月刊国際税務 Worldwide Tax Summary 11月号

2021-12-06

2021年11月号Worldwide Tax Summaryトピックス

  1. 136カ国・地域、新しい国際法人税の枠組みに係る政治的合意(OECD)
  2. 下院歳入委員会、調整税法案を承認 – 主要な事業関連規定(米国(1))
  3. 下院歳入委員会、調整税法案を承認 – 主要な個人関連規定(米国(2))
  4. 上院財政委員会のロン・ワイデン委員長、パートナーシップ税制の大幅な改正を提案(米国(3))
  5. 下院歳入委員会の「Build Back Better」調整法案 — パススルー事業体の税制改正案(米国(4))
  6. 2022年度予算(オランダ)
  7. 欧州司法裁判所、ベルギーの超過利得制度が国家補助スキームを構成すると判断、一般裁判所に差し戻し(EU/ベルギー)

136カ国・地域、新しい国際法人税の枠組みに係る政治的合意(OECD)

2021年10月8日、BEPSに関するOECDの包摂的枠組み(IF)の参加140か国・地域のうち136か国・地域が、国際的な法人税制度の抜本的な見直しに政治的に合意した。本合意には、7月の取決めに留保を表明したアイルランド、ハンガリー、エストニア、バルバドス、ペルーが含まれる。一方、7月の合意に署名したパキスタンは、本合意への支持を撤回した。IFメンバーの他の3か国(ナイジェリア、ケニア、スリランカ)はいまだ本合意に署名していない。また、IFメンバー国でないキプロスは以前、EU加盟27か国で唯一反対を表明している。なお、本合意では、第1の柱および第2の柱双方の実施に関して、いくつかの選択肢を認めている。

第1の柱では、一定の多国籍企業(MNE)の連結利得の定式的なシェアが、(売上が生じる)市場に配分される。第1の柱は、利益率(税引前利益/売上)10%超で、グローバルの売上が200億ユーロ超のMNEに適用される。市場に再配分される利得は、売上の10%を超える税引前利益の25%として計算される。なお、採掘産業および規制された金融サービス業は、引き続き、第1の柱の利益Aの適用対象から除外されている。

第2の柱/GloBEルールでは、IFメンバー国・地域は、15%のミニマム実効税率(ETR)で法域レベルのミニマム税制を制定することに同意した。グローバルの売上が7億5千万ユーロ超の法人は、第2の柱の対象であり、本拠のある法域には、より小規模な国内MNEsに規定を適用する選択肢が維持されている。MNEグループの最終親事業体(UPE)である年金基金/投資ファンド、あるいはこれらの事業体・組織・基金により使用される保有ヴィークルは、GloBEルールからの対象外とできる。さまざまな国際海運サービスもGloBEルールから除外される。各国はまた、GloBEルールのいくつかのカーブアウトに合意した。なお、GloBEルールは共通アプローチであり、ミニマムスタンダードではない。IFの声明では、引き続き、第1の柱と第2の柱の双方について、2023年に発効(第1の柱の多国間協定は2022年に策定・署名のために開放、第2の柱の法律は2022年に各国国内法で手当て)としている。

本声明は、7月1日の政治的合意(本誌2021年8月号参照)を強化し、今後数か月の重要な技術的詳細に関する作業の方向性を示している。なお、7月公表のIF声明について、本声明で追加の技術的な詳細はほとんど公表されていない。7月の暫定合意の公表以降の重要な変更点には、以下が含まれる。

  • 第1の柱は、本声明の附属書(Annex)に示されている実施計画に沿った多国間協定を通じて実施
  • 第1の柱の対象範囲は、10%超の利益率について、平均値も参照
  • 第1の柱の配分は、「残余利益」の25%(7月時点では、20〜30%)
  • 利益Aを市場に再配分する元の事業体(surrendering entities)の決定原則は明確化されていない
  • 一定の途上国には、利益Aの選択的・拘束力のある紛争解決メカニズムが利用可能
  • 第2の柱のミニマム税率は、15%と明記(7月時点では、「少なくとも15%」)
  • 第2の柱の実体基準のカーブアウトをより具体化し、GloBEルールにおいて、多国籍企業のプレゼンスが最小限(売上10百万ユーロ未満、利得百万ユーロ未満)である法域や、実体を示す収益額(収益=実質基準のカーブアウト*)がある法域は、除外(給与と有形資産の正確な定義はまだ示されていない)

