月刊国際税務 Worldwide Tax Summary 8月号

2022-09-07

2022年8月号Worldwide Tax Summaryトピックス

  1. IP源泉徴収税の免除申請期間を1年延長(ドイツ(1))
  2. CJEU、ポートフォリオ保有の非居住者(法人納税者)による源泉税還付請求に係るドイツの要件はEU法違反と判断(ドイツ(2))
  3. ドイツ法人の英国の恒久的施設で生じた最終損失の控除に関するCJEU法務官見解(ドイツ(3))
  4. CFC規定 – 設立の自由(freedom of establishment)に関してのみ検討が必要と判示(フランス)

  5. EU一般裁判所、欧州委員会による英国CFC規定に係る国家補助の決定に関し、英国およびITV plcの申請を共に棄却(英国)
  6. EFTA裁判所、利子制限規定(グループ拠出規定との組合せ)が設立の自由に違反すると判示(ノルウェー)

IP源泉徴収税の免除申請期間を1年延長(ドイツ(1))

2022年6月29日、財務省は、ドイツのIPネクサス規定に関する「簡易な源泉徴収手続き」をさらに1年延長し、2023年7月1日前に受領した支払いにも適用する旨の通達を発出した。納税者は、この1年の源泉免除申請期限の延長により、ペナルティー賦課の可能性を回避できる。したがって、ドイツで登記される可能性があるIPを特定し、コンプライアンス要件を評価するため、IPストラクチャーおよび取引を引き続き評価する必要がある。

背景

従前からのドイツ税法の文言に基づき、現在、権利のライセンスや販売によって生じる所得は、その基礎となるIPがドイツの登記簿に登録されていれば(受領者と支払者がドイツ居住者でなくても、またドイツに他のネクサスを認められなくても)、ドイツで非居住者課税の適用範囲に含まれるとされている。2020年11月6日、財務省は通達を発出し、受領者と支払者がドイツ国外の居住者である場合においても、ロイヤルティーとキャピタルゲインの双方につき、ドイツの登記簿に権利登録するだけで、十分にドイツの課税ネクサスを構成するとの見解を示した。本規定は当初、ドイツ源泉徴収税法の近代化法案で遡及的に廃止予定であったが、最終法案には含まれなかった。したがって、納税者と税務当局は、過去に行われたそのような支払いについて、現在、広範な税務コンプライアンスの義務に直面している。こうした税務コンプライアンス義務を緩和するため、財務省は、2021年2月11日付の通達で、納税者が、期間限定で租税条約の適用を申請できるとする簡素化プロセスを示した(本誌2021年4月号参照)。この簡素化手続きは、特定の前提条件のもとで、2021年9月30日までに受領した支払いに適用されるとされた。また、2021年7月14日付の財務省通達により、本簡素化手続きは、2022年7月1日前に受領した支払いに拡大された。

免除申請期間の延長

本簡素化手続きの適用から生じる継続的な時間的制約を考慮して、財務省は、2022年6月29日付の最新通達で、本簡素化手続きを、2023年7月1日前に受領する支払いにまでさらに延長した。したがって、(遡及的)源泉徴収税免税証明書の発行申請期限は、2023年6月30日まで延長される。なお、今後、関連する国内税規定の改正により、タックスヘイブン居住の納税者への支払いにのみ源泉徴収を求めることになるのかどうか、さらなる検討がなされるものと見込まれる。

出典:PwC, Tax Insights
「月刊 国際税務」2022年8月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

CJEU、ポートフォリオ保有の非居住者(法人納税者)による源泉税還付請求に係るドイツの要件はEU法違反と判断(ドイツ(2))

2022年6月16日、欧州連合司法裁判所(CJEU)は、C-572/20(ACC Silicones)事件において、ポートフォリオ株式を保有する非居住者である法人納税者が求めている源泉税還付請求に係るドイツの要件は、EU法違反である旨の判決を下した。

