コラムシリーズ 自治体経営の未来を考える

第一弾 なぜ、いま自治体は存在意義の再定義が求められるのか

  • 2025-02-06

市区町村を取り巻く課題の構造

テレビはカラーになり、インターネットが普及し、携帯電話でいつでも話ができ、スマートフォンで大量のデータを処理し、遂にはニュース原稿をAIが読む時代になりました。これらは単なるテクノロジーの進化にとどまらず、時代に合わせてテクノロジーそのものが自らの存在意義を再定義し、現在も社会の一部を担っています。
私たちは生活の中で、モノやサービスの位置づけや存在意義、優先順位を見直す判断を日々行っています。“再定義すること”は進化であり、適応するために必要な行動と言えます。
では、市区町村はどうでしょうか。住民票はコンビニで取得可能となり、申請書類をウェブで提出することもできるようになりました。地域を登録すると今日回収されるごみの種類(資源ごみの日、燃えるごみの日など)をスマートフォンで教えてくれます。ひと昔前では考えられない進化です。
しかし、「消滅可能性自治体」の問題や労働者不足に伴う社会変化が今以上に顕在化する2040年問題など、日本の根底を揺るがす変化に適応するためには、より大きな進化が求められます。

図表1:市区町村を取り巻く経営課題の構造

市区町村の収入・支出を大きく構造化すると図表1のようになります。
税収や交付金を収入源とし、税収向上などの収入(稼ぎ)を生み出す規模拡大策(攻め)と法定業務や既存サービスの維持策(守り)で構成される行政運営、それらを通して実行される住民サービスが支出の対象となります。
存在意義の再定義を検討するにあたり、①収入を増やすことはできないか、②運営効率を上げることはできないか、③サービス品質向上はできないか、という3つの問いを考え直すこととします(図表2)。

図表2:市区町村が取り組むべき解決可能性のある課題

問いの中で、市区町村が自ら取り組むことで改善余地を生み出し、課題解決の可能性が高いのは、運営効率(②)とサービス品質向上(③)です。
市区町村の主な収入源は地方税、地方交付金、国庫支出金、地方債、都道府県支出金です。この中で、市区町村が自ら取り組むことで増加余地があるのは、住民税や法人税、固定資産税、都市計画税などの地方税です。しかし現実的には、超高齢化社会を迎え、劇的な経済発展を望める地域が少ない日本において、地方税を大幅に向上させることは至難の業です。
そうした背景から、税収増を志向する攻めの施策に職員をより多く配置することは困難です。
一方、法定業務や住民サービス提供の型化が進む守りの施策は、他に比べて外部環境の影響が少なく、役場内のルール変更など、自ら取り組むことで改善余地があります。
攻めの施策・守りの施策の前提となる、役場の体質も見直しの必要があります。目下の業務に注力することが求められ、業務の標準化や引き継ぎの高度化を継続的に進めにくい点や異動サイクルによる部門ナレッジの伝承停滞などは、役場内のルール変更を進めることで改善が可能です。予算や議会などに関連する内容は攻守で共通するものの、役場内のルール変更だけで解決できない課題が多く、直近での課題解決難度は高いと考えます。
サービス品質向上は、改善余地が多くあります。KPIを持って事業成果を判断する自治体が増えている状況ですが、現時点で収集可能な項目のみをKPIとし、サービス品質を向上するための構造化や検討軸を網羅しきれていない例を多数目にします。実態を正確に現し、的確な議論を可能とする環境整備は改善余地があると言えます。
机上で言うことは簡単です。実際にこうしたテーマと向き合っている方々が多くの苦労をされていることも理解しています。これらの課題解決が簡単でないのは紛れもない事実です。
一方、自らの地域が劇的に経済発展し、生産人口が急増する状態を迎えることより、現実的な一手と考えます。

課題が解決された状態

解決可能性の高い課題解決に向け、役場内ルールの見直し(職務分掌や異動制度を改革し役場内協働や業務効率向上を促進)、徹底した標準化と自動化(業務負荷軽減と特定の職員に依存しすぎない業務フローの標準化)、費用対効果と投資効率の可視化(資本となる職員と予算を効率的に活用できているか可視化し、判断軸を持ってサービス品質を定め、改善を促す)を進めることが重要です。
そして、改革の資本原資となる職員数と予算を生み出し、運営効率向上とサービス提供の見直しを進め、収入増加による住民サービスの向上と同様の効果を生み出すことが期待できます(図表3)。

図表3:課題解決に向けた打ち手

改善の土台を整備することで、職員の身体的・精神的な余白を生み出すとともに、部門を越えた協働や誰でも対応可能な状態まで標準化を進め、職員が取り組むべき業務とそうでない業務を区分けし、一部を民間企業に委託するなど、民間企業が進める経営効率化と類似した議論が可能となります。
役場内の資本(職員・予算)状況を可視化し、サービス品質の議論を進めることで、首長は民意と資本状況を踏まえたKGI・KPIをより正確に検討することができます(図表4)。
また、職員も資本状況を把握することで、自分事として踏み込む深度を客観的に捉えることが可能となり、現状への危機感を共有することに繋がります。そうして危機感を持った職員の足枷となる役場内ルールを見直すことで、自発的に行動できる状態へと変容を促すことが可能となります。

図表4:解決可能性のある課題を解決した状態

これらを実行するためには、多くの工数と熱量が求められます。ここまでお読みいただいた皆さんは「余裕があったら、既に進めている」という気持ちになられたのではないでしょうか。
私たちはもう一つ問いを出したいと思います。「その余裕は、市区町村単体で生み出さなければならないのでしょうか。もし、仲間とともに工数や費用を『割り勘』できたら、状況は好転するのではないでしょうか」。
第二弾のコラムでは、自治体の既存概念を超え、現代だから可能となるデジタルな広域連携について、紹介します。

主要メンバー

林 泰弘

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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谷井 宏尚

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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犬飼 健一朗

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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