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2023年から継続的に実施している「生成AIに関する実態調査」では、2024年春に生成AI活用による効果創出の二極化の兆しを、2025年春には5カ国比較を通じて日本企業の効果創出の遅れを明らかにしてきました。2026年春版では、新たに韓国を加えた6カ国比較により、生成AIの本番活用が広がった現在、次の競争軸が「導入」ではなく、「効果創出」と「成果還元」へ移っていることを明らかにしています。
日本企業の生成AI活用・推進度は87%に達し、米国などと大きく見劣りしない水準まで拡大しました。一方で、期待を大きく上回る効果を創出する企業の割合は6カ国で最も低く、効果発現までの想定期間も米国より長い傾向が見られます。また、生成AIで得た効果を「従業員への利益還元」や「顧客への価格還元」といった財務的還元に繋げる割合も低く、活用から効果創出、成果還元へ至るサイクルの構築が課題となっています。
本レポートでは、まず日本企業における生成AI活用の現在地を確認します。そのうえで、米国・英国・中国・ドイツ・韓国との比較を通じて、日本企業が効果創出や従業員・顧客への成果還元において、どこに課題を抱えているのかを明らかにします。また、期待を上回る効果を創出している企業に共通する要素を、AIを業務や事業に使えるようにするための備え(AI Readiness)、価値・品質・リスクを実装に落とし込む評価の仕組み(Evaluation)、従業員の活用意欲と顧客接点の質を高める起点(Activation)の3つの観点から整理します。
この1、2年で、生成AIは単なる技術トレンドではなく、事業モデルや業務、顧客接点のあり方に大きな影響を及ぼす技術として、改めて認識されるようになりました。各国では、生成AIをビジネス変革のチャンスととらえる意識が高まる一方、既存ビジネスの競争力や存在意義を揺るがす脅威としての危機感も強まっています。しかし、こうした意識の高まりに対して、日本企業の活用実態はなお既存業務の効率化や個別タスクの支援が中心であり、ツール利用の域を出ない面があります。期待を上回る効果を生み出すこと、さらにその効果を従業員や顧客が実感できる価値として還元することには、まだ課題が残っています。本レポートでは、この意識と実態のギャップを踏まえ、日本企業が生成AI活用を継続的な変革と企業価値向上に繋げるための方向性を提示します。
PwC Japanグループは、「生成AIに関する実態調査2026 春 6カ国比較―AI変革は選択肢から生存条件へ 変わりゆく世界に日本企業は追いつけるのか―」を実施し、日本企業と米国・英国・中国・ドイツ・韓国企業における生成AIへの意識変化、活用・効果、成果・還元の状況を比較して明らかにしました。
生成AIは、業務効率化や個別タスクの支援にとどまらず、AIエージェントが社内業務や顧客接点を自律的に担う段階へ移行しつつあります。生成AI活用は広がる一方、効果創出や事業変革への接続にはなお課題が残ります。こうした中、生成AIは単なるIT施策やツール導入ではなく、事業モデル、人材・雇用、業務プロセス、顧客体験のあり方を問い直す経営アジェンダへと変化しています。
本調査では、日本における生成AI活用の進展と課題を明らかにするとともに、米・英・中・独・韓との比較を通じて、日本企業が直面する構造的な論点を浮き彫りにします。そのうえで、期待を上回る効果を創出し、成果を還元できている企業に共通する要因として、AIを事業の中核に据える姿勢、AI Readinessの強化、価値・品質・リスクを見極める評価設計、そして従業員や顧客の価値実感に繋げる還元の重要性を整理します。
本調査は、売上高500億円以上の企業・組織に勤務する課長職以上で、生成AI導入に対して何らかの関与がある方々を対象に実施しました。本調査が、日本企業が生成AI活用を一過性の効率化にとどめず、事業変革と企業価値向上に繋げるための一助となることを期待しています。
日本企業における生成AIの活用・推進度は、2026年春時点で87%に達しました。前回調査から11pt上昇し、未着手・断念は4%まで減少しています。生成AIの利用は、一部の先進企業に限られた取り組みから、大企業における標準的な経営テーマへ移りつつあります(図表1)。
