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2021-07-12
4月22日に発信した『自治体でのワクチン接種、見えてきた「今後の9つの課題」』から約2カ月が経ちました。
この間に、総務省のサポート表明、7月末までの高齢者接種完了という目標設定、防衛省による大規模接種の開始、首長への優先接種、職域接種の開始、一般接種の加速など、大きな動きが発生しています。
これらは、中央官庁、地方自治体、民間企業、健康保険組合など多くのステークホルダーが「より早く社会を一歩前進させる」ために動いている証であり、多数の方々のサポートがあり日々暮らせていることを改めて実感させられます。
本稿ではそんな最前線で課題に向き合っている皆様に向け、少しでも検討を加速する一助となるよう、市町村への現場支援を通して見えてきた9つの課題についての近況をお伝えします。
前回発信した9つの課題を改めて振り返ります。同コラムでは、4月22日時点でワクチン接種業務で発生すると考えられる課題を下記の9つに整理しました。
①接種計画の策定段階でのクリニックの接種能力の精緻化
②接種会場の少ない空白地帯への対応
③初期運用の住民票がない人への接種対応
④医療備品の安定調達
⑤住民誘導に向けたコミュニケーション戦略
⑥本格運用の破棄数最小化に向けた方針
⑦同一メーカーによるワクチン接種の担保方法
⑧独自方針の検討
⑨外国人への接種
その後の動きを見ると、我々の想定を上回る速さでこれらの課題が露呈したと言えます。それに対してどのような対策を取ったか、どれだけ検討を進められたかが現場負荷を大きく左右したのではないでしょうか。
例えば、課題➀クリニックのコントロールを通して、クリニックの接種能力を正確に把握していた市町村は、7月末の高齢者接種完了に向け、どの程度の接種能力を新たに調達する必要があるかを迅速に決定することができたようです。あるいは、課題⑤住民誘導に向けたコミュニケーション戦略を通して、クリニックの予約状況を一覧で把握できるように整えた市町村は、コールセンターへの問い合わせ数や問い合わせ時間を削減できたことでしょう。
新型コロナウイルスワクチン接種事業は、長期戦になることが予想されます。この約1カ月間で得た教訓を3カ月後、半年後、1年後の現場改善に活用することが重要です。
クリニックのコントロールによる正確な接種数の把握と、住民誘導に向けたコミュニケーションによる効率的なワクチン接種は、今後より多くの対応が求められる課題と考えます。そこで、この2つの課題についてどのような対応が必要になるのかを考察します。
図表2:正確な接種数の把握に向けた対応策と今後顕在化する課題
| 正確な接種数の把握 | |
| 解決された状態 |
|
| 解決できない 場合の影響 |
|
| 対応策 | 現状把握の強化
|
| 留意点 |
|
今後顕在化する課題 |
|
まず、正確な接種数の把握に関して、4月末の時点ではクリニックの提供力を正確に把握しワクチンを効率的に配分することが課題でしたが、接種が進むにつれてクリニックの接種能力だけでなく、接種実績を正確に把握することが求められています。
7月末までの高齢者接種完了を目指す場合、接種想定(現在の接種体制で何件程度の接種を行うことができる予定か)と接種実績(想定に対し何%の誤差があるのか)を把握しなければ、どの程度体制強化を行う必要があるのか具体的な検討ができません。接種想定はワクチン払い出しを行う際に確認していることが多いため、現在はより正確に接種実績を把握できるかが全国的な論点になっています。
これらに対しては、VRSのデータを基にクリニック毎の接種実績を把握することが重要です。ただし、VRSは登録までのタイムラグや登録漏れ、誤入力の可能性もあるため、VRSでは大枠の傾向を掴みつつ、クリニックへのアンケートを通して正確な数字を把握することが重要と考えられます。VRSでは累計の接種実績の集計を主としているため、直近の接種実績を正確に把握する必要がある場合は、市町村が週次や日次で集計をする必要もあります。
