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第2回 マスクを外すタイミングと、そのために必要なアクションとは何か【前編】

2021-06-23

いつまでマスク生活は続くのか?

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大を契機に、私たちの生活様式は大きく変わりました。その最たる例が、外出時のマスク着用です。例えば、パラグアイでは外出時のマスク着用が法律で定められており、違反者に対して最大160万グアラニー(日本円で約26,000円)の罰金が科されます*1,2。同様の法律が定められているタイでは、プラユット首相がこの法律の施行初日にマスクを外した状態で政府の会議に出席したため、6,000バーツ(日本円で約21,000円)の罰金を支払う事態となりました*3

日本人の約40%が悩まされているという花粉症(アレルギー性鼻炎)の影響や、毎年流行するインフルエンザに対する予防という観点から*4、欧米と比較して日本人は外出時のマスク着用に慣れていると言えます*5。一方で、呼吸器に問題を抱えている人、子どもおよび教育現場の職員など、日常生活においてマスクの着用を控えるべき人も一定数存在します。前者はマスクを着用することで呼吸が浅くなり、呼吸困難・めまい・頭痛といった生理的弊害を引き起こす可能性があり、後者はマスクで口元を覆ってしまうことで、子どもの「顔と表情を区別する能力」や「相手の気持ちを理解する能力」の発達に影響が及ぼす可能性があると言われているからです*6,7

マスク着用はあくまで「任意」であり、法的拘束力はない一方で、諸外国と比しマスクを着用することに慣れている日本。他国ではワクチン接種率の上昇に伴い、外出時にマスクを外す動きが出てきていますが、日本において「マスクフリー社会」が実現するのはいつなのでしょうか。また、どのように実現されていくのでしょうか。個人の意思でマスク着用の有無を決められる世界を取り戻すために求められる状況、そして条件について考察をしてみたいと思います。

マスクフリー基準の1つにワクチン接種率がある

「マスクフリー社会(マスク着用の判断が個人に委ねられる世界)」に回帰するための基準として、どのようなものがあるのでしょうか。海外の事例を参考に考察したいと思います。

マスクの着用義務が一部解除された国として、イスラエル、英国、米国が挙げられます(2021年6月7日調査時点)。イスラエルは、他国に先駆けてワクチン接種を推進し、2021年4月18日に屋外でのマスク着用義務が解除されました。ワクチン接種の完了・未完了に関わらず、個人の意思でマスクの着用・非着用を自由に選択ができるようになりました*8。英国では、2021年5月17日に学校でのマスク着用義務が解除されました(社会的距離が取れない場所では引き続きマスク着用の義務があります)*9。米国では、2021年5月16日にバイデン大統領とハリス副大統領がマスクフリーの状態で公式の場に現れ「混雑していなければ、マスクを着用する必要はありません」と宣言しました。2021年5月16日時点の米国疾病予防管理センター(CDC:Centers for Disease Control and Prevention)のガイドラインには、州や地方、職場など個々のガイドラインに基づいてマスク着用を求められる場合を除き、ワクチン接種完了者はマスクを着用しなくてよいと記載されています*10

これら3カ国でマスク着用義務が一部解除された背景の1つに、ワクチン接種率の高さが挙げられます。イスラエルで屋外でのマスクフリーが許可された際、ワクチンを2回接種した人の割合(完全接種率)は57.52%*11に到達しており、英国で学校内でのマスクフリーが許可された時の接種率は30.27%*11、米国でワクチン接種完了者のマスクフリーが許可された時の接種率は35.96%でした*11。ある程度接種率が高まると、「マスクフリー社会」へ回帰していくことが想定されます。

図表1 3カ国のマスクフリー状況と完全接種率

英国や米国の「マスクフリー」は対象エリアや対象者が限定的です。一方、イスラエルでは屋外に限られているものの、マスク着用義務が国内全域で解除されており、実際に国民もマスクを外すことができています。イスラエルの例をベンチマークとすると、日本では全人口のワクチン接種完了者率が57.5%に達したころに、「マスクフリー社会」に回帰すると予測できます。

日本がマスクフリー基準を満たす日はいつか

日本ではいつ「マスクフリー社会」に戻れるのでしょうか。日本がイスラエルと同様のタイミング(全人口あたりの接種率が57.5%に達する時)に「マスクフリー社会」に回帰すると仮定してみます。両国共にワクチン接種の対象者は16歳以上に限定されていますが、イスラエルの「完全接種率57.5%」は全人口に対する比率です。そのため、日本の接種対象者に換算すると、日本の16歳以上の人口は全人口の87.0%であることから、対象者の66.1%が接種したタイミングで、全人口あたりの接種率は57.5%に到達します。

