事業をドライブする人事の未来―人事部門の価値提供とトランスフォーメーションエンジンへの進化―

2025年7月、PwCコンサルティング合同会社（以下、PwCコンサルティング）はCHROを対象としたラウンドテーブルを開催しました。当日は日本国内で人的資本経営に先進的に取り組む企業のCHRO・人事責任者40名をお招きし、人事変革の最前線について活発な議論が交わされました。

開会の挨拶を務めたのは、PwCコンサルティング 執行役員 パートナー 組織人事コンサルティングリーダーの北崎茂。人的資本開示、サクセッションプラン、DEIB（ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン＆ビロンギング）、スキルベース人事、生成AIなど、新しいアジェンダが毎年のように浮上し、自身の人事領域での約30年の経験をもっても、「この数年における人事領域のアジェンダの変化は最も激しい」と語ります。

加えて、今企業の人事部門に求められているのは、従来の労務管理などの管理的側面が強いオペレーション中心の役割から、事業競争力に資する価値提供を行う戦略機能への転換だと指摘。CHROラウンドテーブルでパネルディスカッションや講演、ネットワーキングを通じて情報交換を行うことを目指すとした上で、「日本企業の事業競争力向上の今後の成否を握るのは人事としての価値提供の在り方であり、そのトランスフォーメーションに向けた一歩を踏み出すための気付きや機会提供を創り出していきたい」と締めくくりました。

本イベントは大きく分けて3つのコンテンツ（パネルディスカッション、講演、参加者によるディスカッション）で構成されました。

パネルディスカッションでは、人事改革の先駆的な取り組みを進めるNOK株式会社、株式会社BREXA Holdings、丸紅株式会社から各社のCHROを招き、「HR部門の価値提供の未来、未来のHR組織とは」をテーマに実践的な議論を展開しました。

パネルディスカッション詳細

参加者によるテーブルディスカッションでは、パネルディスカッションや講演の内容を踏まえながら、参加者それぞれの経験や自社での取り組み、直面している課題などを共有し、相互に知見を深める機会としました。

講演では、PwCコンサルティング 執行役員 パートナーの鈴木貞一郎より、これからの人事に求められる機能と、その実現に向けた変革のポイントについて解説しました。

はじめに、現在の経営環境は、経済・事業の不確実性の高まり、労働人口減少、価値観・働き方の多様化、テクノロジーの進化など、変化が常態化していると指摘。企業がこの波を乗り越えて次の成長フェーズへ移行するためには、組織と人材の力が欠かせないと述べました。

また、これまでの人事は、人材マネジメントの高度化とオペレーション改革によって人材・組織を創る「パフォーマンスエンジン」としての役割を担ってきたものの、現在は、強い人材と組織力で事業に直接的かつ本質的に貢献する「トランスフォーメーションエンジン」としての役割が強く求められているとした上で、人事に求められる変革においては「事業への直接的な貢献」が必要不可欠だと強調。そのために人事が向き合うべき問いは、「自分たちの活動は、事業が『勝つこと』につながっているか」「現場が戦略を実行に移すために、人事のサポート範囲や量は十分か」「現場が本当に求めていることを把握できているか」ということだと話しました。

続いて鈴木は、事業部門が抱える主要課題として、以下3つの課題の原因とアプローチ、そして人事担当者が担う役割について解説しました。

課題1. 変革の要であるミドルマネジメントの足かせが重く、現場力が低下している
課題2. 行動変容に踏み込めない、染み着いた「何か」が現場に潜んでいる
課題3. 事業変革をリードする本当の意味での「強い」人材が育っていない

講演の詳細

閉会の挨拶を務めたのは、PwCコンサルティング 代表執行役CEOの安井正樹。日本企業でも活用が進んでいる生成AIの存在に触れ、タレントマネジメントや社内人材のマッチングなど人事領域での活用の可能性を示しました。

一方で、ホワイトカラー1,000人規模の業務を生成AIが担えるようになるのではないかという意見に触れ、「改めて問われているのは、事業を創る人材の育成と、事業成長につながる人事のあり方」と指摘。人材が原資となるコンサルティングファームのビジネスモデルに触れ、「これからは私たち自身も変革を迫られていく」と語ります。

「当社を含むあらゆる企業の経営層においては、事業そのものだけでなく、それに連動する人事戦略も試行を続けていくことになります。その難しい課題解決の一助となるべく、このような知見を共有する場の提供をしたい。成長を続け、ともに日本経済を盛り上げていきましょう」と語り、イベントは幕を下ろしました。