* 有形資産の簿価と給与の一定率(10年間の移行期間の後、5%)

有形資産の簿価は当初8%、5年間で0.2%ずつ減少し(7%になり)、その後、年間0.4%ずつ減少
給与は当初10%、5年間で0.2%ずつ減少し(9%になり)、その後、年間0.8%ずつ減少

  • 海外展開を開始したばかりの特定の中小規模のMNEsについて、軽課税支払いルール(UTPR)からの適用除外が可能
  • 租税条約特典否認ルール(STTR)の適用は、途上国と法定法人税率が9%(7月時点では、7.5%から9%)未満の国との間の租税条約に限定
  • 第1または第2の柱と同様の目的を持つデジタルサービス税(DST)および新たな一方的措置の廃止と防止を再記載(対象となる一方的措置の新規の詳細な定義は示されていない)
  • 米国のGILTI税制が第2の柱の制度に準拠するとの位置付けに係る明確な記述はない
  • 第1および第2の柱の実施タイムラインが更新され、一部の主要部分(UTPRなど)の実施の目標日は、2023年から2024年に延期

なお、本合意では、GloBEのモデルルール**やSTTRのモデル条約(およびコメンタリー)を2021年11月末までに策定予定としている。

** ETR(実効税率)の計算も含まれる(本合意では、現行の分配に係る税制との関連において、利益が4年以内(7月時点では、3-4年以内)に分配され、ミニマムレベル以上で課税されれば、トップアップ税の租税債務はないとされている)

(注)アイルランドの2021年10月12日の予算演説の中で、Donohoe財務大臣は、本合意を受け、グローバル売上7億5千万ユーロ超の 「大」法人に対し、最低実効法人税率15%を導入する意向である旨コメントしている(PwC, Latest digital tax byte)

出典:OECD
「月刊 国際税務」 2021年11月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

下院歳入委員会、調整税法案を承認 – 主要な事業関連規定(米国(1))

2021年9月15日、下院歳入委員会は、「Build Back Better」法案(調整法案)の一環で、下院の増減税法案を承認した(賛成24、反対19(民主党員1名を含む))。下院および上院の税法案は、2022財政年度の予算決議で検討中であり、現在、最大約3.5兆ドル(10年間)の歳出・減税規定(一部、法人・個人の増税で賄われる)となる一括法案の調整内容が提示されている。下院歳入委員会で承認された法案の主要な事業関連規定には、以下が含まれる。なお、上院財政委員会のロン・ワイデン委員長と財政委員会の民主党議員は最近、事業・国際・個人税法案に関する一連の討議草案を公表している。議会の民主党指導者は、本年末までのバイデン大統領による法案署名を目指している。事業関連の改正規定のほとんどは、2021年12月31日後に開始する課税年度の発効が提案されている。

本法案には、法人税率の変更、国際財務報告グループの支払利子制限、グローバル無形資産低課税所得(GILTI)、外国由来無形資産関連所得(FDII)、外国税額控除規定、税源浸食濫用防止税(BEAT)、サブパートF所得、および試験研究費の費用化(Section 174の下での即時損金算入)の延長など、重要な事業・国際関係規定が含まれる。JCT(米議会両院税制合同委員会)スタッフの見積もりでは、本法案の企業・国際規定により、9,636億ドル(10年間)の歳入増となる。

法人税率の引き上げ等

本法案によれば、ほとんどの法人に、累進的な連邦所得税率構造が導入されよう。(1)40万ドル以下の法人課税所得は18%、(2)40万ドル超5百万ドル以下は21%、(3)5百万ドル超は26.5%の税率となろう。所得千万ドル超の法人の税負担も、(1)超過分の3%または(2)28万7千ドルのいずれか少ない額が上乗せされ、累進税率のメリットは段階的に縮小することとなろう。なお、本累進税率構造は、適格人的サービス法人(Section 448(d)(2)で定義)には適用されず、26.5%のフラットな連邦所得税率となろう。Section 243に基づく内国法人からの受取配当の控除額は、20%所有の法人からの受取配当では65%から72.5%に、適格配当ではないその他の配当では50%から60%に引き上げられよう。法人所得税率および国内配当控除に係るこれらの改正は、2021年12月31日後に開始する課税年度に発効となろう(暦年以外の納税者は、2022年1月1日を含む課税年度の比例配分された税率となろう(Section 15))。

