2025年3月31日、2025年度税制改正関連の法律案(「所得税法等の一部を改正する法律案」および「地方税法及び地方税法等の一部を改正する法律の一部を改正する法律案」)が成立し、当該法律および政省令が同日、公布されました。2025年度税制改正は、「賃上げと投資が牽引する成長型経済」への移行を実現し、経済社会の構造変化等に対応するための税制改正とされており、以下の改正が盛り込まれています。
本稿では、2025年度税制改正のうち、法人に関連する主要な改正事項を中心に解説します。なお、本文中の意見に関する部分については筆者の私見であり、PwC税理士法人および所属部門の公式な見解ではないことを申し添えます。
地域未来投資促進税制(承認を受けた地域経済索引事業計画に従って設備投資を行った場合における特別償却または税額控除)が3年延長されました(2028年3月31日まで)
計画の承認を受けるための要件の1つである投資規模要件について1億円(現行2,000万円)以上への引き上げや、機械装置および器具備品の特別償却率の35%(現行40%)への引き下げ等が行われました。また、上乗措置(機械装置・器具備品について特別償却50%、税額控除5%)について、指定業種(一定の要件を満たす都道府県が重点的支援を行う産業分野)に該当し、設備投資が10億円以上等の要件を満たす場合、という新たな類型が追加されました。
再資源化事業等高度化法(資源循環の促進のための再資源化事業等の高度化に関する法律)の高度再資源化事業計画等の認定を受けたものが、同法の施行日から2028年3月31日までの間に一定の設備投資を行った場合、35%の特別償却ができる制度が創設されました(図表1)。
特別償却の対象となる再資源化事業等高度化設備は、環境大臣が財務大臣と協議して指定します。1台あたり2,000万円以上の機械装置、200万円以上の器具備品が対象で、上限は総額20億円となります。
図表1:高度な資源循環投資促進税制の概要
| 適用要件 | 対象設備等 | 税制措置 |
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※ 認定を受けた計画に記載された廃棄物処理施設を構成する機械装置および器具備品のうち、再資源化事業等の高度化に著しく資する設備として環境大臣が財務大臣と協議して指定出所:PwC作成
地方創生応援税制(いわゆる企業版ふるさと納税制度)について、適用期限が3年延長されました(2028年3月31日まで)。なお、制度の健全な発展に向けて、寄附活用事業に係る執行上のチェック機能の強化や活用状況の透明化等も行われます。
中小法人等の軽減税率の特例(年800万円以下の所得:本則19%のところ特例15%に軽減)について、適用期限が2年延長されました(2027年3月31日まで)。ただし、所得金額が年10億円超の場合、年800万円以下の所得の特例税率は17%となります。また、通算法人は本特例の適用対象外となります。
中小企業投資促進税制(一定の機械装置等を取得した場合における特別償却または税額控除)の適用期限が2年延長されました(2027年3月31日まで)。また、農地所有適格法人について、適用除外となるみなし大企業判定要件が緩和されました。
中小企業経営強化税制(中小企業等経営強化法による認定を受けた計画に基づく設備投資をした場合における特別償却100%または税額控除7%または10%)について、適用期限が2年延長されました(2027年3月31日まで)。
生産性向上設備(A類型)については、単位時間当たり生産量、歩留まり率、投入コスト削減率のいずれかの指標が年1%以上向上するものとされました。
収益力強化設備(B類型)については、投資計画における投資利益率要件を7%(現行5%)に引き上げるほか、一定の要件を満たす売上高100億円を目指す中小企業については「建物およびその附属設備」を対象設備に追加する等の拡充措置が設けられました(図表2)。
デジタル化設備(C類型)については廃止、暗号資産マイニング業の設備は対象外とする等の見直しが行われました。
図表2:B類型の拡充措置の概要
| 類型 | 要件 | 確認者 | 対象設備※2 | その他要件 |
経営規模拡大設備 (B類型の拡充) |
(拡充措置の認定を受けた法人は、投資計画の期間中は中小企業投資促進税制と少額減価償却資産の特例の適用不可) |
経済産業局
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※1 賃上げ率と建物等にかかる税制措置:2.5%未満の場合は不適用。2.5%以上の場合は特別償却15%または税額控除2%、5.0%以上の場合は特別償却25%または税額控除2%
※2 税制対象の設備投資総額の上限は60億円
出所:経済産業省「令和7年度(2025年度)経済産業関係税制改正について」(令和6年12月)をもとにPwC作成
中小企業防災・減災投資促進税制(特定事業継続力強化設備等の特別償却制度)について、対象資産から感染症の発生が事業活動に与える影響の軽減に資する機能を有する減価償却資産(サーモグラフィ装置)を除外した上で、適用期限が2年延長されました(2027年3月31日まで)。
