月刊国際税務 Worldwide Tax Summary 6月号

2018-06-05

2018年6月号Worldwide Tax Summaryトピックス

  1. 改正利子費用制限に関する第一弾のガイダンスの公表(米国)
  2. 条約/指令濫用防止規定に関する通達の公表(ドイツ)
  3. 2018年1月1日から新たなIP税制を適用(ルクセンブルグ)
  4. 集積回路(IC)企業の優遇法人所得税制の拡大(中国)
  5. ハイブリッドミスマッチ規定法案の公表(オーストラリア)

改正利子費用制限に関する第一弾のガイダンスの公表(米国)

2018年4月2日、財務省とIRS(内国歳入庁)は、通知(Notice 2018-28)を公表した。本通知では、中間指針(ガイダンス)を示しており、2017年12月31日後に開始する課税年度に係る改正163(j)条(Section 163(j))の事業利子費用損金算入制限に関して公表予定の提案規則(proposed regulations)について説明している。本通知では、本提案規則がカバーする論点を明確にしているが、特に、163(j)条の改正後、納税者が取り組んできたいくつかの不明点に対処している。これらの論点には、以下が含まれる。

  • 連結納税申告レベルで163(j)条の制限を適用する
  • 改正前の163(j)条で生じた納税者の非適格利子否認額の繰越を認める
  • 特に163(j)条から区分されない限り、Cコーポレーション(C corporation)の利子所得・費用を事業利子所得/費用として取扱う
  • パートナーが、パートナーシップの純事業利子所得持分(share)を考慮することを認める

本通知では、提案規則が公表されるまで、納税者は、本通知で設けられた規定によることができることも示している。

背景

利子費用の損金算入を制限する163(j)条は、2017年12月22日制定の2017年度税制改革法(Pub. L. No. 115-97)で改正された。一般に、改正前163(j)条では、米国税の対象とならない関連者(例えば、米国税が租税条約で軽減された国外関連者)への支払/未払特定利子に係る納税者の純利子費用の損金算入は、納税者の「調整課税所得(adjusted taxable income: ATI)」(概ねEBITDA(利子・税・償却費控除前利得)に相当)の50%に制限されていた。関連者保証の対象になる非関連者への支払/未払特定利子にも同様の取扱いが適用された。旧法にはセーフハーバーがあり、納税者の負債資本比率が1.5:1以下の場合には、この制限は適用されなかった。損金算入否認額は無期限に繰越ができ、納税者の控除余裕額(納税者ATIの50%が純利子費用を超える部分)は3年間の繰越ができた。

新163(j)条では、米国事業利子費用の損金算入は、課税年度の事業利子所得、ATIの30%と、納税者の購入資金融資(floor plan financing)利子の合計額までに制限される。この新たな制限は、納税者の形式にかかわらず、また納税者が「内資系」グループの一部か、「外資系」グループの一部かにかかわらず、「事業利子(business interest)」に広範に適用される。つまり、旧163(j)条と異なり、新規定は、利子が外国の者(foreign person)か、米国の者(US person)に支払われるかにかかわらず適用される。更に、ATIは、2022年1月1日前に開始する課税年度までは概ねEBITDAに相当する(旧163(j)と同様)。しかしながら、2022年1月1日以後に開始する課税年度から、ATIは、概ねEBIT(利子・税控除前利得)に相当するものになる。また、本税制改革法でも、事業利子費用の否認額は、無期限に繰越できる。

  • 本通知の前は、以下に関して重要な不明点があった。
  • 新163(j)条の連結グループへの適用
  • 新163(j)条の法人パートナーがいるパートナーシップへの適用
  • 旧法により生じた否認利子と控除枠の繰越に関する新163(j)条の取扱い
  • 他の論点のうち、否認利子繰越額の税源浸食・濫用防止税(BEAT)上の取扱い

非適格利子否認額の繰越の取扱い

本通知で説明されているように、財務省とIRSは、納税者が2018年1月1日前に開始した直近課税年度の旧163(j)(1)(A)条で否認された非適格利子の繰越方法を明確化する規則の公表を予定している。非適格利子は、2017年12月31日後に開始する納税者の最初の課税年度に繰り越され、本税制改革法で改正された163(j)条の利子費用否認規定の対象になる。