国際財務報告グループの支払利子制限

本法案では、国際財務報告グループのメンバーである特定の内国法人、および米国内で営業または事業に従事する外国法人の利子控除を制限するための新Section 163(n)を規定している。本制限は通常、3年間の平均超過支払利子(利子収入控除後)が1,200万ドルを超えるC法人にのみ適用される。本制限は、通常、グループの純支払利子の内国法人シェア(EBITDA比率に基づいて決定)の110%に相当する。本法案では、パートナーシップおよびS法人がパートナーおよびS法人の株主レベルで適用するためのSection 163(j)を改正し、パートナーシップのパートナーに特別な移行規定を設けることとなろう。本法案では、パートナーシップとS法人に集約的アプローチを適用し、一貫した集約的アプローチを反映するためにSection 163(j)(4)について対応する改正を提案している。本法案では、Section 163(o)を追加し、Section 163(j)(1)またはSection 163(n)(1)(いずれか低い方)に基づく控除否認利子費用の5年間の繰越しが規定されよう。本目的上、利子は先入先出法での控除と取り扱われる。Section 163(n)および163(o)は、2021年12月31日後に開始する課税年度に適用することが提案されている。なお、本法案では、Section 163(j)の「調整済み課税所得」(ATI)の定義の変更はない。2022年1月1日以降に開始する課税年度については、ATIはEBITと同様に計算される(現行法では、ATIはEBITDAと同様に計算)。

FDIIおよびGILTIの控除の改正

本法案では、FDIIに係るSection 250の控除は21.875%(37.5%から)に、GILTIに係るSection 250の控除は37.5%(50%から)に削減されよう(2021年12月31日後に開始する課税年度に発効)。本法案では、Section 250の控除に関する既存の課税所得制限(控除額が納税者の所得を超える場合の控除制限)も廃止する。本法案では、納税者の純営業損失(NOL)を算定する際に、この超過控除を考慮に入れることを認める。また、Section 250(b)(3)の「控除可能所得」(DEI)の定義の「技術的修正」(一定所得の除外)についても規定されよう。

GILTI合算の改正

本法案では、GILTI制度を国ごとに適用することを規定し、適格事業資産投資(QBAI)の10%をQBAIの5%に置き換えることにより、認められる純みなし有形資産所得は削減されよう(本減額は、米国領内のCFC課税対象ユニットには適用されない)。GILTI制度に関するその他の改正には、国別の純CFC損失の翌課税年度以降への繰越しや、外国石油・ガス採掘所得(FOGEI)の特例廃止、が含まれる。これらの改正は、2021年12月31日後に開始する外国法人の課税年度に発効することとなろう。

外国税額控除制限および関連規定の改正

本法案では、Section 904、907、および960の適用上、国ごとに、個別の制限カテゴリーのそれぞれで外国税額控除を行うことを求める新Section 904(e)が追加されよう。本規定では、各所得・損失項目を、各国の税務上の居住者である(または支店の場合はその国で課税プレゼンスがある)納税者の課税ユニットに通常割り当てることとなる。本法案ではまた、外国支店所得のバスケットを廃止することになろう。本法案では、外国税額控除の繰越は5年に制限され(現在、Section 904(c)では10年)、1年の繰戻しは廃止されよう。さらに、本法案では、納税者が外国税に起因する控除または還付を請求できる期間を10年から5年に短縮するために、Section 6511(d)(3)(A)の改正が行われよう。Section 901も同様の改正があるが、外国税額控除から損金算入への変更の場合は、通常3年の制限(Section 6511(a))、ないし契約による延長の場合はより長い期間(Section 6511(c))となる。なお、5年間の繰越は、GILTIバスケットの外国税額控除にも適用される。本法案では、合算に関するSection 250の控除を除き、GILTI合算に対して米国のグループ経費を割り当てることはできないであろう。さらに、本法案には、他のすべての国外源泉所得考慮後にのみ、GILTIカテゴリー所得に関して別個の制限損失勘定が生じるとする特別規定が含まれる。Section 338(h)(16)の原則は、「対象資産の処分」(通常、外国税法上の法人株式の処分として扱われる取引)に関する項目の源泉地および性質の判定に適用されよう。これらの改正は、2021年12月31日後に開始する外国法人の課税年度、および外国法人の当該課税年度が終了する日を含む米国株主の課税年度に発効となろう。

