米国資産運用業界 2019年第4四半期のM&Aに関するインサイト

2020-03-13

2019年、資産運用業界の取引件数・金額は過去最高を記録

2019年第4四半期、資産運用業界の取引件数は50件となり、堅調に2019年を終えた。これにより、通年の取引件数は過去最高の212件となった。また、2019年は取引金額も過去最高を記録した。公表済み取引金額の合計は、2018年の2倍以上の416億米ドルに上る。11月に行われたCharles Schwab Corp.によるTD Ameritrade Holding Corp.の260億米ドルの買収が取引金額の合計を大きく押し上げた。

取引の勢いは今後も続くと予想される。手数料引き下げへの継続的な圧力や、多くの会社で運用資産残高(AUM)が縮小していること、そして資産運用業界と保険業界の間で進む融合は、準大手以下の会社にとって大きな試練となり、2020年も統合や資産運用業界のM&Aが相次ぐと見込まれる。

「過去5年間でミューチュアルファンドの資産運用残高が30%縮小するという厳しい現実もあり、資産運用セクターでは統合が続いている。私たちは2025年までに資産運用会社の少なくとも20%が買収されるか、撤退すると予測している」

Greg Peterson, Financial Services Deals Leader

トレンドとハイライト

ウェルスマネジメント

2019年第4四半期のウェルスマネジメントの取引件数は前四半期比で増加し、2019年通年では過去最高の105件となった。一方、2019年の公表済み取引金額の合計は2018年より減少した。取引の大部分は、取引金額を非公表にすることが多い、小規模なファミリーオフィス向けウェルスマネジメント会社の買収であった。当該サブセクターを引き続きけん引するのは、統合と「リピート買収者」である。例えば、Mercer Global Advisors Inc.は第4四半期中に4件の買収を発表した。2020年も、取引件数は堅調に推移すると予想する。

トラディショナル

2019年第4四半期のトラディショナルな資産運用業の取引件数は14件と、前四半期比で横ばいとなった。これに対し、2019年の取引金額は、11月に行われたCharles SchwabによるTD Ameritradeの260億米ドルの買収(全業界を通じて最大規模となった買収案件の一つ)にけん引され、前年比で3.8倍の大幅増となった。Schwab/TDの大型案件を除くと、第4四半期と2019年通年のいずれの合計金額も比較的低い水準となる。規模の拡大と利益率向上への圧力から、取引件数は今後さらに増加すると予想する。一方、競争力を維持すべく性急に取引を行った結果、バリュエーションマルチプルが低下する企業も出てくるだろう。

オルタナティブ

オルタナティブ資産運用のサブセクターにおいて2019年第4四半期に公表された取引は、前四半期の11件から減少し、9件にとどまった。その主因は、ヘッジファンドとCLOによる取引が大幅に減少したことにある。プライベート・エクイティ投資(主にマイノリティ投資)は増加したものの、全体の減少は補いきれなかった。通年の取引件数は前年とあまり変わらないが、公表済み取引金額は2018年に比べて167%増加している。これは、Brookfield Asset Management Inc.によるOaktree Capital Groupの117億米ドルでの買収によるところが大きい。

アドミニストレーション/その他

「アドミニストレーション/その他」のサブセクターの動きは予想どおり比較的静かなものとなり、公表済み取引件数は第4四半期で1件、2019年通年でも7件にとどまった。2019年の公表済み取引金額は3億8,500万米ドルであったが、2018年はゼロ件(取引金額が公表された取引はなし)だった。

2019年下半期において、取引金額が公表された取引はゼロ件(2017年と2018年もゼロ件)。このサブセクターは小規模であり、2020年は、取引件数と金額ともに比較的横ばいで推移するものと予想される。


M&A取引のハイライト


2019年の主要テーマと2020年の見通し

資産運用業界においてこれほど統合の機が熟していたことはない。このセクターのビジネスモデルや手数料体系に関する根本的な問題、また後述するその他のトレンドもあり、今後数四半期は統合の波が押し寄せると予想される。資産運用やウェルスマネジメント企業の役員はさまざまな問題の解決に忙しく取り組んでいるが、一番の懸念は、次に起こるのは何かということである。次の変革の波はミューチュアルファンド業界に押し寄せることになりそうだ。ミューチュアルファンドは競争力とその存在意義の維持に決断力をもって行動することが求められる。彼らの動きが今後のM&A取引をけん引していくことになるだろう。

