GAAPかNon-GAAPか?ヨーロッパを巡る動向

2018-05-15

コーポレートガバナンス強化支援チーム‐コラム


Non-GAAP指標を企業の開示において使用する際、米国のSECには詳細なルールがあり、ヨーロッパでは2015年にガイドラインが発行されています。当指標の使用についての留意点を説明します。

Non-GAAP指標をとりまく世界の状況

Non-GAAP指標は、投資家にとって有用な情報であるとされている一方で、これらが公正妥当な会計原則(GAAP)に基づく数値を加工して算出される過程で、前年度とは異なる調整項目によって比較可能性が損なわれる、あるいは同じ名称であるにもかかわらず、企業間でNon-GAAP指標の構成要素/計算式が異なっているという状況が見られます。また調整項目に関する潜在的問題には、例えば、比較可能性を担保するために非経常的要素を除外(=調整)してNon-GAAP指標を算定するとしながら、非経常的要素を恣意的に操作する余地があることなどが含まれます。このようにNon-GAAP指標を巡っては、これまでも、そして現在も、「比較可能性」と「信頼性」が主な論点となっています。

Non-GAAP財務指標の利用が急増する中、米国のSEC(証券取引委員会)ではそういった問題に着目し、2003年以降、Non-GAAP指標に関する指針を公表してきました。詳しくは、「GAAPかNon-GAAPか?SECが動向を注視(監査委員会 優れた実務シリーズ)」を参照ください。

GAAPかnon-GAAPか? SECが動向を注視 [PDF 475KB]

米国同様、ヨーロッパにおいても、2000年代初頭からGAAPに基づかない業績指標(代替的業績指標(Alternative Performance Measures:APM))の利用について、主に証券規制当局によってガイダンスが公表されるなどの取り組みがされてきました。2015年6月には、欧州証券市場監督局(ESMA)によって「代替的業績指標に関するガイドライン」1が公表されています。

これを受けたヨーロッパ各国の国別対応として、2015年12月にフランス金融監督庁(AMF)が「APMに対するAMFの見解」2を公表しています。この「APMに関する見解」は、EUの透明性指令、目論見書、市場濫用に関するAMF一般規制にも関連しており、EuronextまたはAlternextに上場している企業に適用されることとなりました。

続いて、英国の財務報告評議会(FRC)が、2016年5月にESMAのガイドラインに対する英国企業向けのFAQを公表しています。このFAQでは、英国の制度上で具体的にAPMとみなされる指標の例示を列挙して明確化を図るなど、英国企業向けの指針が提供されています。

日本では現在、特にガイドラインは設けられていません。そのため、経済産業省による平成29年度「産業経済研究委託事業(持続的な企業価値の創造に向けた企業と投資家の対話の在り方及び企業会計・開示に関する調査研究)」[PDF 16,919KB]においても、Non-GAAP指標についての日本企業の取り組み方についての調査や議論が行われました。

ヨーロッパにおけるNon-GAAP指標とは?

前述のESMAが発行したガイドラインでは、Non-GAAP指標に類する情報をAPMと表現し、以下の通り定義しています。

APMとは、過去もしくは将来の会社の財務業績、財政状態もしくはキャッシュ・フローに関する財務指標であり、企業が適用する財務報告のフレームワーク(例:EUが適用する国際財務報告基準)によって定義もしくは特定されている財務指標ではないものをいう。

一般に、APMは適用可能な財務報告の枠組みに従って作成された財務諸表に基づいており、ほとんどの場合、財務諸表に表示されている数値を加算または減算して表示しています。前述のESMAのガイドラインでは、コミュニケーションとして使用される指標として、次のものが挙げられています。

  • 営業利益
  • 非経常費用前利益(earnings before onetime charges)
  • EBITDA(税金・金利・減価償却費考慮前利益)
  • キャッシュ・フロー指標(cash earningsなど)
  • 純負債
  • 自立的成長(autonomous growth)

このヨーロッパのガイドラインは、2016年7月3日以後発行されるすべての企業の開示資料に適用されていますが、米国SECの定義ほど詳細ではありません。

ヨーロッパにおける対応は?

