ヨーロッパ式 株主との対話

2018-03-19

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コーポレートガバナンス強化支援チーム‐コラム


日本では、インベストメントチェーンをめぐる一連の改革の中で企業と投資家との対話を促進するさまざまな動きがみられます。海外では対話を促進するために、どのような工夫がなされているのでしょうか。ドイツ、イギリスと比較しながらフランスの取り組み状況を解説します。

近年、日本ではコーポレートガバナンス改革を背景に、企業が機関投資家などとの対話に積極的に取り組む動きが顕著になっています。またスチュワードシップ・コードの後押しもあり、投資家側も対話の活発化に積極的になってきています。

株主総会の直前だけではなく、決算説明会や個別対話など、年間を通してさまざまな形で投資家との対話を行っている会社もあります。対話においては、株主総会の議案に関する重要事項、コーポレートガバナンスに関する考え方などが議論されているようです。

さる2018年2月15日に開催された、金融庁および東京証券取引所が主催する「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」(第14回)では、「投資家と企業の対話ガイドライン」(案)について議論が行われました。その案について、会議メンバーであるICGN(International Corporate Governance Network)1のCEO、ケリー・ワリング氏が意見と質問を提出しており、その中に、「『株主との主なコンタクト先として特定の社外取締役が指名されているか?』という項目はこのガイドラインに含まれるのか」という質問がありました。

日本では、これまで株主との対話は主に執行役や経営陣が担ってきました。欧米では、これを取締役会が担当しています。欧米の取締役会は、主に独立社外取締役によって占められているため、実質的に対話を担当しているのは独立社外取締役ということになります。社外取締役が、社外の人、とりわけ株主と対話するのは、日本ではまだまだ目新しいことかと思います。よって、このワリング氏の質問を新鮮なものと受けとめた方もいるのではないでしょうか。

欧米のエクセレントカンパニーと呼ばれる企業は、このような投資家との対話を、年間を通して実施しています。株主との対話は、アメリカで、次いでイギリスで最も活発に行われているようです。一方、ヨーロッパ大陸ではそれぞれの国によってさまざまな課題があるようです。今回は、イギリスやドイツの状況を交えながら、フランスにおける取り組みを中心に解説します。

フランスの場合2

1. 株主との対話を担当するのは取締役

フランスで株主との対話を担当するのは、モニタリングの役割を担っている取締役会です。取締役会が株主との関係に関与することの必要性は、フランスのコーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)にも記載されています。フランスのCGコードの前身である、1995年に公表されたヴィエノ報告書iiiにさかのぼっても、対話に関する記述があり、これがフランスのCGコード開発の根底にあると言われています。

現行版のCGコードiv§4.1では、「会社の財務情報に関する開示方針を定義するのは取締役会の任務である。」とされており、株主総会の枠組みにおける取締役と株主の間の関係が明記されています。またCGコード§19では、「株主総会に出席することは、取締役の『倫理的』義務の一部である。」とされています。
さらにコードの改正により、2013年以降は、株主総会の枠を超えて、取締役個人が株主との対話へ参加することとなり、特にこの役割が、取締役会副議長または筆頭取締役に「特別任務」として委ねられました。この任務を担う個人については、CG報告書に開示することが求められています。

2. 対話に関する会社側の工夫

現在でも、業務執行のモニタリングを担う取締役会が株主に関与する場面は、「経営者が作成した情報(財務諸表など)を市場に提供する前に検証する。」、「株主総会に参加する。」という2通りであることに変わりはありませんが、機関投資家からは、取締役と株主の間の直接的な対話の機会をもっと設けてほしいと言う声が高まっています。こうした動向は、投資家が企業のガバナンスにもっと深く関与していこうというトレンドの一部でもあると言えるでしょう。
投資家の要望に応えるよう、フランスの会社では、例えば次のような対応をとっているようです。

  • EU指令「株主の権利」の影響で、株主総会決議についての説明を要求されることが多くなり、それに対応するための専門部門を企業内に設ける。主要な投資家の議決権行使ポリシーを公表している。
  • フランス金融庁(AMF)や議決権行使助言会社が推奨する「株主総会におけるより広い対話」を実現するよう対処している。
  • IRサービス、電話会議、説明会、決議事案に関し、主要株主や議決権行使助言会社との事前協議などを行い、手段や実務慣行の改善を行っている。

