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非財務資本は、今や企業の競争優位を構築するための源泉となっており、人的資本拡充の取り組み(人的資本経営)や開示内容に注目が集まっています。有価証券報告書における情報開示義務化や人的資本可視化指針の公表など、国内企業の情報開示に関する規制やガイドラインの制定は進んでいますが、企業が取り組むべきことは、規制やガイドラインに定義される項目をただ開示することではありません。求められているのは、事業戦略の実現や企業価値の向上のために必要な人的資本を定め、拡充に向けて体系的な取り組みを進めることです。加えて、人的資本拡充の取り組みや効果について、機関投資家をはじめとするステークホルダーに開示することも重要です。
人的資本に対する関心が高まる中、PwCコンサルティング合同会社(以下、PwCコンサルティング)は、国内企業の開示状況を2021年から継続的に調査しています。これまでは国内の主要90社を対象としていましたが、今年は日経平均株価(日経225)構成企業の225社に対象を拡大しました。調査結果を基に、国内企業の人的資本情報開示における最新のトレンドをお伝えします。
PwCコンサルティングは、人的資本情報開示の成熟度について、「人事施策と事業戦略・財務指標との連動性」「人的資本の価値を高めるアクションへの言及の十分性」の2つの軸を用いた4つの分類で構成するPwCコンサルティング独自のフレームワーク(図表1)に基づいて測定しました。
図表1:人的資本開示の成熟度を示す4分類
出所:PwC
※ 各年における調査対象企業は、以下のとおりです。
人的資本への取り組みと事業戦略との関係を明示し、人的資本の拡充に向けた取り組みや関連データを広く・深く開示している「4.統合型」の割合は53.8%まで増加しました(図表2)。2021年まで4分の3を占めていた「3.施策紹介型」からの遷移が進み、最も割合が大きくなっています。有価証券報告書における開示義務化や人的資本可視化指針の公表が行われる前の2021年の割合の約3倍に増加しており、国内企業の開示のステージ・課題は「開示の幅と深さの拡大」から「企業価値・事業戦略と人的資本の連動」へと移行していることが分かります。
図表2:国内企業の人的資本開示成熟度
出所:PwC
図表3では、調査対象企業を業種別に分類し、2024年の開示における「統合型」の企業の割合を示しています。
図表3:業種別に見る「4.統合型」の割合(2024年)
出所:PwC
「4.統合型」に分類される企業の割合は、金融業が95.0%と最も高くなっています。調査対象企業の平均(53.8%)や2番目に高い情報通信業(57.8%)と比べて大きな差があります。金融業は、無形商品をサービスとして提供する事業を推進する上で人的資本の重要性が高いことや、事業ポートフォリオ変革とそれを担う人材の獲得・育成、組織文化変革が経営の重要テーマとなっていることなどが背景にあると考えられます。
今回(2024年)の調査では「4.統合型」の割合が最も大きくなっていますが、人的資本の取り組みと企業価値向上・事業戦略実現との関係性の示し方はさまざまです。各社の実態を詳細に把握するために「4.統合型」に該当する企業を以下の3つにパターンに分類しました(図表4)。
図表4:「4.統合型」における成熟度を測る3つの分類
出所:PwC
また、日経平均株価(日経225)構成企業のうち、2023年および2024年の開示内容が「4.統合型」と分類された企業について3分類の内訳を示したものが図表5です。
図表5:「4.統合型」における人的資本への取り組みと事業戦略の関連性の明確さ
出所:PwC
「4-A.要素分類型」は、それぞれの年において「4.統合型」企業の半数以上が該当する類型となっており、2024年の74.4%は前年から16.2pt増加しています。該当企業数は、2023年の39社に対し2024年は90社と2倍以上の水準です。
「4-B.KPI設定型」と「4-C.パス明示型」の割合は、いずれも2023年から2024年にかけて減少していますが(「4-B.KPI設定型」は34.3%から19.8%、「4-C.パス明示型」は7.5%から5.8%)、該当企業数におおむね変化はありません(「4-B.KPI設定型」は23社から24社、「4-C.パス明示型」は5社から7社)。また、「4-B.KPI設定型」と「4-C.パス明示型」に該当する企業が2023年と2024年でほぼ一致していることも確認できました。
