のれんの償却と減損実務

  • 2025-04-30

1. はじめに

世界におけるのれんの残高が増加しています。証券監督者国際機構(IOSCO)は、「S&P 500におけるのれんの累計残高について、2008年に1兆6,000億米ドルだった額が、2021年には3兆7,000億米ドルへと2倍以上に増えており、類似の傾向がEUでも観察された」と報告しています※1。同機構はその背景として、 IFRS会計基準(IFRS Accounting Standards:以下「IFRS」)がのれんを非償却としている一方でのれんの減損テストを毎期実施することを要求していますが、そののれんの減損テストが有効に機能していないのではないか、という懸念を示しています。

IFRSの設定主体である国際会計基準審議会(International Accounting Standards Board:以下「IASB」)は、減損テストの有効性を高めるための方法を長らく模索し続けてきましたが、現行の減損テストよりも著しく有効性の高い別の減損テストを設計することは困難であるという結論に達したため、当面は現行の減損テストの枠組みが維持されるものと考えられます。また、のれんの減損テストには、さまざまな実務上の論点があります。例えば、のれんを各CGU(Cash-Generating Unitの略。資金生成単位)にどのように配分するか、のれんの減損の兆候となる IFRS特有の事象をどのように識別するか、使用価値の算定の際の割引率をどのように算定するかなどです。

そこで、本稿では、のれんの主な論点である、「のれんの償却」と「のれんの減損テストの実務」という二つのテーマで、IFRSの観点からの考察および検討すべきポイントを中心に取り上げ、解説します。

文中の意見に係る記載は筆者の私見であり、PwC Japan有限責任監査法人および所属部門の正式見解ではないことをお断りします。

※1 The Board of the International Organization of Securities Commissions, 2023. “Recommendations on Accounting for Goodwill.”

※2 2024年3月IASB公表の公開草案「企業結合-開示、のれん及び減損」において、「のれんに関連した事業を内部管理目的で監視している企業内の最小のレベルを表している」と下線部部分を追記することによる明確化を提案しています(「III.(5)減損テストについての最新の動向」参照)

※3 2024年3月IASB公表の公開草案「企業結合-開示、のれん及び減損」では、使用価値を税引前のベースで計算するという要求の削除を提案しています(「III.(5)減損テストについての最新の動向」参照)

※4 ヘッドルームとは、ある事業の回収可能価額が、認識されている純資産の帳簿価額を超過する金額であることを言います。ヘッドルームは、会社が企業結合後の事業の減損テストを行う際に、取得したのれんの減損を覆い隠す可能性があります。結合後の事業の回収可能価額の減少があっても最初に当該ヘッドルームに吸収されるからです。例えば、単一事業を営むX社(CGUも1つ)が同業を営むY社を買収し、買収後にX社とY社が同一のCGU(新CGU)を構成するケースにおいて、X社の回収可能価額が100、純資産が70の場合は、
30のヘッドルームが存在します。買収後ののれんの減損テストにおいて、新CGUの回収可能価額を、純資産(X社+Y社)とのれん(Y社)の合計額と比較することになりますが、新CGUの回収可能価額にはヘッドルーム部分が含まれるため、当該ヘッドルーム部分を超える回収可能価額の減額がない限り、のれんの減損は生じません。

執筆者

諸橋 壮也

シニアマネージャー, PwC Japan有限責任監査法人

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