  • ミューチュアルファンドの脆弱性:私たちは最近の調査において、2025年までに、ミューチュアルファンドの20%が買収されるか、撤退すると予想している。業界全体としては成長しているものの、一部のトッププレイヤーに資産が集中する傾向が強まっている。このトレンドは今後も続くだろう。投資家離れが進むアクティブ運用のマネージャーが生き残るためには進化が求められ、むしろ統合が必要となる可能性が高いと考えられる。株式市場が沈静化すれば運用会社の手数料引き下げが進むと予想される。株価上昇の追い風が2020年も継続すると期待すべきではない。
  • ディスカウントブローカーの価格競争:Charles Schwabにならい、2019年第3四半期には複数の大手ディスカウントブローカーが、株式とETF取引の手数料を廃止した。ビジネスモデルの抜本的な転換を受け、11月にはTD Ameritradeが約260億米ドルの全額株式交換取引によりCharles Schwabに売却されることになった。これと同等規模の取引は2020年にはないかもしれないが、今後、大小さまざまなディスカウントブローカーが関与する統合や買収が再び相次ぐと予想する。ここ数カ月、多くの証券会社が、統合やその他の戦略的なオプションを検討する用意があると公言している。
  • 資産運用と保険の融合:保険会社と資産運用会社の融合により、二つのサブセクターの境界が曖昧になりつつある。このトレンドは今に始まったものではないが、二つのサブセクター間における取引が双方向で加速している。最近では、Assured Guarantyが、収益源の多様化を目指して、クレジットファンドマネージャーであるBlueMountain Capital Managementを取得した。資産運用会社が運用資産残高の拡大を目指して保険会社を買収することも予想される。また、こうした取引は安定的な資金源と長期にわたる手数料収入ももたらすものと考えられる。
  • オルタナティブの運用成績に対する圧力:2019年は上場株式市場のリターンが好調だっただけに、ヘッジファンドにはまたも困難な年となった。オルタナティブ運用会社は引き続き運用成績への圧力を受け、投資家からの解約リスクにさらされている。運用成績の低迷が続けば、投資家はこのサブセクターへの資産配分を引き下げる可能性がある。一方で、プライベート・エクイティ投資の人気は衰えず、積極的にM&Aに関与していくと思われる。2019年にはいくつもの新たな資産運用会社がマイノリティ出資分野に参入し、プライベート・エクイティへの投資を行い、流動性を提供した。Neuberger Bermanの一部門であるDyal Capital Partnersは最近、そうした投資に特化した新ファンドのために90億米ドルを調達したと発表している。
  • 環境問題への意識:環境リスクに対する社会的関心が高まっている。そして、資産運用業界も企業の持続可能性に対する取り組みの影響を避けられないだろう。商業銀行は貸出の約定を行う際、環境やビジネスモデルの持続可能性を審査している。また、BlackRockは、「持続可能性リスクの高い」投資から離脱する先駆けとなっているようである。他社がBlackRockに続かねばならないという圧力を感じ、世界中の投資活動に広範な変化が表れるのは時間の問題であろう。

データについて

本レポートにおけるM&A取引の定義は、ターゲットが米国を本拠とする会社であり、かつ買収者が米国または海外の買い手である合併・買収としています。事業売却の定義は、米国を拠点とする売り手による(会社全体の売却ではなく)会社の一部売却です。当社の見解は、業界で認知された情報源から提供されたデータに基づいています。本レポートで使用した金額および件数は、2019年12月31日現在でThomson ReutersとS&P Global Market Intelligenceにより提供された、取引の発表日に基づいており、これに当社の追加的調査を加え、補完したものです。

過去の期間に関係する情報は、過去に完了しているもののデータセットに反映されていなかった取引についてThomson ReutersとS&P Global Market Intelligenceが収集した新データに基づき、定期的に更新しています。取引情報はThomson ReutersとS&P Global Market Intelligenceを出所とし、ターゲットが資産運用・ウェルスマネジメント(AWM)業界のサブセクターの一つに該当する取引が含まれています。AWM業界のサブセクターには、トラディショナル資産運用、オルタナティブ資産運用、ウェルスマネジメント、アドミニストレーション・その他(ファンドアドミニストレーターなど)が該当します。データ情報源では金融サービスに分類されていても、当社ではテクノロジーやその他のセクターに分類する(またはその逆の)取引があるため情報に一定の調整を加えています。

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