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本レポートは、PwCが発行した『2026 AI Jobs Barometer Two futures for jobs in an AI era』(日本語翻訳版PDFレポート)をベースに、日本の労働市場データを新たに加えて分析したものです。『2026 AI Jobs Barometer』は、6大陸・27の国と地域、約10億件(うち日本は約1,120万件)の求人広告を対象に、2018年~2025年のデータからAIが職種・スキル・賃金・生産性に及ぼす影響を可視化したPwCによるグローバル調査です。
昨年のレポートでは、「AIは労働者の仕事を奪うのではなく、その価値を高める」ことを、精緻なデータ分析を通じて明らかにしました。それから1年、AIと労働市場の関係はさらに進化しています。今年見えてきたのは、AIが労働市場を「二極化」させ、企業と働き手の関係を根本から再構築しつつあるという事実です。AIを効率化のツールとしてしか活用できていない企業と、事業と組織を再構築する成長エンジンとして使いこなしている企業に二分しつつあり、生産性、雇用、賃金の全てにおいて両者の差は開き始めています。
併せて本稿では、日本企業のAI活用実態を捉える視点として、PwC Japanグループが実施した『生成AIに関する実態調査2026春 6カ国比較』および『CAIO実態調査2025』の結果も参照しつつ、求人広告データが示す「労働市場に表れた変化」と、企業へのアンケートが示す「経営・組織の変化」を重ね合わせることで、日本のAI活用の到達点と次の課題をより立体的に描くことを狙っています。
本レポートが、グローバルの潮流を踏まえた日本の現在地を理解し、日本企業がさらなるAI活用を推進するための戦略策定の一助となれば幸いです。
AIを単なる効率化ではなく、「事業と組織を再設計する成長エンジン」として使いこなす先進企業は、生産性のみならず、雇用・賃金の伸びにも加速が見られます。労働市場においても、AIによる職の「専門化(Professionalised)」と「民主化(Democratised)」への二極化が進んでおり1、両者の間で求人成長と賃金の伸びに大きな差が生まれています。
二極化はエントリーレベルの職種にも及んでいます。AI影響度が高いエントリーレベルの職種は、AI影響度が低いエントリーレベルの職種の7倍の確率で、戦略的意思決定・リーダーシップ・チームビルディングといった従来上級職に求められていたスキルが要件となっていることが明らかになりました。さらに、AI影響度が高い職種では、共感力・判断力・創造性・リーダーシップといった「人間ならではのスキル2」を必要とする新規タスクが、AI影響度が低い職種の2.5倍のスピードで追加されています。AI時代の勝負を分けるのは、単に「AIには代替されない能力」を持つことではありません。AIが知識の生成や分析、判断支援に広く関与するほど、何を課題とするかを定め、曖昧な状況で判断し、その結果に責任を持ち、他者との信頼を形成する「人間ならではの能力」の価値が、これまで以上に高まると考えられます。
ひるがえって、日本の生成AI活用状況はどうでしょうか。PwC生成AI実態調査2026春(6カ国比較)によると、生成AI活用・推進率こそ87%に達し主要国と肩を並べました。しかし、その先の「効果創出」と「成果還元」の段階で、日本は依然として大きく劣後しています。
日本は生成AI活用による効果創出が進んでいない状況です。期待を大きく上回る効果を創出している企業の割合は、日本が9%と6カ国で最も低く、期待未満と回答した割合は日本が19%と6カ国中でも高い水準です。さらに、生成AI活用の効果を「まだ評価できていない」とする割合は、米国は0%、その他の国もおおむね数%にとどまるのに対し、日本は13%と相対的に高い水準です。日本では、効果を測定し、改善につなげる仕組みづくりにも課題が残っていることがうかがえます。
図表1:AIによる効果創出
