コラムシリーズ 自治体経営の未来を考える

第三弾 変革ストーリー守破離

  • 2025-02-06

自己改革のアプローチと変革のストーリー

まず第一弾で整理した解決可能性のある課題(運用効率の向上における守りと共通課題、サービス品質向上)へのアプローチを振り返ります(図表1)。

図表1:自己改革のアプローチ

自己改革を具体化するのが、図表2に示すステップに沿った変革のストーリーです。以下でその詳細を説明します。

図表2:変革のストーリー

はじめに 全体設計(KGI・KPI)と小さな成功体験

具体的なステップに入る前提として、自己改革のアプローチでまず取り組むことは、全体設計です。現状課題を可視化・構造化し、役場全体での課題認識に昇華するとともに、首長を中心に役場が果たすべき役割・目指すべき成果(KGI)を定め、KGIの構成要素と進捗確認が可能な状態にすべくKPIを定めます。
併せて重要なのが、対象部門を選定の上、生成AIを用いた余白拡大策の実証(PoC)を進め、「実際に、職員が余白を手に入れた」という成功体験を生み出すことです。
例えば、参照資料はあるもののどこに記されているか分からない、議会対応のために過去の議会議事録を何度も参照し整合性を確認する、などの「調べる業務」は生成AIとの相性が良く、「調べる時間の短縮」により、余白を手に入れる体験が提供できます。
しかし、仮に生成AIを用いた改革で、一日あたり1時間の余白を創出するだけでは、自治体改革を考える気力を生むのは困難です。

1st Step 余白を拡大するクラウド化・外部委託・ナレッジマネジメントシステム

そこで最初の「守」のステップでは、いかに余白を拡大するかを考えます。余白拡大にはデジタル広域連携を見据えた業務の標準化とクラウド化、業務仕分けと外部委託、ナレッジマネジメントシステムが考えられます。
デジタル広域連携を見据え、誰でも推進可能な状態(業務標準化)に整理しクラウド化を進めます。また、業務標準化の過程で職員でなくてはいけない業務(コア業務)とそうでない業務(ノンコア業務)に仕分けし、業務の外部委託を進めます。
ここでのポイントは、既存慣習に縛られず、法令や規定に職員が実施することと定義されているか、特定個人情報などデータの機密性からどの程度の管理が必要か、になります。サービスレベルを維持しながら職員の余白を生み出すことが最大の目標であることから、現状に合致しない規定は改定し、できる限りノンコア業務に振り分けることを心掛けて進めるのが肝要です。ノンコア業務を民間企業に委託することで、より多くの余白を手にすることができるはずです。

役場内の縦割りを壊すのは至難の業です。大きな原因は責任範囲の明確化を意図した職務分掌です。そのため、職員同士の仲が良い場合などの個人的な有機的連携はあるものの、個人で連携先を見つけきれない場合は、ナレッジ共有が止まってしまいます。
ここでの問題は「誰が、何を経験してきたのか、一目では分からない」という状況です。解決の第一歩は、共通様式を用いて年に1度、どのような業務を実施したのか、その工夫点は何だったかを各職員が振り返り、保管し続けることです。これらを保管し続けることで、個人の暗黙知を役場の形式知にすることができ、生成AIを用いて「誰に聞くのが有効か」を経験の浅い職員でも知ることができます。

ナレッジマネジメントシステムにより、業務推進のもどかしさを解決し、連携可能な幅が開示されることで、余白を何に活かしたいのか、職員は考え始めることができます。

2nd Step 余白を活かすKPI設計と部門戦略

1std Stepまでで一定程度の余白が創出されます。次の「破」のステップでは、余白をどこに振り分けるのかを考えます。
役場全体のKGI・KPIと部門の既存事業を紐づけ、チームメンバーとともにKPI達成のために必要な工夫や追加施策を検討します。ここで重要なことはKPIに対する納得感です。余白を持った職員は、これまで以上に考える時間を多く持ち始めています。そのため、職員の内発的動機とリンクさせることで、より良い推進力を得ることができます。
そして、部門戦略を引き継ぐことも重要です。役場の掲げるKGI・KPIはそう簡単に達成できるものではないでしょう。つまり、一定期間の投資が必要だということです。異動によりKPIの進捗が悪くなることは、組織として失敗です。引き継ぎ先の方にも納得してもらえる部門戦略である必要があるとともに、異動は部門ナレッジが継続することを前提として部門KPIの進捗も含めた検討が必要です。

3rd Step 協働パートナーの開拓・連携

これまでのステップで生み出した余白をより拡大するためには、次の「離」のステップで業務の担い手と割り勘相手を増やすことが重要です。つまり、協働パートナーの開拓です。
パートナー開拓には、首長は何を願って自治体改革を進めているのか、職員はどういった想いを持って取り組みを進めているのかを発信することが欠かせません。また、私たちの統計分析では自治体はいくつかの種類に分類することが可能です。つまり、似た課題を抱えている自治体は複数存在します。地続きにとらわれず、より幅広い視点で探すことが重要となります。
パートナーは自治体に限りません。想いに共感してくれる事業者や最先端の検討を進めたい事業者が声をかけてくれるかもしれません。今後は、行政サービスを通して関係人口を増やすように、自治体改革を通して関係法人を増やすことが求められます。そうしたパートナーを見つけるためにも、何を願い、何を想って取り組んでいるのか、継続的に発信することが欠かせません。

おわりに

外部環境の変化や自治体の収入増の見込みが薄い現状を踏まえると、自治体が現在の生態・構造で居続けることは現実的ではありません。
自らの改革だけでなく、協働パートナーを開拓し、これまでと異なるアプローチが求められています。
パンデミックや多くの震災を経験し、自治体は日本の社会基盤であり、欠かせないインフラであると改めて認識されました。道路や水道と同様に、自治体というインフラを見直すことで、日本が日本らしくあり続けることができるのではないかと考えます。

今後も「自治体経営を考える」という視点で、議論の種を提供します。

主要メンバー

林 泰弘

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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谷井 宏尚

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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犬飼 健一朗

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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