{{item.title}}
{{item.text}}
{{item.text}}
SDGsやESGに関する取り組みが世界的に広がっています。PwC弁護士法人は、企業および社会が抱えるESGに関する重要な課題を解決し、その持続的な成長・発展を支えるサステナビリティ経営の実現をサポートする法律事務所です。当法人は、さまざまなESG/サステナビリティに関する課題に対して、PwC Japanグループや世界90カ国に約3,600名の弁護士を擁するグローバルネットワークと密接に連携しながら、特に法的な観点から戦略的な助言を提供するとともに、その実行や事後対応をサポートします。
近時、日本を含む世界各国において、ESG/サステナビリティに関する議論が活発化する中、各国政府や関係諸機関において、ESG/サステナビリティに関連する法規制やソフト・ローの制定又は制定の準備が急速に進められています。企業をはじめ様々なステークホルダーにおいてこのような法規制やソフト・ロー(さらにはソフト・ローに至らない議論の状況を含みます。)をタイムリーに把握し、理解しておくことは、サステナビリティ経営を実現するために必要不可欠であるといえます。当法人のESG/サステナビリティ関連法務ニュースレターでは、このようなサステナビリティ経営の実現に資するべく、ESG/サステナビリティに関連する最新の法務上のトピックスをタイムリーに取り上げ、その内容の要点を簡潔に説明して参ります。
今回は、以下の2つのトピックを紹介します。
1.国連「ビジネスと人権に関する今後10年のロードマップ」(UNGPs 10+)の概要
2.経済産業省「グリーン社会の実現に向けた競争政策研究会」の開催
2011年の国連人権理事会で採択された「ビジネスと人権に関する指導原則」(以下「指導原則」といいます。)の公表から10年が経過しました。指導原則により企業における人権尊重の責任が明示的に求められて以来、欧州を中心として、諸外国では、英国現代奴隷法等をはじめとするハード・ローが制定され(さらに、EUでは、人権・環境デュー・ディリジェンス指令案が採択されました)、OECDの「責任ある企業行動のためのデュー・ディリジェンス・ガイダンス」を中心としたソフト・ローの公表等も相次いでなされています。日本においても、2020年10月、日本政府から、「ビジネスと人権」に関する行動計画(2020-2025)が策定され、2022年には、経済産業省の「サプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン検討会」で同ガイドライン案の検討・策定が進められています。
このように、指導原則は、全てのステークホルダーに対し、企業活動に関わる人権リスクと負の影響に対処するための共通のフレームワークを提供したことにより、この10年間で、様々なステークホルダーによる人権尊重への取組みに関して重要な進展をもたらしたということができます。
国連は、2021年11月、12月に行われた国連ビジネスと人権フォーラムで、「ビジネスと人権に関する今後10年のロードマップ」(UNGPs 10+ A ROADMAP FOR THE NEXT DECADE OF BUSINESS AND HUMAN RIGHTS)1(以下「本ロードマップ」といいます。)を公表しました。
本ロードマップでは、過去10年間における、指導原則に基づく人権尊重の取組みの拡大や浸透を評価しながらも、特に人権保護の観点から最も脆弱な人々を中心に、人権への負の影響に対してより高度な保護や予防を行うための一貫した施策がなお必要であることを課題として挙げています。その上で、過去10年間の取組みの結果や課題を踏まえて、人権に関して負の影響を受ける個人及びコミュニティにとって目に見える形で結果を出し、それにより社会的に持続可能なグローバリゼーションに貢献できるように、より一貫した施策や実践的取組みを加速化するための、8つのキーとなるアクション・エリアを提示しています。
本ロードマップでは、以下のとおり、8つのアクション・エリアのそれぞれにつき、今後10年間で達成すべき優先目標(priority goal)が定められており、さらに、その達成のために国、企業、その他のステークホルダーはどのような支援行動を採るべきかという点が詳細に記載されています。
アクション・エリア |
優先目標 |
||
|---|---|---|---|