加えて、AI活用の成果の人材や顧客への還元も日本は相対的に遅れていると言えます。生成AIで得た成果を従業員の待遇改善や顧客への価格還元といった財務的還元につなげている日本企業は40%と、米国75%・英国74%に大きく水をあけられ、6カ国で最も低い水準です。AI活用から得られた原資を、人的資本投資や顧客価値へ再投資する好循環の構築には、まだ至っていません。
図表2:AIによる成果還元
これまで見てきたAI活用による効果創出や人材への成果還元の遅れは、日本の労働市場データからも見てとれます。
『AI Jobs Barometer 2026』によると、グローバルの傾向としては、AI影響度が上位の職種ほど求人件数が多い傾向が確認されます。一方、日本ではAI影響度に関わらず求人がほぼ均等に分布しており、「AI影響度に応じた採用の重点化」が労働市場に表れていません。
図表3:AI影響度別求人数
一方で、求人で求められるスキルの変化を見ると、グローバル同様日本においても、AI影響度が高い職種ほど変化が大きい傾向が確認されています。これは、日本では雇用需要が幅広い職種で拡大する一方、仕事の内容や必要な能力は、AI影響度の高い職種から先に変わり始めていることを示唆しています。
図表4:AI影響度別スキル増加数
したがって、AI影響度は、採用を特定職種に集中させるための単純な優先順位というよりも、どの職種やタスクで仕事とスキルの再設計を急ぐべきかを見極めるためのレンズとして捉える必要があります。企業に求められるのは、AI影響度が高い職種の採用数を機械的に増やすことではなく、職務をタスク単位で捉え直し、変化するスキルを採用、育成、配置、評価、処遇へ反映することです。
とりわけ処遇面では、日本におけるAIスキル保有者への賃金プレミアムがグローバル平均に大きく劣後しています。AI時代の競争力の確保に向けた日本企業の課題は、特定のAI専門人材の採用数だけではなく、AIによる仕事とスキルの変化を、採用、育成、配置、評価、処遇の仕組みにおいてグローバル水準で十分反映できていない可能性があると考えられます。この対応が遅れれば、将来的なAI人材の獲得・定着競争において不利になるリスクがあります。
図表5:賃金プレミアム
なお、ここでいう「AI人材」は、AIエンジニアやデータサイエンティストなどの専門人材だけを意味するものではありません。人材戦略として、AIを開発・管理する専門人材に加え、AIと業務を接続する人材、各部門でAIを活用して顧客価値や業務成果を生み出す人材までを対象として設計する必要があります。
以上のグローバルと日本における生成AIの活用状況および労働市場への影響の示唆を踏まえ、日本のビジネスリーダーに向けて、以下の4つを提言します。
AIを人員削減や既存業務の効率化に使うのではなく、新収益・新市場・新価値の創出、業界の垣根を越えたパートナーシップの実現手段として位置づけましょう。グローバルで生産性を平均163%成長させた「スーパースター企業(AI影響度が最も高い企業のうち、最も生産的な上位20%の企業)」の共通項は、AIをコスト削減ではなく成長機会の追求に使っていることです。特にAIエージェントの普及は、AIが従業員の個別作業を補助する段階から、業務プロセスの一部を担う段階への移行を意味します。これに伴い、職務の境界、人とAIの役割分担、管理職の役割、人が担う判断と責任、チームの構成そのものを再設計する必要があります。
AIは職種を「専門化(Professionalised)」と「民主化(Democratised)」への二極化へと再構築しつつあります。専門化される職種では、AIリテラシー・人間ならではの能力・専門人材への深い投資と定着策を、民主化される職種では、業務プロセスとキャリアパスの再設計を、というように、職種特性に応じて打ち手を使い分けることが不可欠です。
AI影響度が高い職種では、共感力・判断力・創造性・リーダーシップといった「人間ならではの能力」を要件とする新規タスクが、AI影響度が低い職種の2.5倍のスピードで追加されています。AI時代のスキル戦略では、AIを使いこなすリテラシー・実装スキルと、AIには代替されにくい人間ならではのスキルを、対立するものではなく同時に育てるべき2つの柱として位置づける必要があります。特にリーダーシップ・判断力・創造性の育成は、AIリテラシー教育や利用促進策と同等の優先順位を持つべきです。
