【開催報告】CHROラウンドテーブル2025

CHROパネルディスカッション「人事部門の価値提供の未来、未来の人事組織とは」 NOK×BREXA Holdings×丸紅×PwCコンサルティング

  • 2025-12-04

(左から)北崎 茂、 鹿島 浩二氏、相原 修氏、江上 茂樹氏

2025年7月、PwCコンサルティング合同会社は、人事エグゼクティブをお招きした「CHROラウンドテーブル」を開催しました。当日は、日本国内で人的資本経営に先進的に取り組む企業のCHRO・人事責任者40名が参加し、活発な意見交換がなされました。

本レポートでは、人事コンサルティングとして約25年人事領域に携わってきた北崎がモデレーターを務め、人事領域において豊富な実績と知見を持つ3名のCHROを招いて行ったパネルディスカッションの内容を紹介します。

登壇者

丸紅株式会社
常務執行役員 CHRO
鹿島 浩二氏

株式会社BREXA Holdings
執行役員 CHRO
相原 修氏

NOK株式会社
執行役員 グループCHRO
江上 茂樹氏

モデレーター

PwCコンサルティング合同会社
執行役員 パートナー 組織人事コンサルティングリーダー
北崎 茂

「日本型人事」からの脱却

北崎:
ここ数年で、日本企業の人事部門をとりまく環境は大きく変化してきています。以前より議論されているD&Iの取り組み、コロナ禍で注目されたハイブリッドワークへの対応をはじめとして、ジョブ型、スキルマネジメント、人材ポートフォリオ、人的資本開示など、さまざまな新たなアジェンダに対して、人事部門はこれまでにない価値提供の形を求められてきていると思います。本日はこうした変化の時代において「人事部門の価値提供の未来、未来の人事組織とは」と題しまして、日本企業や外資系企業で多くの企業で人事トップの仕事を歴任してきた3名のCHROの皆さまと、今後の人事部門の在り方について、議論していきたいと思います。まず、皆さまご自身の紹介と、自社での取り組みについてお聞かせください。

江上氏:
私は過去3社でCHRO/人事部門長を経験し、現在はNOKのグループCHROを務めています。NOKは自動車向け部品やスマートフォン用部品等を製造する従業員3万8,000人規模の企業です。事業の海外展開が進む一方、人事を横串で見る機能がなかったため、私が2024年に初代グループCHROとして着任後、人事戦略の全体整理をしました。「NOKグループ全ての個人と会社の幸せ(夢)の実現の追求」という人事ポリシーをグループで策定し、中期経営計画に基づいた人事・人財戦略の4本柱を立てました。具体的なアクションに落とし込んだロードマップも描き、従来の日本企業に多い労務中心の人事からの脱却を目指して各種施策を実行中です。

NOK株式会社 執行役員 グループCHRO 江上 茂樹氏

相原氏:
私も過去複数社の人事責任者を経験しています。現在CHROを務めるBREXA Holdingsはグローバルに展開する人材の派遣会社で、事業の選択と集中、生産性向上、インフラ整備、縦割りで受け身の傾向がある社員のマインドセット変革といった課題があると認識しています。
現在の当社における人事の役割は、ヒト・組織・カルチャーを通じてビジネスと社員の成長に貢献することだと考え、「社員の可能性を解き放ち、社員とBREXAの成長をともに実現する」という人事ミッションを掲げてさまざまな改革を進めているところです。人事の役割として、ビジネス戦略上の差別化要因である「人」をいかに成長させ、生かし、イノベーションを創出させるかが重要だと考えています。

鹿島氏:
私は丸紅の人事部門でキャリアを積み、現在はCHROを務めています。丸紅では、2018年に「丸紅グループの在りたい姿」を策定し、「人財×仕掛け×時間」のコンセプトで様々な施策を実施しました。また、2019年から1年かけて経営と議論し、人事制度を抜本的に改革しました。総合職・一般職の職掌区分廃止なども行い、エンゲージメントサーベイでも良好なスコアを得ています。
今年から新中期経営戦略「GC2027」をスタートし、時価総額10兆円超を目標に掲げました。これは単なる財務目標ではなく、マーケットから人事部門も評価してもらうという新しいミッションでもあると捉えています。