図表1:自社の生成AI活用の推進度合い(日本)
一方で、活用・推進中の企業のうち、生成AI活用の効果を「期待通り」または「期待を大きく上回る」と回答した割合は64%で、前回調査から3ptの増加にとどまりました。活用企業の母数が拡大したことで、全回答者ベースでは期待以上の効果を実感する層は増えていますが、活用中・推進中の層に限れば、効果創出の水準は大きく伸びていません。活用が広がるにつれて、論点は「使っているか」から「期待を超える効果を継続的に生み出せているか」へ移っています(図表2)。
図表2:生成AIの活用効果に対する期待との差分(日本)
6カ国比較では、日本の活用・推進度は87%で、米国90%、英国89%、中国91%、ドイツ89%、韓国93%と大きな差はありません。しかし、期待を大きく上回る効果を創出している企業の割合は、日本が9%と6カ国で最も低く、米国38%、英国32%とは大きな開きがあります。一方、期待未満と回答した割合は日本が19%で、6カ国中でも高い水準です。さらに、生成AI活用の効果を「まだ評価できていない」とする割合は、米国は0%、その他の国もおおむね数%にとどまるのに対し、日本は13%と相対的に高い水準です。日本では、効果を測定し、改善に繋げる仕組みづくりにも課題が残っていることがうかがえます(図表3)。
図表3:生成AI活用推進状況と期待効果の発現状況
効果発現までの時間軸にも差があります。生成AI施策実施から1年以内の効果発現を想定する割合は、米国が66%に達するのに対し、日本は41%にとどまります。反対に、日本は「3年以上を要する」または「時期がわからない」とする割合が相対的に高く、効果創出までの時間軸を保守的にとらえる傾向が見られます(図表4)。
図表4:生成AI施策実施から効果発現までの想定期間
生成AIの効果は、利用経験やデータ整備、業務プロセスの見直し、利用者の習熟を通じて段階的に高まります。効果創出の初速が遅れるほど、学習と改善のサイクルも遅れ、将来の競争力の差に繋がりかねません。
日本企業の意識にも変化が見られます。生成AIを「業界構造を根本から変革するチャンス」ととらえる割合は30%となり、2025年までの減少傾向から反転しました(図表5)。同時に、「ビジネスの存在意義が失われる脅威」ととらえる割合も24%へ上昇しています(図表6)。危機感と変革機会の認識がともに高まったことは、生成AIが単なる技術テーマではなく、自社の存在意義や競争優位を問い直すテーマになったことを示しています(図表7)。
図表5:生成AIへの期待度(日本)
図表6:生成AIへの脅威認識(日本)
図表7:ビジネス消失脅威・根本変革チャンスの認識変化
ただし、他国と比較すると、韓国や米国が「根本変革チャンス」の認識をより大きく高めているのに対し、日本はビジネス消失への危機感の高まりが先行しています。危機感の高まりは、変革に向けた出発点になり得ます。具体的な事業・業務・顧客接点の見直しに繋げられるかどうかが、生成AI活用の効果を分ける重要な要素です。
もう一つの論点は、創出した効果を従業員や顧客への価値に変換する成果還元の設計です。生成AI活用で生まれた効果を従業員への利益還元や顧客への価格還元といった財務的な還元に繋げている割合は、日本が40%と6カ国で最も低く、米国75%、英国74%と大きな差があります。また、還元していない割合は日本が19%と最も高い水準でした(図表8)。
図表8:創出効果の還元状況
活用から効果創出、さらに成果還元までの到達状況を日本と米国で比較すると、日本は活用・推進段階では米国と同水準であるにもかかわらず、期待を大きく上回る効果を創出した層が薄く、財務的還元まで到達した層も米国の半分以下にとどまります。日本企業は、活用から効果創出へ進む壁と、効果創出から成果還元へ進む壁の双方に直面しています(図表9)。
図表9:生成AI活用から効果創出・財務的還元までの到達状況(日米比較)
期待を上回る効果を創出する企業と期待未満にとどまる企業の分岐点(図表10)は、生成AIを既存業務の効率化にとどめるか、事業変革の中核に据えるかにあります。期待を大きく上回る企業では、経営に近い推進体制の整備や、AIエージェントの導入、業務プロセスへの正式な組み込み、複数モデルの活用などが進んでいます(図表11~14)。