2024年9月13日に、企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」および企業会計基準適用指針第33号「リースに関する会計基準の適用指針」(以下合わせて、「新リース会計基準等」)が公表され、2027年4月1日以後に開始する事業年度から強制適用(2025年4月1日以後の開始事業年度から早期適用が可)されることになりました。新リース会計基準等では、借手側においてはオペレーティング・リースについてもオンバランス処理(使用権資産とリース負債の計上)が行われることとなり、不動産賃貸借取引についても同様の会計処理となることが想定されています。
オペレーティング・リース取引についてこれまで税法上の別段の定めはないため、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って賃貸借処理により計算されてきました。上記のように会計基準が変更されたことに対応し、オペレーティング・リース取引を行った場合、借手はリース契約に基づいて支払う金額のうち債務の確定した部分の金額は、債務確定時に損金算入することとされました(支払リース料が棚卸資産や固定資産の取得費用として計上される場合は債務確定時ではなく、その棚卸資産の譲渡や、固定資産の減価償却等がされたときになります)。したがって、オペレーティング・リース取引について税務上は別段の定め(賃貸借処理)が設けられることになり、借手における会計処理と税務処理は基本的に不一致となることが想定されます。
オペレーティング・リース取引により土地または家屋の賃借を行った場合は、賃借権等の対価として支払う金額のうち、法人税の所得計算上損金の額に算入される部分は事業税付加価値割の支払賃借料とされることが明確化されました。
2027年4月1日以後に締結された所有権移転外ファイナンス・リース取引に係るリース資産の減価償却(リース期間定額法)について、取得価額に含まれている残価保証額を取得価額から控除しない(現行では控除する)こととし、リース期間経過時点に1円まで償却できます。これは、新リース会計基準においては使用権資産の償却において残価保証額を残存価額とする取扱いを廃止したことに対応するものです。なお、2027年3月31日以前に契約された所有権移転外リース取引に係るリース資産(その取得価額に残価保証額が含まれているものに限る)について、2025年4月1日以後開始事業年度において、取得価額から既に損金の額に算入された償却費の額等を控除した金額を以後のリース期間で均等償却する方法を選定することができる経過措置が設けられました。
リース譲渡(いわゆるファイナンス・リース取引によるリース資産の移転)に係る収益および費用の帰属事業年度の特例(延払基準)は廃止されました。なお、2025年4月1日前にリース譲渡を行った法人の2027年3月31日以前開始事業年度において行ったリース譲渡について、延払基準(2027年4月1日以後開始事業年度では利息相当額のみを配分する方法に限る)が適用でき、2025年4月1日から2027年3月31日までの間の開始事業年度において延払基準の適用をやめた場合には繰延リース利益額を5年均等で収益計上する等の経過措置が設けられました。
上記の改正は、新リース会計基準等において、リース料受取時に売上高と売上原価を計上してリース期間に利息収入を計上する方法(リース取引に関する会計基準における第二法)が廃止されたことに対応して行われたものであり、今後のリース譲渡に係る収益および費用は、税務上は収益・費用の計上時期および計上額の通則的規定である法人税法第22条および第22条の2が適用されることになります。したがって、今回の改正において延払基準が廃止されましたが、リース譲渡における利息相当額を含めた利益の全額を譲渡時に一括計上しなければならなくなったというものではありません。
なお、上記改正に合わせて、消費税についての延払基準は廃止されました(後述)。
株式分配(スピンオフ)の税務処理において、みなし配当の計算や株主が交付を受ける子会社株式の帳簿価額の計算等に株式分配法人の「移転純資産割合※1」が用いられます。
株式分配法人が通算法人である場合には、株式分配によりその通算子法人が通算グループから離脱することになるため、移転純資産割合の計算には通算子法人株式の投資簿価修正が必要です。この投資簿価修正は離脱時における離脱法人の簿価純資産に基づいて計算しますが、これを前期期末時※2の簿価純資産に基づいて計算した「簿価修正相当額」を用いて、分子と分母の両方に反映させることとされました。これにより、離脱法人の決算確定を待つことなく、離脱時において適時に株式分配の税務処理が行えるようになります。
上記の「簿価修正相当額」の算定においては前期期末時の簿価純資産を基礎としますが、離脱時までの資本金等の額の増減、所得金額等を除いた利益積立金額の増減は反映させることになります。また、離脱法人がさらに離脱法人株式を保有していた場合には、上記の「簿価修正相当額」による投資簿価修正を反映させる連鎖計算を行うことが必要です。
