人材データ活用は、可視化から意思決定支援・実務活用のフェーズへ

ピープルアナリティクスサーベイ2026調査結果(速報版)

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  • 2026-08-26

PwCコンサルティング合同会社(以下、PwCコンサルティング)は、日本国内の企業を対象にピープルアナリティクスへの取り組み状況や人材データの利活用について、HR総研(ProFuture株式会社)と2026年4月から5月に共同調査を行い、112社からの回答を分析しました。

本調査は2015年から継続しており、今回で11回目となります。

2026年調査結果サマリー

日本企業の人材データ活用は、社員や組織の状態を可視化する段階から、経営・人事・現場の意思決定を支援し、実際の行動につなげる段階へ、活用の範囲を広げつつあります。

現在は、エンゲージメント分析やメンタルリスク分析など、人材や組織の状態把握、課題発見を目的とした活用が中心です。一方、今後の活用意向としては、人材の需給予測や配置最適化、生産性・業績向上に寄与する分析、個人の能力・志向や組織との適合・関係性を捉えるデータの活用、BIや生成AIの利用、さらにマネージャーや従業員本人への分析結果の提供に対する関心が高まっています。

本調査では、「人材の需給予測・配置最適化」や「生産性・業績向上に寄与する分析」に取り組みたいとする企業が71%に達しました。一方、人材データ分析の結果が、定常的または特定のプロジェクトにおいて、経営層の意思決定に反映された経験を持つ企業は32%でした。高度な分析への活用意向が高まっているのに対し、分析結果を意思決定へつなげた実績を持つ企業は限られていることがうかがえます。

こうした期待と実装のギャップは、人材データ活用に限りません。PwCの第29回世界CEO意識調査でも、過去12カ月間にAIによる売上増加とコスト削減の双方を実現したと回答したCEOは12%にとどまりました。同調査では、個別の戦術的なAIプロジェクトではなく、事業戦略に沿った全社規模の導入と、それを支えるテクノロジー環境、ロードマップ、責任あるAI・リスク管理、企業文化が重視されています*1

本調査からも、分析を意思決定につなげた実績を持つ企業では、経営・事業戦略に紐づく目的、データの準備・品質管理、分析人材の確保、個人情報・AIガバナンスなどが、その他の企業より高い水準にあることが示されました。

企業間の差を生むのは、分析テーマの数やツールの性能だけではありません。どの経営・事業課題に対して、誰のどの意思決定を支えるのかを定め、そのために必要なデータ、体制、人材、ガバナンス、利用プロセスを整えることが、分析結果を実務へつなげる前提になります。

ピープルアナリティクスの焦点は、「何を分析できるか」から、「分析によって、どの意思決定と行動を変えるか」へ移りつつあります。

本稿では、2026年の調査結果から、次の4点を取り上げます。

  • 人材データ活用に関する5つの変化
  • 分析結果を意思決定につなげる次世代企業の特徴
  • 期待と実装の間にある3つの課題
  • 構想を実装へ変える4つの設計原則

I.人材データ活用に関する5つの変化

人的資本経営への関心が高まるなか、企業には、人事関連データを単に集計・開示するだけでなく、経営戦略・事業戦略と接続し、採用、配置、育成、組織運営、マネジメントなどの意思決定に活かすことが求められています。

人的資本経営・人的資本開示においても、人材への投資を事業成長や企業価値向上にどのようにつなげるか、その道筋を示すことが重視されています。こうした潮流は、社外への情報開示だけではなく、社内における人材データ活用の目的やあり方にも変化を促しています*2