人事部に閉じない体制を築き、課題を乗り越える

北崎:
昨今、人事部門が直面する課題が多岐にわたっています。中でも次の4点は人事部門として重要な変化だと考えています。1つは人的資本開示要請の高まりに伴うステークホルダーの変化、2つ目は人材ポートフォリオマネジメントと雇用ブランドの強化、3つ目に組織カルチャーに対する重要性の変化、4つ目は生成AIの進化に伴うHRに求められる機能・人材の変化です。これらの変化に対応し、人事部門が企業における事業競争力に資する存在であるためには、人事部門としての役割や価値提供の在り方を変えていく必要があると思っています。人事領域において豊富な実績と知見を持つ皆さまから見て、人事部に求められる役割や価値は今後どう変わっていくか、考えをお聞かせいただけますか。

鹿島氏:
人事は経営戦略に資する人材戦略を策定し、実行する部門にならなければなりません。その際、経営戦略の変化のスピードに合わせて人材戦略も柔軟に対応していくことが課題になると捉えています。
そこで当社では、一連の人事制度改革において重要な概念の一つとして「現場」を掲げました。総合商社は部門ごとに異なるビジネスを展開しているので、各部門に配置したHRBP(HR Business Partner:事業部門トップのパートナーとして戦略人事を遂行する役割)が部門の戦略遂行に貢献し、HRBPをハブにして全社の人事制度改革を推進しています。

相原氏:
戦略実現を支える人事戦略を策定するためにも、CHROがビジネス戦略から携わるのが望ましいと思います。人事がビジネスを理解するのは重要です。
テクノロジーの活用も加速すべきだと考えています。事業側では生成AIなどの技術をどう活用するかを考え、人事ではテクノロジーを使える人材を採用あるいは育成するなど、人と組織の面から貢献していくことになります。また、いかに効率的にオペレーションを回し、経営の意思決定に資するデータを提供していくかも重要です。

株式会社BREXA Holdings 執行役員 CHRO 相原 修氏

江上氏:
人事は、制度を作るプロダクトアウト型の部門ではなく、現場が事業戦略を行う上での困りごとを解決するソリューションプロバイダーであるべきだと思います。従来は、制度を作って、それを現場にきちんと運用してもらうというのが人事の役割でした。しかし、今の人事に求められている役割とは、現場が抱える課題に対して人事領域におけるさまざまなソリューションを組み合わせた解決方法を提示することだと思います。ただし、部門に合わせて組み合わせをカスタマイズしすぎると、コストが肥大化してしまう。そのバランスを取る必要がありますが、変化の激しい時代において、一律の対応だけを行うのは非現実的です。

北崎:
人事部門がさまざまなチャレンジをしている中でも「事業戦略との連動」が必要不可欠であることは、皆さんの共通認識かと思います。一方で日本企業でも、これまでHRBPの設置など、さまざまな取り組みを行ってきながらも、事業戦略の一翼を担うステージまで上がりきれている人事はそこまで多くはないと感じています。「事業戦略との連動」という観点において、今後人事部門が一番重視、注力すべき領域は何だと思われますか。

相原氏:
私はカルチャーマネジメントとタレントマネジメントだと考えています。ダイレクトな打ち手がない一方、カルチャー次第で人材の能力発揮の度合いが異なるので、重要なポイントです。
そして、単に人事制度や仕組みを作るのではなく、求められるスキルを定義するとともにタレントを発掘し、人材を事業にどう結び付けていくかといったタレントデータベースの活用も大きなチャレンジです。この取り組みを成功に導くカギは、「絵に描いた餅」にしないこと。社員一人ひとりのスキルを可視化するだけでなく、スキルを磨けばチャンスが得られ、キャリアを切り拓ける状態にしなければなりません。そのためには、人事情報を役職者が見られるようにし、プロジェクトにアサインしやすくする仕組みも必要です。

鹿島氏:
人事だけでは解決できない複雑な課題が増えているので、人事に閉じない体制づくりがチャレンジになると考えています。人事制度改革が実行できたのは他部門と協働したからこそで、経営戦略に資する人事戦略を進めるためには経営企画との連動も重要です。当社では、人事と経営企画は毎日のように対話していますね。それを維持するのがCHROの役割になると考えています。
また、今後は事業共創などといった社外とのアライメントが必要になってきますので、社会のことをきちんと理解しておく必要があります。他社のベストプラクティスは何か、グローバルではどういう人事戦略・施策が今トレンドなのか、そういったことを理解して、経営から求められたときにパッと出せる実力をつけることが重要です。