みなし支払い税控除の改正

本法案では、Section 904(d)(1)の改正により、Section 960(d)に基づくGILTIに帰属する税のみなし支払い控除の対象外(haircut)を20%から5%に効果的に削減し、Section 904(d)(3)の改正により、純CFC損失となるCFCで生じた外国税の税額控除ができる可能性がある。本改正は、2021年12月31日後に開始する外国法人の課税年度に発効となろう。

BEATの改正

本法案では、2021年12月31日後から2024年1月1日前までに開始する課税年度のBEAT税率は10%、2023年12月31日後から2026年1月1日前までに開始する課税年度では12.5%、2025年12月31日後に開始する課税年度では15%、に改正されよう。本提案では、税源浸食ミニマム税額は、税額控除前で計算される(BEAT税に係るSection 38の一般的な事業税額控除は適用可能性あり)。本法案では、3%の税源浸食率の閾値が廃止される(2024年1月1日前に開始する課税年度を除く)。本法案では、Section 59A(c)を改正し、(1)税源浸食となる税恩典を無視し、(2)棚卸資産のベーシスの計算に際して税源浸食支払いを無視し、(3)税源浸食となる税恩典を考慮せずに純営業損失を計算し、(4)代替ミニマム税に適用されるものと同様の規定に基づいて調整を行い、修正課税所得を計算することとなろう。これらの改正により、税源浸食支払いの定義が拡張され、売上原価(COGS)に含まれる一部の支払いが含まれるようになるが、本法案ではすべてのCOGSが税源浸食の支払いとして扱われるわけではない。本提案ではまた、米国での課税の対象(実質関連所得、サブパートFまたはGILTIに基づく課税を含む)、または十分な外国税が課されている額を税源浸食支払いから除外し、BEATの過大算入適用を緩和しようとしている(既存の源泉課税除外の拡大)。改正Section 59Aは、2021年12月31日後に開始する課税年度に適用することが提案されている。

試験研究費の費用化(Section 174)の延長

本法案では、2026年前に開始する課税年度に支払われ、または発生したSection 174に基づく試験研究費の費用化を延長することとなろう(現在、2021年後に開始する課税年度において期限切れの見込み)。研究開発費のある納税者は、支払/発生課税年度に控除、Section174に基づき資産計上し一般に5年間にわたって償却、またはSection 59(e)に基づき資産計上し10年間にわたって償却するオプションが引き続き認められよう。

Section 331の清算における特定損失の取扱いの改正

本法案では、新しいSection 267(h)が追加されよう。これは、Section 331が適用される完全な清算において、清算法人の株式/有価証券で実現された特定損失の認識を繰り延べるものである。具体的には、Section 267(b)(3)における2関連法人について、このような清算で資産を取得した法人が、それら資産の実質的にすべてを、1以上の非関連者(Section 267(b)(3)または Section 707(b)(1))に処分するまで、本完全清算における清算法人の株式/有価証券の損失は認識されない(いわゆるGranite Trust取引を効果的に排除)。

レバレッジスピンオフによる分割型再編に関する追加の制限

本法案では、新しいSection 361(d)が追加され、これにより、分配法人が、その債権者に対して、boot(非株式対価)および被支配法人の債務証券を非課税で移転することは制限されよう。新Section 361(d)では、分割型再編の分配法人は、1)boot交付額、2)被支配法人の発行証券、3)被支配法人の引継ぎ負債の合計(a)が、当該再編で分配法人から被支配会社に移転された資産のベーシス(b)を超える範囲で、受け取ったbootの利益を認識することとなろう。本規定は、制定日以降に発生する再編に適用されよう。現行法では、新たに発行された被支配法人の債務証券は、分割型再編において、分配法人が、利益の認識なしに受け取ることが認められているboot制限の計算上、無視されている。本規定では、当該交換(exchange)で発行される被支配法人の債務証券の額によって、利益の認識なしに分配法人が受け取ることを認められるboot額は、さらに制限されよう。

以上のほか、サブパートF所得関連の改正案等も提示されている。

出典:PwC, Tax Insights
「月刊 国際税務」 2021年11月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

下院歳入委員会、調整税法案を承認 – 主要な個人関連規定(米国(2))

