日本の未来とグローバルヘルス

医療・介護における人材不足の実態と打ち手(前編)

  • 2024-05-23

はじめに

連載コラム「少子高齢化クライシスと未来」において、PwCは医療・介護に関するヒト・カネの需給ギャップ拡大の可能性を明らかにし、日本全体を対象としたいくつかの未来シナリオを提示しました。しかし、日本においては東京や大阪のような「都市」、その周辺に展開されベッドタウンとなっている「郊外」、また都市からは一定の距離があり、人口も少ないいわゆる「地方」など、異なる人口動態の地域が存在します。そのため、地域の現在の年齢構成や人口規模によって、医療・介護に関する需給ギャップの度合いや最大化するタイミング、適した打ち手などは異なることが想定されます。

本稿では、少子高齢化の影響が早期に顕在化すると考えられる地方と郊外に焦点を当て、今後の医療・介護に関する需給動向や、課題となる人材不足に対しての打ち手、リーダーシップを発揮すべき組織について論じたいと思います。

まず前編として地方と郊外の需給動向についてみていきます。

1.地方における医療・介護の需給動向と課題

まず、地方における医療・介護の傾向について見ていきたいと思います。今回は実在するA市を例に分析を進めました。A市は人口約6.4万人、年齢構成を比較した場合も全国と比べて明らかに高齢者の割合が高い状況ですが、人口全体としても減少フェーズに入っているため65歳以上の高齢者も減少傾向にあり、少子高齢化が進んでいる地域となります。

全国と比較したA市の年齢構成比、 A市における年齢層別人口の変化

この地域における医療・介護の需要を推計し、現在の需要を100として指標化したものが以下のグラフです。急性期の患者数(以下、「急性期」)は減少し、回復期の患者数(以下、「回復期」)は微増した後に減少、慢性期の患者数(以下、「慢性期」)と要介護患者数(以下、「介護」)については増加していき、2040年をピークとして約10%の需要増が見込まれています。

医療需要の将来推計 (A市における入院患者数推計値)

なお、高齢者人口が減少傾向にあるにもかかわらず、慢性期や介護が増加傾向にあるのは、慢性期と介護の受療率や利用率が高い90歳以上の人口が加齢と長寿化に伴い増加傾向にあるためです。

次に、この変化に対する課題を明らかにするために、需要の増加に対して施設や労働量が対応できるかを見ていきたいと思います。まず医療施設について考えると、病床数が足りるか、というところが大きなポイントとなります。地域医療構想で推進されている病床転換が円滑に進んだと仮定し、A市における病床が足りるかを分析しました。結果として、A市においては特に急性期の必要病床が減少する一方で、他の機能においては必要病床数の増加が緩やかであるため、全体としては病床が足りることが分かりました。

医療・介護需要の将来推計 (病床数/機能別/A市)

次に医療に関する労働供給について、看護師を例に検証しました。病床と異なる点は供給量が一定ではなく、少子化によって減少していく点です。供給量が減少していくことを考慮すると、看護師の数は不足することが分かります。

医療・介護需要の将来推計 (看護職員数/機能別/A市)

続いて介護について検証します。高齢化がすでに進んでいる地方においては、介護施設はすでに高稼働となっており、在宅サービスを強化するか、ベッドを有する施設を新たに増設する必要があることが多く、A市についても同様の状況となり、多くの施設類型でほぼ100%の稼働率でした。

また、A市のような地方では家屋が点在していることが多く、サービス利用者宅へ移動する時間が長くなり、結果として十分な1日当たり訪問件数を稼げず、事業が成り立たないケースが多く見られます。実際にA市においても在宅サービスのニーズが高まっているにもかかわらず、経営難により在宅サービスを提供する民間事業者の撤退が相次いでいます。従って、在宅サービスが強化しにくい地方においては、ベッドを有する介護施設を増設していく必要があります。また、人材についても生産年齢人口の減少から現時点で人手不足が課題となっていることもあり、新たに増員していく必要があると考えられます。A市においては、試算の結果、仮に効率化などが行われない場合、現在の介護人員数に対して4割増の要員確保が必要という結果になりました。生産年齢人口、つまり人材市場が急激に縮小していく中、非常に高い目標値となり、これまでと異なる打ち手や施策が求められることは明白です。

もちろんA市は1つの例であり、地域によっては既存施設の老朽化などから医療においても病床が足りなくなるケースや、逆に先手を打って介護施設を整備したことで、介護においては施設が足りるケースがあるかもしれません。しかし、地方における医療・介護の課題が労働力の確保であることは地域を問わず共通と考えられます。

2.郊外における医療・介護の需要傾向と課題

次にいわゆるベッドタウンといわれる「郊外」の医療・介護の傾向を見ていきたいと思います。こちらについてもA市と同様に、具体例として実際に存在するB市を例に検証を進めます。B市は人口37万人、人口構成については全国とかなり近いですが、39歳未満がやや少なく、75歳以上の割合がやや高い地域となっています。

全国と比較した B市の年齢構成比

まず、A市と同様に医療・介護の需要傾向を見ていきたいと思います。傾向は急性期が減少、回復期が増加後に減少、慢性期・介護が増加と似ていますが、大きな違いは慢性期・介護の増加率です。地方であるA市は現在と比較して2040年時点をピークとして最大10%程度の増加でしたが、B市は30%以上の増加となります。これは現在の生産年齢人口が高齢化し、慢性期医療や介護が必要となる年代に移っていくため、生産年齢人口の割合が多いB市のほうがA市に比べて高齢化の影響が大きいためです。

医療需要の将来推計(B市における入院患者数推計値)、 A市とB市における年齢構成比

一般的にはA市に代表されるような少子高齢化が進んでいる地方のほうが、対策が急務のような印象が広がっていますが、今回の結果を見ると実はB市のような郊外についても同等もしくはそれ以上の危機感を持って、将来の労働力不足に対応が必要であることが分かります。後編では地方・郊外ともに課題となっている労働力不足に対する打ち手の例と推進すべき主体について論じます。

執筆者

増井 郷介

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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髙山 柾

シニアアソシエイト, PwCコンサルティング合同会社

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前田 将史

シニアアソシエイト, PwCコンサルティング合同会社

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