本調査では、その変化を次の5つの観点から整理しました(図表1)。

  1. 分析テーマの高度化
  2. 活用データの多様化
  3. 活用ツールの進化
  4. 分析結果の提供先の広がり
  5. 生成AI活用の進展

図表1:人材データ活用に関する現状の取り組みと将来意向

人材データ活用に関する現状の取り組みと 将来意向

1.分析テーマの高度化:状態把握から予測・最適化へ

現在活用が進んでいる分析テーマは、エンゲージメント分析やメンタルリスク分析など、社員や組織の状態把握、モニタリングを目的としたものが中心です(図表2)。

一方、今後の活用意向では、最適人材の予測、労働生産性分析、組織パフォーマンスの要因分析、配置マッチングなど、より経営判断に近いテーマへの関心が高まっています。「人材の需給予測・配置最適化」や「生産性・業績向上に寄与する分析」に取り組みたいとする将来意向は71%に達しました。

企業が人材データ分析に求める役割は、何が起きているかを把握することから、「今後、何が起こる可能性があるか」「どのような対応を取るべきか」を判断することへ広がっています。

ただし、高度な予測モデルを構築すること自体が目的ではありません。例えば、離職可能性を予測できても、誰が、どのタイミングで、どのような対応を取るのかが決まっていなければ、分析結果は成果につながりません。

分析テーマを決める段階から、対象となる経営・事業課題、支援する意思決定、利用者、期待する行動までを明確にしておくことが、実務活用の出発点になります。

図表2:現在実施している分析テーマと今後の意向

現在実施している 分析テーマと今後の意向

2.活用データの多様化:人材の現状把握から、仕事スキルの変化を捉えるデータへ

現在活用されているデータは、経歴、勤怠、評価など、既存の人事システムに蓄積された基礎的な情報が中心です(図表3)。

これに対し、今後は、スキル、キャリア、興味・関心、志向、組織カルチャー、組織内の関係性など、個人の能力や可能性、組織との関係を立体的に捉えるデータへの活用意向が高まっています。背景には、人材を過去の経歴や現在の配置だけで捉えることが難しくなっている状況があります。

PwCの2026 Global AI Jobs Barometerは、6大陸の10億件を超える求人情報を分析し、AIへの露出が高い仕事では、求められるスキルが、AIへの露出が低い仕事の2倍以上の速さで変化していると報告しています。また、AIへの露出が高い仕事では、共感、判断、創造性など、人間中心のスキルに依存する新たなタスクが2.5倍の速さで追加されています*3

こうした環境では、現在保有しているスキルを一度棚卸しするだけでは十分ではありません。事業戦略やテクノロジーの変化によって、仕事の役割と必要なスキルがどのように変わるかを継続的に捉え、育成、採用、配置、外部人材活用などの判断につなげることが論点となります。また、生成AIの進展によって、自由記述、サーベイコメント、面談記録など、従来は分析に組み込みにくかった定性情報や非構造化データにも、活用の可能性が広がっています。

分析の起点は、「現在保有しているデータで何ができるか」から、「将来の事業に必要な仕事と人材を捉えるために、どのデータが必要か」へ移りつつあります。

図表3:現在活用している分析データと今後の意向

現在活用している 分析データと今後の意向

3.活用ツールの進化:表計算中心から、BI・生成AIへ

現状は、表計算ソフト・データベースソフトや人事基幹システムに付随する機能など、既存環境の延長線上にあるツールの活用が中心です(図表4)。

一方、今後の意向ではBIツール、生成AI、AIエージェントなど、可視化だけでなく、情報の解釈、示唆の抽出、判断や業務の支援までを担うツールへの関心が高まっています。

ただし、新しいツールの導入だけで、人材データ活用が高度化するわけではありません。BIツールによって多くの指標を可視化しても、利用者がどの指標を確認し、どの判断に用いるのかを理解していなければ、ダッシュボードは閲覧されるだけで終わります。生成AIについても、分析結果の要約やレポート作成を効率化できても、配置、育成、採用、組織運営などの判断につながらなければ、業務時間の短縮を超える価値は生まれません。