2021年9月15日、下院歳入委員会は、「Build Back Better」調整法案の一環で、下院の増減税法案を承認した。高所得者、パススルー事業(パートナーシップおよびS法人を含む)、および不動産・信託に影響を与える可能性のある個人所得税規定には、以下が含まれる。

個人の最高税率引き上げ

本提案では、課税所得45万ドル超の夫婦合算申告既婚者、課税所得42万5千ドル超の世帯主、課税所得40万ドル超の未婚者、課税所得22万5千ドル超の夫婦個別申告既婚者、課税所得1万2,500ドル超の不動産・信託に係る最高累進個人所得税率が、37%から39.6%に引き上げられよう。

キャピタルゲインと適格配当の税率

本提案では、2021年9月13日(本提案の提出日)後に終了する課税年度のキャピタルゲインと適格配当の最高税率が、20%から25%に引き上げられよう(提出日以前の期間に対応する適格配当、利益、および損失には、法定税率20%を引き続き適用)。制定された場合、現在20%の税率の対象となっている納税者に対し、2021年については、9月14日から12月31日までの期間に25%の税率が適用される。ただし、2022年以降(最高累進税率に関する別個の提案が制定された場合)は、最高の通常所得税率(39.6%)の対象となる納税者に対して、税率の引き上げが適用される。

新しい3%の賦課金(surcharge)

本提案では、納税者の5百万ドル超の修正調整総所得(既婚者が個別申告する場合は2.5百万ドル超、信託/不動産の場合は10万ドル超)​​に対し、新たに3%の賦課金が創設される。これらの変更は、2021年12月31日後に開始する課税年度に適用されよう。

純投資所得税(NIIT)の対象範囲拡大

NIITは、定義された法定閾値を超えて修正調整総所得(MAGI)を有する個人、不動産/信託の「純投資所得」に3.8%で課税されている。純投資所得には通常、利子、配当、キャピタルゲイン、賃貸料およびロイヤルティー収入、非適格年金、および納税者にとって受動的な活動である事業からの所得が含まれる。本提案では、課税所得が40万ドル(単一申告者)または50万ドル(合算申告者)超の納税者、および信託/不動産の最高税率適用所得について、通常の営業/事業の過程で得られる「特定の所得」をカバーするよう、本税の範囲が拡大されよう。本提案では、FICA(雇用関連諸税)がすでに課されている所得にNIITが課されないであろうことが示唆されている。本改正は、2021年12月31日後に開始する課税年度に発効となろう。

以上のほか、Section 199A適格事業所得控除(パススルー事業体の所有者の適格事業所得の最大20%控除)の制限、法人以外の納税者の超過事業損失控除の制限や、キャリードインタレスト関連の改正も提案されている。また、遺産税・贈与税規定の改正(例えば、非課税枠の10百万ドルから5百万ドルへの縮減(インフレ調整前)、個人退職金口座(IRA)規定の改正や、特定の個人に影響を与える可能性のある事業税規定(例えば、S法人からパートナーシップへの非課税コンバージョンに係る暫定規定)の改正なども提案されている。

出典:PwC, Tax Insights
「月刊 国際税務」 2021年11月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

上院財政委員会のロン・ワイデン委員長、パートナーシップ税制の大幅な改正を提案(米国(3))

2021年9月10日、上院財政委員会のロン・ワイデン委員長は、内国歳入法のサブチャプターKに基づくパートナーシップとパートナーの取扱いを大幅に改正する法案の討議草案を公表した。本討議草案には、以下の改正が含まれる。