では、実際にESMAではnon-GAAP指標に関してどのようなルールが設けられているのか、8つのカテゴリーに分けて見ていきます。

  1. 開示の原則
  2. 表示の方法
  3. 調整表の作成
  4. APMを使用することについての説明
  5. APMの優劣付け
  6. 比較可能性
  7. 一貫性
  8. 参照方式による開示の方法

この8つの見出しを見るだけでも、どのようなことが書かれているか、おおよその察しが付くのではないでしょうか。

1.開示の原則

APMの開示に関し、使用された前提条件または重要な前提条件の詳細、構成要素、採用した計算方法を定義します。また、APMやその構成要素のいずれかが、過去または将来の期間の業績に連動しているかどうかを示します。そして、使用したすべてのAPMの定義について公表物の付録においてリストとして開示します。

2.表示の方法

使用するすべてのAPMについて、明確かつ分かりやすい方法で定義を記載します。財務諸表の読者によるメッセージの誤解釈を避けるため、APMには、内容と計算方法を反映するような名前(ラベル)を付けます。財務報告枠組みによって定義された指標と同一の、または類似の用語や見出し、記述を使用したりして、読者を混乱させてはなりません。また、過去に発生したネガティブな情報(再編費用または評価減のようなもの)を、「稀な現象」であるかのような誤解を与えてはなりません。

3.調整表の作成

APMから該当期間の財務諸表項目への調整額について、主要な処理を特定し説明する。また最も関連性の高い財務諸表項目への調整額を記載します。

  1. 調整項目が財務諸表に含まれている場合:
    読者が、それをAPMであると識別できるようにします。調整項目が財務諸表に直接記載されない場合には、別途、計算方法を示します。
  2. 対応する期間の財務諸表がまだ公表されていない場合:
    すでに公表されている財務諸表における項目とAPMとを調整します。
  3. 対応する期間の財務諸表が公表される予定がない場合:
    APMは、財務諸表が公表された場合を仮定して、財務諸表に最も近い項目へ調整します。
  4. APMが、将来の予測など財務諸表に表示される指標に直接関連していないため、調整することができない場合:
    財務諸表に適用される会計原則と、このAPMとの関連性について説明します。

4.APMを使用することについての説明

読者がAPMの関連性と信頼性を理解できるように、APMの使用目的を説明する。例えば、APMが財務状況、キャッシュ・フロー、財務業績に関する情報を補完する理由や、APMを使って追求した目的が何かを説明します。

5.APMの優劣付け

例えば、知的財産権は、財務諸表から生じる直接的な指標より重要だとか、重点的だとか、優位性がある、などということを示すべきではありません。またAPMの表示は、財務諸表から直接得られる指標と乖離があってはなりません。

6.比較可能性

APMについて、前期間との比較指標を表示する。APMが期待または推定など将来に関連する場合、比較指標が最新の過去情報と一致しなければなりません。

  1. 比較を行うことができない場合:
    不可能な事実に言及し、指標を提供することができない理由を説明します。
  2. 比較指標を変更する場合:
    APMが関連する財務期間にわたって入手可能な情報のみを使用し、その日付以降に発生する事象の影響は含めてはならない。遡及的に得られた情報は、比較指標の表示に使用すべきではありません。

7.一貫性

APMの定義と計算方法は、時間の経過を経ても一貫していることが肝要である。例外的な状況においては次のような取り扱いとなります。

  1. APMの再定義を決定した場合:
    • 変更に関し説明します。
    • 変更が、パフォーマンスに関してより信頼性の高い情報を提供する理由を説明します。
    • 変更された比較数値を提供します。
  2. APMの開示を中止した場合:
    APMがもはや有用な情報を提供しなくなったと考える理由を説明します。
  3. 同じ目的をよりよく反映する別のAPMに置き換えられる場合:
    なぜ、新しいAPMが以前使用されていたAPMよりも信頼できるのか、より関連性の高い情報を提供するのかを説明します。

8.参照方式による開示の方法

読者がすぐに簡単にアクセスできるのであれば、以前公開された他の文書を直接参照する方式をとることができる。ただしその場合でも、欧州のガイドラインに記載されている原則を守ります。

参照方式を利用する場合、掲載文書が削除されてはならない。参照先として、直接リンクをユーザーに提示します。リンク先は、即時に簡単にアクセスできるものでなくてはならず、インターネットサイトへの登録を要求したり、有料であったりしてはなりません。また検索システムを駆使したり、リンク先のさらなるリンク先に飛んだりする必要がないことも確保すべきです。

まとめ

ヨーロッパにおけるNon-GAAP指標の開示について、ヨーロッパのESMA、ひいてはフランスにおける原則を8つの見出しを使って紹介しました。EU諸国における原則は、米国のSECルールほど詳細ではないにしても、基本的には同じようなことが記載されています。

日本においては、Non-GAAP指標に関するルールが存在しませんが、海外の機関投資家は、欧米のルールの下で開示されているNon-GAAP指標に慣れ親しんでいます。わが国にルールがないとしても、一貫性のない開示や恣意的な開示をしないように留意することが必要と言えるでしょう。

監査役や社外取締役の役割としては、市場からの信頼が損なわれないよう、Non-GAAP指標について、8つの切り口で経営陣に質問をしてみるというのもよいのではないかと思います。

阿部 環

PwCあらた有限責任監査法人 シニアマネージャー

コーポレートガバナンス強化支援チーム

※ 法人名、役職、コラムの内容などは掲載当時のものです。

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