ツール活用の焦点は、「集計・報告を効率化すること」から、「分析結果を意思決定やアクションに変えること」へ移りつつあります。

図表4:現在活用している分析ツールと今後の意向

現在活用している 分析ツールと今後の意向

4.分析結果の提供先の広がり:経営・本社人事から、現場・従業員へ

現在、分析結果の主な提供先は、経営層や本社人事など、人材マネジメントを企画・統括する関係者です(図表5)。

一方、今後については、マネージャーや従業員本人への提供意向が高まっています。これは、人材データ活用の対象が、経営報告や人事施策の企画から、配置、育成、チームマネジメント、1on1、キャリア対話など、日常的な判断・対話へ広がる可能性を示しています。

ただし、提供先を広げることと、実際に利用されることは同じではありません。

マネージャーにダッシュボードを提供しても、どの指標を、どのタイミングで確認し、どのような判断に用いるのかが明確でなければ、利用は定着しません。従業員本人にスキルやキャリアに関する情報を提供する場合も、学習、社内公募、キャリア面談などの具体的な選択肢と接続する必要があります。

人材データ分析の価値は、分析結果が実際の判断や行動に使われて初めて発揮されます。利用者ごとに必要な情報、提供のタイミング、閲覧権限、判断上の留意点、想定する行動までを設計できるかが、利用の定着を左右します。

図表5:現在の分析結果の提供先と今後の意向

現在の分析結果の提供先と 今後の意向

5.生成AI活用の進展:分析の効率化から、仕事と意思決定の再設計へ

生成AI・先端技術の活用は、現在、採用業務、テキスト分析、レポート作成など、個別業務の効率化を中心に進んでいます。一方、今後は、生成AIによって分析能力を補完し、人材分析そのものを高度化したいという意向が見られます(図表6)。

人材データ分析には、人事領域の知見に加え、仮説構築、データ整備、分析、結果の解釈、レポーティングなど、複数の専門性が求められます。こうした専門性を持つ人材を十分に確保することが容易ではないなか、生成AIには、分析プロセスを支援し、人材データ分析に取り組むハードルを下げる役割が期待されています。

一方、AIを利用可能にするだけで、日常業務への活用が進むわけではありません。PwCの「グローバル従業員意識/職場環境調査『希望と不安』2025」では、過去1年間に業務でAIを利用した従業員はグローバルで54%、日本では35%でした。しかし、生成AIを毎日利用している従業員はグローバルで14%、日本では6%、エージェントAIを毎日利用している従業員はグローバルで6%、日本では2%にとどまります*4

ピープルアナリティクスにおいても、生成AIを分析担当者の作業効率化だけに用いるのではなく、マネージャーが配置や育成を検討する場面、従業員がキャリアを考える場面、人事が要員計画や施策を検討する場面へ組み込むことが次の論点となります。また、人事領域では、評価、配置、採用など、人に大きな影響を与える判断を扱います。AIの利用目的、参照するデータ、出力結果の確認方法、最終的な判断主体を明確にし、人による確認と説明責任を組み込まなければなりません。

AI活用の成熟度は、導入したツールの数ではなく、AIを組み込んだ仕事と意思決定を、信頼できる形で運用できているかによって測るべきでしょう。

図表6:生成AIによる人材データ分析の補完と活用業務

生成AIによる人材データ分析の補完と 活用業務

以上の結果から、日本企業の人材データ活用は、現時点では基礎的なデータによる状況把握が中心である一方、将来に向けては、予測・最適化、現場への分析結果提供、生成AIによる分析支援など、意思決定や行動につながる活用へと関心が広がっていることが分かります。

では、実際に分析結果を意思決定につなげている企業には、どのような特徴があるのでしょうか。

II.分析を意思決定につなげる次世代企業の特徴

本調査では、人材データ分析の結果が、定常的または特定のプロジェクトにおいて、経営層の意思決定に反映された経験を持つ企業36社を、「次世代企業」と定義しました。これは、回答企業112社の32%に当たります。

なお、「次世代企業」は、企業全体の優劣やピープルアナリティクスの総合的な完成度を示すものではありません。人材データ分析の結果を、経営層の意思決定につなげた経験の有無に基づく、本調査上の分類です。