概要

この事件は、ある英国法人が、ケルン財政裁判所(Fiscal Court)に提訴したものである。同法人は、ドイツ法人の株式を5.26%所有し、2006年から2008年にかけて当該ドイツ法人から配当を受領したが、当該配当に係る源泉税率を15%(租税条約レベル)から0%に引き下げるよう求めている。ケルン財政裁判所は、EU または EEA(欧州経済領域) に所在地(seat)または管理地を置く非居住者である法人納税者が、配当を行うドイツ法人の株式保有比率が低い(2006 年までは20%未満、2007年と2008年は15%未満)ために親子会社指令の適用を受けられない(ドイツ国内であればそのような要件は免除となる)状況で、資本移動の自由(free movement of capital)に関するTFEU (欧州連合の機能に関する条約)63条に違反するかどうかにつき、予備的判決(preliminary ruling)をCJEUに請求した。第一の要件として、ドイツ源泉税が、株主の居住地国や当該法人の直接/間接の株主の居住地国で課税される税と相殺されていないこと、また、これらの法人のいずれによっても費用として控除されていないことが求められる。第二の要件として、非居住者である納税者は、直接/間接の株主レベルで税額控除/費用控除が行われていないことを証明するため、これら居住地国の当局が発行した証明書を提出する必要がある。

CJEU判決

CJEUは、TFEU63条により、源泉税還付に係るドイツの要件は、条約違反となると結論づけた。特に、CJEUは以下の判断をした。

  • 予備的判決の請求は、配当が、EU/EEA域外居住の法人納税者に分配されるケースでは認められない
  • 配当受領者が居住者または非居住者の法人納税者であるかにより、源泉税還付請求の要件は異なる(居住者の株主は、直接・間接の株主レベルで税額控除対象外・費用控除対象外の証明を行う必要がないため)
  • 居住者と非居住者の法人納税者の取扱いの差異は、株主レベルおよび直接株主より上のレベルでの源泉税の二重軽減のリスクに関する限り、客観的に比較可能な状況に関わる。したがって、いずれの場合でも、源泉税が二重控除されることを防ぐという目的は、首尾一貫して体系的に追求されなければならず、クロスボーダーの場合の源泉税の還付を、国内の場合よりも厳しい条件とする理由はない
  • ドイツ源泉税の全額控除は配当金に対して課される英国の税額が少なくともドイツの源泉税額と同額である場合にのみ可能であるため、独英租税条約に基づき、TFEU 63 条違反を否定できない
  • TFEU63条違反は、公共の利益、特に加盟国間のバランスのとれた課税権の配分を確保する必要性により正当化されない可能性がある

本判決は、ドイツ法人のポートフォリオ株式を保有する非居住者である法人納税者にとって、源泉税が、比較可能なドイツ株主の法人所得税を超えるような状況で、非常に重要な意味を持つことになる。これらの事業体は、租税条約により居住地国において完全に税額控除されることが保証されている場合を除き、ドイツで源泉税還付を請求できる。

出典:PwC, EUDTG Newsalert
「月刊 国際税務」2022年8月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

ドイツ法人の英国の恒久的施設で生じた最終損失の控除に関するCJEU法務官見解(ドイツ(3))

2022年3月10日、コリンズ法務官(AG)は、欧州司法裁判所C-538/20事件(W AG)において、ドイツ法人が英国にある恒久的施設(PE)で生じた最終損失の控除をドイツが認めないことは、設立の自由(freedom of establishment)に違反しないとする見解を示した。

原告は、ドイツの証券銀行で、2004年8月から2007年2月まで英国に赤字のPEを所有していた。原告は、PEを閉鎖した後、2007年について提出のドイツ確定申告で最終損失の控除を請求し、英国PEからの利得が免除になるということは、損失も免除になるとする英独租税条約に係るドイツ税務当局の解釈は、設立の自由に違反すると訴えた。連邦財政裁判所(Federal Fiscal Court)は、本事件をCJEUに付託した。

コリンズ法務官は、居住地国が PE所在地国と租税条約を締結し、外国PEの利得(および損失)を免除している場合、国内PE を有する居住法人の状況と、他の加盟国にPEを有する居住法人の状況は、客観的に比較できないとしている。したがって、国内PEの損失と国外PEの損失の取り扱いに差異があっても、設立の自由に違反することにはならない。

これにより、それ以降の質問はすべて無用となったものの、法務官意見では、代替案としての意見も述べられている。仮にPE損失の控除が法人税法上認められなければならないのであれば、ドイツの営業税法上も同様であるとしている。ただし、繰越損失は最終損失には該当せず、控除額は居住地国の税法で控除可能な額を超えることはできない。

出典:PwC, EU Tax News
「月刊 国際税務」2022年8月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

CFC規定 – 設立の自由(freedom of establishment)に関してのみ検討が必要と判示(フランス)