図表10:生成AI活用における効果創出の成功要因
図表11:効果創出の成功要因の日米比較
図表12:生成AIに代替されうるスキル
図表13:生成AIの利用モデル数
図表14:生成AIの活用効果が期待を上回っている理由
特に2026年調査では、AIを業務や事業に使えるようにするための備え、すなわちAI Readinessの重要性がより鮮明になりました。どの業務でどの価値を出すのかをビジョン起点で選び、その実行に必要な業務プロセス、データ、利用環境、ガバナンスなどを先に整えることが、効果創出の前提になります。生成AIは、業務やデータが未整備な状態でも自動的に効果を生み出すものではありません。企業が描く変革の構想と、それを業務・データ・プロセスに落とし込む実装力があって初めて、効果創出に繋がります。その前提となるAI Readinessの差が、効果創出のスピードと質を左右します。
生成AI活用で創出した効果は、コスト削減や売上の増加として企業内にとどめるだけでは不十分です。従業員への利益還元、顧客への価格還元、働き方の改善、顧客体験の向上などを通じて、人の価値実感に変えることで活用意欲と信頼が生まれます。成果還元は、単なる分配ではなく、AI活用を高度化するための投資としてとらえる必要があります。
今回の調査では、日本企業のうち、創出した効果が期待を大きく上回る層の71%が、生成AIで生まれた効果を従業員への利益還元に繋げていました。一方、期待未満の層では14%にとどまります。また、財務的還元にまで繋げている企業は、内製運用体制の整備、企業ブランドを含む活用指標の採用、人材市場における魅力向上の重視、抜本改革や新領域参入への志向が強い傾向にあります(図表15~16)。
図表15:成果還元が次の効果創出を促す構造
図表16:成果還元の日米比較
生成AIの効果を一過性に終わらせず、継続的な変革に繋げるには、AI Readiness、Evaluation、Activationの3つを循環させる必要があります。AI Readinessは、業務プロセスの可視化やAI-Readyデータの整備、サンドボックス環境、ガバナンスなどを共通資産として整えることです。Evaluationは、達成すべき価値や守るべき品質、避けるべきリスクを評価対象として企画段階から評価を設計し、実装前後で評価・改善を回すことです。Activationは、従業員や顧客への還元を通じて、AI活用への納得感や意欲、信頼を高め、次の効果創出を促進することです(図表17)。
図表17:生成AI活用による変革サイクル
このサイクルを回すには、ビジョン起点でユースケースを再選定し、導入前から効果・品質・リスクの判断軸を決め、データや業務プロセスを共通資産として整え、創出した効果を従業員や顧客の価値実感に繋げることが重要です。詳細な対応策は、変革サイクルを阻害する要因とあわせて整理できます(図表18)。
図表18:サイクルを回すために日本企業が取りうる対応
日本企業は、現場の改善力や従業員の自律性という強みを持っています。この強みを、個別の便利ツール利用で終わらせるのではなく、経営ビジョンと結びつけたユースケース選定、効果測定、成果還元のサイクルへ昇華させることが重要です。AI変革はもはや選択肢ではなく、事業の存在意義を問い直し、競争優位を再構築するための生存条件になりつつあります。日本企業に求められるのは、生成AIを使うことではなく、生成AIを前提に価値を生み、測り、人に還元し続ける経営へ移行することです。
日本調査は2026年2月12日から2月19日にかけて実施し、回答者数は932名です。調査対象は、日本国内の企業・組織に所属する従業員のうち、売上高500億円以上、課長職以上、生成AI導入に対して意思決定や企画検討など何らかの関与がある人物です。6カ国比較では、米国670名、英国412名、中国412名、ドイツ309名、韓国309名を対象に、各国の企業・組織に所属する課長職以上かつ生成AI導入に何らかの関与がある人物へWeb調査を実施しました。
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