また、今後ワクチン供給がどのように増減するかは不明瞭であるものの、現在よりも接種提供能力の向上が加速し、ワクチン供給量を上回った場合、これまで使用していたものとは異なるメーカーのワクチンを使わざるを得なくなる可能性があります。複数ワクチンの取り扱いリスクを考慮し、1医療機関で取り扱うワクチンを1社とした場合、一時的な接種能力の低下が生じ、ワクチン配送の計画変更も求められます。その際、接種計画への影響を小さくする検討を進めるためにも、接種想定と接種実績の正確な把握は欠かせません。
多くの市町村で、ワクチンの払い出し数(クリニックへの配布数)とVRSの接種実績に差分が発生しています。これらの要因は大きく5つあると考えられます。ワクチン破棄の発生(A)、VRSの未活用(B)、VRSの紐づけ間違い・読み取り間違い(C)、住所地外接種の実施(D)、クリニックによる在庫保管(E)です。いくつかの市町村との議論から、DとEの割合が多いことが推定されています。河野太郎行政改革担当大臣が6月15日の閣議後の会見で、VRSへの入力が遅い地方自治体に対してワクチンの配送を見送る可能性があるとの考えを示したことにより、払い出し数と接種実績に大きな開きがある場合、国からのワクチン供給数に影響する可能性が考えられます。
正確な接種数を把握することは、市町村がワクチン供給について政府や都道府県と議論する材料となり、計画的なワクチン供給と効率的なワクチン接種の推進につながります。また、前述の通り、週次や日次での医療機関別の接種実績を正確に把握することは、ワクチンの供給量が変動する状況下では、ワクチンの払い出しを適切にコントロールする上でも非常に重要になります。PwCコンサルティングの新型コロナワクチン接種業務支援室では、6月22日の閣議後の会見で田村憲久厚生労働大臣からのワクチン在庫の調査の発表に先んじて、クリニックにて保管している場合(E)に対してクリニック別の週次の接種実績の把握と、払い出し数と接種実績の差異の原因を調査するツールとして、「医療機関におけるワクチン在庫数の推定シート*1」を作成しました。ご関心をお持ちの自治体の方はお問い合わせください。
図表4:住民誘導による効率的なワクチン接種に向けた対応策と今後顕在化する課題
| 住民誘導による効率的なワクチン接種 | |
| 解決された状態 |
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| 解決できない 場合の影響 |
|
| 対応策 | 共通認識の醸成
|
| 留意点 |
|
今後顕在化する課題 |
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次に住民誘導による効率的なワクチン接種に関して、政府は6月中に一般接種対象者への接種券配送を促す発信を行っていることから、今後は一般接種対象者からの問い合わせの増加が予想されます。高齢者接種が進む過程で、一部のクリニックに予約が偏り、予約の空き状況に関する問い合わせが増加しました。これらは、効率的な接種とワクチン破棄数の低減の観点で対応が求められる課題です。HP上でクリニックの予約状況を公開して分散を促すなど、一部の市町村では対策を行っています。一般接種対象者の多くはWebに慣れているため、このようなHPなどでの情報発信により問い合わせ数の減少や接種時期の検討、接種勧奨につなげることができるでしょう。
そこで、医師会や医療機関、クリニックと協力し、ワクチンの受け取り数、前週の接種実績、前週の予約の空き状況についての情報を住民にリアルタイムで発信することが重要になります。一部のクリニックにて一時的に問い合わせが増える可能性はあるものの、一元的に状況や傾向を可視化することは、中長期的に考えるとクリニックの手間を減らすものになると考えます。