フランス法人が保有するモーリシャス法人が、株式売却によるキャピタルゲインを認識した。フランス税務当局は、フランスのCFC規定により、本キャピタルゲインがフランスで課税対象になるとした。納税者は、フランスのCFC規定は、資本移動の自由(free movement of capital)に違反すると主張した。フランスのCFC規定は、フランスの納税者が金銭的権利(financial rights)の50%超を保有している場合に適用されるが、それでは必ずしも外国事業体を支配していることにはならない(たとえば、無議決権優先株)として、資本移動の自由が適用されるとした。フランスの行政最高裁判所は、納税者は、セーフガード条項により、その投資につき、軽課税法域への利益移転以外の主要目的・効果を証明すれば、CFC規定を回避できるとした。また、CFC規定の目的、特にセーフガード条項を考慮すれば、フランス法人が、資本や議決権の過半数を保有していない場合であっても、フランス国外(特に第三国)の子会社の意思決定に明確な影響力を行使し、その活動を決定することを可能とする株式保有に対してのみ本規定が適用されるとするのが、本規定の意図であるとした。その結果、フランスのCFC規定について、納税者が主張する資本移動の自由の違反は認められなかった。

出典:PwC, International Tax News
「月刊 国際税務」2022年8月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

EU一般裁判所、欧州委員会による英国CFC規定に係る国家補助の決定に関し、英国およびITV plcの申請を共に棄却(英国)

2022年6月8日、欧州連合一般裁判所は、両訴訟(T-363/19、T-456/19)を全面的に棄却した。

事実関係

2019年4月、欧州委員会(EC)は、英国の被支配外国法人(CFC)規定におけるグループファイナンス適用除外(GFE)について、特定の状況下で違法な国家補助に該当すると認定したことを公表した。英国のCFC規定は、英国の親会社が支配する国外子会社の所得が、人為的に英国から流出したとみなされる場合に、英国がその所得に課税することを広く認める規定である。今回問題となったGFEに関する規定は、2012年の英国CFC規定改正の一環として導入されたもので、オフショアグループファイナンス取決めに適用され、特定の状況下ではファイナンス所得の25%のみがCFC課税の対象となる(特定の状況下では全く課税されない)ことになった。EC は、所得が英国に関連しているとみなされる可能性がある2つの方法に焦点を当てた。

(1) 英国からの資本拠出による資金や資産で融資が行われている場合
(2) 融資業務の管理に関連する活動が英国にある場合

EC は、GFE が上述(1)に該当する取決めを免除している場合、複雑で事務負担の大きいグループ内トレースを回避できるため、正当化されるとした。一方、GFEが上述(2)の取決めに適用された場合、その免除は正当化されず、違法な国家補助を構成するとした。英国およびITV plcを含む多くの影響を受ける多国籍企業グループは、本決定の取り消しを求めて、一般裁判所に提訴した。なお、2019年1月1日以降適用の英国税制改正により、本EC決定は、2018年までの期間にのみ関連する(注)。

EU一般裁判所の判決

一般裁判所は、参照する制度は、英国の法人税制度全体ではなく、CFC税制であるとした。また、CFC税制の目的は、人為的に英国から流出させたとみなされる利得に課税することであるとした。さらに、融資業務の管理に関連する活動が英国にある場合、CFC規定の下では、対応する利得は英国から人為的に流出した利得とみなされるとした。したがって、ECの決定を支持し、GFEを適用する法人は、(関連する活動が英国で行われる限り)選択的な恩典(selective advantage)を享受していることに同意した。また、正当性の主張についても、行政の簡素化、および基本的自由(fundamental freedoms)の遵守に関する主張を退けた。なお、本判決を受け、EU司法裁判所に上訴される可能性もある。

(注)英国のCFC規定は、租税回避防止指令(ATAD)に準拠した税制とするために強化され、2019年1月1日以降、英国の重要な人的機能(SPF: significant people functions)に帰属する利得に関しては、軽減税率が適用されなくなっている(Source: PwC, Worldwide Tax Summaries)

出典:PwC, EUDTG Newsalert
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PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

EFTA裁判所、利子制限規定(グループ拠出規定との組合せ)が設立の自由に違反すると判示(ノルウェー)