戦略的な方向性 |
|||
1 |
グローバルな課題に対応する羅針盤としての「ビジネスと人権に関する指導原則」の活用 |
1.1 |
指導原則の適用によりビジネスにおける人権の尊重を、「公正な移行」と持続可能な開発戦略の中核的な要素とすること |
注:企業活動による人権への負の影響を予防・軽減・停止する取組みを含む指導原則に基づく人権尊重への取組みは、コロナ危機からの「よりよい復興」、気候変動等の「公正な移行」(COP23)、さらにはSDGsを実現するためにも最も重要な貢献をするものであり、これらとの関係においても指導原則の取組みを中核的要素とすべきである。 |
|||
1.2 |
構造的な課題に取り組むための協働を促進すること |
||
注:国家間、企業間、ライツホルダー・企業・政府・組合・市民社会・国際機関を含めたマルチステークホルダー・アライアンス等により協働して人権尊重に取り組むこと(コレクティブ・アクション)は、横断的な課題に対する指導原則の実行可能性を強化するものであり、また、構造的な課題を効果的に解決することにつながる。 |
|||
1.3 |
人権尊重を通じてデジタル・トランスフォーメーションを最適化すること |
||
注:デジタル技術がSDGsの実現に貢献している一方で、特定の製品やサービスの使用や誤用が、オンラインでのヘイトスピーチ、フェイクニュース、集団監視、民主的プロセスの浸食など、人権と民主主義に関する多くの根本的な課題に繋がる可能性がある。指導原則による取組みは、これらの課題を管理する企業や国の説得的な出発点を提供するものである。 |
|||
1.4 |
基準策定における一貫性と整合性を確保すること |
||
注:責任ある企業行動(responsible business conduct)に関する既存及び新規の国際基準や、全ての主要なESGやサステナビリティに関する報告基準は、人権デュー・ディリジェンスとの統合を含めて、指導原則と整合的なものにする必要がある。 |
|||
保護・尊重・救済 |
|||
2 |
人権を保護する国の義務 |
2.1 |
政府の政策の有効性を高めるために政策の一貫性促進すること |
注:政策の一貫性を改善することは、国家が人権のビジネス尊重を積極的に促進するために必要である。国際人権条約・国際労働条約を国内法に反映していくことが必要であるとともに、コーポレート・ガバナンスに関する規制や国際的な開発、金融、投資、貿易に関する多国間の枠組みでも人権尊重を反映することが必要である。 |
|||
2.2 |
義務化の潮流をつかみ、スマートミックスを促進すること |
||
注:すべての市場で機能する規制オプション(法制化)を開発すると同時に、人権を尊重するビジネスを促進するための完全な「スマートミックス」でこれらの取組みを補完することが不可欠である。指導原則は、国が「国内および国際、強制および任意的措置の賢明な組み合わせ(スマートミックス)を検討する」ことを期待している。 |
|||
3 |
人権を尊重すべき企業の責任 |
3.1 |
企業による人権尊重への取組みを拡大し、人権尊重に対するコミットメントをプラクティスにつなげること |
注:指導原則に基づく企業による人権尊重の取組みは複雑で継続的な業務となるが、今後10年間は、人権尊重の取組みを、先進企業のみならず、ビジネスコミュニティに広く拡大する必要があり、内容的にもコミットメントからビジネスプロセスや商慣行の変更等の段階的な変化が必要である。 |
|||
3.2 |
人権デュー・ディリジェンスを、コーポレート・ガバナンスとビジネスモデルに組み込むこと |
||
注:企業の「DNA」の一部として人権尊重に関する取組みの永続的な変化とビジネスへの取り込みを実現するためには、人権デュー・ディリジェンスを企業のコーポレート・ガバナンスや組織の枠組み、さらにはビジネスの中核に統合することによる、カルチャー・チェンジが必要である。 |
|||
3.3 |
人権尊重と矛盾するビジネス・プラクティスへ対処すること |
||
注:指導原則の効果的な実施を実現するためには、企業行動の一貫性を改善することが重要である。人権尊重という企業のコミットメントと矛盾する企業行動に対処することは、次の10年間の重要な問題である。企業は、適切なコーポレート・ガバナンスを通じて、企業行動に横断的な人権尊重の視点を組み込むべきである。 |
|||
