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2020-09-07
銀行・証券業界のディール活動は、歴史的な低金利や景気回復が遅延する可能性、ローンポートフォリオへの圧力といったさまざまな課題に業界が直面したことで停滞した。現状、多くの金融機関が今後の成り行きを見守る姿勢をとっているが、COVID-19の影響は地域や業界ごとに異なっている。この状況は、新たな買収ターゲットの登場などディールの機会を創出する可能性がある。来年には、健全な銀行が窮地にある銀行を買収するなど、新たな業界再編が進むと予想される。
「銀行はCOVID-19の世界的な大流行に対峙し、奮闘する中で、ローンポートフォリオの安定化やコストの抑制、また資本配分と成長戦略の見直しを試みている。勝者と敗者が明らかになることで、業界が待望していた統合の引き金となるかもしれない」
銀行・証券業界における2020年上半期の公表済み取引金額は201億米ドルとなった。これは、2019年上半期の半分以下の金額である。ほぼ全ての取引が1月と2月に集中しており、COVID-19が拡大するにつれ、ディール活動は停滞した。実際、2020年第2四半期に公表された取引はわずか3件であり、取引金額合計は1億3,500万米ドルにとどまっている。
2020年は、Morgan Stanleyが131億米ドルでE*TRADE Financial Corp.(以下、E*TRADE)の買収を提案し、好調なスタートを切った。投資銀行手数料やその他の高額な取引収益のボラティリティを相殺しようとする大企業は、経常収益のある証券会社やウェルスマネジメント会社に引き続き関心を寄せている。
2020年2月、Morgan StanleyはE*TRADEの買収計画を発表した。この発表は、Charles Schwab Corp.がTD Ameritrade Holding Corp.の買収に最終合意した数カ月後のことだった。Morgan Stanleyは今回の買収計画を発表した際、3,600億米ドルの資産を持つ個人顧客520万人と560億米ドルの預金を持つオンライン銀行事業の獲得を見込んでいた。買収・統合後は資産運用収益がMorgan Stanleyの主な収益源となるだろう。
South State Corp.は6月、CenterState Bank Corp.の買収を完了した。当該取引は、1月に32億米ドル相当の対等合併(MoE: Merger of Equals)として発表されたものであり、有形簿価純資産の希薄化を最小限に抑えつつ、コスト削減を完全に達成することができた場合、EPS(Earnings Per Share)が20%以上増加することが予想されている。South State Corp.は2022年までに年間8,000万米ドルの純コスト削減を段階的に実施する見通しであり、これは2020年の推定非利息経費(合計)の約10%に相当する。合理的に達成可能なシナジーがあり、TBV倍率が低く、コントロールプレミアムが低いもしくはゼロの地域銀行間では、対等合併のトレンドが今後数カ月にわたって続くと考えられる。
6月、Pacific Premier Bancorp, Inc.は2月に発表したOpus Bankの買収を完了した。全額株式交換による買収は当初11億米ドルという評価額だったが、Pacific Premier Bancorp, Inc.によると、今回の買収により、総資産はおよそ200億米ドルに増加した。
2020年第1四半期の平均P/TBV倍率は、2019年第4四半期と比べて6%低下し、第2四半期にはさらに27%低下した。COVID-19の影響が銀行セクターや経済全体に波及したことで取引件数は減少した。
(注)2020年第1四半期の平均P/TBV倍率の計算からは、Morgan StanleyとE*TRADEの取引は除外している。同社が銀行業・資産運用業の両方を行っていることに鑑みると、当該取引のインプライドP/TBV倍率は、銀行のみを対象とした他の取引の倍率と比較しても有益な分析にならないと判断したためである。
2019年の3回の金利引き下げを経て、投資家は米連邦準備制度理事会(FRB)が金利を引き上げることを織り込み価格設定を行っていた。しかしFRBは、COVID-19の感染拡大を受けて金利をゼロ近くまで引き下げた。銀行株価は、預貸利ざやの縮小、失業率の上昇、原油価格の下落、クレジット市場の混乱に対する投資家の懸念が高まる中で下落した。
信用リスクが比較的大きい、または手数料ビジネスが盤石ではない金融機関、つまり地方銀行やコミュニティ銀行株の下落は最も深刻であった。トレーディングデスクを持つ企業では、投資家がポートフォリオをリバランスし、ヘッジ戦略を調整したことでショックが緩和され持ちこたえた。
