIサービスプロバイダーが果たす役割は大きいと言えます。
住民は自治体から提供される行政サービスにおいてAI利活用のメリットを享受しつつ、AIが持つ公平性や透明性等の課題についてより積極的な関心を持つことが予想されます。また、関連府庁には自治体のアカウンタビリティの効率性と透明性を高めるため、モニタリングやガバナンス状態の可視化・共有化の枠組み整備が求められることが予想されます。
このガバナンスモデルで俯瞰したAIガバナンスを捉えることが重要です。
2点目はAIガバナンス状態の継続的なモニタリングと可視化です。
設定したAI利活用の方向性と目標のモニタリングは当然ながら、その実効性を高めるための体制・人材・基盤整備に関連した取り組みの実行状況のモニタリングとその状態の可視化も重要です。ここには目標実現の阻害要因でもあるAIリスクの管理も含まれます。重要なのは1点目で述べたとおり、このモニタリングはステークホルダーごとに捉える必要があることです。当然、運用実態が当初の計画から乖離することは発生しますが避けるべきはその状態の認識が薄れることです。往々にしてモニタリングは目的化しがちですが、あくまで現在地を把握し、目標との乖離がある場合に是正をするための手段であることを忘れてはいけません(図表2)。
図表2:手段としてのモニタリング
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