4 |
救済へのアクセス |
4 |
救済へのアクセスの確保をプラクティスに移すこと |
注:効果的な救済へのアクセスは、指導原則の中核的要素である。現状は、司法的又は非司法的救済システムのいずれもアクセス自体にハードルがある。人権侵害に対する効果的な救済へのアクセスは、今後10年間の主要かつ緊急の優先事項であり、全ての人の人権と持続可能な開発を実現するための重要な問題である。 |
|||
横断的な課題 |
|||
5 |
ステークホルダー・エンゲージメントの拡大と強化 |
5 |
人権の保護、尊重及び救済を強化するための有意義なステークホルダー・エンゲージメントの実施を確実にすること |
注:ステークホルダー・エンゲージメントは、企業活動による人権のリスクと影響に対処する際の合法かつ効果的な対応を実現するための国家及び企業の戦略の中心に据えるべきである。効果的なエンゲージメントとは、影響を受ける個人やコミュニティ、労働組合、人権と環境の擁護者、市民社会組織などとの対話であり、特にこれらの者を脆弱にする状況に焦点を当てることは、有意義な対話を促進する。 |
|||
6 |
変化を加速するための影響力行使の拡大と向上 |
6.1 |
金融セクターにおけるESGの潮流を利用し、ESGの「S」を指導原則と整合させること |
注:投資家やその他の金融セクターの関係者は、投資活動に関連する人々へのリスクを知り、それらのリスクを管理するためにどのように行動するかを示すことにより、人権を尊重することが期待される。指導原則は、ESGの「S」の中核的要素を提供するものであるが、ESGの他の要素全般にも関わるものであることは理解される必要がある。 |
|||
6.2 |
行政機関や金融機関以外の、ビジネスコミュニティを形成する者「シェーパー(形成者)」に対して影響力を行使すること |
||
注:企業法務弁護士、企業のコンサルタント(監査法人、社会監査人、保証提供者、経営コンサルタント、PR会社等を含む)にも指導原則は適用され、企業に人権を尊重するより良いビジネスプロセスと慣行を推進するためには、自身による人権尊重へのコミットメントが必要であり、アドバイザリーサービスを通じて指導原則に沿った取り組みを示していくことが必要である。また、ビジネススクールやロースクールなどの学術機関も、教育等を通じて、指導原則に対する認識と人権や環境の尊重における企業の役割などの理解について、独自の貢献をすることができる。 |
|||
7 |
進捗のモニタリングの拡大と向上 |
7.1 |
体系的な学習とモニタリングを通じて、国の行動と説明責任を促すこと |
注:全体として効果的な指導原則の実施を進めるには、どこに進歩があり、どこにギャップが残っているか、また、何が機能し、何が機能しないかを知る必要がある。国家による指導原則の実施に向けた施策のよる体系的なモニタリングは、今後10年間のより効果的な実施と説明責任をサポートするのに役立つ。 |
|||
7.2 |
ビジネスに与える影響と実績のモニタリングを進歩させること |
||
注:企業がより良いポリシーとプロセスの改善を通じて人権尊重に対する責任をどのように実行するか、そしてこれらが実際に人権侵害を防止し対処する上でどれほど効果的であるかを測定することにつき前進が必要である。 |
|||
8 |
国際的な協働と実施支援の拡大と向上 |
8.1 |
国連システムにおける指導原則の統合におけるギャップを埋めること |
注:国連全体に指導原則を戦略的に組み込むことは、国連における既存のプログラム及び活動への指導原則の統合を達成するための重要な手段である。また、特にSDGsや「公正な移行」を実現するための世界的な取組みにおいて、政策の一貫性と基準の収束を促進し、他のイニシアチブとのより大きな相乗効果を生み出すという国連の役割を強化するためにも必要である。指導原則に対する10年間の行動を支援するという国連の独自の役割は、議題全体に指導原則を組み込むこと、戦略及び運用レベルで指導原則を体系的に統合することなど、野心的なアプローチによって強化する必要がある。 |
|||
8.2 |
指導原則のより迅速かつ広範な普及と実施を支援するためのキャパシティビルディングと連携を強化すること |
||
注:今後10年間でより迅速かつ幅広い指導原則の採用と実施を達成するには、キャパシティビルディングへの投資を大幅に増やす必要がある。 |