以上より、2023年から2024年にかけて、「3.施策紹介型」から「4.統合型」へ遷移した企業のほとんどが「4-A.要素分類型」であり、事業戦略と人的資本関連施策の関係性の説明には高度化の余地がある状況にあることがわかります。
今回の調査では人的資本経営の領域のうち、機関投資家などが特に着目する3つのテーマ「Diversity, Equity & Inclusion(以下、DEI)」、「人材ポートフォリオ」、「組織文化」について、各社の開示状況を調査しました(図表6)。
図表6:機関投資家などが特に着目する3つのテーマの開示率
出所:PwC
※1)各テーマにおいて自社の目指すべき状態やその実現に必要な施策および施策効果を測定するKPIを記載している企業
※2)戦略的・計画的に獲得・育成する人材タイプとその要件を記載している企業
DEIをテーマとした開示は、2023年、2024年のいずれにおいても90%を超える企業が対応しており、開示率も上昇しています。女性活躍推進法において女性管理職比率や男女の賃金の差異の開示が義務化されるなど、企業に対して女性の活躍に関する情報公開が求められたことが大きいと考えられます。
事業戦略の実現に必要なスキル等を有する人材の戦略的輩出を企図した人材ポートフォリオに関する開示率は、2023年から2024年にかけて5.8pt増加していますが、開示率自体はいずれの年もまだ10%台と低位にとどまっており、開示の取り組みは道半ばであることが伺えます。
社員一人一人の活躍の源泉となる組織文化に関する開示率も2023年から2024年にかけて増加しており、その差は16.9ptと他のテーマより大きく伸びています。各企業の人的資本経営において、個人に対する取り組みに加え、関係性や組織文化に対して重要性の認識が高まり、取り組みも進んでいることが伺えます。
機関投資家などが着目するいずれのテーマにおいても開示率が向上していることから、各企業が読み手のニーズに応える開示に努めていることが伺えます。
人的資本情報開示においては、企業価値向上や事業戦略実現に向けて必要な人的資本の拡充に向けた目標や達成に向けた取り組みが効果を創出していること、課題の有無や対応方針などをステークホルダーに示すことが重要です。PwCでは取り組みの効果や課題などの開示内容を踏まえて成熟度を4段階で設定しています(図表7)。
図表7:人的資本に関する取り組み内容の開示成熟度
出所:PwC
日経225を構成する国内企業うち、統合報告書などで人的資本情報を開示している215社を対象に、人的資本への取り組み内容の成熟度を表した結果は図表8のとおりです。
図表8:国内企業の人的資本に関する取り組み内容の開示成熟度(2024年)
実施施策の説明にとどまるLv.1と実施施策およびその効果を説明するLv.2に該当する企業の割合は98.1%に上り、今後の課題や課題に対する対応策を説明しているLv.3およびLv.4に該当する企業の割合はわずか1.9%となっています。
課題に対して言及せず、人的資本経営において「効果を創出していること」や「取り組んでいること」のみを開示し、課題について言及しないことはステークホルダーからネガティブな側面が開示されていないのではないかと捉えられる可能性があり、開示内容に対する読み手からの信頼にマイナスの影響を及ぼす可能性があります。
今回の調査では、人的資本への取り組みを自社の事業戦略と結びつけることにより、企業価値向上や将来性のアピールを図る企業が増加する一方、多くの企業が人的資本と事業戦略との関連性の明確化に向けて高度化の余地があることが明らかになりました。また、人的資本への取り組み対する課題や対応策を開示することで、開示内容に対する信頼性を向上させられる企業が多いことも併せて分かりました。
人的資本経営に取り組む目的は、人的資本(人材・組織)という資本の価値を最大化し、事業戦略の実現や企業価値向上につなげることあり、人的資本情報開示はその成果などを社外へ発信できる 機会です。今回の調査結果が、各社の人的資本開示のみならず、人的資本(人材・組織)の価値を最大化する人的資本マネジメントにおいても高度化に向けた一助となれば幸いです。
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