英国とシンガポールのコーポレートガバナンス・コード改訂

2018-08-24

コーポレートガバナンス強化支援チーム‐コラム


2015年に日本にコーポレートガバナンス・コードが導入されて以来、我が国では初めてのコード改訂が2018年に行われました。諸外国のコーポレートガバナンス・コードも数年ごとに見直されており、2018年度は英国やシンガポールでコード改訂が行われました。各国のコーポレートガバナンス・コードは、その精神や本質は恒常的である一方、諸原則の記載はその時々の各国固有の状況を反映し、フォーカスされるポイントが変遷していくものであるようです。各国のコード改訂の内容を見ていくと、その国特有の状況が少なからず影響していることが見て取れます。

英国のコード改訂

英国の財務報告評議会(FRC)は2018年7月にコーポレートガバナンス・コードの改訂版(the 2018 UK Corporate Governance Code[English][PDF 269KB])を公表しました。改訂コードは2019年1月1日より適用となります。

1992年にキャドバリー委員会によって最初のコーポレートガバナンス・コードが策定されて以降、何度も改訂が行われてきた英国のコーポレートガバナンス・コードですが、25年を経過し節目を迎えた今回は、その構成が大幅に改訂されています。原則主義やコンプライ・オア・エクスプレインといった特徴に変わるところはありませんが、2019年改訂コードは、従来よりも簡潔(shorter and sharper)になっており、5つの章、18の原則(Principles)、41の各則(Provisions)から構成されています。

改訂コードでは、高品質な開示に焦点が当てられています。企業は取締役会や委員会の役割と責任について単に列挙して開示するにとどまらず、どのようなガバナンス体制を実施したかを具体的に開示することが求められます。

また2019年改訂コードでは、企業と取締役会による幅広いステークホルダーとの良好な関係構築の重要性が強調されています。例えば株主との関係においては、株主総会議案に20%以上の反対があった場合、会社はその背景を理解するために株主に聴取すべくどのようなアクションを講じるかを説明すること、また、その結果を株主総会後6カ月以内に公表することが求められています(各則4)。この20%という閾値は今回の改訂で初めて明示されました。

また、従業員(workforce)との関係においては、(1)従業員代表の取締役の選任、(2)正式な従業員諮問委員会の設置、(3)特定の非業務執行取締役の任命の3つの選択肢を示した上で、そのいずれか、あるいは組み合わせによって従業員との対話を行うことが求められています(各則5)。

シンガポールのコード改訂

シンガポールのコーポレートガバナンス・コードは2001年に最初に発行されました。その後2005年と2012年に改訂されましたが、今回包括的な見直しが行われるとともに、改訂コードとガイダンス(Practice Guidance)(CODE OF CORPORATE GOVERNANCE[English][PDF 336KB])が2018年8月に公表されました。

今回の改訂コードでは、独立取締役の要件の強化(株式持分要件を10%から5%に引き下げた。また独立取締役の在任期間を9年間とする)や、取締役会の多様性の確保(独立取締役を少なくとも3分の1あるいは過半数の非業務執行取締役を求める)などが改訂のポイントとなっています。改訂コードは、2019年1月1日より開始する会計年度から適用することとされていますが、SGXの上場規則においては、独立取締役9年間の在任期間および独立取締役の3分の1の要件については2022年1月1日まで猶予されており、企業は取締役会の多様性に係る方針とその進捗状況について開示することが求められています。

今後も、諸外国のコード改訂状況について継続的に情報提供していきます。