多くの銀行のマルチプルは、財政・金融刺激策の導入や経済データの改善の兆しを受けて回復しているようである。しかし市場は依然として極めて不安定であり、バリュエーションも安定しているとはいえない。
背景
COVID-19に関連する複数の要因が銀行・証券会社の動揺を招き、2020年上半期のM&A活動を抑制した。
課題
上記のようなプレッシャーから、銀行・証券業界は長期化する低金利・マイナス金利環境を踏まえた事業モデルの見直しを検討し始めている。2020年上半期は銀行が株式の取得を進めたが、多くのディールメーカーはバリュエーションと機会がより明確になるまで、M&Aには様子見の姿勢をとっている。歴史的な低金利環境の長期化は、統合やその他の戦略的M&Aによる銀行の変革を加速させるだろう。
6月に国際通貨基金(IMF)が予測したように、回復の遅れは世界金融へのストレスを増大させ、統合やディール活動に拍車をかける可能性がある。FRBは6月、米大手銀行が年次のストレステストを通過したことを発表した際、景気後退が最終的には多額の貸し倒れにつながるかもしれないと警告した。FRBは配当支払いに上限を設け、第3四半期に自社株買いの停止を要請している。また2020年後半に、現在の状況を反映し更新した資本計画を再提出するよう銀行に求めている。
借り手に対する連邦政府の支援が縮小するにつれ(そして多くの州でロックダウンが緩和された場合)、銀行・証券会社は事業の安定性の確保から、COVID-19の影響下で顕在化したM&Aなどの戦略的機会の特定に比重を移していくだろう。先行きは厳しいが、現在の不安定な状況は銀行・証券会社の変革を促し中長期的な成長を加速させる機会となる。
こうしたことはいずれも、実際に起こるまで時間を要するだろう。銀行・証券会社はしばらくの間、変革やディールの推進につながる次のような課題に直面する可能性が高い。
業界の向かう先:M&Aを通じた変化への適応
コロナ危機から脱する際、多くの銀行の状況は恐らく2020年初めと大きく異なっているだろう。COVID-19の世界的流行と景気後退により、需要と供給のダイナミクスは大きく変化しており、銀行・証券業界の中で勝者と敗者が出てくると考えられる。多くの銀行が自行の課題を全側面から十分に理解し収益性を安定させるとともに、いかに成長戦略を歴史的低金利環境に合わせて調整すべきか検討する必要がある。一部の銀行は現在の不安定な状況を抜け出した後も困窮状態のままとなり、バランスシートの強い銀行にM&Aの機会を提供する可能性がある。
今後数カ月のディールのペースは、借り手の信用見通しやクレジット市場の安定性に左右される。通常、不確実性はM&A活動を抑制するものであり、買い手はローンポートフォリオの信用力を正確に把握できていない銀行との取引を控えるだろう。
この突然かつ極端な変化は、多くの企業を統合へと向かわせるかもしれない。企業は買収により、景気後退から早急に回復する可能性が高い業界やリテール顧客への足掛かりを得ることができる。バリュエーションはまちまちだが、市場の変動を受けて、買収対象企業の一部は合理的な価格設定をする可能性がある。事業能力を強化し、変化し続ける市場にコストが許容する範囲で適応していくためには、パートナーシップと協力が不可欠であろう。
本レポートにおけるM&A取引の定義は、ターゲットが米国を本拠とする銀行・証券業界関連(BCM)の会社であり、かつ買収者が米国または海外の買い手である合併・買収としています。当社の見解は、業界で認知された情報源から提供されたデータに基づいています。本レポートで使用した金額および件数は、2020年6月30日現在でCapital IQにより提供された、取引額公表済み取引の発表日に基づいており、これに当社の追加的調査を加え、補完したものです。
過去の期間に関係する情報は、過去に完了しているもののデータセットには反映されていなかった取引についてCapital IQが収集した新データに基づき、定期的に更新しています。取引情報はCapital IQを出所とし、買い手またはターゲットがBCM業界のサブセクターに該当する取引が含まれています。BCM業界のサブセクターには、商業銀行・リテール銀行、消費者金融、総合金融サービス、ノンバンク、投資銀行、証券会社が該当します。データ情報源では金融サービスに分類されていても、当社ではテクノロジーやその他のセクターに分類する(またはその逆の)取引があるため、情報に一定の調整を加えています。
翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。
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M&Aアドバイザーとして、ソーシングから取引実行まで高い専門性を持ち一貫して支援します。また、クロスボーダーや不動産などの領域においても幅広い経験を有しています。