TNFD、ベータ版フレームワーク(v0.2)を公開―v0.1からの更新・新規追加ポイントを解説

2022-09-09

TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)は、2022年6月28日にベータ版フレームワーク(v0.2)を公開しました。2022年3月に公開されたv0.1から大幅にアップデートがされており、より実践的なガイダンスとなっています。本稿では、今回公開されたTNFDベータ版フレームワーク(v0.2)における主要なポイントを解説します。

TNFD v0.2の概要

TNFD v0.2では、概念や枠組みがより具体的になり、特に指標と目標において大きなアップデートがありました。LEAP(Locate, Evaluate, Assess, Prepare)アプローチのうち多くの企業が頭を悩ませるポイントと思われるL(Locate:発見)やE(Evaluate:評価)における情報が充実し、より実践的なガイダンスとなっています。

今回のv0.2では以下の6種類のドキュメントがリリースされました。

図1:TNFD v0.2でリリースされたドキュメント一覧

図表1 TNFD v0.2でリリースされたドキュメント一覧(PwC作成)

PwC作成
①フレームワーク v0.2、②エグゼクティブサマリー v0.2(日本語あり)、③評価(Evaluate)フェーズの影響依存評価の追加ガイダンス(草稿版)、④発見(Location)フェーズの優先順位付けに関する追加ガイダンス(草稿版)⑤パイロットガイド、⑥データディスカッションペーパー

TNFDフレームワークの全体像は①②、LEAPフレームワークのLとEに関するより詳細なガイダンスは③④、パイロットプログラムの内容等については⑤、データに関する情報は⑥にまとめられています。

V0.1からのフィードバックを受けて改善

3月に公表されたTNFDフレームワークv0.1に対し、37カ国の138の組織や個人から、内容に関するフィードバックが500件以上寄せられ、v0.2にも反映されています。多くの重要な点は今後もタスクフォースで検討され、改訂版に適宜反映されていく予定です。

大きく1点の更新と2点の新規項目追加

v0.2では、「自然を理解するための基本」や「開示提案」については、v0.1から変更はありませんでした。更新箇所としては、評価のステップフレームワークであるLEAPアプローチの金融機関版であるLEAP-FIの一部が再構成されたこと(①)があげられます。また新規追加点としては、指標と目標に対するTNFDのアプローチが示されたこと、および影響と依存評価の指標についてのガイダンスが示されたこと(②)また、今後作成予定のより具体的な個別ガイダンスに対するアプローチが示されたこと(③)があげられます。

本コラムでは、フレームワークV0.2の更新・新規追加があった3点について、以下の5つのポイントにわけて説明します。

図2:更新と新規追加の5つのポイント

図表2 更新と新規追加の5つのポイント

①LEAP-FIのアップデート:LEAPの金融機関向けバージョンであるLEAP-FIの更新

v0.1において、評価フレームワークであるLEAPフレームワークが示され、特に金融機関についてはLEAPフレームワークに先行するスコーピングに関する質問が付加されたLEAP-FIが提案されていました。今回のv0.2では、F1~F4(F1:金融機関タイプ、F2:金融商品・資産クラスの種類、F3:集約レベル、F4:セクター)だったフレームワークがF1~F3(F1:事業の種類、F2:エントリーポイント、F3:分析の種類)という形で再構成されました。

LEAP-FIは財務ポートフォリオを評価するときに、金融機関が特定の事業活動、資産クラス/金融商品の種類、およびポートフォリオの集約の適切なレベルに応じて、LEAPの「L:発見」または「E:評価」フェーズに進むことができるように設計されています。LEAP-FIは今回加えられた変更により、資本の提供者として、金融機関が自然関連リスクの評価に異なるエントリーポイントを持つことをより明確に認識したものになりました。

図3:LEAP-FI v0.2のスコーピング質問

図表3 LEAP-FI v0.2のスコーピング質問

TNFD 自然関連リスクと機会管理・情報開示フレームワークベータ版 v0.2概要より引用
https://framework.tnfd.global/wp-content/uploads/2022/07/22-22506-TNFD-Framework-Summary-ja_jp.pdf