重要なのは、本規則は、非適格利子の繰越に関し、163(j)条と59A条(BEAT)の規定の相互関係にも対処することである。特に、規則では、旧法上(2018年1月1日前に開始した直近課税年度)の非適格利子費用の繰越は、新法上の支払/未払利子同様に59A条の対象になる。従って、利子費用は、損金算入が認められる場合、税源浸食支払(base erosion payment)と取り扱われる可能性がある。

更に、利子繰越は、59A(c)(3)条の下での利子費用に関する163(j)条調整規定の対象になる。本規定では、否認利子費用は、まず非関連者への支払利子に配賦され、残額は関連者への支払いとみなされる(納税者が明確に関連者・非関連者利子支払いをトレースできない限り、不利な順序規定)。

控除余裕額の繰越

上述の通り、旧163(j)条では、控除余裕額は3年間の繰越ができたが、新163(j)条では、(パートナーシップとの関連を除き)その概念は維持されていない。本通知によれば、財務省とIRSはこれに係る規則を公表する予定である。

連結グループへの適用

旧163(j)条では、1504(a)条の関連グループ会社(affiliated group of companies)を1の納税者と扱う規定が含まれおり、財務省は関連規則の制定が認められていた。外国親会社は、1504(a)条の下で含まれる法人ではないため、共通の外国親法人を通じて繋がる2以上の米国連結グループは、旧163(j)条では、単一の納税者として取り扱う必要はなかった。しかしながら、旧163(j)条の下で公表された提案規則には、2以上の米国連結グループを1の納税者と取り扱うことを求める特別規定(「super-affiliation」)が含まれていた。本規定は、提案規則のみに含まれていたため、納税者は、本規定の適用を選択できた。

新163(j)条では、法定の連結規定はなく、財務省に関連規則の制定に関する明示的権限も与えていない。法律上明確な連結規定はないが、改正163(j)条に関する下院通過版の税制改革法の議会報告説明では、連結申告書を提出する関連グループ会社の場合、損金算入制限は、連結申告レベルで適用されるとしていた。本通知によれば、上院版もこのアプローチと不整合はないとしているが、連結申告を提出しない関連グループへの163(j)条の適用には言及されていないことも記している。

本通知では、議会の意向に沿って、財務省とIRSは、163(j)条の損金算入制限は財務省規則(Treas. Reg.)1.1502-1(h)条の連結グループレベルで適用されることを明確化する規則を公表する意向である。その結果、163(j)(1)条の利子費用制限の決定は、連結課税所得に基づき、グループメンバー間の関連者債務(intercompany obligations)は無視される。

追加ガイダンスでは、以下への対処がなされる見込みである。

  • 旧163(j)条のsuper affiliationにより関連者と扱われるグループからの事業利子費用の配賦
  • グループメンバー間での163(j)(1)条の損金算入制限の配賦
  • グループメンバーが離脱する場合の利子損金算入否認額繰越の取扱い
  • グループに加入するメンバーの利子損金算入否認額の繰越の取扱い(このような繰越がSRLY(単体申告制限年度)の制限の対象になるかを含む)
  • 財務省規則1.1502-32(他のメンバーが有する子会社株式の投資簿価修正規定)の利子損金算入否認額への適用
  • 特定種類の事業を行う1以上のメンバーがいる連結グループへの163(j)条の適用

163(j)条の連結グループ規定は、単一の納税者として連結申告書を提出しない関連グループへの適用は見込まれていない。

Cコーポレーションの事業利子と費用

本通知では、財務省とIRSは、Cコーポレーションのすべての支払/未払利子費用は163(j)(5)条の事業利子であるという議会の意向に沿った規則を公表する見込みであるとしている。Cコーポレーションの有する負債に係る利子は総所得に含まれ、163(j)(6)条の事業利子所得となる。これらの規定は、Cコーポレーションだけに適用され、Sコーポレーションには適用されない。なお、本通知では、法人が稼得する他の種類の所得、例えば、サブパートFやグローバル無形資産軽課税所得(GILTI)での取り込みには対処していない。更に、法人パートナーが、パートナーシップを通じて投資利子所得/費用の配賦を受けた場合の取扱いも明確ではない。

