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PwCコンサルティング合同会社(以下、PwCコンサルティング)のPublic Service(官公庁・公共サービス部門)は、多様な領域に対応する専門性を持った15のInitiativeチームから構成されています。この連載(全10回)では、テーマごとにさまざまなInitiativeからメンバーが集まり、より良い社会をつくるために社会課題解決へのアプローチ、新たな価値創出のアイデアなどについて語り合います。
第2回のテーマは「持続可能な食料供給と食育」。現在の日本では十分に食料が行き渡っていると思われがちですが、食料自給率は低く、農業従事者は減少し続けているため、有事の際や、予測されている世界的な人口増加に伴って食料難に陥るリスクを抱えています。また現状においても、貧困世帯において満足に食事をとれないという事態が表出するなど、食料提供と食育の面でも課題が指摘されています。今回は、農林水産や社会福祉などの分野を専門とする4人のコンサルタントが議論しました。
(左から)当新卓也、伊東賢司、中村千紗、上敷領麻耶
伊東 賢司
PwCコンサルティング合同会社 マネージャー
大手通信事業者、日系シンクタンクを経て現職。これまでに官公庁や地方公共団体などに対する、農林水産分野(研究開発動向やスマート農業実証)や国内外の技術開発に関する調査業務に多数従事している。
上敷領 麻耶
PwCコンサルティング合同会社 シニアアソシエイト
地方自治体での行政業務を経て現職。これまでに農林水産省・農研機構などにおいて、農林水産分野における研究開発のフィジビリティスタディやオープンイノベーション創出に関する業務、研究開発成果の社会実装・普及状況分析に関する調査業務などに従事している。
中村 千紗
PwCコンサルティング合同会社 シニアアソシエイト
新卒でPwCコンサルティングに入社し、企業の顧客接点を支援する部署から2023年8月に異動。内閣府や自治体のスタートアップ関連支援に従事する。その傍ら、プロボノ活動企画チームに所属して子ども食堂運営団体などの支援に従事し、企画・実働の双方の観点からプロボノ活動に関与。
当新 卓也
PwCコンサルティング合同会社 マネージャー
国の行政機関での勤務経験を経て、現職。厚生労働省、子ども家庭庁、日本財団における障害福祉、児童福祉、難病政策、女性支援に係る幅広い調査研究、実証事業、自治体の新規事業立ち上げなどに従事。
伊東:
日本に住んでいると、食料はいつでもどこでも手に入る状況にあるので、「食料難」とは関係がないと思われがちです。しかしながら、食料の多くを輸入に頼っている私たちは、外交問題や災害がひとたび起きると食料が入らなくなるというリスクを抱えています。このリスクへの対策として、国は食料自給率を上げるべく、農業の生産性を向上させる取り組みを進めています。
伊東 賢司:PwCコンサルティング合同会社 マネージャー
上敷領:
農業の生産性を高めるには、アグリテックと呼ばれるテクノロジーの活用が不可欠です。農業従事者が減少し、高齢化も進んでいる日本においてアグリテックが目指すべきテーマの1つに省力化があります。
国は、食料の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現する「みどりの食料システム戦略」を掲げています。また国の研究機関も、省力化しながら環境負荷がかからない農林水産業を実現するため、アグリテックの研究を進めています。
中村:
私が担当しているスタートアップ領域でも、農作物栽培の安定化や植物性代替肉の開発など、アグリテック、フードテック事業が盛んになっています。内閣府はスタートアップを社会課題解決と経済成長を担うキープレイヤーとして位置づけ、各種支援を行う動きを活発化させています。
一方、日本の農業従事者がテクノロジーを導入するには、越えるべきハードルがあります。農作物は品種ごとに栽培方法が異なるので技術のカスタマイズが必要ですし、家族経営の小規模農家が多いため、導入コストの面での壁も生じ得ます。また、長年にわたる慣行的な栽培方法がある中で、新しい技術を取り入れる必要性を感じないケースもあるでしょう。
こうした現状を踏まえて、アグリテックをどのように普及させるべきか、検討の余地があると考えます。行政と提携して新規就農者に対する支援内容に含めたり、規模の大きい農業法人から導入したりするなど、現実的なアプローチ方法はあると思います。
伊東:
食料供給の理想としては、先に述べたような有事が起きたとしても、国民全員がバランスの取れた食事をできるように備えるべきです。ところが、国が定めている食料安全保障指針において、不測時に最低限必要とされる食料の基準はカロリーベースで示されています。つまり、有事が起きると、私たちは一部の偏った食品や作物を食べ続ける生活を余儀なくされてしまう恐れがあるのです。
したがって、有事へのリスク対策を国がリードし、外交問題や災害などリスクの種類に応じて国内での自給や輸入代替できる体制を整えておくべきだと考えます。
上敷領:
将来のリスクを見据えると、消費者が代替肉などの新しい食材を受容していくことも必要だと思います。ただ、新食品を受け入れるにも食習慣による心理的なハードルがありますし、生産から消費までの流通体制が不十分なことも多く、普及が進んでいません。
中村:
スタートアップを支援する中でも、やはり食関連の新規事業が普及するまでには時間がかかると感じます。特に食行動は、幼少期の食経験が成人後の嗜好に影響しますし、親など身近な大人に依存するので、変化には一定期間を要するものです。こうした背景を踏まえると、新食品の浸透は長期的な時間軸で取り組むべきだと思います。
中村 千紗:PwCコンサルティング合同会社 シニアアソシエイト
当新:
物価の高騰や円安、低賃金などの理由で、特にひとり親家庭などの貧困世帯において、その日の食事に困るケースが増えています。その一方で食品ロスの問題もあり、食料の需給バランスが取れていないことは深刻な社会課題です。フードバンクや子ども食堂などの取り組みもありますが、困っている方が皆、こうしたサービスにアクセスできているわけではありません。
そして、こうした取り組みはほぼボランティアで成り立っているため、日々の活動を回す以上の余力がないのも現実です。まずは周知して多くの人に知ってもらい、これらの活動に参加するきっかけを作る必要があると考えています。
上敷領:
食品ロスの観点では、生ごみの処理も課題だと思っています。日本の食品ロスは1年間で500万トン以上あり、廃棄には環境負荷がかかるだけでなく、相当な税金が費やされています。
家庭で出る生ごみを堆肥にするコンポストにはバッグ型など手軽なキットがありますが、まだ使用率は高くありません。生ごみ処理を減らすために生活に取り込みやすい方法を周知するには、楽しさとセットで伝えることが大切だと考えています。「環境負荷を下げる取り組みをしましょう」とだけ伝えても、人はなかなか行動に移らないと思います。
当新:
食育は教育の「育」の文字が付くので、子どもが何らかの知識を学ぶというイメージがあると思います。しかしながら、食育はそれだけではなく、バランスよく食べること、食料の生産過程を知ること、家族などと一緒に食べると楽しいと感じることなど、食のあらゆる側面から人生を豊かにする取り組みです。
そして、どの年代であっても食に関心を持つことは重要だと思います。子どもはバランスのよい食事をとって基礎体力をつけ、大人はしっかりと体力をつけるための食事を学び、さらに高齢者になると健康寿命を延ばすために必要な食事を知る。このように、世代に応じた食育があるのです。
食育によって自分のヘルスマネジメントができる国民が増え、健康寿命が延びると、医療費の削減などにつながるので、削減できた税金を新たな課題に投資できるという好循環が生まれることが期待できます。
当新 卓也:PwCコンサルティング合同会社 マネージャー
当新:
現代社会が抱える課題に、孤食(ひとりで食べる)、小食(食べる量が少ない)、粉食(パンや麺類などに食事が偏る)、濃食(濃い味付けの食事ばかりをする)、固食(同じ食品ばかりを食べる)、個食(家族で食事をするものの、それぞれ別の料理を食べる)という6つの「こ食」があります。こうした課題に対するアプローチとしても、食育は重要です。
近年は核家族化が進み、共働き家庭が増えるなど生活スタイルが変わりつつあります。どのような時代背景であっても人々が食によって人生が豊かになるよう、食育も変わっていくべきです。また、バランスのよい食習慣は幼少期に形成されるので、子どもへの食育だけでなく、家庭の食事を支える大人の食育もやはり大切だと思います。
上敷領:
農業を持続可能とするためには、まず農業者が農業だけで生計を立てられるような産業にする必要があります。
そのためには、農業を「儲かる産業」に変えていくことが必要であり、限られた生産者数で高い生産量を上げることが求められます。この課題に対しては、テクノロジーが重要な役割を果たします。日本の状況に合わせてアグリテックの研究開発テーマを決め、現場で効果的に活用できるようにすることが大切です。