2022年6月1日、EFTA(欧州自由貿易連合)裁判所は、PRA Group Europe AS v the Norwegian Tax Authorities (E-3/21) 事件において、EEA(欧州経済領域)協定第31条の設立の自由に関し、ノルウェーの利子制限規定(2014年から2018年まで)の合法性に関する判断を示した。EFTA裁判所は、ノルウェーの利子制限規定とグループ拠出規定(group contribution rules)の組み合わせにより、国内のグループ法人(90%超の共通所有)を有するノルウェー法人は、ノルウェーの利子制限規定の効果を軽減/除去することが可能となるため、EEA協定違反になると結論付けた。このような可能性は、国内にグループ法人を持たないノルウェーの事業体には生じなかった。

事実関係

PRA Group Europe ASは、ルクセンブルク居住の親会社が100%所有しており、ルクセンブルクの親会社からの有利子ローンによって一部資金を調達していた。この借入金の利子控除は、ノルウェーの利子制限規定(2014年および2015年)により、一部否認されていた。本規定では、グループ会社への純支払利子の控除は、納税者の税務EBITDAの30%までに幅広く制限されていた。EFTA裁判所に対して提起された主な論点は、ノルウェーのグループ法人間の課税対象グループ拠出(taxable group contributions)が、法人の税務EBITDAの増加に使用される可能性があり、それによってノルウェーのグループ法人を有する法人に対するノルウェーの利子制限規定の効果が軽減/除去されることから、これらの利子控除の否認が、EEA協定に違反しているかどうかということであった。PRA Group Europe ASには、ノルウェーのグループ法人がないため、同社はこのような取扱いを利用できる可能性がなかった。

EFTA裁判所の判決

裁判所はまず、ノルウェーの利子制限規定とグループ拠出規定の組み合わせは、ノルウェーのグループ拠出規定を利用して利子制限規定の影響を軽減できる法人に比して、ノルウェーのグループ法人を持たない法人を事実上不利な状況に置いていると結論付けた。この点に関して、裁判所は、2つの規定(利子制限規定とグループ拠出規定)の相互作用によっても制限が生じる可能性があることを指摘した。次に、裁判所は、EEA域内本拠の外国法人がノルウェー本拠法人と共にグループを形成している場合、ノルウェー居住法人が他のノルウェー居住法人と共にグループを形成している場合と同等の状況にあると判断した。Lexel (C-484/19)事件を参照して、裁判所は、あるEEA国に設立された法人が、他のEEA国に設立されたグループ法人から借り入れたローンの利子を支払う状況は、利子支払いの受領者が同じEEA国に設立されたグループ法人である状況と変わらないとした。最後に、裁判所は、本制限は、EEA加盟国間の課税権のバランス配分や、租税回避防止目的によっても正当化されないと判断した。ノルウェーは、国内状況において、潜在的に増加する利子控除という恩典を認めている(課税権の一部を放棄している)ため、非居住者の平等な取扱いを制限するために、クロスボーダーの状況において同様の課税権が重要であると主張することはできない。さらに、本規定は、完全に人為的な取決めを特に対象としておらず、納税者がそのような取り決めを商業的に正当化する機会を与えるものでもなかった。したがって、本規定は、完全に人為的な取決めに対抗するという目的を達成するために必要な限度を超えていると判断された。

今回のEFTA 裁判所の判決により、いくつかの問題点が提起される。

  1. ノルウェー国外のグループ法人のみを有するノルウェー法人は、2014年から2018年の間に否認された利子控除をどの程度取り戻せるか
  2. 本判決により、現行のノルウェーの利子制限規定(2019年現在施行)もEEA協定に違反することになるか。現行規定には、ATAD I第4条(同指令はノルウェーには直接適用されない)に規定されているものと同様の特例条項(equity escape clause)が含まれており、一般に、完全にノルウェー国内のグループに属する法人とクロスボーダーのグループに属する法人の双方が利用可能である。しかし、実質的には、純粋なノルウェーのグループに属する法人は、常に本特例条項の適用を受け、完全な利子控除を受けることができる。本規定について、すでにEFTA監視当局に対して訴えが提起されている
  3. ノルウェー当局は、現在のノルウェーの規定を改正する可能性はあるか(本特例条項をクロスボーダーのグループにも適用するのではなく、ノルウェー法人グループへの適用範囲を制限することも考えられる)

出典:PwC, EUDTG Newsalert
「月刊 国際税務」2022年8月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

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