一部の機関投資家は、「取締役への直接的なコンタクトは、特定の危機や懸念がある場合、また取締役会がその職務を遂行しているかどうかを確かめる場合に、特に正当化される。」ということを主張しています。

3. 対話における法的な障害

ただしフランスの場合、株主との対話はさまざまな障害の影響を受けやすく、法的状況が不利であるとか、市場が経営者の責任について他国よりも敏感であるなど実務的な難しさがあります。取締役と株主との個別連絡において留意すべき法的事項があり、具体的には次の2つが挙げられます。

  • 取締役が個人的な立場・見解を公にすることを禁ずる。また、取締役会の集団的性質をリスクにさらすことのないよう配慮する必要がある。
  • 投資家との接触において「公開情報に関連する義務」を遵守する必要がある。個別の接触が、会社に代わって何かを公約することにつながるわけではないが、経営陣や従業員に適用される「公開情報に関連する義務」の下で、投資家に情報を提供することがある。なお投資家との接触は、厳密に言えば取締役のミッションの一部ではないため、取締役がこの責務に躊躇することもある。

また時として、株主が対話を求める目的が「公式な見解」による情報確認であることがあります。そうした場合、法的に注意を払わなければいけない上に、取締役のコメントと経営陣の立場との間に矛盾が生じるという実務的なリスクにも留意する必要があります。

4.トラブルを回避するための予防措置

フランスのコーポレートガバナンスの監督機関であるCG高等委員会5も、「投資家の間では、株主総会以外で取締役が株主との対話に関与することを期待する傾向が見られる。」と見解を述べています。同委員会では、同時に次のような予防措置を講ずることを推奨しています。

(1) 取締役会は、対話に関する取り決めを見直す。

(2) 会社のガバナンスの形態が取締役会議長と執行役の分離型の場合(またはスーパーバイザリー・ボードがある場合)、株主との対話を独立取締役である議長に任せることができる。この場合、株主と対話することは、「法律によって与えられた任務とは別の委任された任務」であり、CG報告書に開示しなければならない(CGコード§2.2)。そして、株主との対話は、筆頭取締役や取締役会副議長、さらに他の取締役に委任することもできるが、複数が対話を担当することで責任を分散させることは望ましくない。

(3) 対話を担当する人は、機関的なコミュニケーションの経験を有することが望ましく、必要に応じて適切な訓練を受けなければならない。

(4) 株主との対話を担当する取締役の1つ目の任務は、権限の範囲内で、戦略、ガバナンス、役員報酬に関して取締役会が採用した方針を説明することであり、株主には事前に情報を伝達しなければならない。予め任務を委任されていない人が対話を担当する場合には、取締役会議長と密な連携をとらなければならない。

(5) 対話を担当する取締役の2つ目の任務は、株主が会社に対して期待している情報をきちんと受け取れるようにし、この情報を他者には提供しないように要請することである。対話を担当する人は、CEOやIR広報と緊密に連絡を取り合い、投資家との会議を開いたり、投資家へ電話連絡をしたりする際には、経営陣や広報のいる場所で行うべきである。

(6) 取締役は、任務遂行の結果を取締役会に報告しなければならない。

以上のように、フランスでは独立社外取締役が株主との対話を主に担当していますが、法律との絡みで、対話を行う際にはさまざまな注意を払っていることがわかります。

次に他の国の状況を見てみましょう。

イギリスの場合

規制された枠組みの一環として、イギリスでは投資家と取締役との対話が一般的に行われています。イギリスのコーポレートガバナンス・コードでは、株主との対話は取締役会の総括的責任であると捉えられていますが、具体的な役割は、取締役会議長と筆頭独立取締役(senior independent director:SID)に割り当てられています。現行のイギリスのCGコードでは、取締役会議長は就任時に独立していることが要求されていますが(現行コード:A.3.1.)、改訂案では、取締役会議長は就任以降も独立性の要件を満たすことが求められています(改訂案 Provision15)。

よって(コードの改定後は独立取締役である)議長が株主との対話を担当します。議長は、主要株主と「ガバナンスと戦略」についての議論を行い、取締役会に注意喚起をします。なお独立取締役、特にSIDが株主との議論に同席を希望する場合には参加してもらうという方法を採っています。対話の内容によっては、独立取締役のみに対応を任せてしまうこともあるようです。