  • Section 701の技術的修正 – FASB(財務会計基準委員会)報告に沿った税務報告(事業体レベルでの不確実な税務ポジションの報告)によりパートナーシップ報告要件の強化をIRSに容認
  • Section 704(b)に基づく実質的な経済効果(substantial economic effect (SEE))テストを廃止 - パートナーシップの配賦に係る一般的な規定として、パートナーシップにおけるパートナー持分(partners interest in the partnership (PIP))を義務化(関連者が50%以上を保有している特定のパートナーシップは、常に、パートナーの純拠出資本に基づいて諸項目を配賦する必要)
  • すべてのSection 704(c)の配賦に特定の方法(remedial method)の使用を義務付け(パートナー間の含み益移転を完全防止)
  • パートナーの経済的取り決め変更に際し、パートナーシップ資産の再評価を義務付け(現在の財務省規則(Treas. Reg. sec. 1.704-1(b)(2)(iv)(f))では任意)
  • Section 704(c)(1)(B)および737に基づく「mixing bowl」取引に係る7年間の制限を撤廃(拠出後の期間に関係なく適用) - 実質的に売却/交換となる拠出・分配を非課税取引とすることを防止
  • 財務省がSection 705に基づき規則を制定することを容認 - パートナーが、パートナーシップ終了以外の状況でパートナーシップ持分(調整後ベーシス)を見積もり
  • 保証支払いに関する規定(Section 707(c))の廃止 - 実質的な分配に含まれないサービスまたは資本の使用に対するパートナーへのすべての支払いを、Section 707(a)に基づくパートナーとしての立場で行動していないパートナーへの支払いとして取り扱うことを義務付け
  • Section 736および761に基づくパートナーの退任・脱退に関する特別規定の廃止
  • パートナーシップ持分の「偽装売却」(パートナーシップ持分の拠出・分配や、資本拠出の返済)を規定するSection 707(a)(2)(B)の明確化
  • 事業のいずれかの部分が以前のパートナーシップのパートナーであった者またはそれらのパートナーのいずれかに関連する者によって行われる場合、パートナーシップはSection 708に基づいて終了しないことの明確化
  • Section 751(b)をSection 751(a)に準拠 - 分配に際し、一定の(substantially appreciated)棚卸資産のみ通常所得とする要件を廃止 – 一定の通常所得資産(hot assets)の分配の際、通常所得から低税率のキャピタルゲインに切り替えることを防止
  • Section 752の改正 - パートナー/関連者が貸し手でない限り、パートナーシップ利得に従って負債を配賦
  • Section 734(b)および743(b)に基づくベーシス調整(分配およびパートナーシップ持分の移転の際)を義務化
  • Section 7704に基づく上場パートナーシップ(PTPs)の法人扱いの例外を廃止 – すべてのPTPsは法人として課税
  • Section 163(j)(4)の改正 - 事業利子の制限を、パートナーシップおよびS法人の事業体レベルで完全適用
  • Section 852(b)(6)の改正 – RIC(規制投資会社)は、含み益資産を有する法人からの分配時に利益認識が求められよう
  • Section 52の改正 - 外国事業体を含め、営業/事業/営利活動に従事する納税者は、Section 52に基づく集約規定(aggregation rules)の対象(利子控除制限(Section 163(j)等)

出典:PwC, Tax Insights
「月刊 国際税務」 2021年11月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

下院歳入委員会の「Build Back Better」調整法案 — パススルー事業体の税制改正案(米国(4))

2021年9月15日、下院歳入委員会は、「Build Back Better」調整法案の一環で、下院の増減税法案を承認した。パートナー、パートナーシップ、およびその他のパススルー事業体に影響を与える本法案には、以下が含まれる。

  • 純投資所得税(NIIT)の拡大 – 例えば、リミテッドパートナーシップの所得について、閾値(40万ドル(単一申告者)/50万ドル(合算申告者))を超える所得があるリミテッドパートナーは、通常、その税務上の持分がNIITの対象となろう
  • 適格事業所得のSection 199A適格事業所得控除(パススルー事業体の所有者の適格事業所得の最大20%控除)の制限 - 金額制限を付加
  • 投資ファンドマネージャーによるキャリードインタレスト所得の現行取扱いの改正 - 長期キャピタルゲインとなる一定所得の保有期間の改正(3年超→5年超)、パートナーシップ持分(API)の定義やその移転に係る規定の改正等
  • 事業利子費用の控除制限の改正 – Section 163(j)を改正し、現行法のパートナーシップレベルではなく、パートナーレベルで利子制限を適用
  • 無価値のパートナーシップ持分に関する損失規定の改正 - 通常損失としての取扱いを廃止(キャピタルロスになる)
  • S法人からパートナーシップへの非課税コンバージョンの暫定規定
  • 特定の納税者(調整後所得40万ドル以上、信託/不動産)に対する適格な中小企業の株式に係る恩典(株式譲渡益の75%/100%免除)の制限(引き続き、50%免除の可能性はあり)

出典:PwC, Tax Insights
「月刊 国際税務」 2021年11月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

2022年度予算(オランダ)