なお、分割型分割によるスピンオフについても同様の処理が行われます。
無対価の非適格合併等により移転を受ける資産等に係る調整勘定の金額の算定について、一定の資産評定により移転資産の価値と移転負債の価値が等しくなる場合において移転を受ける資産等の対価がないときの資産調整勘定の金額の算定方法が明確化されました。
対価省略型の非適格合併等が行われたときに、移転資産等が資産超過であり、一定の資産評定を行っていない場合に、資産調整勘定および負債調整勘定はないものとする(資産・負債の差額は資本金等の額の増加額となる)等の所要の整備が行われました。
e-Taxを利用して添付書面等をイメージデータで送信する場合の要件について、2025年4月1日よりグレースケール(改正前はカラーのみ)でのスキャンが可能とされました。また、現行のPDF形式に加えて、JPEG形式での送信も認められます(2028年1月1日より)。
国税庁長官が定める基準に適合するシステムを使用した上で、一定の要件を満たして電子取引データの送受信・保存を行う場合、その電子取引データに関連する隠蔽・仮装行為については、重加算税の10%加重の適用対象から除外されました。
この改正は、2027年1月1日以後に法定申告期限等が到来する国税について適用されます。
軽課税所得ルールに対応するため、国際最低課税残余額に対する法人税等(Undertaxed Profits Rule:UTPR)が創設されました。この改正は、2026年4月1日以後開始事業年度から適用されます。
特定多国籍企業グループ等に属する構成会社等である内国法人および特定多国籍企業グループ等に属する恒久的施設等を有する構成会社等である外国法人に係る国際最低課税残余額に対して法人税が課されます。
内国法人に係る国際最低課税残余額の計算式は図表3のとおりです。①グループ国際最低課税残余額、②国内グループ国際最低課税残余額、③内国法人に係る国際最低課税残余額の3つの計算方法を挙げています。
図表3:国際最低課税残余額に対する法人税等の計算式
出所:PwC作成
なお、恒久的施設等を有する構成会社等である外国法人に係る国際最低課税残余額についても同様の計算となります。
適用免除基準として、モデルルール9.3に規定されている国際事業活動の初期段階にある適用免除基準を設けるとされています。
国際最低課税残余額に対する法人税の額は、各対象会計年度の国際最低課税残余額(課税標準)に90.7%の税率を乗じて計算した金額とされています。また、現行の特定基準法人税率に対する地方法人税については、国際最低課税残余額に対する法人税を加え、名称は国際最低課税額等に係る特定基準法人税額に対する地方法人税に変更されますが、税額の計算等については現行の制度と同様とされています。
申告および納付については、各対象会計年度終了の日の翌日から1年3カ月以内(一定の場合は1年6カ月以内)とされ、課税標準がない場合は申告を要しないとされています。
国内最低課税額に対する法人税等(Qualified DomesticMinimum Top-up Tax:QDMTT)が創設されました。また、QDMTT用の情報事項等の提供制度が創設されました。この改正は、2026年4月1日以後開始事業年度から適用されます。
特定多国籍企業グループ等に属する構成会社等である内国法人または特定多国籍企業グループ等に係る共同支配会社等である共同支配会社、および特定多国籍企業グループ等に属する恒久的施設等を有する構成会社等である外国法人、または特定多国籍企業グループ等に係る恒久的施設等を有する共同支配会社等に係る国内最低課税額に対して法人税が課されます。
構成会社に係る国内最低課税額の計算式は図表4のとおりです。国際最低課税残余額の計算の場合と同様に、①国内実効税率が基準税率(15%)を下回り、かつ、国内グループ純所得の金額がある場合、②国内実効税率が基準税率(15%)以上であり、かつ、国内グループ純所得の金額がある場合、③国内グループ純所得の金額がない場合の3類型に応じて計算されます。
図表4:国内最低課税額に対する法人税等の計算式
出所:PwC作成
なお、共同支配会社等に係る国内最低課税額についても基本的に同様の計算となります。
適用免除基準として、国際最低課税残余額と同様に国際事業活動の初期段階にある適用免除基準に加え、デミニマス除外、移行期間CbCRセーフハーバーその他の特例を設けるとされています。
国内最低課税額に対する法人税の額は、各対象会計年度の国内最低課税額(課税標準)に75.3%の税率を乗じて計算した金額とされています。また、地方法人税として、国内最低課税額に係る特定基準法人税額に対する地方法人税が創設され、税額については、国内最低課税額に係る法人税額の額に753分の247の税率を乗じて計算した金額とされています。
申告および納付については、各対象会計年度終了の日の翌日から1年3カ月以内(一定の場合は1年6カ月以内)とされ、課税標準がない場合は申告を要しないとされています。