本コラムシリーズ第1回で紹介したシミュレーション方法で計算してみます。個別接種、集団接種、大規模接種を稼働させた場合で、接種率が66.1%に到達するのは2022年1月26日となり(ケース1)*12、職域接種を取り入れることで1カ月程度の時間短縮が見込まれます(ケース2)。職域接種を実施する企業などが増えれば、全体の接種スピードは上がっていきます。「マスクフリー社会」への回帰には、新規感染者数や医療提供体制を含め、総合的な判断が求められますが、ワクチン接種率という観点に限れば、遅くとも2022年1月ごろにはイスラエルと同様に屋外でのマスク着用義務が解除され、「マスクフリー社会」への回帰が進む可能性があると言えるでしょう。

図表2 「マスクフリー社会」に回帰するターゲットデートの算出方法

「マスクフリー社会」への回帰には段階的なアプローチと、2つの納得感向上が欠かせない

「マスクフリー社会」への回帰に向けて必要なアクションについても検討したいと思います。前述の3カ国における「マスクフリー社会」をめぐる取り組みから、単なる「マスクフリー宣言」のみでは「マスクフリー社会」への回帰を成し遂げることはできないと推察されます。

イスラエルでは、2021年4月18日にワクチン接種の有無に関わらず全国民が個人の裁量に基づいてマスクを外せるようになるまで、段階的にさまざまな施策が取られています。まず、国民をワクチン接種完了者と未完了者に分けて、行動制限を段階的に解除しました。COVID-19に対する免疫保持(ワクチン接種完了、あるいはCOVID-19に感染し、回復している)の証である「グリーンパス」を発行し、それらを提示することで娯楽・スポーツ施設や飲食店の利用を許可しました*13。また、2021年4月5日には、軍隊で試験的に野外訓練中のマスク着用を免除し、そのインパクトを評価しました*14(2021年6月1日時点でグリーンパスの運用は廃止*15)。

英国では、2021年4月16日に政府によってThe Events Research Programme(ERP)が発足し、大勢が集まる場所におけるCOVID-19感染リスクの科学的な検証が進められています*16。2021年5月3日にはマスクフリーのダンスイベントが開催され、約5,000人が参加*17しました。英国政府は2021年6月14日、変異株の影響で当初同月21日に予定していたロックダウン緩和を延期しましたが、ワクチン接種の動向を考慮しながら引き続き規制緩和を目指していく姿勢を示しています。*18

一方、米国では「マスクフリー社会」に回帰するための施策は特に実施されておらず、CDCとバイデン大統領のマスクフリー宣言に対しても、州によって反応が分かれているのが実情です*19。2021年6月4日時点で、24の州が公共の場でのマスク着用義務を解除しており、そもそも11の州は以前よりマスク着用義務を課していません*20。一方、マスク着用を引き続き求めている州もあり、ニューヨーク州はワクチン接種完了者に限りマスク着用義務を解除しましたが、ワクチン未接種者に対しては依然として公共の場でのマスク着用を義務付けており、多くの人がマスクを着用しています(2021年5月19日時点)*20,21。また、民間ではありますが、大手スーパーマーケットチェーン店が利用者にマスク着用を義務付けている(ワクチン接種済の利用者は免除)ようなケースもあります。

図表3 イスラエル、英国、米国の「マスクフリー社会」へのステップ

各国での施策を参考にしてみると、「マスクフリー社会」へのスムーズな回帰を実現するためには、ワクチン接種率の向上はもちろんのこと、イスラエルや英国のように試験的にマスク着用義務の解除を行うなど、段階的に「マスクフリー社会」への回帰に向けた取り組みを進めていく必要があることが分かります。

PwCは「マスクフリー社会」への回帰に向けてはさらに一歩踏み込み、この「段階的な回帰」に加えて、国民の「論理的納得感」と「実践的納得感」という「2つの納得感」を向上させることがカギとなると思案しています。第2回の前編では、海外事例に基づき日本が「マスクフリー社会」へ回帰する時期について試算を行った上で、それに向けて私たちが取り組むべきことについて考察しました。後編では、この「2つの納得感」を踏まえながら、「私たちが取り組むべき準備」についてより具体的に考察したいと思います。