以下、次世代企業36社と、それ以外の企業76社を比較します。

①経営・事業戦略に紐づく目的設計
②人材データの準備・品質管理
③人材データ分析の継続的な実践
④分析結果の展開
⑤分析人材・ケイパビリティの確保
⑥個人情報・AIガバナンスの整備

最も大きな差は、①経営・事業戦略に紐づく目的設計にあり、その差は50ポイントです。次いで、②人材データの準備・品質管理で45ポイント、⑤分析人材・ケイパビリティの確保で38ポイント、⑥個人情報・AIガバナンスの整備で32ポイントの差が見られます(図表7)。

図表7:次世代企業の特徴

次世代企業の 特徴

①経営・事業戦略に紐づく目的の明確度

人材データ分析の目的を経営・事業戦略と結びつけている企業は、その他企業では22%であるのに対し、次世代企業では72%に達しています。次世代企業では、人材データ分析が人事部門内の業務改善にとどまらず、経営課題の解決や事業上の意思決定を支える手段として位置づけられています。

どのデータを保有しているか、どの分析が可能かではなく、どの経営・事業課題に対応し、誰のどの判断を変えたいのかを起点としている点が、次世代企業の特徴です。

②人材データ準備・品質管理の整備度

人材データの収集、統合、標準化、品質管理など、分析の前提となるデータ整備を進めている企業は、その他企業では17%、次世代企業では62%であり、45ポイントの差があります。意思決定に用いる分析では、単にデータが存在するだけでは不十分です。データの定義、取得元、更新頻度、欠損、利用可能範囲を整理し、必要な時点で一定の品質を確保して利用できる状態にする必要があります。

データ基盤の価値は、多くのデータを蓄積することではなく、必要な意思決定に対して、信頼できるデータを提供できることにあります。

③人材データ分析の実践度

人材マネジメント上の各テーマにおける分析の実践度は、その他企業では5%、次世代企業では29%となり、24ポイントの差が見られますが、次世代企業でも3割未満にとどまっています。目的や基盤を整備した後、分析を継続的な実務へ落とし込むことは、先行企業にとっても容易ではありません。

次世代企業は、ピープルアナリティクスを全社に定着させた完成形ではなく、分析を意思決定につなげるための条件を先行して整え、実装を始めている企業群と捉えるべきでしょう。

④分析結果の展開度

人材データ分析・可視化の結果を、経営層、人事、マネージャーなどへ展開している割合は、その他企業では20%、次世代企業では33%です。両者の差は13ポイントと、他の指標に比べて小さく、次世代企業でも3分の1にとどまります。

この結果は、分析の目的やデータ基盤を整備した企業にとっても、分析結果を組織内へ広げ、実際の判断や行動に組み込むことが難しいことを示しています。ピープルアナリティクスの実装における最後の壁は、分析モデルの高度化ではなく、分析結果を現場の業務、会議、対話へ組み込むラストワンマイルにあると考えられます。

問われるのは、分析結果を共有したかではなく、分析結果によって判断や行動が変わったかです。

⑤分析人材・ケイパビリティの確保

育成、採用、配置、兼務、AIによる補完など、分析人材を確保するための施策の実践度は、その他企業では4%、次世代企業では42%となり、38ポイントの差があります。人材データ分析には、人事領域、経営・事業課題への理解、データ分析、データ基盤、現場展開、ガバナンスなど、複数の専門性が必要です。

これら全てを1人の担当者に求めるのではなく、課題設定、分析設計、データ整備、結果の解釈、現場展開、ガバナンスを役割として分け、組織として連携できる体制を構築することが実践の継続性を高めます。

⑥個人情報・AIガバナンスの整備度

個人情報保護やAI活用時の公平性確保など、データ・AI利用に関するガバナンスの整備度は、その他企業では40%、次世代企業では72%となり、32ポイントの差があります。ガバナンスは、高度なデータ・AI活用を制限するための仕組みではなく、安心して活用範囲を広げるための基盤として位置づけるべきです。