アメリカの場合

規制された枠組みの一環として、アメリカでもイギリス同様、取締役との対話が一般的に行われています。アメリカには、ヨーロッパで言うところのコーポレートガバナンス・コードが存在しませんが、取締役会の組織団体が、議長や筆頭社外取締役(アメリカではSIDではなくlead directorという)を初めとする独立取締役が主要な長期株主との対話を行うことを推奨しています。

ドイツの場合

アメリカやイギリスとは法制度が異なり、ドイツの発行体には、株主との対話という面において、フランスと同様、かなりのプレッシャーがかけられています。2017年2月に採択されたドイツコーポレートガバナンス・コード(Deutscher Corporate Governance Kodex)の最新版6コード§5.2は、「スーパーバイザリー・ボードの議長は、妥当な限度内で、スーパーバイザリー・ボードの問題を投資家と議論するために存在するべき」としています。従って、株主との対話の実施は議長に委ねられています。ドイツでは、取締役会議長は独立社外取締役であることが求められています。

ちなみに、ドイツの会社の機関設計では、取締役会は経営の監督を行う監査役会(スーパーバイザリー・ボード)と事業執行する執行役会(マネージメント・ボード)からなる二階層型のシステムを採っていて、スーパーバイザリー・ボードは株主が選出したメンバーから成っています。この機関設計はドイツでは強制されており、スーパーバイザリー・ボードの役員の権限とマネージメント・ボードの役員の権限の区別は、他国における取締役会とCEOの権限の区別よりも明確であるという特徴があります。従って、株主との対話に関する任務を担っているのは、経営陣ではなく取締役ということになります。

まとめ

以上のように、各国で法制度が異なることにより、対話の方法にも異なる工夫が見られるようです。こうした国ごとの慣行の違いについて、海外の投資家が常に理解しているとは限りません。日本では、執行のモニタリングを担う取締役会が、株主との対話を担当することはまだまだ稀であり、また独立社外取締役に対し、これまでそういった資質が求められていたわけではないようにも思います。

前述のとおり、フランスでは法律で株主との対話が規制されています。ドイツでは会社法上の機関設計上、基本的には取締役会議長が一人で対話を担うこととされています。一方、日本には株主との対話について確立された枠組みがまだ存在しない状況です。だからこそ、企業はある程度自由に「株主との対話」における方針を立て、それぞれに合った方法で取締役会が株主との対話を持てるよう促進していくことが大切ではないかと感じています。そして、その方針を海外の投資家にも理解してもらえるよう、積極的に開示していくとよいのではないでしょうか。今回のコラムでご紹介したフランス企業における「2.対話に関する会社側の工夫」や「4.トラブルを回避するための予防措置」が、今後の株主との対話のあり方を考えるにあたってご参考になれば幸いです。

注記

1 ICGN(The International Corporate Governance Network)[English]

コーポレートガバナンスの課題に関わる情報や見解を国際的に交換し、ガバナンスの基準やガイドラインを設定することを目的とする団体。 コーポレートガバナンスのベストプラクティスを遂行するためにさまざまな支援・助言を行っている。毎年各国で年次総会を開催。2018年2月28日、3月1日には東京でコンフェレンス(2018長期的な価値創造に向けて)[English]が行われている。

2 フランスの場合:参考文献 Rapport Annuel du HCGE Octobre 2017

3 LE CONSEIL D’ADMINISTRATION DES SOCIÉTÉS COTÉES [French] [PDF 115KB]

4 フランスのコーポレートガバナンス・コード[French] :Afep-Medef Codeと呼ばれ、大企業向けのCGコード。私企業協会(AFEP)およびフランス企業連盟(MEDEF)の作業部会が策定しているコードのためAFEP/MEDEFコードと呼ばれている。

5 コーポレートガバナンス高等委員会:Haut Comité de Gouvernement d’Entreprise

企業におけるコーポレートガバナンス・コードの運用状況を調査・監視する委員会

6 DEUTSCHER CORPORATE GOVERNANCE - KODEX [German]

阿部 環

PwCあらた有限責任監査法人 シニアマネージャー

コーポレートガバナンス強化支援チーム

※ 法人名、役職、コラムの内容などは掲載当時のものです。

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