第2回:治療は要らないけれど、退院できない「社会的入院」

2022-07-27

2. 社会的入院の実態

当社が2018年度に実施した調査では、2018年の1年間に虐待の疑いで入院した子ども1,781人のうち、約2割の399人については、受け入れ先がなく、「社会的入院」を余儀なくされていることが分かりました。また、2020年度に当社が実施した調査では、2019年の1年間に虐待の疑いで入院した子ども1,901人のうち、社会的入院をしている子どもは327人でした(図表1参照)。

図表1 虐待の疑いで対応した子ども、入院した子ども、および社会的入院をした子どもの数

社会的入院をしている子どもの人数だけを見ると減少しているように見えますが、回答医療機関に占める社会的入院を1人以上受け入れている医療機関の割合は、2018年度調査で29.6%、2020年度調査で29.3%と、社会的入院の実態が大きく変わっていないことが明らかになりました(図表2参照)。

図表2 虐待の疑いがある子どものうち、入院および社会的入院をそれぞれ1人以上経験した医療機関の割合

一方、社会的入院をしている子どもの社会的入院期間について、2018年度調査と2020年度調査を比較すると、「15日以上1カ月未満」の中期の入院期間が13.5%から7.0%と約7ポイント減少し、「1日以上15日未満」の短期の入院期間が57.9%から67.0%と約9ポイント増加していました(図表3参照)。このことから、社会的入院期間が2週間未満の、より短い期間に変化してきていることが分かります。

図表3 社会的入院にいたった子どもの社会的入院期間の内訳

3. 社会的入院の解消に向けて

2020年度の調査において、社会的入院の解消に対する実効性について意識調査を行ったところ、①多職種・多機関連携による長期的な福祉支援の推進、②地域の福祉サービスの充実、③施設の増設・増員、④(やむを得ない場合のための)医療機関における福祉枠病床の整備の4点が、社会的入院の解消に向けて必要であることが明らかになりました。

今後、社会的入院の解消を進めるためには、

  • 子どもの虐待について、医療機関、児童相談所、市区町村等が多職種・多機関連携をしている地域に関するケーススタディ
  • 児童相談所における保健師および医療機関における医療ソーシャルワーカー(MSW)の動きに関するケーススタディ
  • 福祉サービスや施設などの地域資源について、活用が期待される具体的なサービスに関する調査
  • 社会的入院を多く抱える医療機関に関するケーススタディ
  • 社会的入院に関する定期的な定量・定性調査

などを検討・実施していくことが期待されます。

医療と福祉の連携については、診療報酬の改定で「不適切な養育等が疑われる小児患者に対する支援体制の評価」が養育支援体制加算として認められるなど、着実に進展しています。全国で数百名と絶対数としては多くない社会的入院をしている子どもですが、暮らしの場としてより望ましい場所があるはずです。すべての子どもが支援ニーズに合った処遇を受けられるよう、仕組みの整備と運用上の工夫を並行して進めることが求められています。

執筆者

東海林 崇

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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古屋 智子

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

Email

大瀬 千紗

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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