人材データを用いた意思決定の範囲が広がるほど、利用目的、データの取得・利用範囲、閲覧権限、分析結果の妥当性確認、最終的な判断責任、従業員への説明方法を明確にする必要があります。

次世代企業との比較から見えてくるのは、意思決定への反映実績の有無が、分析モデルの高度さだけでは説明できないという点です。

経営課題から分析目的を定め、必要なデータを利用できる状態にし、分析を担う人材を確保し、信頼できる形で結果を利用するプロセスまで整える。その一連の仕組みが、分析を意思決定へつなげる前提になります。

III.期待と実装の間にある3つの課題

調査結果からは、人材データ活用への期待が広がる一方、それを実際の意思決定につなげる仕組みが十分に整っていない状況が見えてきます。

その背景にある課題は、次の3つに集約されます。

課題1:分析テーマが、変えたい意思決定から設計されていない

人材データ分析の結果が、定常的または特定のプロジェクトにおいて、経営層の意思決定に反映された経験を持つ企業は32%でした。また、経営・事業戦略に紐づく分析目的が「明確」または「やや明確」とする企業は38%、人材データ活用への経営層の関心・投資意向が「非常に強い」または「やや強い」とする企業は44%でした(図表8)。

課題は、分析テーマが存在しないことではありません。

離職、配置、育成、採用、エンゲージメントなどを分析しても、その結果によって、誰のどの判断を支えるのかが曖昧であれば、分析は報告で終わります。例えば、離職率を可視化する場合も、どの人材層の離職が事業上のリスクとなるのか、どの時点で誰が対応を判断するのか、どのような施策の選択肢があるのかまで明確にする必要があります。

最初に定めるべきなのは、「何を分析するか」ではなく、「どの経営・事業課題に対して、誰が、どの選択肢を判断できるようにするか」です。

図表8:人材データ分析における目的設計・経営関与・意思決定反映の状況

人材データ分析における目的設計・経営関与・ 意思決定反映の状況

課題2:目的、データ、人材、ガバナンスが分断している

人材データ分析の専門組織を設置している企業は9%、データ基盤を構築・活用している企業は27%にとどまります。また、分析人材の育成施策について「特にない」と回答した企業は約4割でした(図表9)。

加えて、データの定義・項目を全社で標準化できている企業は30%、AI活用に関する説明責任、利用ルール、公平性の検証を整備している企業は21%にとどまります(図表10)。

課題は、個々の要素が不足していることだけではありません。

目的を定めても必要なデータが整わない、データ基盤を構築しても分析する人材がいない、分析できても利用する業務が決まっていない、といった分断が実装を妨げています。

全ての人事データを統合した基盤や、大規模な専門組織を最初から構築する必要はありません。優先度の高い経営・事業課題を選び、その意思決定を支えるデータ、役割、スキル、ガバナンスをユースケース単位で整えるほうが、実装への道筋を明確にできます。

図表9:推進体制・人材育成・データ基盤の整備状況

推進体制・人材育成・ データ基盤の整備状況

図表10:個人情報・AI活用に関する統制整備の状況

個人情報・ AI活用に関する統制整備の状況

課題3:分析結果を使う業務と行動が設計されていない

分析結果をマネージャーや従業員本人へ提供したいという意向は高まっています。しかし、情報を提供することと、実際に利用されることは同じではありません。

配置会議、要員計画、育成計画、1on1、キャリア対話などの業務プロセスに分析結果を組み込み、誰が、いつ、何を見て、どのような判断を行うのかを明確にする必要があります。

さらに、分析結果が実際に利用されたか、判断や行動が変わったか、期待した成果につながったかを確認し、分析内容や提供方法を改善する仕組みも欠かせません。

必要な人が、役割に応じてデータを利用できる状態をつくるだけでなく、データをより良い判断へ結びつけるところまで設計することが、人材データ活用の実装における論点となります。