E&P(米国税法上の留保利得)への影響なし

本通知では、旧法の提案規則同様、今後の規則では、163(j)条の下でのCコーポレーションの事業利子の利子否認と控除繰越は、このような事業利子費用が支払法人のE&Pの減少ないしその時期に影響ないことを明確化するとしている。

パートナーシップの規則

財務省とIRSは、163(j)(1)条の下でのパートナーの事業利子の年間損金算入額の計算上、パートナーは、パートナーシップの事業利子所得がその事業利子費用(購入資金融資を除き)を超える額のパートナーへの配賦持分の範囲を除いて、その課税年度のパートナーシップ事業利子所得のパートナー持分を含めることはできない、とする規則の公表を予定している。

提案規則の廃止とコメント募集

本通知では、改正163(j)条の提案規則公表により、旧提案規則は廃止されるであろうとしている。

本通知で説明された規定と、今後の規則で対処すべき追加論点に関するコメントが、2018年5月31日まで受け付けられた。

 

出典:PwC, Tax Insights 
「月刊 国際税務」 2018年6月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人常任顧問 岡田 至康 監修

条約/指令濫用防止規定に関する通達の公表(ドイツ)

2018年4月4日、税務当局は、条約/指令濫用防止規定のEU法に沿った解釈に対処する通達(Circular)を公表した。本通達は、旧条約/指令濫用防止規定がEU法に適合しないとの最近の欧州司法裁判所(CJEU)の判決(C-504/16とC-613/16)に対処するものである(本誌2018年2月号参照)。

ドイツ法人から非居住株主への配当は、通常、付加税を含めて26.375%の源泉税の対象になるが、指令の恩典を受ける配当で、規定で否認/制限を受けないものについては、免税/還付となる。CJEUは、旧規定はEU法違反との判決を下したが、その理由付けを見ると、現行規定もEU法違反となる可能性がある(C-440/17)。

CJEUの判決に応じて、税務当局は、EU法に沿った改正解釈規定を示す通達を公表した。税務当局は、2011年12月31日まで有効であった規定は適用しないものの、現行規定は依然として適用する。しかしながら、本通達では、特に、特定の実体要件と、持株会社を介在させる事業その他の税以外の目的の受容に関する規定の厳しくない解釈を示している。本通達では、この厳しくない解釈は、指令による源泉税の軽減に限られ、指令の要件を満たさない配当には、引き続き厳しい解釈が適用される。

 

出典:PwC, Tax Insights 
「月刊 国際税務」 2018年6月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人常任顧問 岡田 至康 監修

2018年1月1日から新たなIP税制を適用(ルクセンブルグ)

2018年3月22日、政府は、新たな無形資産(IP)制度を2018年1月1日に遡って発効させるために必要な法的措置を承認した。次は、国務院(Conseil d’Etat)での承認となる。本措置は、2017年8月に公表された法案第7163号で導入され(本誌2017年10月号参照)、その後大幅な修正はない。本新制度では、適格IP権について、適格純所得の80%の免税を規定する。

新制度は、OECDのBEPSプロジェクト行動5最終報告の勧告等と整合的であり、2018年課税年度に発効する(所得税法第50条の3(50ter)。旧IP制度(所得税法第50条の2(50bis)は2016年6月30 日までで廃止されたが、旧制度で適格のIPは、制度存置(サンセット)期間の2021年6月30日終了期間まで、引き続き旧制度の恩典が受けられる。

適格純所得の実効税率は、法人所得税・地方事業税合わせて5.202%になる(2018課税年度)。新制度で適格となるIP資産は、純富裕税の免税の恩典もある。免税となるレベルは旧制度と整合しているが、新制度の範囲と免除の計算方法が異なる。ネクサスアプローチでは、支出、IP資産、制度恩典を受ける所得の直接の関係にフォーカスしている。納税者は、原則として、個々のIP資産毎に、所得と支出が個別資産に紐付いていることを証明しなければならない(asset-by-asset approach)。新制度は、ルクセンブルグ居住法人、外国法人の恒久的施設(PE)、個人が利用できる。

