生成AI活用の現状に打ち勝つには

  • 2025-08-06

はじめに

日本企業の生成AIに対する関心度合いは年々高まっており、応用範囲も広がっています。本稿では、PwCが実施した「生成AIに関する実態調査」のデータをもとに、日本企業の生成AIの活用状況を紹介し、単なる生産性向上にとどまらない生成AIの可能性、および生成AIを導入するにあたって対処すべき課題について解説します。

なお、文中の意見は筆者の私見であり、PwC Japan有限責任監査法人および所属部門の正式見解ではないことをお断りします。

1 生成AIの企業における活用状況

PwCコンサルティング合同会社が2024年春に実施した「生成AIに関する実態調査2024 春」では、生成AIの活用において企業は高い関心を維持しながら試行錯誤を続けているとの結果が出ています。

本調査によると、「社内で生成AIを活用中」または「社外に生成AIサービスを提供中」と回答したのは前回調査(2023年秋)から9ポイント増加し43%、他社事例に「とても関心がある」と回答したのは前回調査から4ポイント増加して32%となっており、普及/関心度合いは着実に上昇しています。その一方で、2023年春から秋に見られたような大幅な変化以降、関心・推進度合いは高止まりしている状況であり、各社が生成AI活用を試行錯誤していることが分かります(図表1)。

図表1:生成AI活用の進捗度合いと他社事例への関心度

生成AIに関する実態調査2024 春」の調査は、約1年前に実施したものであるため、2025年5月現在では、各企業における生成AIの活用はさらに進んでいると想定されます。

2 生成AIの活用例

現在、主な生成AIの活用として次のようなケースが増えています。

①コンテンツ制作の分野では、生成AIによって広告やマーケティングコンテンツの自動生成が可能になっています。企業はプロセスを大幅に簡素化し、迅速に市場のニーズに応じたコンテンツを提供できるようになり、コンテンツ制作のコスト削減を実現できます。

②カスタマーサポートの分野では、生成AIを使ったチャットボットや仮想アシスタントの導入が増えています。これらのツールは、顧客からの問い合わせに対する素早い対応を可能にし、顧客満足度が向上するとともに、サポートスタッフの負担も軽減されています。

③データ分析の領域では、製造業や金融業を中心に生成AIを用いた予測モデルの構築が進んでいます。AIは大量のデータを短時間で分析し、精度の高い予測が可能になり、企業の意思決定をサポートしています。それに伴い、在庫管理の最適化やリスク管理の強化なども実現しています。

④法律や医療分野でも生成AIの利用が広がりつつあります。法律分野では、契約書や法的文書の自動生成が試験的に実施されており、時間とコストの削減が期待されています。医療分野では、診断支援や患者データの分析にAIが活用され、医療の質を向上させる可能性が示されています。

3 試行錯誤の方向性

企業が生成AIを導入する主な目的は生産性向上です。これまで人間が多大な時間を費やしていた作業を効率的かつ高度に行えるようにすることが期待されています。上述した代表的な活用例は、その成果を示すものとなっています。

生成AIに関する実態調査2024 春」の調査結果においても、「生成AIによって業務が一部もしくは完全にAIに置き換わると思う」とした回答者の55%が、「社員はより上流かつ創造的な業務または新規事業にシフト」していると答えました。

また、回答者の30%が「社員の仕事は奪われ人員削減」されると回答しています。単純作業の極小化やクリエイティブ業務における業務効率化が検討されていると考えられます(図表2)。

図表2:生成AIの活用による社員業務の評価とそれぞれの変化の特徴

その一方で、生成AIは、生産性向上だけでなく、さまざまな観点から人間の成長に寄与すると推察されます。いくつかの例を以下で紹介します。

①教育と学習

  • パーソナライズされた学習プログラムを提供し、個々の学習スタイルや進捗に合わせて教材を調整できます。
  • 複雑な概念を簡単に理解できるように、視覚的な資料やインタラクティブなコンテンツを生成します。

②クリエイティビティの向上

  • アート、音楽、文章の生成をサポートし、新しいアイデアを生み出す手助けをします。
  • ブレインストーミングの際に、アイデアの提案や発展を後押しします。

③キャリア開発

  • 業界トレンドを分析し、キャリアパスの選択肢を提示します。

④メンタルヘルスサポート

  • セルフケアのヒントやリラクゼーション技術を提案し、ストレス管理を支援します。
  • チャットボットとして、非専門的なカウンセリングを提供し、話し相手になります。

⑤語学学習

  • 会話の練習相手として機能し、リアルタイムでフィードバックを提供します。
  • 文法や発音のエクササイズを生成し、学習をサポートします。

⑥問題解決と意思決定

  • 複雑なデータセットを分析し、意思決定をサポートするためのインサイトを提供します。
  • さまざまなシナリオをシミュレーションして、問題解決の練習を支援します。

これらの活用例からもわかるように、生成AIは単なる生産性向上のためだけでなく、人材育成にも活用できます。この生産性向上と人材育成という2つの軸を常に意識しながら、さまざまな活用方法を模索し実践していくことで、企業は生成AIの持つ潜在的な価値を最大限に引き出していくことができるでしょう。

4 生成AI活用における課題とリスク

企業が生成AIを活用して生産性向上と人材育成を進める上で、避けて通れないのが課題とリスクへの対応です。このことが、企業は試行錯誤を重ねざるを得ない主な要因となっています。

具体的には次の3点が一般的に生成AIの課題として認識されています。

①生成物の品質や精度に対する信頼性の問題です。AIが生成するコンテンツは、必ずしも正確であるとは限らず、事実誤認や偏った情報を含む可能性があります。特に、法律や医療などの専門性が高い分野では、AIが生成した情報をそのまま使用することはリスクを伴うため、専門家による確認が不可欠と言えます。

②生成AIは、大量のデータをもとに学習するため、学習データに含まれるバイアスが結果に反映されることがあります。これにより、生成されたコンテンツが意図せず偏っていたり、差別的な表現を含んでいたりすることがあります。企業や開発者は、AIモデルの透明性を確保し、公平性を担保するための措置を講じる必要があります。

③生成AIを利用した場合、責任の所在が不明確になるというリスクがあります。AIが生成したコンテンツに誤りや問題が発生した場合、その責任が誰にあるのか曖昧になりやすく、慎重な対応が求められます。

これらの課題の中には、生成AI技術の普及と技術的な発展によって解消されるものもあると思われます。しかしながら現状においては、明確なルールなどのガバナンスが必要不可欠だと言えます。

5 おわりに

生成AIの活用をより推進していくためには、単に人が行う作業を代替して生産性を向上させるだけでなく、人の成長をサポートするツールとして活用することが重要です。そうすることで企業の持続的な成長に寄与する経営資源になる可能性を秘めています。ただ、現状では生成AI活用における課題やリスクが顕在化しないよう、適切にガバナンスを整備する必要があります。そのような対策を着実に進めることで、やがて企業は試行錯誤の成果として生成AIの恩恵を受けることができるようになります。

本特集の論考では、セキュリティ監査やサイバーセキュリティなど、PwCが提供するサービスについてご紹介します。本特集が各企業の生成AI活用の一助になれば幸いです。


執筆者

PwC Japan有限責任監査法人
上席執行役員 リスク・アシュアランス部長
パートナー 綾部 泰二

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