その際に欠かせないのが、農業に関わるプレイヤー同士の連携です。研究開発に取り組む人に社会に成果を浸透させる役割が集中してしまいがちであり、その成果を通訳し、価値を明らかにし、ビジネス化や普及をサポートするプレイヤーが関われていないことが問題だと感じています。
伊東:
人口が減少し続ける日本においては、海外に目を向けて需要を拡大させていくことも考えるべきです。
そのためには、日本の農産物や日本食の魅力を伝え、産業として発展させていくアプローチが必要です。国内には品種改良によって高い栄養価を備えた農産物が多くありますし、発酵食品などの日本食は海外で高い評価を受けています。輸出促進の取り組みとして、観光庁や農林水産省などがPRを主導していくことも有効だと思います。
また、海外へ輸出するにあたって、その食品を食べる習慣のない国に対しては、新規食品として、食品成分の安全性を示す必要もあります。特に日本には機能性の高い農産物も多くありますので、各国の制度の特徴を理解した上で、魅力ある日本の農産物の輸出を促進していくことが重要と考えています。
上敷領:
安定的な食料供給に向けた解決策の1つである新食品を浸透させるには、生産者ばかりが努力して消費者に届けようとしても難しいものがあります。流通やPRなど、食のバリューチェーンに関わるあらゆるプレイヤーが協力し合うことが必要です。
上敷領 麻耶:PwCコンサルティング合同会社 シニアアソシエイト
当新:
福祉の観点では、家庭の経済状況にかかわらず、誰もがしっかり食事をとれる社会にするために、子ども食堂が大きな役割を担えます。ただ、どの地域にも普及しているわけではないので、子ども食堂をより多くの地域に設置するために、地域にある高齢者施設や保育所など、福祉施設を活用する仕組みを整えるアプローチが必要になると思っています。
さらに、子ども食堂は地域コミュニティの機能も担えるでしょう。「みんなで一緒に食事をとることが楽しい」という体験をより多くの子どもに届けられますし、世代を超えた地域交流も生まれます。「孤食」の課題を乗り越え、「共食」ができる価値ある場になります。
中村:
私は、プロボノ活動で子ども食堂の運営に携わっています。子ども食堂が果たす役割としては、虐待など家庭が抱える問題をいち早く感知し、手を差し伸べられる点もあると思います。
当新:子どもだけでなく、親や地域にとってもメリットがあるのが子ども食堂ですね。多くの地域に普及できるような取り組みが進むとよいと考えます。
当新:
食料供給や食育の課題は、その領域の当事者だけで解決できるものではありません。PwCの強みは、あらゆる領域の専門性をもったコンサルタントが連携できる体制が整っていることにあります。部門横断でのプロジェクトも多く、専門性を掛け合わせてソリューションを届けることができます。
上敷領:
私はAgri & Food、そしてIndustry & Technologyという2チームを兼務しており、PwCの守備範囲が広いことを日々感じています。具体的には、国への政策提言から、民間事業者や研究者と連携した研究開発、実証実験、事業戦略策定の伴走支援、生産から流通や消費までの各フードバリューチェーンにおける支援まで、幅広い領域や分野で取り組みを進めています。
伊東:
私が所属するAgri & Foodイニシアチブでは、農業におけるデジタル活用、バイオマス資源の活用、生物多様性の保全、日本の食文化の魅力発信といったテーマを柱に掲げ、農林水産業の持続性向上を目指しています。圃場に頻繁に足を運ぶなど現場の感覚を大切にしながら、多面的に農林水産業の価値を高めていきたいと思います。
中村:
スタートアップの領域では、新たな挑戦であるがゆえに、研究開発から事業化の段階に移行する際に壁にぶつかることがあります。その際に、さまざまな組織との関係性やその中で得られた知見を活用し、その壁を突破するための支援ができることが強みだと考えています。
また、PwCは産官学のあらゆる方々とのリレーションを構築しているので、領域が異なる方々の触媒となり、横串を通しておつなぎすることが可能です。スタートアップと大企業や研究機関が連携し、技術開発からの事業化を後押しするような取り組みを増やしていきたいですね。
当新:
PwCは、「社会における信頼を構築し、重要な課題を解決する」というパーパスを掲げています。私たちコンサルタントはこのパーパスに基づいて、これからも国の政策から現場が抱える課題まで幅広く支援していきたいと思います。