②指標と目標へのTNFDのアプローチと依存・影響の指標に関するガイダンス

②-1.「評価指標」と「開示指標」の区分

指標については大きく「評価指標」と「開示指標」の2種類に区別するアプローチが示されました。

図4:「評価指標」と「開示指標」

評価指標

Assessment Metrics

自然関連のリスクと機会を管理するための内部評価プロセス内で使用される指標(「コア指標」と「追加指標」提供の必要性を認識)

開示指標

Disclosure Metrics

TNFDの開示勧告(すなわち、指標と目標の開示勧告A)に沿って、市場参加者に開示する必要がある指標

TNFD Framework v0.2を基にPwC作成

このうち、特に「評価指標」については、今後セクター内およびセクター間の比較可能性を高めるための「コア指標」と、各セクターの固有ニーズ等に基づく「追加指標」を提供する必要性を認識していると記載されています。

②-2. 3つの評価指標のカテゴリーの提案と各カテゴリー指標の例示

LEAPプロセスに従い影響依存評価を行う上で、基本となる「影響」と「依存」をどう捉えるかということは重要なポイントです。v0.2では、指標カテゴリーとして「影響要因(Impact driver)」「自然の状態(State of nature)」「生態系サービス(Ecosystem services)」の3つのカテゴリーが提案されました。

影響要因(Impact driver)とは、IPBES(生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム)が示す自然資本喪失の5つの主要因(すなわち土地の改変、資源の直接利用、汚染、気候変動、侵略的外来生物など)を中心とした自然に影響を与える人間の活動を指します。

自然の状態(State of nature)は、影響要因によって影響を受けた自然を種数や個体数、その構成や範囲の広さなどで把握するものです。自然の状態が変化することで、社会や企業活動が受ける自然の恩恵が失われます。この自然から人間が享受する価値のことを生態系サービス(Ecosystem services)と呼びます。生態系サービスは主に、水や木材、その他生物資源等を供給する供給サービス、気候や水などの循環を安定化させる調整サービス、教育や観光、宗教など文化面で価値を提供する文化的サービスに区分されます。

図5:影響・依存と3つのカテゴリーの関係

図表5 影響・依存と3つのカテゴリーの関係(TNFD Frameworkv0.2より)

TNFD Framework v0.2を基にPwC作成

図6:3つのカテゴリーとその内容

影響要因

(Impact driver)

陸域・淡水域・海域の改変、汚染、資源利用、気候変動、外来種とその他、など

自然の状態

(Stete of nature)

物理状態、組成状態、構成状態、機能的状態、陸域海域の景観の状態、など

生態系サービス

(Ecosystem services)

供給サービス、調整サービス、文化的サービス、など

TNFD Framework v0.2を基にPwC作成

自然資本への依存と影響は密接に関係しており、かつ「影響要因」「自然の状態」「生態系サービス」はそれぞれが影響と依存に関係しています。そのため、TNFDでは、影響・依存評価において3つの指標カテゴリーを包括的に把握することが推奨されています。

例えば、「影響要因」からスタートし、影響と依存の観点から「自然の状態」の変化を把握、さらにその自然の状態の変化が、私たちが依存している自然からの恩恵「生態系サービス」をどのように毀損しているのかを見ていくことで、企業が生み出している影響が、どのようなパスを通って私たちの社会やビジネスに影響を与えるのかということを一連の流れで網羅的に捉えることができるようになります。

この3つの各カテゴリーについては、具体的な指標の例も以下の通り示されています。

図7:指標の例

図表7 指標の例(TNFD v0.2 frameworkよりPwCが翻訳)