2022年度予算(予算日9月21日)には、以下の法人税の改正案が含まれている。

みなし控除/非公式資本(informal capital)

現在、所得・費用双方が独立企業原則に沿うよう調整可能であるが、2022年1月1日以降に開始する年度(book year)については、グループ法人レベルで(みなし)所得が認識される場合に限り、みなし費用を認識できることとなろう。これは、たとえば無利子ローンに関係する。従前、納税者は、無利子ローンの独立企業間利子相当のみなし利子控除を認識できていたが、今後は、債権者が対応する調整を認識しない場合、これは認められないであろう。もう1つの例は、原産国が独立企業間価格を下回る販売価格を認めているため、関連者のトレーダーが売上原価を増加している場合である。 2022年1月1日以後は、原産国で対応する調整が行われない場合、上方修正は適用されなくなろう。また、2019年7月1日以後に開始した会計年度に無形資産(IP)がグループ法人からオランダに移転され、その移転取引から生じるキャピタルゲインが課税されていない場合、そのIPの償却は制限される可能性がある。

ATAD2 - リバースハイブリッド規定

2022年度改正案では、リバースハイブリッド事業体(オランダの税務上は透明であるが、パートナーシップを不透明かつオランダの居住者であるとみなすパートナーが保有するパートナーシップ)に納税義務(subjective tax liability)を導入するATAD(Anti-Tax Avoidance Directive)2指令の要件が含まれている(最もよく知られている例は、CV/BVストラクチャー)。本措置は、法人所得税、配当源泉税、利子・ロイヤルティーの支払いに対する条件付き源泉税、所得税(外国税債務)、およびオランダの課税一般法に適用されよう。ただし、有価証券に投資する特定の投資ファンドには、本措置は適用されないであろう。本措置の発効日は2022年1月1日となろう(祖父条項なし)。

以上のほか、ストックオプション、および出国に係る配当源泉税(クロスボーダー株式合併/法的合併/分割/マイグレーションに影響の可能性)の改正案もある。なお、パートナーシップの区分規定(本誌2021年6月号参照)は本改正案に含まれなかったが、2021/2022年冬に別途公表される可能性がある。

出典:PwC, Tax Insights
「月刊 国際税務」 2021年11月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

欧州司法裁判所、ベルギーの超過利得制度が国家補助スキームを構成すると判断、一般裁判所に差し戻し(EU/ベルギー)

本判決は、2019年2月14日、欧州連合(EU)の一般裁判所の判決に対して、欧州委員会(EC)が上訴していたものである(T-131/16およびT–263/16事件)。一般裁判所は、ECが、ベルギーの超過利得ルーリング制度を「補助スキーム」と誤って分類したとして、2016年1月11日付のECの国家補助の最終決定を破棄した。

ベルギー政府、影響を受けたベルギー法人、およびECの間の現在の論争は、長年にわたって続いている。本訴訟は、特定の所得(超過利得)を免除するベルギー税法の規定に関連している。超過利得とは、独立企業間原則に基づいて、ベルギーの活動に関連するとはみなされない利得である。ベルギーのルーリング担当局は、本規定をケースバイケースで適用し、必要に応じて個別ルーリングを出していた。ECは、その最終決定において、超過利得規定が、選択的便益を与えた(つまり、すべての比較可能な法人が利用できるわけでない)とし、これらのルーリングは違法な国家補助を構成するとの見解をとった。さらに、ECは、ルーリングをケースバイケースで評価して、それぞれの場合に個別の補助の存在を実証するのではなく、ベルギー税務当局による一貫した行政慣行を補助スキームと考えるべきであるとした。

一般裁判所は、ECが、超過利得ルーリング制度自体を補助スキームであると考えた点に方法論的な誤りがあるとし、その決定を無効とした。つまり、一般裁判所によれば、ECは、個別の補助の存在をケースバイケースで決定するよう、各ルーリングの詳細を検討すべきとした。

2021年9月16日、ECJ(欧州司法裁判所)は、一般裁判所の判決を無効とし、ベルギーの超過利得規定の適格性および補助スキームとしての一貫したルーリング慣行に関するECの最終決定を支持した。

ベルギーの超過利得ルーリングが実際に違法な国家援助を構成するかどうかの最終判断は、まだ数年かかる可能性がある。

出典:PwC, EUDTG Newsalert
「月刊 国際税務」 2021年11月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

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