丸紅株式会社 常務執行役員 CHRO 鹿島 浩二氏

江上氏:
私としては、日本の人事のマインドセット改革が大きなチャレンジだと捉えています。人事は目的を持ってさまざまな施策を実施するのですが、他部門にはそれが伝わっておらず、理解されない。しかし、人事はそれに気づいていないのです。日本では人事制度に関しても懸命に細やかな設計を行いますが、その目的が伝わっていないから結果に結び付きにくいというケースも多い。一方、グローバルに目を向けると、日本と比べて制度の作りはシンプルだとしても、担当者がストーリーとして語れるし、結果に対してコミットしています。そういった違いを強く感じます。その差を埋めていくには、マインドセットを変えていく必要があると考えています。

CHROに求められるのは「総合力」

北崎:
ここまで皆さんのお話を聞く中で、やはりCHROの役割がどうあるべきなのかというのが、1つの論点にもなっていると思います。私自身も多くのCHROの方々と日々会話をしていますが、当然ながら、企業によってCHROに求められる役割は一様ではないと思っています。「人事業務の統括者」としてではなく、経営機能の一翼として、皆さんの企業でCHROに今後求められること、そしてそれは今後どのように変化していくのか、ぜひお考えを聞かせていただけますか。

鹿島氏:
人事部門が何を達成すべきか、会社全体の戦略レベルで考えるのがCHROのミッションであると思います。私はCHROという立場ですが、人事部門は管掌していません。人事部門はオペレーションを担い、CHROは戦略を担うという役割にしているのです。私がオペレーションも理解しているからこその体制ではありますが、CHROとしては組織体制や管掌部門を過度に気にせず、会社としての人事戦略がしっかり機能することを考えるべきだと思います。

江上氏:
CHROには総合力が求められます。人事・労務の知識や経験もあった方がいいですが、それは専門性の一つに過ぎません。デジタル、人間理解などの学問的知識も含めた総合力が必要です。
私もCHROですが、鹿島さんと同様に、敢えて人事部門を直接管掌していません。人事は「過去の経緯」にとらわれがちですが、そうした視点に留まらず、経営の観点から判断できるようにするためです。鳥のように全体を俯瞰して、何かあったときに降りてそこを見る、そういう役割だと思っています。

相原氏:
自社のビジネスを理解しているのは基本ですが、その上で、ビジネス戦略の策定にも関わり、人事施策に落とし込むことが必要です。そのためには、自社のことや人事のことを知っているだけでは不十分で、世間や社会、テクノロジーに対してアンテナを張り、それを踏まえて構想する力がとても大事だと思います。

北崎:
ここまで、人事部門の価値提供からCHROの在り方まで、さまざまなお話をいただきましたが、ここ数年での人事部門における変化は、個人的にはまだ「序章」だと思っています。近年では想像以上に生成AIが進化し、オペレーション業務を急速に代替するようになりました。また、人的資本開示をきっかけとして、投資家からの関心も国内のみならず、海外投資家も含めて急速に高まり、多くの期待が社内のみならず社外からも寄せられるようになり、この変化はさらなる加速をみせていくと感じています。こうした状況の中、皆さんが数年後に目指す人事組織の姿はどのようなものとなるのか、最後にぜひ、その思いを聞かせてください。

(左から)北崎 茂、江上 茂樹氏、相原 修氏、鹿島 浩二氏

鹿島氏:
人事の担う役割がますます増える中、オペレーションの負荷を極力下げる仕組みが必要です。また、各部門のHRBP経験者を本社の人事部門に配置するという循環が作れると、ビジネスにも人事にも長けている人材が増え、組織全体が変わってくると思います。

江上氏:
グローバルで見たときの会社単位の人事機能と部門単位の人事機能の整理が必要です。また、テクノロジーの活用をしっかりと舵取りする機能も必要になってくると思います。

相原氏:
当社では4つのチームを作りたいと考えています。1つはHRBPで、人事制度に魂を吹き込み、ビジネス戦略の実現に人事として貢献するという点でこれが最も重要です。2つ目は人を対象としタレントマネジメントやカルチャー・組織開発、採用を担うチーム。3つ目は人事企画で、制度づくりや変革推進を担当するチーム。4つ目はオペレーションを担うチームですが、最低限の人員・組織でテクノロジー、外部委託も活用し、生産性高い運用を目指します。

北崎:
有難うございました。人事に求められる役割が変化する中で、人事は大きなターニングポイントを迎えていると思います。事業競争力を高めることに貢献するなど、人事が提供する価値を拡大・向上させるミッションに挑むこともできます。人事部門の次のステップを引き上げるべく、私たちとしてもさまざまな課題提起や情報提供を引き続き行っていきたいと考えています。本日はありがとうございました。

PwCコンサルティング合同会社 パートナー 組織人事コンサルティングリーダー 北崎 茂

主要メンバー

北崎 茂

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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