ただし、多くのクリニックが独自の予約システムを運用していることから、市町村自治体が正確な予約状況を早期かつ定期的に把握することは困難です。また、高齢者接種対象者に比べ一般接種対象者は人数が多いため、クリニックへの負荷が増えることが予想されます。そんな中、クリニックに新たな負担を強いることは難しいでしょう。そのため、医療機関やクリニックの状況を自動的に発信する環境を市町村が構築することが重要となります。例えば、一部の自治体ではダッシュボードを用いて現状を示し、住民と接種シナリオや状況の共有を行っています。
PwC Japanグループでは、グループ内のデータアナリティクスに関するリソースを結集した専任チームを組織し、自治体のダッシュボードの作成支援・アドバイスを実施しています。自治体への支援を通じて得た自治体および住民のニーズを基に、ダッシュボードを作成しています。自治体内の認識合わせ、住民との接種計画・接種シナリオの共有に向け、ダッシュボード導入をご検討されている自治体の方は、お問い合わせください。
図表5:ダッシュボードコンテンツ一覧
| # | ダッシュボードコンテンツ | 自治体用ダッシュボード |
住民用ダッシュボード |
|
| 1 | コロナ状況サマリー | 新規陽性者、ワクチン接種の実施状況、累計情報など基本情報を集約化 |
✔ | ✔ |
| 2 | ワクチン接種ロケーション | ワクチン接種が可能な施設名、場所、混雑具合などの情報を表示 |
✔ | ✔ |
| 3 | コロナハザードマップ | 罹患者情報、人流情報、口コミの情報を集約し、注意すべき地理情報を表示 |
✔ | ✔ |
| 4 | ワクチン接種シミュレーション | ワクチン接種状況、ワクチン配布量、予約件数、これまでの接種傾向より、シナリオ別に予測を実施 |
✔ | - |
| 5 | ワクチン接種リアクション | SNS感情分析による、オペレーション改善、情報周知への活用 |
✔ | - |
| 6 | コロナ状況比較 | 罹患者状況、ワクチン接種状況、施策状況について、他自治体との比較分析を実施 |
✔ | - |
| 7 | 経済波及効果 | 消費者物価指数やモビリティ量、就業・失業者数など経済状況と、ワクチン接種者数や陽性者数を比較 |
✔ | - |
| 8 | ディープダイブ分析 |
家族構成、職業、年齢、性別など、情報のドリルダウンとインサイトを表示 |
✔ | - |
一方で、接種が進むにつれて同調圧力が強くなることが予測されます。過度な勧奨は控え、接種を望まない人の権利を踏まえた情報発信が欠かせません。
100万人都市をモデルとした接種シミュレーション、マスクフリー社会を迎えるにあたっての検討(前編 / 後編)、今後乗り越えるべき自治体の課題について、「より早く社会を一歩前進させること」をコンセプトに計3回のコラムを発信してきました。
改めて、新型コロナウイルスが我々に与えたインパクトの大きさを感じます。一方で、新型コロナワクチン接種をめぐり、自治体同士が連携し事業構築を行う事例、企業同士が連携し職域接種を構想する事例、企業が従業員だけでなく地域住民も含めてワクチン接種を行う事例など、これまでにないアプローチが生まれています。これらは、多くのプレイヤーが新型コロナウイルスという社会課題を認識し、お互いの強みを出し合い協働することで、効率的な課題解決を進めるコレクティブインパクト・アプローチが根付き始めていることの現れであると言えます。
新型コロナウイルス感染症を収束させるためにとったこれらのアプローチを日本の強みとして、気候変動やまちづくり、貧困、教育、ジェンダーなど多くの社会課題解決に活用していくことが、真の意味で「ニューノーマルな社会」を迎えることになるのではないでしょうか。
PwCはこれからも、「社会における信頼を構築し、重要な課題を解決する」というPurpose(存在意義)に基づき、ワクチン接種事業を支援していきます。
*1「医療機関におけるワクチン在庫数の推定シート」は、VRSの接種実績データおよびワクチン配送データ(医療機関名、ワクチン払い出し数)を用いて、各医療機関のワクチン在庫を算出するシートです。
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