|||
8.3 |
地域における人権尊重を高める競争を活性化させること |
||
注:ビジネスと人権に関する取組みは、グローバルなアプローチだけでは広く包括的な普及にはつながらず、地域のプラットフォームによって補完される必要がある。次の10年間、指導原則の実施を有意義に進展させ、主要な持続可能な開発と世界の各地域での移行イニシアチブ全体に人権の尊重を組み込むためには、地理的な取り組みを拡大し、競争を促進することが必要である。 |
|||
日本が目標として掲げる2050年カーボンニュートラルの実現に向けては、企業による革新的なイノベーションが重要であり、そのために複数企業が生産設備の集約や共同研究などの連携を通じて脱炭素化に取り組むことも想定されています。企業のこうした取組み(共同行為、企業結合)は、競争法の適用対象となり得るところ、気候変動対策などサステナビリティに配慮した企業の取組について競争政策上どのように考慮すべきかに関して、欧州を中心とする諸外国において活発な議論がされています。日本においても、こうした企業の取組みを後押しするための競争政策上の方策は重要であり、例えば、イノベーションを不当に抑制しようとする企業の合意等に対しては厳正に対処する一方、複数の企業が共同で行う自律的な取組みであって、炭素中立の産業構造への転換に資するものについては、強く後押しすべきと考えられます。
経済産業省は、上記の状況・問題意識を踏まえ、日本においてグリーン社会の実現に向けた取組みを後押しする上での競争政策上の論点について、広く知見を集めて整理し、共有することを目的として、2022年3月に「グリーン社会の実現に向けた競争政策研究会」(以下「本研究会」といいます。)を設置しました。
本研究会は、本稿執筆日(2022年6月14日)現在、下記のとおり第3回までの会合が開催されており、第4回以降の詳細は今後決定される予定です。
本研究会においては、炭素中立型社会の実現に向けた競争政策上の論点を検討するに際し、有識者からのヒアリング等も交えて、サステナビリティと競争政策について既に検討が進められている海外の事例を参考にすることが想定されています。例えば、本研究会にて、これまでに紹介されている欧州各国及び欧州委員会の動向の骨子は下記の通りです。
国・地域 |
動向の概要 |
|---|---|
オランダ:サステナビリティ合意に関するガイドライン策定の動き(共同行為)2 |
|
ドイツ:部品生産の合弁事業に関する大臣承認(企業結合)3 |
|
オーストリア:競争法の改正4 |
|
ギリシャ:サンドボックス制度導入の動き5 |
|
欧州委員会:水平的協力協定ガイドライン改正の動き6 |
|
企業においては、グリーン社会の実現を推進してくために、異業種も含めた他社との連携の重要性が今後さらに高まっていくことが想定される一方、当然に競争法も遵守していく必要があります。他方で、現行の法令やガイドライン等においては、サステナビリティの領域での企業間の連携に関し、競争法上いかなる場合が許容され、あるいは、いかなる場合が問題となるのかといった考慮要素・条件等が示されていないため、企業としては、自社が推進しようとする他社との連携や、環境配慮を名目とする取引先からの要請への対応について、見通しを立てづらい状況にあります。
本研究会においては、日本におけるサステナビリティと競争政策の在り方についての今後の更なる検討を通じて、法の適用に関する透明性や法的安定性をもたらす方向性が打ち出されることが期待されます。
1 https://www.ohchr.org/sites/default/files/2021-12/ungps10plusroadmap.pdf
2 経済産業省経済産業政策局競争環境整備室「グリーン社会の実現に向けた競争政策について 令和4年6月(事務局提出資料)」(以下「事務局資料」といいます。)7-8頁
(https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/green_shakai/pdf/003_04_00.pdf)
3 事務局資料9頁
4 事務局資料10頁
5 事務局資料10頁
6 事務局資料12~14頁
7 「欧州連合の機能に関する条約」(Treaty on the Functioning of European Union)
{{item.text}}
{{item.text}}