 

出典:PwC, Tax Insights 
「月刊 国際税務」 2018年6月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人常任顧問 岡田 至康 監修

集積回路(IC)企業の優遇法人所得税制の拡大(中国)

2000年、政府は、ソフトウェアと集積回路(IC)企業に係る一連の税恩典の導入を開始した。2018年3月28日、財政部(MOF)、国家税務総局(SAT)、国家発展改革委員会(NDRC)及び工業情報化部(MIIT)は共同で、IC企業の法人所得税政策に関する公告[2018]第27号を公表した。本公告では、2018年1月1日後設立の適格IC企業/プロジェクトと、2017年12月31日前設立で未だ利益を計上していないIC企業の恩典を規定している。

IC産業開発を更に奨励するため、本公告では、以下の4種類の恩典を提示している。詳細な適用要件と手続きは、[2016]第49号通達にある。

2018年1月1日後に設立されたIC製造企業/プロジェクトについて、

1. IC線幅が130ナノメーター(nm)未満で、事業活動期間が10年以上の場合、最初に利得(過年度欠損考慮後)計上する2年は法人所得税が免税、その後3年は50%免税になる。

2. IC線幅が65nm未満又は中国IC製造企業への総投資が150億元以上で、事業継続期間が15年以上の場合、最初に利得(過年度欠損考慮後)計上する5年は法人所得税が免税、その後5年は50%免税になる。

2017年12月31日前に設立されたが、2018年1月1日時点の累積で未だ利得計上していないIC製造企業は、過去の課税年度で使用された税恩典が延長された。

2017年12月31日前に設立されたIC製造企業について、

3. IC線幅が0.8ミクロメーター(mm)未満の場合、累積で利得計上になる課税年度から税恩典が始まる。最初に利得計上する2年は法人所得税が免税、その後3年は50%免税になる。

4. ICの線幅が0.25mm未満又は中国IC製造企業への総投資が80億元以上で、事業継続期間が15年以上の場合、最初に累積で利得計上する5年は法人所得税が免税、その後5年は50%免税になる。

 

出典:PwC, Tax Insights
「月刊 国際税務」 2018年6月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人常任顧問 岡田 至康 監修

ハイブリッドミスマッチ規定法案の公表(オーストラリア)

政府は、概ねOECDの勧告に沿ったハイブリッドミスマッチ取決めに対処するための法案を公表した。法案では、外国からオーストラリアへの貸し手が、直接又は間接に10%以下の税率の対象になっている場合に追加税を課すことを意図したユニラテラルの規定も含まれる。

本法案は、事業体、手段(instrument)や支店のミスマッチについて、例えば、損金算入を否認したり、課税所得額に含めたりすることで、無効化する効果がある。規定は自動的に適用されるので、租税回避の意図は求められない。本法案は、オーストラリア法人の行う支払いで、OECDのハイブリッドミスマッチ規定を採用していない国において、直接又は間接にハイブリッドミスマッチの状況になるものについて、基本的に損金算入を制限又は排除することを求める輸入ハイブリッドミスマッチ(imported hybrid mismatch)規定が含まれる。これらの規定は、賃料(rents)、ロイヤルティー、利子、サービスフィーを含む広範の支払いについて、オーストラリアでの損金算入を否認できる効果がある。また、本法案には、直接又は間接に外国に介在するゼロ又は軽課税(10%以下)の税率の貸し手への利子とデリバティブの支払いについて、ハイブリッドミスマッチ規定に優先して追加税を課すことを意図したユニラテラルの措置も含まれる。

提案規定の発効日は明確でないが、議会日程に基づき、2019年1月1日になる可能性がある。


出典:PwC, International Tax News
「月刊 国際税務」 2018年6月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人常任顧問 岡田 至康 監修

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