また、グループ国内最低課税額報告事項等の提供制度が創設され、特定多国籍企業グループ等の最終親会社等の名称、その特定多国籍企業グループ等に属する構成会社等の所在地国の名称、その特定多国籍企業グループに係る国内最低課税額に関する事項、デミニマス除外による適用免除基準の適用を受けようとする旨等を各対象会計年度終了の日の翌日から1年3カ月以内(一定の場合は1年6カ月以内)に提出しなければならないとされています。
国際最低課税額に対する法人税等(Income InclusionRule:IIR)については、OECDから2024年6月に公表された追加ガイダンス(Administrative Guidance:AG)の内容等を踏まえて見直され、次の6項目の他、その他所要の措置を講ずるとされています。
外国関係会社に係る所得の合算時期が、外国関係会社の事業年度末の翌日から4月(現行2月)経過日を含む事業年度に変更されました。
また、申告書に添付または保存等が必要とされている外国関係会社に関する書類から、①株主資本等変動計算書および損益金の処分に関する計算書、および②貸借対照表および損益計算書に係る勘定科目内訳明細書が除外されました。
上記の改正は、内国法人の2025年4月1日以後開始事業年度にかかる外国関係会社の課税対象金額等(外国関係会社の2025年2月1日以後に終了する事業年度に係るものに限る)について適用されます。なお、内国法人の2025年4月1日前に開始した事業年度における外国関係会社に係る所得の合算(外国関係会社の2024年12月1日から2025年1月31日までの間の終了事業年度に限る)について、外国関係会社の事業年度末の翌日から4月を経過する日を含むその内国法人の2025年4月1日以後開始事業年度において外国子会社合算税制の適用を受けることができる経過措置(図表5)が設けられています。この経過措置の適用は外国関係会社ごとに選択することが可能であり、また、外国関係会社について株主(親会社)が経過措置の適用の有無を統一する必要はありません。
図表5:日本親会社が3月決算、外国関係会社が12月決算の場合の適用関係
| 外国関係会社の決算期 | 2024年 12月期 |
2025年 12月期 |
2026年 12月期 |
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日本親会社で の合算時期 |
原則 | 2025年 3月期 |
2027年 3月期 |
2028年 3月期 |
経過措置を 適用 |
2026年 3月期 |
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出所:PwC作成
外国人旅行者向け消費税免税制度(輸出物品販売場制度)について、免税方式がいわゆる「リファンド方式」に変更されました。免税方式の変更に合わせて、免税対象物品の範囲、免税販売手続、輸出物品販売場の許可要件等の見直しも行われています。この改正は2026年11月1日以後の免税対象物品の譲渡等について適用されるため、免税販売を行っている事業者は適用開始までにシステム改修を含めた対応が必要となります。
リース譲渡に係る資産の譲渡等の時期の特例(延払基準)は廃止されました。なお、2025年4月1日前にリース譲渡を行った事業者については、2030年3月31日以前開始事業年度まで延払基準での計算が可能です。また、2025年4月1日以後に開始する事業年度において、延払基準の適用をやめた場合は賦払金の残金を10年均等で譲渡対価の額とする等の経過措置が設けられています。
防衛特別法人税が創設されました(図表6)。防衛特別法人税の税額は、基準法人税額から基礎控除500万円を控除した額に4%の税率を乗じたものとなります。通算法人の場合、基礎控除500万円は各通算法人の基準法人税額の比で配分されます(基礎控除はグループ全体で500万円)。2026年4月1日以後開始事業年度から適用されます。法律では、「当分の間」とされており、終期は定められておりません。
図表6:防衛特別法人税の概要
| 税額計算方法 |
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| 基準法人税額 |
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| その他 |
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出所:PwC作成
防衛特別法人税の創設により法定実効税率は約0.9%増加することとなります(図表7)。税効果会計においては、2026年4月1日以後開始事業年度に解消が見込まれる一時差異について防衛特別法人税を考慮した法定実効税率により計算を行う必要があります。
図表7:法定実効税率
出所:PwC作成
※1 基本的に株式分配時における「分配される完全子法人株式の帳簿価額/簿価純資産価額」
※2 前期期末後に仮決算による中間申告を行っている場合は中間申告期末
PwC税理士法人
ディレクター 山田 盛人