IV.構想を実装へ変える4つの設計原則

3つの課題は相互に関係しています。

変えたい意思決定が曖昧なままでは、必要なデータや分析を定められません。また、データ、人材、体制、ガバナンスを個別に整備しても、分析結果を使う業務が設計されていなければ、継続的な利用にはつながりません。

構想を実装へ変えるには、次の4つの観点を、優先ユースケースごとに段階的かつ反復的に整えることが有効です。

1.経営・事業課題から、変えたい意思決定を定める

分析テーマは、人事指標や保有データの延長ではなく、経営戦略・事業戦略から逆算して定めます。事業計画に必要な人材をいつまでに、どの程度確保するのか、そのために育成、採用、配置、外部人材活用のどの手段を用いるのかを具体化します。

分析の開始時点で、対象となる課題、支援する意思決定、意思決定者、利用場面、期待する行動、成果指標を明確にすることが、実務活用の出発点になります。

2.実装条件をユースケース単位で整える

全ての人事データを統合した基盤や、大規模な専門組織を最初から整える必要はありません。まずは優先度の高い経営・事業課題を選び、その意思決定に必要なデータ、分析、利用者、業務プロセスを明確にします。

そのうえで、人事、IT、データ分析部門、事業部門などが、課題設定、データ整備、分析、施策への展開、現場支援、ガバナンスの役割を分担します。優先ユースケースから着手し、実践を通じて対象範囲を広げることが現実的です。

3.仕事・役割・スキルの変化を継続的に捉える

今後のピープルアナリティクスでは、現在の人員数やスキルを可視化するだけでなく、事業戦略やテクノロジーの変化によって、仕事や役割、必要なスキルがどのように変わるかを継続的に捉える必要があります。

将来必要となる人材と現在の人材とのギャップを明らかにし、育成、採用、配置、外部人材活用、AIによる補完などの選択肢を検討します。人材ポートフォリオやスキル情報を固定的な台帳ではなく、経営と人材の意思決定を更新する情報として活用します。

4.日常業務へ組み込み、効果を検証する

分析結果は、レポートとして提示するだけでは定着しません。経営会議、要員・配置計画、育成施策、1on1、キャリア対話など、実際の会議・業務・対話へ組み込み、誰が、いつ、どの情報を使って判断するのかを明確にします。

さらに、分析結果が意思決定や行動にどのような変化をもたらしたかを確認し、分析内容や提供方法を改善します。ピープルアナリティクスの実装とは、ダッシュボードを導入することではなく、分析結果を日常の判断へ組み込み、継続的に効果を高めることです。

まとめ

2026年の調査から、日本企業の人材データ活用は、社員・組織の状態を可視化する段階から、予測・最適化、生成AIの活用、マネージャーや従業員本人への情報提供を通じて、意思決定と行動を支援する段階へ移行しつつあることが分かりました。

一方、高度な分析に対する将来意向が71%に達するのに対し、人材データ分析の結果が、定常的または特定のプロジェクトにおいて、経営層の意思決定に反映された経験を持つ企業は32%です。また、意思決定への反映実績を持つ企業でも、分析結果の展開度は33%にとどまります。高度な分析への関心が高まる一方、分析結果を日常的な判断や行動へ組み込むことは、先行する企業にとっても課題となっています。

このギャップを埋めるには、経営・事業課題から変えたい意思決定を定め、その判断に必要なデータ、体制、人材、ガバナンスをユースケース単位で整えることが重要です。加えて、仕事・役割・スキルの変化を継続的に捉え、分析結果を経営会議、配置・育成、1on1、キャリア対話などの日常業務へ組み込み、効果を検証しながら改善していく必要があります。

今後問われるのは、「どれだけ多くの分析を行ったか」ではなく、「分析によって、どの意思決定と行動を変えたか」です。

ピープルアナリティクスは、人材を可視化する仕組みから、経営・人事・現場の判断を継続的に改善する仕組みへ移行する段階に入っています。

執筆者

野上 大

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

Email

迫田 航次郎

シニアアソシエイト, PwCコンサルティング合同会社

Email

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