TNFD v0.2 frameworkを基にPwCが翻訳
各項目のより具体的な指標はTNFD v0.2 frameworkのAnnex 2に例示されている。

今後は特定のセクターに向けた追加指標も開発予定です。

②-3. 指標と目標を「グローバル」「国」「ローカル」の3つのレベルで捉える

指標と目標における3つ目のポイントとしては、目標設定における考慮事項として、グローバル(調整された国際政策のレベル)、国(国内の規制と法律のレベル)、ローカル(ビジネスが自然と接する生態系レベル)の3つのレベルで捉える考え方が示されたことがあげられます。

自然資本は国や地域によってかなり影響や依存の度合いが変化する特性があるため、ロケーションを重視する必要性はv0.1においても強調されていました。v0.2では、コンセプトとして、ロケーションをグローバル・国・ローカルと3階層で捉える必要性が示されています。

今後、グローバルレベルについては、CBD-COP15(国連生物多様性条約会議第15回締約国会議)で採択される世界目標と、上記のレベルとは異なりますが組織レベルについては、SBT for Natureと連携し、国際的な他のイニシアティブとの整合性も保つと示されています。また、2022年11月のv0.3そして2023年2月のv0.4ベータ版リリースで、リスク、機会、および対応の評価指標、開示指標、目標設定に関するさらなるドラフトガイダンスを提供する予定となっています。

③個別ガイダンスへのTNFDのアプローチ

自然資本の影響や依存は対象にするセクターや領域により大きく異なります。TNFDはこの課題に対応するため、個別のガイダンスを今後リリースしていく予定です。今回はその個別ガイダンスに対する今後のアプローチとしてセクター、自然関連問題、領域の3つの軸でガイダンスを構築していく予定であることが示されました。

図8:TNFDガイダンスの体系

図表8 TNFDガイダンスの体系((TNFD v0.2 frameworkより)

TNFD Framework v0.2を基にPwC作成

セクター別:組織がビジネスを行う経済セクターに合わせたガイダンスを提供する予定です。v0.2では、TNFDが考える優先産業として以下の8つのセクター、19の産業が示されました。セクターの分類は、SASB(Sustainability Accounting Standards Board)が開発し、ISSB(International Sustainability Standards Board)が開発中のグローバルベースラインにも採用されている「持続可能な産業分類システム(SICS)」に基づいています。

図9:セクター固有のガイダンス作成のための非金融優先セクターと産業

図表9 セクター固有のガイダンス作成のための非金融優先セクターと産業(TNFD v0.2よりPwCが翻訳)

TNFD v0.2を基にPwCが翻訳

まずはこれらの優先セクターについて、セクターの基本情報(定義や主要な経済活動・生産プロセスの説明、セクターに最も関連する機会とリスクを参照しながら自然に配慮している一般的なビジネスケースなど)や重要な自然関連の問題に関する参考情報(自然への依存関係の概要、直接的・間接的な活動に関連する自然への影響の概要、自然関連リスクと機会)などが今後ガイダンスとして示される予定です。

自然関連問題別:特定の組織やセクター全体に関連する特定の自然関連問題(依存関係、影響、リスク、機会)に合わせたガイダンスとして今後リリース予定です。

領域別:TNFDによって定義された自然の領域(海洋、淡水、陸地、大気)に紐づけられたガイダンスであり、バイオームによっても定義される可能性があります。こちらもリリースは今後の予定です。

今後の展開

今後は、2022年11月にベータ版v0.3、2023年2月にベータ版v0.4が公表される予定となっており、確定版である最終提言v1.0の公開は2023年9月を予定しています。今後さらにセクター別ガイダンスやケーススタディなど、企業や金融機関にとって具体的かつ実用的な情報が追加されていくと思われます。

PwCでは、TNFDを含む自然資本にかかる最新の国際動向を踏まえ、企業の自然資本・生物多様性にかかる影響依存評価や開示の準備対応等を支援しています。詳しくは生物多様性・自然資本経営支援サービスをご覧ください。

執筆者

服部 徹

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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小峯 慎司

シニアマネージャー, PwCサステナビリティ合同会社

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中尾 圭志

マネージャー, PwCサステナビリティ合同会社

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