エントリーレベルの職種においても同様の変化は起きており、AI影響度が高いエントリーレベルの職種では、従来上級職に求められていたスキルが新人にも要件化されつつあります。「単調な下積み時代」を通じて徐々に一人前になるという従来の育成モデルは前提が崩れつつあり、AI時代に競争力を生み出すキャリアパスと、それを支える育成モデルへの転換が急務です。
日本企業がAI活用を成果に繋げるためには、AI戦略の策定から実行までを部門横断で統括するリーダーシップが必要です。PwC Japanグループ『CAIO実態調査2025』によれば、CAIOを正式に設置している企業は22%であり、同等の責任者を含めると60%に達します。また、CAIO設置企業では、未設置企業と比較して、業務・技術・管理の全領域でAI活用推進度が20ポイント以上高いことが確認されています。これは、CAIOを設置すれば自動的に成果が生まれることを意味するものではありませんが、一方で、経営に近いAI統括機能と、AI活用の進展との間に強い関連があることを示しています。そのため、PwC JapanグループではCAIOを「AI戦略の立案から実行までを統治し、責任あるAIによる変革を主導する経営幹部。社内外ステークホルダーとの連携を通じて、事業価値創出とリスク管理の両立を担う」と定義しています。
変化局面で人は本能的に現状維持バイアスに向かうため、AI戦略は現場で自然には実装されません。組織リーダーが「なぜ変わるのか/自分の仕事とどう関わるのか/何を手放し何を獲得するのか」を一人ひとりが腹落ちできる状態を作れるかどうかが、AI活用の成否を分けます。リーダーシップ開発・チェンジマネジメント・現場浸透支援への投資は、日本企業にとってAI投資と並び、もうひとつの不可欠な投資なのです。
AI活用の成否を分けるのは、AI技術そのものではありません。従来注目されてきた人的資本の管理対象は、これからの時代、人材のみが対象ではなくなり、「AI資本」と「人的資本」の2つの資本のバランスをいかに考えていくかが重要になっていきます。両輪への適切な投資とリーダーシップの発揮がなければ、この変化の時代は勝てないでしょう。日本企業が生成AIの効果を実感できていない背景には、①戦略スピードの浸透の遅さ、②人的資本投資の遅さ、③変化に対する現状維持バイアスへの働きかけ不足といった課題があります。裏を返せば、リーダーシップ開発・チェンジマネジメント・現場浸透支援に投資できる企業こそが、生成AIを生産性の大幅向上に活用できる道を歩む可能性が高いと言えるでしょう。
PwCコンサルティング合同会社
執行役員 パートナー
組織人事コンサルディングリーダー
北崎 茂
1 本レポートでは、AIによる職種変化を「専門化(Professionalised):AIによって再構築され、より高度な専門性が求められるようになった職種」と「民主化(Democratised):AIによって再構築され、より低い専門性でも対応できるようになった職種」の2つに分類している。前者の例は放射線科医やリクルーター、後者の例はITサービスマネージャーや医療秘書など。
2 ここでいう「人間ならではのスキル(human-intensive skills)」とは、MITスローン経営大学院のIsabella Loaiza氏とRoberto Rigobon氏が提唱したEPOCHフレームワーク("The EPOCH of AI:Human-Machine Complementarities at Work")を指す。
AIが代替しにくく、むしろAIと補完し合う人間ならではの5つの能力群(Empathy(共感力)、Presence(存在感/対面での関与)、Opinion(意見・判断・倫理)、Creativity(創造性)、Hope(希望・リーダーシップ))の頭文字を取ったもの。『AI Jobs Barometer 2026』は本フレームワークをベースに、AI影響度が高い職種でこれらの能力を要件とする新規タスクが増加していることを示している。
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