「マスクフリー社会」へのスムーズな回帰の実現は、社会課題の1つを乗り越えた証になると言えます。難しい挑戦ではありますが、多くの自然災害を乗り越えてきた日本にとって、できないことではないでしょう。あらゆるプレイヤーが一致団結してこの社会課題を乗り越え、新たな時代を切り開くことが求められています。

*1:在パラグアイ日本国大使館.「【新型コロナウイルス】マスク着用を義務付ける法律の公布」
https://www.py.emb-japan.go.jp/itpr_ja/oshirase_20201126_00001.html

*2:在パラグアイ日本国大使館.「【新型コロナウイルス】マスク着用を義務付ける法律の改正」
https://www.py.emb-japan.go.jp/itpr_ja/oshirase_20201222_2.html

*3:NHK「タイ首相がマスク外し会議出席で罰金 外出時 着用義務化 初日」
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210426/k10012998851000.html

*4:花粉症環境保健マニュアル
https://www.env.go.jp/chemi/anzen/kafun/manual/1_chpt1.pdf

*5:日本リサーチセンター.「新型コロナウイルス自主調査 第6回調査結果~世界26か国別・感染予防行動の実施状況~」
https://www.nrc.co.jp/nryg/200428.html

*6:NHK NEWS.「マスクが子どもの発達に影響?」
https://www.nhk.or.jp/ohayou/digest/2020/11/1112.html

*7:M.D. Faruque Ahmad, Shadma Wahab, et al. (2021) A novel perspective approach to explore pros and cons of face mask in prevention the spread of SARS-CoV-2 and other pathogens, Saudi Pharmaceutical Journal. 29(2), 121-133.
https://doi.org/10.1016/j.jsps.2020.12.014

*8:Ministry of Health, Israel. “Effective Sunday, 18.4: Wearing a Mask Outdoors Is No Longer Mandatory”
https://www.gov.il/en/departments/news/17042021-01

*9:GOV.UK. “Face coverings no longer required in schools and colleges from 17 May”
https://www.gov.uk/government/news/face-coverings-no-longer-required-in-schools-and-colleges-from-17-may

*10:Centers for Disease Control and Prevention. “When You’ve Been Fully Vaccinated”
https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/vaccines/fully-vaccinated.html

*11:Our World in Data. “Coronavirus (COVID-19) Vaccinations”
https://ourworldindata.org/covid-vaccinations

*12:PwCコンサルティング合同会社.「新型コロナワクチン接種がもたらす、新たな世界への準備「第1回:新型コロナワクチン接種完了のタイミングはいつになるのか」」
https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/column/covid-19-vaccination-for-new-world/vol01.html

*13:Ministry of Health, Israel. ”The Second and Third Phases of the Lockdown Exit Plan Approved by Cabinet”
https://www.gov.il/en/departments/news/15022021-01

*14:Ministry of Health, Israel.”Test Run for Exempting Certain Military Units from Wearing Masks During Training in the Open”
https://www.gov.il/en/departments/news/04042021-03

*15:在イスラエル日本大使館.「当地に在留・滞在又は渡航を予定している邦人の皆様へ」
https://www.israel.emb-japan.go.jp/files/100196992.pdf

*16:GOV/UK. “Information about the Events Research Programme (ERP), paving the way for larger audiences to attend sport, theatre and gigs safely this summer”
https://www.gov.uk/government/publications/guidance-about-the-events-research-programme-erp-paving-the-way-for-larger-audiences-to-attend-sport-theatre-and-gigs-safely-this-summer

*17:BBC.com. "Covid: Packed pilot festival brings the good times back - for one night"
https://www.bbc.com/news/entertainment-arts-56962231

*18:GOV/UK. PM statement at coronavirus press conference: 14 June 2021
https://www.gov.uk/government/speeches/pm-statement-at-coronavirus-press-conference-14-june-2021

*19:日本経済新聞.「マスク着用不要?店舗や州で割れる対応 米指針で混乱も」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN180280Y1A510C2000000/

*20:AARP. “State-by-State Guide to Face Mask Requirements”
https://www.aarp.org/health/healthy-living/info-2020/states-mask-mandates-coronavirus.html

*21:The Guardian. “Relief, reluctance and confusion: New Yorkers react to mask-free guidance”
https://www.theguardian.com/world/2021/may/15/mask-free-guidance-coronavirus-new-york

執筆者

宮城 隆之

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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堀井 俊介

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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髙橋 啓

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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犬飼 健一朗

シニアアソシエイト, PwCコンサルティング合同会社

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佐藤 菜々

アソシエイト, PwCコンサルティング合同会社

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中田 千尋

シニアアソシエイト, PwCコンサルティング合同会社

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